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Disease Atlas · 運動器 · 疾患

石灰沈着性腱炎

Calcific tendinitis

別名
石灰化腱炎腱板石灰化calcific tendinopathycalcifying tendinitis of the shoulderrotator cuff calcific tendinopathy
臓器系
運動器
科目
Traumatology and OrthopedicsMacroscopic Anatomy and Embryology (Macroscopic Anatomy)
トピック
外傷学 15:肩甲帯の軟部組織・骨・関節損傷解剖学 5.2:上肢:肩と腋窩
上位概念
肩峰下疼痛症候群
鑑別疾患
化膿性肩峰下滑液包炎癒着性関節包炎(凍結肩)腱板断裂
症状
肩痛
画像所見
石灰化

🧠 全体像:は「石灰が溜まっているときではなく、溶けているときにいちばん痛い」というを軸に理解する。ロータターカフ腱内に結晶が沈着していくあいだ(形成相・静止相)は無症候〜にとどまり、身体がそれを吸収しようとするで炎症が最大化して激痛が走る。⭐ そのものではなく、身体の反応が痛みを作る——これが病態も治療も貫く一本の筋である。

病態:3期・4相の進行と痛みの逆説

の本態は、ロータターカフ腱内への結晶の沈着(HADD)である。進行は次の順をたどる12。

病期 相 所見 疼痛
— 腱のが組織へ化生する 無症候
形成相 弧状または断片状・点状の沈着 軽度
静止相 結節状の沈着。静止した状態 中等度〜高度
の沈着。炎症を特徴とし活発に吸収される ⭐ 最も強い
後(修復期) — 血管新生と形成 軽快していく

💡 「石灰が溜まる過程」と「石灰が溶ける過程」を取り違えない。 形成相・静止相はむしろ無症候〜慢性のにとどまり、日常診療でX線に写って見つかることも多い。激痛で救急外来を受診するのは大半がで、これは治療者にとっては朗報でもある——⭐ はとして石灰が消えていく相であり、多くは保存的に軽快する。

⚠️ ただしに委ねきってよいわけではない。 未治療のまま進行すると、()・腱板断裂・・骨化性に至りうる1。

好発

⭐ が罹患部位の約80%を占め、次いで、腱・はまれである。好発年齢は30〜50歳で、女性の発症頻度が男性よりおよそ2.7〜22%高いと報告されている。両側性はおよそ10〜20%にみられる1。

臨床像:急性の激痛と、無症候〜鈍痛の二つの顔

⚠️ 同じ病名でも臨床像はまったく異なる二相を取る。

💡 「激痛で動かせない」からといって重症・難治とは限らない。 むしろ痛みが強いほど吸収が進んでいる証拠であることが多く、自然軽快に向かっている場合がある。

診断

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='shoulder pain'>肩痛</span>(急性激痛 or 慢性<span class='jp-term jp-term-diagram' title='dull pain'>鈍痛</span>)"] --> B["単純X線"]
    B --> C{"石灰化陰影の性状は"}
    C -->|"境界明瞭・高濃度<br>(Gärtner I型)"| D["慢性・静止した沈着を示唆"]
    C -->|"境界不明瞭・淡い陰影<br>(Gärtner II〜III型)"| E["吸収期に近い沈着を示唆<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='barbotage'>バーボタージュ</span>に反応しやすい"]
    D --> F["超音波で沈着の位置・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='echogenicity'>エコー輝度</span>を確認"]
    E --> F
    F --> G["症候に応じて<span class='jp-term jp-term-diagram' title='treatment strategy'>治療方針</span>を決定"]

単純X線が診断の基本で、境界明瞭な高濃度陰影をI型、境界不明瞭な高濃度陰影をII型、境界不明瞭で淡い陰影をIII型とするGärtner-Heyer分類が広く使われる。境界不明瞭でふわふわ・の沈着は早期・急性の病変(吸収期に近い)を示唆し、境界明瞭な沈着は慢性化・を示唆する12。

超音波では、を伴うの沈着や、陰影を伴わない結節性として描出される。急性期にはの増加と下下の肥厚を伴う2。⭐ X線の性状は治療反応性の目安にもなる——境界不明瞭な沈着ほど、後述するに反応しやすい2。

治療

保存療法から始める

急性期は・・下ステロイド注射が初期対応となる1。⭐ 2026年改訂版のSAPSガイドラインは、の第一選択としてへのステロイド注射を挙げる。 無効例にはへのステロイド注射を併用したを考慮するが、⚠️ 近年の証拠はステロイド注射単独に対する効果が限定的であることを示しており、大きなで初回注射が無効だった例が最も恩恵を受けうるとされる3。

体外衝撃波療法(ESWT)

高エネルギー(0.28 mJ/mm²超)は低エネルギー(0.08 mJ/mm²未満)よりConstant-Murleyスコアの改善が大きい。個々の研究間でばらつきがあるものの、よりな(Verstraelen et al.)の集約値では高エネルギー群25.82点対低エネルギー群15.94点であり、のも高い1。⚠️ ただし高エネルギーは日常診療では利用しにくく、非常に疼痛を伴う3。

超音波ガイド下穿刺洗浄(バーボタージュ)

18ゲージ針とプローブを用いて沈着を穿刺・し、で洗浄したのち下下へステロイドを注入する低侵襲の外来処置である2。良好な成績(優良62.5%、単独群の32.5%と比較)が報告されている1。2026年改訂版も、ステロイド注射に反応しない例へのを推奨し、必要なら1回まで反復するとしている4。

手術

摘出術は、腱板断裂を合併した例や保存治療に抵抗する例に留保される確定的なで、良好な成績(優良81.8%)を示す1。2026年改訂版も、遷延する大きなに手術を留保するとしている4。

SAPSという傘のなかで

⭐ 2026年改訂版の(SAPS)は、を含めるべき病名の一つとして明記している(・・腱板の変性を含み、・およびのなどは対象外とする)3。⚠️ は「だから感染や炎症性疾患の仲間」ではなく、SAPSという非・非の傘に含まれるの病態である——=傘の外、と単純化しない。

鑑別

鑑別 手がかり
自動・ともに可動域が制限される。はが保たれることが多い
腱板断裂 外傷歴や慢性の筋力低下が主体で、単純X線での高の石灰化陰影を欠く
発熱・全身炎症所見を伴いやすく、液が優位。のはこれと臨床像が似るため、疑わしければ穿刺で鑑別する

⚠️ 急性激痛で発症するとは臨床像が重なる。 発熱・上昇・血液培養陽性があれば感染を優先し、判別に迷えばで細胞数・グラム染色・培養・結晶を評価する。

まとめ

  • ⭐ 結晶の沈着は→(形成相・静止相・)→後と進み、痛みが最も強いのは石灰を溶かしている。
  • が約80%を占め、30〜50代・女性に多い。
  • 単純X線のGärtner-Heyer分類(I〜III型)で境界不明瞭な沈着ほど吸収期に近く、に反応しやすい。
  • 治療は保存療法(・)から入り、2026年改訂版SAPSガイドラインはまず下ステロイド注射、無効なら併用を推奨する。⚠️ ステロイド注射単独の効果は近年限定的とされる。
  • 高エネルギーは低エネルギーより有効だが利用しにくく痛みを伴う。手術は腱板断裂合併例や治療抵抗例に留保する。
  • 2026年改訂版の(SAPS)はを含める病名の一つ。・腱板断裂・との鑑別は、可動域制限の有無・外傷歴・全身炎症所見の有無で行う。

出典

  1. 1.Calcifying Tendinitis of Shoulder: A Concise Review(Journal of Orthopaedics・2018)石灰沈着性腱炎(石灰化腱炎)が病理学的に前石灰化期・石灰化期(形成相・静止相・吸収相に細分)・後石灰化期(修復期)の順に進行し、形成相は弧状または断片状・点状の沈着で軽度の疼痛、静止相は結節状の沈着で中等度から高度の疼痛、吸収相は嚢胞状の沈着と活発な石灰の吸収を伴い最も強い疼痛を来すこと。好発年齢が30〜50歳であり、女性の発症頻度が男性よりおよそ2.7〜22%高いと報告されていること、両側性がおよそ10〜20%にみられること。棘上筋腱が罹患部位の約80%を占め、次いで棘下筋腱、小円筋腱・肩甲下筋腱はまれであること。単純X線でのGärtner-Heyer分類が、境界明瞭な高濃度陰影をI型、境界不明瞭な高濃度陰影をII型、境界不明瞭な淡い陰影をIII型とすること。治療として、急性期のNSAIDs・理学療法・ステロイド注射といった保存療法に加え、体外衝撃波療法は高エネルギー(0.28 mJ/mm²超)が低エネルギー(0.08 mJ/mm²未満)よりConstant-Murleyスコアの改善で優れ石灰沈着の吸収率も高いこと(Table 5に個別研究として引用されたAlbert et al.は高27.3点・低11.3点、Gerdesmeyer et al.は高31.6点・低17.7点、Ioppolo et al.は高30.17点・低10.21点のCMS改善を報告しており、Verstraelen et al.のメタ解析では集約値として高エネルギー群25.82点・低エネルギー群15.94点の有意な改善差が示されていること)、超音波ガイド下の穿刺洗浄(バーボタージュ)が良好な成績(優良62.5%、体外衝撃波単独群の32.5%と比較)を示す低侵襲の外来処置であること、鏡視下摘出術は腱板断裂を合併した例や保存治療に抵抗する例に留保される確定的な外科治療であり良好な成績(優良81.8%)を示すこと、未治療のまま進行すると癒着性関節包炎・腱板断裂・大結節骨溶解・骨化性腱炎に至りうること(2.2. Complications節に、未治療の自然経過がこれら4つの合併症に至ると明記されている)を確認した。Journal of Orthopaedics誌 2018年5月20日、15巻3号776〜782頁(PMC6014564で全文を閲覧)。閲覧 2026-09-05
  2. 2.Ultrasound-Guided Barbotage(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2023)石灰沈着性腱炎の本態がハイドロキシアパタイト沈着症であり、前石灰化期(腱の膠原線維が線維軟骨組織へ化生する)・形成期(軟骨細胞が出現し結晶が形成される静止状態)・吸収期(炎症を特徴とする)・後石灰化期(血管新生と膠原線維形成を特徴とする)の順に進行すること。好発が中年成人で、棘上筋腱・棘下筋腱に最も多いこと。単純X線では境界不明瞭でふわふわ・顆粒状の沈着が早期・急性の病変を示唆し、境界明瞭な沈着は慢性化を示唆すること、超音波では音響陰影を伴う高エコー沈着や陰影を伴わない結節性病巣として描出され、急性期にはドプラ血流の増加と肩峰下三角筋下滑液包の肥厚を伴うこと。超音波ガイド下バーボタージュが18ゲージ針と5〜12 MHzの高周波プローブを用い、結晶を穿刺・破砕したのち生理食塩水で洗浄し、最後に肩峰下三角筋下滑液包へステロイドを注入する手技であること、境界不明瞭な石灰化ほどこの手技に反応しやすいことを確認した。2023年5月22日更新版を閲覧した。閲覧 2026-09-05
  3. 3.Update of guideline for diagnosis and treatment of subacromial pain syndrome: a multidisciplinary review by the Dutch Orthopedic Association Part 1: preventive measures, diagnostics, and non-surgical treatment of subacromial pain syndrome(Acta Orthopaedica / Dutch Orthopedic Society・2026)2026年改訂版のオランダ整形外科学会ガイドラインが肩峰下疼痛症候群(SAPS)の定義に石灰沈着性腱炎を含めていること(棘上筋腱症・石灰沈着性腱炎・腱板の変性を含み、凍結肩・肩甲上腕関節および肩鎖関節の変形性関節症などは対象外とする)。石灰沈着性腱炎に対する推奨が、まず肩峰下滑液包へのステロイド注射から始め、無効なら滑液包へのステロイド注射を併用したバーボタージュを考慮するというもので、ただし近年の証拠はステロイド注射単独に対する上乗せ効果が限定的であることを示すこと、大きな石灰沈着で初回注射が無効だった例が最も恩恵を受けうること、高エネルギー体外衝撃波は低エネルギーより成績が良いが日常診療では利用しにくく非常に疼痛を伴うことを確認した。PDF全文(Acta Orthopaedica 2026;97:91–98)を取得して確認した。閲覧 2026-09-05
  4. 4.Update of guideline for diagnosis and treatment of subacromial pain syndrome: a multidisciplinary review by the Dutch Orthopedic Association Part 2: Operative considerations and treatment of various conditions related to subacromial pain syndrome(Acta Orthopaedica / Dutch Orthopedic Society・2026)改訂版第2部が石灰沈着性腱炎について、バーボタージュを考慮し必要なら1回まで反復し、遷延する大きな石灰沈着に手術を留保することを推奨として掲げていること(抄録のみを閲覧しており全文は未取得)。閲覧 2026-09-05