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Drug Atlas · C10 Antibiotics / 抗菌薬 · 必修

スルバクタム

sulbactam

分類
Antibiotics / 抗菌薬
科目
Pharmacology
トピック
C10: Carbapenems. Monobactams. Beta-lactamase inhibitors
副作用
皮疹下痢注射部位反応
対象疾患
化膿性関節炎(敗血症性関節炎)

🧠 全体像:は・と同じ「古典的(第1世代)」である。ふつうはアンピシリンとの配合剤(、商品名UNASYN)として使われ、単独ではNeisseriaceaeを除いてほとんど抗菌活性を持たない1。唯一の例外がAcinetobacter baumanniiで、ここでは(PBP1・PBP3)への結合を介した内因性の抗菌活性を持つ——他のには無い、だけの特徴である2。この性質を生かし、を分解から守る新しい阻害薬と組み合わせた・が、A. baumanniiの侵襲性感染症ではまたはとの併用で優先治療になっている3。

薬効群の中での位置づけ

世代 薬剤 相棒薬 阻害様式 単独での抗菌活性
古典的(第1世代) アンピシリン βラクタム構造。不可逆的にβラクタマーゼへ結合 Neisseriaceaeを除きほぼ無し。例外的にAcinetobacter baumanniiにはPBP1・PBP3阻害を介したを持つ2
古典的(第1世代) アモキシシリン 同上() 無し
古典的(第1世代) 同上(ペニシラン酸スルホン) 無し

⭐ 配合比が固定でない場合がある点も・と共通する前提——は通常2:1(アンピシリン2 g:1 g)の比率で投与される。単剤製剤としてのは(Acinetobacter感染症を狙う一部の地域・的な使用を除き)通常の臨床では登場しない。例外として、米国ではとを同梱した製剤(XACDURO)が2023年に承認され、18歳以上のAcinetobacter baumannii-calcoaceticus complexによる・に、1 g・1 gを6時間ごとに3時間かけてする(腎機能で調整)4。

機序

flowchart TD
    A["細菌がβラクタマーゼを産生"] --> B["アンピシリンの<span class='jp-term jp-term-diagram' title='beta-lactam ring'>βラクタム環</span>を加水分解"]
    B --> C["アンピシリンが不活化され耐性化"]
    D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='sulbactam'>スルバクタム</span>を併用"] --> E["βラクタマーゼの<span class='jp-term jp-term-diagram' title='active site'>活性中心</span>へ<br>不可逆的に結合"]
    E --> F["酵素が失活し分解が止まる"]
    F -.->|"分解されなくなる"| A
    G["守られたアンピシリンが<span class='jp-term jp-term-diagram' title='penicillin-binding protein'>PBP</span>に結合"] --> H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cell wall synthesis inhibition'>細胞壁合成阻害</span>→<span class='jp-term jp-term-diagram' title='bacteriolysis (lysis)'>溶菌</span>"]
    D --> I{"相手がAcinetobacter baumanniiか"}
    I -->|"はい"| J["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='sulbactam'>スルバクタム</span>自身がPBP1・PBP3に結合"]
    J --> K["単独でも<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cell wall synthesis'>細胞壁合成</span>を阻害(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='penicillin-binding protein 2'>PBP2</span>には結合しない)"]
    I -->|"いいえ"| L["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='sulbactam'>スルバクタム</span>単独の抗菌活性はほぼ無し"]

💡 「常にアンピシリンとの配合剤」である理由は、この機序の非対称性にある。 はβラクタマーゼを不可逆的に阻害してアンピシリンを分解から守るが、Acinetobacter以外の菌に対してはそれ自体がを止める力を持たない。だからほとんどの適応でアンピシリンという「殺菌の主役」が必須になる1。

適応

配合剤として、βラクタマーゼ産生菌が関与するに用いる。

領域 使いどころ
皮膚・軟部組織 皮膚・皮膚軟部組織感染症。ヒト咬傷(Pasteurella multocida・Eikenella corrodens・口腔内嫌気性菌を含む)の第一選択の一つ5
腹腔内 症(を含む)1
婦人科 婦人科感染症1

⚠️ 動物咬傷とヒト咬傷で第一選択が異なる。 動物咬傷(イヌ・ネコ)の第一選択はアモキシシリン・配合剤だが、ヒト咬傷ではEikenella corrodensが第1世代セファロスポリン・マクロライド・クリンダマイシン・アミノグリコシドに耐性であるため、配合剤かアモキシシリン・配合剤、またはが軸になる5。

⚠️ A. baumanniiにはでは足りない。 本菌のβラクタマーゼは自体を分解し、に感受性の株は約1割にとどまる。米国の2026年版指針は、侵襲性感染の優先治療を・とまたはの併用とする(肺炎・125例の試験で28日81%対+68%、臨床的治癒62%対40%)。高用量(成分で1日9g)に他の1剤以上を加える治療は、・がすぐ使えないときの一時的な橋渡しに限られる3。

  • 💡 感性と報告されても高用量を選ぶのはなぜか。 感受性の判定はブロスマイクロが基準で、それ以外の方法ではが実際より感性側に判定されうる。侵襲性感染の死亡率が高いこと、高用量でも安全性の懸念が出ていないことと合わせて、指針は感性と報告された株にも高用量・長時間を優先する3
  • 好中球減少マウスの肺感染モデルでは、1日4gが 4 µg/mL以下(感性)の株で目標到達確率90%超を与え、1日9gにすると 8 µg/mL(中間)の株まで届く——これが高用量の根拠である3

用法・用量

IV/IM、アンピシリンとの合剤(通常2:1)として投与する。腎機能に応じてを調整する——30 mL/min以上では6〜8時間ごと、15〜29 mL/minでは12時間ごと、5〜14 mL/minでは24時間ごとに延長する1。実際の用量はアンピシリン量を基準に適応・年齢・体重で変わるため、施設のプロトコル・添付文書で確認する。

禁忌・注意

  • 禁忌:または他のへの重篤な過敏反応(アナフィラキシー、など)の既往、UNASYN関連の・の既往1
  • ⚠️ 腎機能低下患者ではの延長が必須。 調整せずに通常間隔で投与すると蓄積するリスクがある1
  • 配合剤と異なり、UNASYN特有の肝毒性は添付文書上は同様の禁忌事項として扱われる(・の既往)

副作用

頻度 内容
高頻度 筋注部位疼痛(16%)1
中等度 下痢(3%)1
低頻度 皮疹(2%未満)1
その他 注射部位反応

まとめ

  • は・と同じ古典的(第1世代)で、ふつうはアンピシリンとの配合剤(UNASYN)として使われ、単独ではNeisseriaceaeを除きほぼ抗菌活性を持たない1。
  • 唯一の例外がAcinetobacter baumannii。 (PBP1・PBP3、は除く)への結合を介した内因性の抗菌活性を持ち、他のには無い特徴である2。
  • A. baumanniiの侵襲性感染では、で分解から守った・をまたはと併用するのが優先治療3。米国では・に承認されている4。
  • 適応は皮膚・皮膚軟部組織感染症、症、婦人科感染症、およびヒト咬傷(動物咬傷の第一選択であるアモキシシリン・配合剤とは使い分ける)15。
  • 腎機能に応じたの延長が必須——が下がるほどを長くする1。
  • 主な副作用は筋注部位疼痛・下痢・皮疹で、頻度・重症度とも配合剤より軽い傾向がある。

出典

  1. 1.UNASYN (ampicillin sodium and sulbactam sodium) for Injection, USP — Prescribing Information(Pfizer・2026)UNASYN(アンピシリンナトリウム・スルバクタムナトリウム注射剤)の適応が皮膚・皮膚軟部組織感染症、腹腔内感染症、婦人科感染症であること、機序としてβラクタマーゼ産生菌に由来する幅広いβラクタマーゼが無細胞系の生化学的研究でスルバクタムにより不可逆的に阻害されることが示されていること、スルバクタム単独では"Neisseriaceae"を除いてほとんど有用な抗菌活性を持たないこと、腎機能低下時の投与間隔がクレアチニンクリアランス30 mL/min以上で6〜8時間ごと、15〜29 mL/minで12時間ごと、5〜14 mL/minで24時間ごとに調整されること、副作用として筋注部位疼痛が16%、下痢が3%、発疹が2%未満であること、禁忌がアンピシリン・スルバクタムまたは他のβラクタム系抗菌薬への重篤な過敏反応(アナフィラキシーやスティーブンス・ジョンソン症候群など)の既往、およびUNASYN関連の胆汁うっ滞性黄疸・肝機能障害の既往であることを確認した。2026年7月改訂版。閲覧 2026-09-07
  2. 2.Molecular Mechanisms of Sulbactam Antibacterial Activity and Resistance Determinants in Acinetobacter baumannii(Antimicrobial Agents and Chemotherapy・2015)スルバクタムがclass Aβラクタマーゼ阻害薬でありながら、Acinetobacter baumanniiを含む一部の菌種に対して他のβラクタマーゼ阻害薬には無い内因性の(細胞まるごとの)抗菌活性を持つこと、その活性がペニシリン結合蛋白(PBP)のPBP1・PBP3の阻害を介して発現し、PBP2には結合しないこと、この抗菌活性は現代の臨床分離株間で幅が広く耐性化の頻度は低いこと、高度耐性を示す稀なpbp3変異株は増殖適応度が低下していることをPMCの全文で確認した。閲覧 2026-09-07
  3. 3.Infectious Diseases Society of America 2026 Guidance on the Treatment of Antimicrobial-Resistant Gram-Negative Infections(Clinical Infectious Diseases / Infectious Diseases Society of America・2026)DOI 先の academic.oup.com は bot 判定で 403 を返すが、2026-09-28 に発行元(IDSA)の掲載ページにブラウザの User-Agent を付けた curl で全文を取得し、Version 4.0(2026年7月30日公開、内容は2026年3月1日時点)の第5節を照合した。侵襲性のカルバペネム耐性 Acinetobacter baumannii 感染症の優先治療がスルバクタム・デュルバクタムとイミペネムまたはメロペネムの併用であること(Question 5.1)、その根拠としてCRABの肺炎・血流感染125例のランダム化試験で28日生存率がスルバクタム・デュルバクタム+イミペネム81%(51/63)、コリスチン+イミペネム68%(42/62)、臨床的治癒が62%(39/63)対40%(25/62)だったこと、デュルバクタムはクラスA・C・Dのβラクタマーゼを阻害するがクラスB(NDMなどのメタロβラクタマーゼ)には効かず、米国のCRAB分離株の95%超に活性を示すこと、スルバクタム・デュルバクタムがすぐに使えないときに限り高用量アンピシリン・スルバクタム(スルバクタム成分で1日9g)に少なくとも1剤(セフィデロコル・ミノサイクリン・ポリミキシンBなど)を加えて一時的な橋渡しとすること(Question 5.2)、スルバクタム感受性のCRABは約10%にとどまりアンピシリン・スルバクタムにはスルバクタムを分解から守る阻害薬が含まれないこと、ブロスマイクロ希釈法以外の感受性試験ではアンピシリン・スルバクタムの判定が実際より感性側に誤りうるため、感性と報告された株にも高用量・長時間点滴を優先すること、好中球減少マウス肺感染モデルでスルバクタム1日4gはMIC 4 µg/mL以下、1日9gはMIC 8 µg/mLまで目標到達確率90%超を与えることを確認した閲覧 2026-09-28
  4. 4.XACDURO (sulbactam for injection; durlobactam for injection), co-packaged for intravenous use — full prescribing information(DailyMed (U.S. FDA)・2023)DailyMed掲載の現行SPL(2025年12月9日公開、Initial U.S. Approval 2023)で、XACDUROがスルバクタムとデュルバクタムを同梱した製剤であること、適応が18歳以上のAcinetobacter baumannii-calcoaceticus complexの感受性株による院内肺炎・人工呼吸器関連肺炎に限られること、推奨用量がクレアチニンクリアランス45〜129 mL/minでスルバクタム1 g・デュルバクタム1 gを6時間ごとに3時間かけて点滴静注(治療期間7〜14日)で、45 mL/min未満と130 mL/min以上では調整すること、禁忌が成分または他のβラクタム系抗菌薬への重篤な過敏症の既往であることを確認した閲覧 2026-09-27
  5. 5.Practice Guidelines for the Diagnosis and Management of Skin and Soft Tissue Infections: 2014 Update by the Infectious Diseases Society of America(Infectious Diseases Society of America (IDSA)・2014)学会サイトの全文で咬傷の項を確認した。動物咬傷の感染創にはアモキシシリン・クラブラン酸配合剤が適切な経口治療であり、代替には第2世代セファロスポリン(静注または経口。セフロキシムなど)に必要に応じて嫌気性菌カバー(クリンダマイシンまたはメトロニダゾール)を併せる方法、カルバペネム、モキシフロキサシン、ドキシサイクリンがあること、ST合剤またはレボフロキサシンを用いるならクリンダマイシンかメトロニダゾールで嫌気性菌をカバーすること、マクロライドはPasteurella multocidaとフソバクテリウムへの活性が一定しないため他に選択肢が無い場合を除いて避けることを確認した。ヒト咬傷にはアモキシシリン・クラブラン酸配合剤、アンピシリン・スルバクタム配合剤、またはエルタペネムが推奨され、βラクタムへの過敏症の既往があるときはシプロフロキサシンやレボフロキサシンなどのフルオロキノロンとメトロニダゾールの併用、またはモキシフロキサシン単剤が推奨される。Eikenella corrodensは第1世代セファロスポリン・マクロライド・クリンダマイシン・アミノグリコシドに耐性であると明記されている。閲覧 2026-09-07