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Disease Atlas · 感染症 · 疾患

ヒストプラズマ症

Histoplasmosis

別名
Darling病
臓器系
感染症呼吸器
科目
Medical MicrobiologyInternal Medicine
トピック
微生物学 4/7:コクシジオイデス・イミチス。ヒストプラズマ・カプスラーツム内科学 S-58:局所・全身性真菌感染症
鑑別疾患
コクシジオイデス症タラロミセス症
合併症
急性呼吸窮迫症候群
続発疾患
原発性副腎不全
治療薬
イトラコナゾールアムホテリシンB
原因微生物
Histoplasma capsulatum
症状
発熱肝腫大脾腫蒼白点状出血
検査値
骨髄培養尿中抗原検査汎血球減少
禁忌薬
エマパルマブ

🧠 全体像:は「米国オハイオ・ミシシッピ川流域の鳥・コウモリの糞に汚染された土壌」という地理そのものが診断の入口になる、二形性真菌Histoplasma capsulatumの吸入感染症である。大多数は無症候〜自然治癒する軽度の肺感染にとどまるが、マクロファージに貪食されても殺されず内部で増殖するという本菌固有の生存戦略が、細胞性免疫が破綻した宿主(/など)では病変を(肝・脾・骨髄)へ全身に広げるへと姿を変える。「軽症で終わる大多数」と「免疫不全者の重篤な」という二極化した臨床像を、宿主の細胞性免疫という一本の軸で理解する。

病原体と感染経路

  • H. capsulatumは二形性真菌で、環境中(土壌、25℃)では菌糸、体内(37℃)ではマクロファージ内の細胞内酵母へ形態転換する
  • 分布は米国オハイオ・ミシシッピ・ミズーリ川流域を中心に、世界中の鳥・コウモリの糞便に汚染された土壌(洞窟、鶏舎、老朽建築物)1
  • 感染経路は分生子(胞子)の吸入。ヒト-ヒト感染はない
  • 低菌量曝露では曝露者の5%未満しかを呈さない1——大多数は無症候のまま自然治癒する
flowchart TD
  A["鳥・コウモリ糞便に汚染された<br>土壌中の分生子を吸入"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='alveolar macrophages'>肺胞マクロファージ</span>に貪食"]
  B --> C["マクロファージ内で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='parasitic'>寄生性</span><span class='jp-term jp-term-diagram' title='yeast form'>酵母形</span>へ転換・増殖"]
  C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='immunocompetent host'>免疫正常宿主</span><br>肉芽腫で封じ込め・大多数は無症候"]
  C --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cell-mediated immunodeficiency'>細胞性免疫不全</span><br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='human immunodeficiency virus'>HIV</span>/<span class='jp-term jp-term-diagram' title='acquired immunodeficiency syndrome'>AIDS</span>など)"]
  E --> F["感染マクロファージが<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='reticuloendothelial system, RES'>網内系</span>(肝・脾・骨髄)へ播種"]
  F --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pancytopenia'>汎血球減少</span>・肝脾腫"]
  F --> H["両側副腎の破壊<br>→<span class='jp-term jp-term-diagram' title='primary adrenal insufficiency'>原発性副腎不全</span>"]

臨床像

病型 宿主 特徴
無症候〜自然治癒性肺炎 免疫正常・軽度曝露 大多数がこの経過をたどる
免疫正常・大量曝露 、肺炎・へ進行することもある
免疫不全者(/・臓器移植後など) 、肝脾腫、リンパ節腫脹、(両側副腎の破壊)を来しうる。指標疾患になりうる1

⚠️ は(特に/)で起こり、原因不明の発熱・肝脾腫・をみたらの居住歴・渡航歴を確認する。 感染者を対象に、血液培養が少なくとも2日間陰性であることを条件としてをした報告では、108例中29例(26.85%)でが陽性となり、その内訳ではが14例(12.96%)と最多であった2。

診断

  • 尿中・血清のがでもっとも感度が高く、実務上の主力検査となる
  • ・:ではマクロファージ内に充満した酵母をできることがある
  • 培養は確定診断になるが、陽性化まで最長6週間かかりうる3。迅速性では抗原検査に及ばない
  • 血清学的検査(、)は、抗体の産生に2〜6週間かかる3ため急性期に偽陰性になりやすく、免疫不全者ではさらに感度が落ちる

治療

⚠️ 治療の推奨は2025〜2026年に更新された。 米国感染症学会()は2007年版ガイドラインのうち、軽症・中等症の急性と無症候のを2025年に4、重症例の初期治療を2026年ので5改めた。の総治療期間や維持療法は更新の対象外で、2007年版の記載が残っている。

急性肺ヒストプラズマ症(軽症・中等症)と無症候の肺結節

状況 方針
免疫正常・軽症の急性 抗真菌薬をには投与しないことを提案する(条件付き推奨・エビデンスの確実性は非常に低い)4
免疫正常・中等症の急性 治療・無治療のどちらも許容する(同)。が長い(例:1か月超)、症状が悪化する、が進行する、・が増大する、症状が重い——のいずれかは治療に傾ける要素4
免疫不全で播種への進展リスクが中〜高 軽症・中等症でも治療を提案する4
無症候の非石灰化(ヒストプラズモーマ)・未治療の既感染 再活性化予防の治療をには行わない。播種・重症化のリスクが高い免疫不全者では、厳重に経過を追うか治療を考える4

治療する場合はを用い、成人は200 mgを1日3回3日間の負荷の後、200 mgを1日2回で6〜12週間投与する。を行い、1 mg/L超・3〜4 mg/L未満を目標とする4。

💡 「治療しない」が既定になったのは、大多数が自然に治り、治療の害がはっきりしているからである。 の観察では、急性のほぼ全員が無治療で回復した。一方は吸収のばらつきが大きく(濃度測定が要る)、強い阻害による薬物相互作用、まれだが肝障害・心不全、6〜12週間のを伴う4。

⚠️ 妊婦では第1三半期のをできるだけ避け、治療が必要ならを用いる4。

重症の急性肺型と播種性ヒストプラズマ症

項目 方針
初期治療 重症の急性・播種性では全例でによる初期治療を提案する(の合意)。製剤はを優先する5
用量 中枢神経病変なし:3 mg/kgを1日1回。中枢神経病変あり:5 mg/kgを1日1回5
間 中枢神経病変なしでは従来7〜14日とされてきたが、し循環・呼吸が改善して内服できる例や毒性が出た例では、より短い導入でへ移ってよい。中枢神経病変では一般に4〜6週間5
導入後 を優先する(他のを勧める十分なデータは無い)。開始1〜2週後に全例で濃度を測り、随時採血で1〜4 mg/Lを目標とする5
重症度の低い播種性 最適な初期薬は根拠不十分。死亡・臓器障害のリスクが低いと判断される慢性のでは、で始めてもよい5
総治療期間・維持療法(2007年版) 播種性ではを含めて総計12か月以上。免疫抑制が改善しない患者(など)では200 mg/日の生涯にわたる維持療法を要しうる6

⚠️ 急性の軽症例にのレジメン(導入や12か月以上の投与)を当てはめない。 逆に、重症の急性・播種性では単独で始めず、で導入する。は肝毒性が強く現在は推奨されない。

まとめ

  • は米国オハイオ・ミシシッピ川流域の鳥・コウモリ糞便から分生子を吸入して成立する二形性真菌感染症で、大多数(曝露者の95%超)は無症候にとどまる。
  • 本菌はマクロファージ内で生存・増殖する細胞内寄生を戦略とし、これが(肝・脾・骨髄)への播種とのリスクを説明する。
  • は(特に/)で起こり、・肝脾腫が前面に出る指標疾患になりうる。
  • 診断は尿中・血清のがでもっとも実務的で、も有用な検体である。
  • 治療は、免疫正常の軽症の急性では原則として抗真菌薬を投与せず、中等症は治療・経過観察のどちらも許容し、治療するならを6〜12週間(濃度測定つき)とする。重症の急性・播種性では(3 mg/kg、中枢神経病変は5 mg/kg)で導入してからへ切り替える。

出典

  1. 1.Histoplasmosis(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2026)流行地域が米国のオハイオ・ミシシッピ・ミズーリ川流域であること、低菌量曝露では曝露者の5%未満しか臨床症状を呈しないこと、播種性疾患は主に免疫不全者に生じること、汎血球減少を伴う患者では肝脾腫・リンパ節腫脹・蒼白・点状出血を呈しうることを確認した閲覧 2026-08-11
  2. 2.Predictive model for diagnostic yield of bone marrow examination in patients with HIV infection having fever of unknown origin(AIDS(Noiperm P, Saelue P)・2024)血液培養が少なくとも2日間陰性であることを不明熱の適格基準に含めたHIV感染者108例の骨髄検査で、骨髄培養の陽性率が26.85%(29例)であったこと、培養で同定された病原体の内訳がヒストプラズマ症14例(12.96%)で最多であったことを確認した閲覧 2026-08-04
  3. 3.Clinical Overview of Histoplasmosis(Centers for Disease Control and Prevention (CDC)・2024)2024年4月24日付のCDC医療者向けページで確認した。培養は組織・血液・その他の体液で行えるが陽性化に最長6週間かかりうること、尿中抗原検査が非侵襲的検査のなかで最も感度が高く結果も最も早いこと、抗体の産生には2〜6週間かかること。閲覧 2026-09-27
  4. 4.2025 Clinical Practice Guideline Update by the Infectious Diseases Society of America on Histoplasmosis: Treatment of Asymptomatic Histoplasma Pulmonary Nodules (Histoplasmomas) and Mild or Moderate Acute Pulmonary Histoplasmosis in Adults, Children, and Pregnant People(Infectious Diseases Society of America (IDSA)・2025)IDSA公式サイトのガイドライン頁(2025年3月12日付の推奨本文)で確認した。免疫正常の軽症・急性肺ヒストプラズマ症には抗真菌薬を日常的に投与しないことを提案し(条件付き推奨・確実性は非常に低い)、中等症では罹病期間と症状の重さ・治療の害を考慮して治療・無治療のいずれも提案する(同)。罹病期間の長さ、症状の悪化、肺浸潤影の進行、肺門・縦隔リンパ節の増大、より重い症状は治療に傾ける要素とされる。播種への進展リスクが中〜高の免疫不全者では軽症・中等症でも治療を提案する。無症候の非石灰化肺結節と未治療の既感染では再活性化予防の治療を日常的に行わない。治療薬はイトラコナゾールで、成人200 mgを1日3回3日間のあと200 mgを1日2回6〜12週間、治療薬物モニタリングを行いトラフ1 mg/L超・3〜4 mg/L未満を目標とする。妊婦ではできるだけ第1三半期のアゾールを避け、リポソーマルアムホテリシンBを用いる。閲覧 2026-09-27
  5. 5.Histoplasmosis in Adults, Children, and Pregnant Individuals — Consensus Statement: Initial Antifungal Treatment of Severe Histoplasmosis(Infectious Diseases Society of America (IDSA)・2026)IDSA公式サイトのガイドライン頁(2026年9月16日更新)の合意声明で確認した。重症の急性肺ヒストプラズマ症と播種性ヒストプラズマ症では全例でアムホテリシンBによる初期治療を提案し、リポソーマル製剤を優先して中枢神経病変のない重症例は3 mg/kgを1日1回、中枢神経病変では5 mg/kgを1日1回とする。導入期間は非中枢神経病変で従来7〜14日とされてきたが、臨床的に改善し内服できる例や毒性が出た例では短縮と早期の経口薬への移行が妥当でありうる。中枢神経病変では一般に4〜6週間。導入後はイトラコナゾールを優先し、開始1〜2週後に全例で治療薬物モニタリングを行い随時採血で1〜4 mg/Lを目標とする。重症度の低い播種性疾患の最適な初期薬は根拠不十分で、死亡・臓器障害のリスクが低いと判断される慢性の播種性疾患ではイトラコナゾールで開始してもよい。閲覧 2026-09-27
  6. 6.Clinical Practice Guidelines for the Management of Patients with Histoplasmosis: 2007 Update by the Infectious Diseases Society of America(Infectious Diseases Society of America(Clinical Infectious Diseases誌)・2007)中等症〜重症の播種性ヒストプラズマ症はリポソーマルアムホテリシンB 3.0 mg/kg/日を1〜2週間投与した後に経口イトラコナゾール(初日200 mgを1日3回3日間、以後200 mgを1日2回)へ切り替えて総計12か月以上継続すること、軽症〜中等症の播種性疾患はイトラコナゾール単独で12か月以上、免疫抑制が改善しない患者ではイトラコナゾール200 mg/日の生涯維持療法を要しうること、急性肺ヒストプラズマ症は多くが無治療でよく症状が1か月を超える場合にイトラコナゾールを6〜12週投与するにとどめることを確認した閲覧 2026-08-11