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Disease Atlas · 感染症 · 疾患

新生児敗血症

Neonatal sepsis

別名
EOSLOS
臓器系
感染症
科目
Pediatrics
トピック
小児科 3-47:新生児感染症小児科 2-27:敗血症・敗血症性ショックの認識と救急治療小児科 08:新生児感染症
上位概念
敗血症
鑑別疾患
新生児黄疸・高ビリルビン血症先天性TORCH感染症
合併症
細菌性髄膜炎
関連疾患
未熟児合併症
治療薬
アンピシリンゲンタマイシンペニシリンGセフォタキシムバンコマイシンセフトリアキソン
原因微生物
Streptococcus agalactiae / GBSEscherichia coliListeria monocytogenesStaphylococcus epidermidisStaphylococcus aureusKlebsiella pneumoniaeCandida albicans
症状
悪寒黄疸血行動態不安定項部硬直点状出血発熱嘔吐
検査値
C反応性蛋白(CRP)プロカルシトニン血算血糖絶対好中球数好中球減少
原因となる疾患
壊死性腸炎前期破水

🧠 全体像を貫く一本の軸は「発症時期=感染経路=」である。生後72時間以内に発症する(EOS)は母体の産道・羊水から垂直に獲得した GBS と Escherichia coli が主役で、対策は。それ以降のは環境・医療関連で、カテーテルを持つ早産児のブドウ球菌が主役、対策はとデバイス管理である。そして新生児では発熱がなくても敗血症は起こる——哺乳低下・無呼吸・体温不安定という非特異的な変化だけが唯一の手がかりになるため、「疑ったら培養して抗菌薬」までの敷居を成人よりはるかに低く置く。

病態

新生児は好中球・補体・細胞性免疫のいずれもが未熟で、皮膚・も脆弱なため、少量の菌量でも容易に菌血症へ進む。ここに早産・が加わると、免疫の未熟さと医療デバイスへの依存が同時に増し、EOS・LOS の双方でリスクが最も高くなる。

項目
発症時期 生後72時間以内(施設により48時間・7日と定義が異なる) それ以降〜生後90日ごろまで
感染経路 上行性の羊水感染、産道通過時の 医療環境・家庭環境からの、皮膚・粘膜・カテーテルから
主な GBS(Streptococcus agalactiae)、Escherichia coli(早産児では E. coli の比重が高い)、Listeria monocytogenes、腸球菌 Staphylococcus epidermidis など)、Staphylococcus aureusKlebsiella pneumoniae などグラム陰性桿菌、Candida
主なリスク因子 母体 GBS 保菌、破水18時間以上、母体発熱・、早産、前児の GBS 侵襲性感染、不十分な IAP カテーテル、人工呼吸、長期の、消化管手術、長期入院、
予防の主戦場 母体への 、無菌的カテーテル操作、不要デバイスの早期、母乳栄養

💡 EOS で GBS と E. coli が二大になるのは、両者がいずれも妊婦の腟・直腸に常在するからである。IAP の普及により GBS の EOS 発症率は 1990年代の 1.8/1000 出生から 0.23/1000 前後まで8割以上減少した一方、E. coli は IAP で抑えられないため相対的に比重が上がり、とくに早産児 EOS では最多となる。

flowchart TD
    A["母体の腟・直腸の常在菌<br>(GBS・E. coli)"] --> B["破水・分娩時の<br>上行性/産道感染"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='EOS'>早発型</span><br>生後72時間以内"]
    D["医療環境・皮膚常在菌<br>カテーテル・人工呼吸"] --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='LOS'>遅発型</span><br>生後72時間以降"]
    C --> F["未熟な免疫・脆弱なバリア<br>で容易に菌血症へ"]
    E --> F
    F --> G["非特異的な全身症状<br>髄膜炎・ショック・DIC"]

臨床像

⚠️ の最大の落とし穴は、成人のような発熱・悪寒・限局症状がそろわないことである。むしろ低体温のほうが重症を示唆し、「なんとなく元気がない」という看護者の印象が唯一かつ最も鋭敏な所見であることが多い。

系統 所見
全身 体温不安定(38℃以上または36℃以下)、活気低下、
呼吸 無呼吸、多呼吸、の増加
循環 頻脈または徐脈、、低血圧(遅い徴候)
消化器 哺乳低下、嘔吐、胃内残乳の増加、腹部膨満(の合併に注意)
神経 、けいれん、(髄膜炎)
代謝・血液 低血糖または高血糖、代謝性アシドーシス、黄疸(とくに上昇)、点状出血・DIC

⭐ EOS は呼吸窮迫で発症することが多く、と臨床的に区別できない。そのため「早産児の呼吸窮迫では、まず敗血症を併存として扱う」のが安全側の運用である。LOS では(髄膜炎、尿路感染症、骨髄炎・)を伴いやすい。⚠️ 髄膜炎の合併は EOS で約20〜25%、GBS の LOS ではさらに高率だが、は新生児では通常みられない。髄膜炎は「症状で疑う」のではなく「敗血症なら常に考える」

診断

検体と検査

  • 血液培養が確定診断の基本。抗菌薬投与前に、可能なら 1 mL 以上(最低でも 0.5 mL)を採取する。採血量が少ないと感度が大きく落ちる。
  • は、血液培養陽性、髄膜炎を示唆する所見、経過が敗血症として矛盾しない児で行う。ただし全身状態が不安定なら延期し、のために抗菌薬開始を遅らせない
  • LOS では無菌的に採取した尿培養(カテーテル採尿または、採尿バッグは不可)とカテーテル先端・局所病変の培養を追加し、血算(好中球減少、未熟好中球/総好中球比の上昇)、血糖、血液ガス、を並行する。

⚠️ CRP・(PCT)は単独で敗血症を確定も除外もできない。CRP は発症から上昇までに時間がかかるため初回値の正常は除外根拠にならず、逆に分娩ストレスや胎便吸引でも上昇する。値の使いどころは「に低値で安定していれば、培養陰性・良好とあわせて抗菌薬を中止してよい」という中止判断の補助であり、開始判断ではない。

早発型のリスク評価(無症候児をどう扱うか)

見た目が元気な児にどこまで検査・抗菌薬を行うかが EOS 診療の核心である。は単一の正解を定めず、施設が次の3つのいずれかを選んで一貫して運用することを求めている。

アプローチ 内容 特徴
カテゴリカルなリスク評価 母体の・発熱、IAP の十分性など二分的な基準で検査・抗菌薬を決める 実装が簡単だが、抗菌薬曝露児が最も多くなる
多変量リスク評価(EOS機) 在胎週数・母体最・破水時間・GBS 保菌・IAP と、出生後の児の状態を組み合わせて発症確率を算出し推奨を出す 在胎34〜35週以上が対象。抗菌薬使用と採血を大幅に減らせる
連続的な 検査・抗菌薬を先行させず、生後36〜48時間、規定の間隔で構造化した診察を反復する 最も抗菌薬を減らせるが、確実に反復診察できるが前提

⚠️ 在胎34週未満(AAP の別文書では 34 6/7 週以下)の早産児には機を用いない。早産そのものが感染を示唆するため、・子宮内感染・といった「感染が早産の原因かもしれない」状況で出生した児では、血液培養を採取して経験的抗菌薬を開始するのが原則である。一方、・陣痛のないなど感染以外の理由による早産では、IAP が不十分な場合に限って抗菌薬を検討する。

flowchart TD
    A["新生児の状態変化・リスク因子"] --> B{"臨床的に発症しているか"}
    B -->|"症状あり"| C["ABC安定化・血糖確認<br>血液培養を採取"]
    B -->|"無症候・35週以上"| D["施設が採用した3手法の<br>いずれかでリスクを評価"]
    B -->|"無症候・34週未満"| E["早産の理由を評価<br>感染関連なら培養+抗菌薬"]
    C --> F["経験的抗菌薬を速やかに開始<br>(ショックがあれば1時間以内)"]
    D --> F
    E --> F
    F --> G["安定次第、<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lumbar puncture'>腰椎穿刺</span><br>18〜24時間後にCRPを再検"]
    G --> H{"培養陰性・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='well-appearing'>全身状態良好</span><br>CRPが低値で安定"}
    H -->|"はい"| I["36〜48時間で抗菌薬を中止"]
    H -->|"いいえ"| J["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='causative organism'>起炎菌</span>に応じて<span class='jp-term jp-term-diagram' title='narrow-spectrum'>狭域</span>化し<br>期間を決めて継続"]

治療

経験的抗菌薬

アンピシリン(または)+ が世界標準である。この組合せで GBS・Listeria・腸球菌(アンピシリン)と E. coli などのグラム陰性桿菌()を過不足なく覆え、も得られる。は施設の菌叢と耐性状況、デバイスの有無で選ぶ。市中発症でデバイスのない児ではアンピシリン+を継続してよいが、NICU 入院中のカテーテル保持児ではバンコマイシン+アミノグリコシド、グラム陰性菌の耐性が問題となる施設ではを組み込む。バンコマイシンを全例に固定しない——は毒性が低く治療開始が数時間遅れても予後を損なわない一方、一律使用は耐性を選択する。

⚠️ セフトリアキソンは新生児に用いない。 ①アルブミンからビリルビンを置換し、)を招く(の新生児、とくに早産児では禁忌)。②カルシウム含有輸液(など)とを形成し、肺・腎に結晶をさせて死亡例が報告されている。米国 FDA はカルシウム含有輸液を要する(要する見込みの)生後28日以内の新生児への投与を禁忌としている。ただし代わりに用いるも、のルーチンには使わない——アンピシリン+はアンピシリン+より死亡率が高く、耐性菌の選択とカンジダ感染を増やすことが示されており、用途はグラム陰性菌髄膜炎が疑われる場合などに限る。

期間と中止

状況 期間の目安
培養陰性・臨床経過良好・CRP が低値で安定 36〜48時間で中止(漫然と継続しない)
血液培養陽性の敗血症(髄膜炎なし) 10日前後
GBS 髄膜炎 最低14日(合併症があればさらに延長)
グラム陰性桿菌髄膜炎 21日程度、かつ髄液無菌化確認後14日以上

💡 髄膜炎では治療開始1〜2日後にを再検し、髄液が無菌化したことを確認してから期間を数え直す。⚠️ 不要な抗菌薬の長期投与は、早産児で LOS・・死亡の増加と関連する。「中止できるか」を毎日問い直すことが治療の一部である。

敗血症性ショックの初期蘇生

新生児は心筋の収縮が乏しく、に弱い。10〜20 mL/kg ずつ投与し、1回ごとに心拍・血圧・・尿量・・肺ラ音を再評価する。Surviving Sepsis Campaign 小児版(2026年)1によれば、が利用できる環境では最初の1時間で最大 40〜60 mL/kg までが目安、が利用できない環境では低血圧を伴うショックで最大 40 mL/kg にとどめ、低血圧のない敗血症には輸液を行わず維持輸液から開始する(FEAST 試験のに基づく、数少ない高確実性エビデンスの一つ)。⚠️ ただしこの数値は小児版のもので、対象は在胎37週以上で出生した児から18歳までであり、早産児はスコープ外である。早産児ではのリスクから、この総量をそのまま適用せず、より少量ずつ・より慎重に反応を確認しながら投与する。

  • ショックがあれば経験的抗菌薬を認識から1時間以内に、ショックがなくても敗血症が確からしければ同じく速やかに開始する。
  • 輸液反応が乏しければを待たず、末梢またはからアドレナリンまたはノルアドレナリンを開始する。難治性ショックでは副腎不全を想定してを検討する。
  • 低血糖・・貧血・アシドーシスを併せて補正する。⚠️ 新生児ではの血行動態を悪化させうるため(いずれもで扱う)、「反応を見ずに30 mL/kg を流す」成人敗血症の運用をそのまま持ち込まない。

予防

GBS 母子感染予防(分娩時抗菌薬予防, IAP)

⭐ 妊娠 36 0/7〜37 6/7 週に腟・培養で全妊婦をスクリーニングする(旧来の 35〜37 週から改訂された。培養の有効期間は5週間で、41週まで有効となるよう設計されている)。

IAP の適応 補足
スクリーニング培養陽性 陣痛前の破裂なし)では不要
妊娠中いずれかの時点での GBS 菌尿(菌量を問わない) 高度の腟・直腸保菌を意味する
前児に GBS 侵襲性感染の既往 スクリーニング結果によらず適応
GBS 状態不明で、早産(37週未満)、破水18時間以上、発熱 38℃以上、または NAAT 陽性 では GBS 不明として扱う

投与は分娩開始後に 500万単位を静注し、以後250〜300万単位を4時間ごとに分娩まで反復する(アンピシリンも代替可)。分娩の4時間以上前に開始できていれば十分な予防と評価する。

ペニシリンアレルギーがある場合は、アナフィラキシーリスクで分岐する。💡 薬剤選択を誤らないよう、アレルギー申告のある妊婦の GBS 検体には「クリンダマイシンが必要」と検査依頼票に明記する運用が推奨されている。

アレルギーの区分 選択薬
アナフィラキシーリスクが低い、または重症度不明 2 g 静注 → 以後 1 g を8時間ごと
アナフィラキシーリスクが高く、GBS 株がクリンダマイシン感性 クリンダマイシン 900 mg を8時間ごと
アナフィラキシーリスクが高く、クリンダマイシン耐性または感受性不明 バンコマイシン 20 mg/kg を8時間ごと(1回最大 2 g)

一方、の予防に IAP は無力である。、無菌的なカテーテル挿入・維持バンドル、不要なカテーテル・の早期、母乳栄養の(不要な広域・長期投与の回避)が柱となる。

まとめ

  • は発症時期で二分する。EOS(生後72時間以内)は母体由来の GBS・E. coli、LOS はデバイス・環境由来のブドウ球菌やグラム陰性桿菌・Candida が中心である。
  • 症状は非特異的で、発熱がなくても——むしろ低体温・無呼吸・哺乳低下だけでも——敗血症を疑う。髄膜炎は所見で疑うのではなく、敗血症なら常に想定する。
  • 血液培養を1 mL 以上採取して速やかに抗菌薬を開始する。CRP・PCT は開始判断ではなく中止判断の補助であり、単独で確定も除外もしない。
  • 無症候の EOS リスク児には、カテゴリカルなリスク評価・機・連続的の3手法のいずれかを施設として一貫運用する。機は在胎34〜35週未満には用いない。
  • は EOS でアンピシリン+、LOS は施設の耐性状況で個別化する。セフトリアキソンは新生児で禁忌・カルシウム)、もルーチンには使わない。ショックでは 10〜20 mL/kg ごとの晶質液と毎回の再評価、反応不良なら早期のとし、成人の固定量をそのまま持ち込まない。
  • 予防の柱は、妊娠 36 0/7〜37 6/7 週の GBS スクリーニングと適応に沿った分娩時(分娩4時間以上前の開始で十分)、および LOS に対するとデバイス管理である。

出典

  1. 1.Surviving Sepsis Campaign International Guidelines for the Management of Sepsis and Septic Shock in Children 2026(Society of Critical Care Medicine / European Society of Intensive Care Medicine・2026)小児敗血症性ショックの初期輸液について、集中治療が利用できる環境では最初の1時間に10〜20 mL/kgのボーラスを重ねて最大40〜60 mL/kgを目安とし、集中治療が利用できない環境では低血圧を伴うショックのみ最大40 mL/kgにとどめ、低血圧のない敗血症にはボーラスを行わず維持輸液から開始するとした(FEAST試験の系譜に基づく、数少ない高確実性エビデンスの一つ)。対象は在胎37週以上で出生した児から18歳までで、早産児はスコープ外である。閲覧 2026-08-02