疾患ノート一覧へ

Disease Atlas · 血液 · 症候群

血球貪食性リンパ組織球症

Hemophagocytic lymphohistiocytosis

別名
HLH血球貪食症候群マクロファージ活性化症候群MAS
臓器系
血液免疫・膠原病
科目
Pediatrics
トピック
小児科 3-33:全身性エリテマトーデス・強皮症・皮膚筋炎・血球貪食性リンパ組織球症小児科 3-32:若年性特発性関節炎
鑑別疾患
敗血症
治療薬
デキサメタゾンエトポシドシクロスポリンAメトトレキサートメチルプレドニゾロンリツキシマブ
原因微生物
Epstein-Barr virusCytomegalovirus
症状
リンパ節腫脹出血傾向発熱皮疹
検査値
フィブリノゲンフェリチン血小板数絶対好中球数赤沈白血球数
原因となる疾患
若年性特発性関節炎川崎病全身性エリテマトーデス皮膚筋炎・多発筋炎

🧠 全体像は「免疫応答のブレーキが壊れた状態」である。・NK細胞がを殺せないため免疫応答が終了せず、T細胞とマクロファージが延々と活性化し続ける。発熱・肝脾腫・血球減少・著増という組み合わせを見たら、基準が揃うのを待たずに治療へ動く。

病態

正常な免疫応答では、活性化した・NK細胞がを含む顆粒を放出し、抗原を提示しているやマクロファージ自体を殺すことで応答が収束する。この依存性のが働かないと、抗原提示が終わらず刺激が続き、活性化したリンパ球とマクロファージが際限なく増幅し合う。結果として生じるの実体である。

flowchart TD
    A["PRF1・UNC13D等の遺伝子異常<br>または感染・腫瘍・自己免疫による過大な免疫刺激"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cytotoxic T cell'>細胞傷害性T細胞</span>・NK細胞の<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='perforin'>パーフォリン</span>依存性細胞傷害の破綻"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='antigen-presenting cell (APC)'>抗原提示細胞</span>を殺せず<br>免疫応答が終了しない"]
    C --> D["T細胞とマクロファージの持続的活性化"]
    D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hypercytokinemia'>高サイトカイン血症</span><br>IFN-γ・IL-1・IL-6・TNF・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='soluble IL-2 receptor (sCD25)'>可溶性IL-2受容体</span>"]
    E --> F["マクロファージによる<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hemophagocytosis'>血球貪食</span><br>血球減少"]
    E --> G["肝・脾・骨髄・中枢神経への<br>組織浸潤と傷害"]
    E --> H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ferritin'>フェリチン</span>著増・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='coagulopathy'>凝固障害</span><br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='hypofibrinogenemia'>低フィブリノゲン血症</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hypertriglyceridemia'>高トリグリセリド血症</span>"]
    F --> I["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='multiple organ failure (MOF)'>多臓器不全</span>"]
    G --> I
    H --> I

💡 中心的なサイトカインはIFN-γである。IFN-γが持続的にマクロファージを活性化するため、この経路を直接遮断する抗IFN-γ抗体が治療として成立する。

分類

一次性と二次性を分けるのは「の破綻が生まれつきか、後天的な負荷によるか」であり、治療強度との適応判断に直結する。

項目 一次性(家族性)HLH 二次性HLH
本態 細胞傷害・経路の遺伝子異常 過大な免疫刺激による機能的な細胞傷害不全
代表的な原因 PRF1UNC13DSTX11STXBP2 などの感染、悪性腫瘍(とくにリンパ腫)、疾患
関連する候群 2型、
発症年齢 乳児期・幼児期が多い 全年齢。成人では悪性腫瘍関連が多い
再発 高率。誘因を除いてもする 誘因の制御で寛解しうる
根治 が必要 原則として誘因治療+免疫抑制

疾患に合併した二次性HLHは(MAS)と呼ぶ。の全身型が代表で、でも起こる。

💡 年齢だけで一次性・二次性は決められない。乳児の感染が家族性HLHの初回発作の引き金になることもあり、重症例・再発例では年齢にかかわらず遺伝学的検索を行う。

臨床像

持続する高熱、肝脾腫、進行する血球減少が中核である。ここに肝障害、による、リンパ節腫脹、皮疹が加わる。中枢神経病変(けいれん、意識変容、)は約3分の1に生じ、の主因となる。

診断

HLH-2004の8項目のうち5項目を満たすか、が確定すれば診断とする。ただし像は初期には欠くことが多く、認めてもHLHに特異的ではない。

項目 基準の目安
発熱 38.5℃以上
脾腫 触知する脾腫
血球減少(2系統以上) Hb <9 g/dL、血小板 <10万/μL、好中球 <1000/μL
空腹時トリグリセリド ≧265 mg/dL、またはフィブリノゲン ≦150 mg/dL
骨髄・脾・リンパ節・肝で確認
NK細胞活性 低下または消失
≧500 ng/mL(HLHでは数千〜数万に達する)
(sCD25) ≧2400 U/mL(測定系によりが異なる)

⚠️ 敗血症との鑑別は難しく、診断の遅れがそのまま致死率に直結する。発熱・血球減少・肝障害・敗血症でも起こるが、の桁違いの上昇(数千〜数万 ng/mL)、高値、進行する脾腫がHLHを示唆する。抗菌薬に反応しない「敗血症」ではHLHをする。

💡 「炎症なのにESRが下がる」というを覚える。フィブリノゲンが消費・分解されるためが低下する一方、CRPは上がり続ける。とESR低下の乖離、そして血小板・白血球が「正常化」してさらに下がっていく動きは、基準を満たす前の最も早いである。

MASでは別の基準を使う

全身型JIAでは元々・血小板・フィブリノゲンが高値なので、HLH-2004の厳しい閾値に達する頃には手遅れになる。そこで2016年 EULAR/ACR/PRINTO 分類基準を用いる。

発熱があり全身型JIAが既知または疑われる患者で、 >684 ng/mL に加えて次の2項目以上を満たす場合にMASと分類する。

  • 血小板 ≦181×10⁹/L
  • AST >48 U/L
  • トリグリセリド >156 mg/dL
  • フィブリノゲン ≦360 mg/dL

💡 閾値がHLH-2004より緩いのは誤りではなく設計である。基礎の炎症で押し上げられた値が「正常域へ落ちてきた」時点を捉えるための基準であり、絶対値ではなく下降の方向を見る。フィブリノゲン ≦360 mg/dL が異常とされるのはその典型である。

治療

治療の目的は、原因検索を待たずにを止め、同時に誘因(感染・腫瘍・基礎疾患)を治療することである。

flowchart TD
    A["発熱+血球減少+高<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ferritin'>フェリチン</span><br>HLHを疑う"] --> B["支持療法と誘因検索を並行しつつ<br>免疫抑制を開始"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='rheumatic'>リウマチ性</span>疾患に伴うMAS"]
    B --> D["一次性HLH・重症の二次性HLH"]
    C --> E["高用量<span class='jp-term jp-term-diagram' title='glucocorticoids'>糖質コルチコイド</span><br>+<span class='jp-term jp-term-diagram' title='anakinra'>アナキンラ</span><br>±<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cyclosporin A'>シクロスポリンA</span>"]
    D --> F["HLH-94/HLH-2004プロトコル<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='dexamethasone'>デキサメタゾン</span>+<span class='jp-term jp-term-diagram' title='etoposide'>エトポシド</span><br>±<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cyclosporin A'>シクロスポリンA</span>"]
    F --> G["中枢神経病変が持続・進行<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='intrathecal methotrexate'>髄腔内メトトレキサート</span>+ステロイド"]
    E --> H["反応不良・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='relapse'>再燃</span>"]
    F --> H
    H --> I["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='emapalumab'>エマパルマブ</span>などの<span class='jp-term jp-term-diagram' title='salvage therapy'>サルベージ治療</span>"]
    I --> J["一次性・再発性・難治性<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='hematopoietic stem cell transplantation, HSCT'>造血幹細胞移植</span>"]
治療 位置づけ
HLH-94/HLH-2004の骨格。活性化T細胞とマクロファージを直接減らす。を理由に選ばれる
HLH-94では8週以降に追加、HLH-2004では初期から併用。HLH-2004の追加免疫抑制による生存改善は限定的だった
+ステロイド 2週間の全身治療後も髄液異常が持続する、または神経症状が進行する場合に限る。全例には行わない
一次性HLHと、再発性・難治性の二次性HLHの根治手段。寛解導入後に速やかに移植へつなぐ
高用量 MASの第一選択。IL-1遮断は反応が速く、を回避できることが多い
抗IFN-γ抗体。従来治療に不応・再発・不耐の一次性HLHに加え、2025年に成人・小児のStill病(全身型JIAを含む)に伴うHLH/MASへ適応が拡大された
リツキシマブ 関連HLHで、がB細胞に感染している場合にウイルス量を下げる補助治療。T・NK細胞感染型では効果が乏しい

⚠️ 誘因の治療だけでは間に合わない。悪性腫瘍関連HLHでも、原疾患の化学療法開始と並行してそのものを止める必要がある。

💡 近年はJAK1/2阻害薬の減量・置換に用いる試みが進んでいるが、2026年時点では標準治療として確立していない。

まとめ

  • 本態は依存性細胞傷害の破綻による免疫応答の終了不全であり、が臓器を壊す。
  • 一次性はPRF1UNC13D等の遺伝子異常や候群に伴い、二次性は感染・悪性腫瘍・疾患(MAS)を誘因とする。
  • 診断はHLH-2004の8項目中5項目。像は必須でも特異的でもなく、著増と高値が実務上の軸となる。
  • 全身型JIAに合併するMASには2016年 EULAR/ACR/PRINTO 分類基準を用い、絶対値ではなく低下の方向を読む。とESR低下の乖離が早期の手掛かりである。
  • 敗血症との鑑別が難しく診断の遅れが致死的なので、基準が揃うまで待たずに治療と専門施設への相談を始める。
  • 治療はを骨格とし、MASでは高用量ステロイド+、難治例では、一次性・再発性ではへ進む。