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Microbe Atlas · 細菌

Clostridium tetani

破傷風菌

分類
G+ 桿菌・芽胞形成 / Gram+ rods (spore)Clostridium
性状
Gram陽性 (G+)桿菌 Bacilli
科目
Medical Microbiology
トピック
2/26: Clostridium tetani2/27: Clostridium botulinum and C. difficile5/1: Bacteria causing skin and wound infections (list) and their diagnosis
自然耐性薬
ゲンタマイシンアミカシントブラマイシン
原因となる疾患
破傷風
作用する薬剤
ペニシリンG

🧠 全体像:破傷風は「ブレーキが壊れた筋肉」の病気として読む。はを逆行性に上って脊髄に達し、そこでからの・グリシン放出だけを止める。興奮性シグナルはそのまま流れ続けるため、筋肉は「ブレーキなきアクセル」の状態になり持続的なに陥る。⭐ と同じ「SNARE切断」という酵素活性を持ちながら、標的ニューロンが逆(中枢の vs 末梢の興奮性神経終末)なために麻痺の向きが正反対になるという対比が、この菌を理解する最短経路になる。

微生物学的な特徴

で鞭毛を持ち運動性がある。に共通する性質(グラム陽性・・)を持ち、という点でのBacillus属と対照的——同じ「」でもこの1点が両者の鑑別軸になる。

芽胞は菌体の末端に位置し、「太鼓のばち(drumstick)様」の特徴的な形態を呈する(C. botulinumの芽胞が中央〜端寄りなのとは位置が異なる)。

病原性の仕組み

  1. 錆びた釘などの異物によるに伴い、C. tetaniの芽胞が創傷内に混入する
  2. 芽胞が組織内()に埋没し発芽する
  3. (、)が産生・放出され、軸索を通ってにより脊髄に到達する
  4. 毒素がを切断し、神経終末からの神経伝達物質の()を阻害する
  5. SNARE切断は特に・グリシンの放出(Renshaw細胞を含むから)を阻害する——・グリシンは本来、筋収縮を抑制する働きを持つため、その放出が止まると制御不能な筋収縮=痙攣が生じる
flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='stab wound'>刺創</span>に C. tetani 芽胞が混入"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='anaerobic environments'>嫌気環境</span>の組織内で芽胞が発芽"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='tetanospasmin (tetanus toxin)'>破傷風毒素</span>産生"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='motor neuron'>運動神経</span>軸索を<span class='jp-term jp-term-diagram' title='retrograde axonal transport'>逆行性軸索輸送</span>で脊髄へ"]
    D --> E["SNARE タンパク質を切断"]
    E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='inhibitory neuron'>抑制性ニューロン</span>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='gamma-aminobutyric acid'>GABA</span>・グリシン)の<br>神経伝達物質放出を阻害"]
    F --> G["筋収縮の『ブレーキ』が消失"]
    G --> H["持続的な<span class='jp-term jp-term-diagram' title='muscle cramps'>筋痙攣</span>=<span class='jp-term jp-term-diagram' title='spastic paralysis'>痙性麻痺</span>"]

💡 なぜ「」が破傷風のハイリスク要因なのか。 錆びた釘のような細く深いは、が小さく閉じやすい一方でに・低酸素状態を作りやすい——これが芽胞発芽に理想的なになる。広く開放されたよりも、むしろ「小さく深い」創傷の方が危険である。

⭐ 破傷風とは同じ毒素の型(AB型・SNARE切断のZnメタロプロテアーゼ)で標的ニューロンが違うから麻痺の向きが逆になる。

項目
毒素の型 AB型(SNARE切断) AB型(SNARE切断)
作用部位 脊髄(中枢) (末梢)
阻害される伝達物質 抑制性:・グリシン 興奮性:アセチルコリン
麻痺の型 (ブレーキが外れる) (アクセルが切れる)
進行パターン 全身性の持続痙攣 下行性(眼→下方)

感染経路と疫学

  • 感染源:土壌、錆びた釘などの、動物・ヒト咬傷
  • 伝播経路:()を通じた芽胞の混入——ヒト-ヒト感染はない
  • ワクチン未接種者・高齢者(小児期以降の未接種)・薬物注射使用者・発展途上国での不衛生な分娩(、臍帯断端からの感染)がハイリスク

起こす疾患

病型 特徴
(最多) (を伴う顔面の持続的痙攣、「悪魔の微笑み」)、(背筋の痙攣による過度の背部反弓)、の関与による血圧変動・不整脈
受傷肢に限局した持続的(まれ、全身型に進展しうる)
頭頸部外傷後にを伴う(まれ)
非衛生的な臍帯処置による感染。・全身ので発症、発展途上国での主要な死因の一つ

診断

  • 臨床診断が主体:C. tetaniそのものが創部から分離されることは稀で、培養の診断的有用性は低い
  • ・受傷歴、ワクチン接種歴の聴取が重要

治療と予防

治療の柱は「①神経に未結合の毒素を中和する」「②毒素産生源(創部の菌)を除去する」「③既に結合した毒素による痙攣・自律神経症状を支持療法で抑える」の3つ。

  1. 受動免疫():を筋注または静注して血流中の未結合毒素を中和すると死亡率が改善する1。神経終末に既に結合した毒素は中和できない——症状の消失は新たなシナプスの再生を待つほかない
    • ⚠️ 「 250単位」は創傷後の予防の用量であって、発症例の治療量ではない。 米国では汚染創・重症創で接種歴が不十分な場合などに250単位を筋注する2。一方、発症した破傷風の治療では成人の投与量が500〜10,000 IUと施設間で大きく幅がある1
    • 製剤も国により違う。が歴史的に優先されてきたが高価で供給が不足しており、負担が大きく資源が限られる地域では馬由来が標準治療である(ベトナムの無作為化試験では死亡・人工呼吸期間・在室在院期間に差が無く、有害事象もどちらもまれだった)。英国はを未防御者の曝露後予防に取っておき、には静注用免疫グロブリン(体重50 kg未満で5000 IU相当、50 kg超で10,000 IU相当)を用いる1
    • ⚠️ 馬由来は全量を先に入れない。 アナフィラキシー・の危険があるため、筋注のテスト用量が陰性であることを確かめてから全量を投与する1
  2. 創部の:芽胞・壊死組織を外科的に除去しでの毒素産生源を断つ。一見軽微に見える創でも必要で、同時に微生物学的検査の検体も得られる1。古典的には創部操作で新たな毒素が血中へ出るのを避けるための投与後に行うとされる
  3. 抗菌薬:経腸または静注で7〜10日投与する1
    • ⚠️ 「メトロニダゾールが第一選択、ペニシリンは不可」と覚えると行き過ぎになる。 両者を比べた研究は少なく、1985年のではメトロニダゾール群の死亡が有意に低かったが、後続の3研究では死亡・・人工呼吸の必要性に差が出なかった。エビデンスはわずかにメトロニダゾールを支持するが、ペニシリンも有効での良い代替である1
    • 💡 ペニシリンが作動性伝達に干渉しうるという点は、の必要量がメトロニダゾール群で少なかったという観察の理論上の説明として挙げられているにとどまる1
    • ⚠️ 創傷後に「のため」の抗菌薬(局所・全身とも)を出さない。 米国の指針は明確にこれを否定している2——抗菌薬は発症例の毒素産生源を断つための治療であって、予防手段ではない
  4. 痙攣・のコントロール:が治療の要である。不十分ならによるに進むが、これは人工呼吸・鎮静下でのみ安全である1
  5. への対応:主柱はの静注とオピオイドである1
  6. :破傷風は罹患しても免疫を獲得しないため、回復した全例にの全コースが必要である1
    • ⚠️ 年齢で使うワクチンが違う。 米国では7歳未満に(2か月・4か月・6か月・15〜18か月・4〜6歳の5回)、11〜12歳にを1回、成人は10年ごとの追加接種(を1回受けたあとはTdまたは)である3。創傷時は、清潔で軽微な創なら最終接種から10年以上、それ以外の創なら5年以上で追加接種の適応になる2
  • ⚠️ 嫌気性菌は通常アミノグリコシド系に感受性を示さない(であり、ではない)。 は嫌気性菌全体について、・アミノグリコシド系・/・に通常耐性だとしている4。アミノグリコシド系の取り込みが性の能動輸送に依存するため、で増殖するC. tetaniには無効——治療薬選択に迷う場面ではないが、機序として押さえておく

まとめ

  • C. tetaniはグラム陽性・ので、末端の芽胞が「太鼓のばち様」の外観を呈する。のBacillus属との対比が鑑別軸。
  • 錆びた釘などによるから芽胞が侵入・発芽し、がで脊髄に達しを切断する。
  • 毒素の標的は・グリシンを放出するであり、「筋収縮のブレーキが外れる」ことで(・)が生じる。
  • ⭐ と同じAB型・SNARE切断の酵素機構を持ちながら、標的が脊髄の(中枢)かの興奮性神経終末(末梢)かでとという正反対の結果になる。
  • 診断は主にに基づき、培養の有用性は低い。
  • 治療はによる受動免疫++抗菌薬7〜10日が柱で、痙攣は、はとオピオイドで抑える1。抗菌薬はエビデンスがわずかにメトロニダゾールを支持するが、ペニシリンも有効な代替である1。
  • 罹患しても免疫は残らないため、回復後はの全コースを行う。使うワクチンは年齢で異なり、米国では7歳未満が、11〜12歳が、成人は10年ごとのTdまたはである13。

出典

  1. 1.Tetanus: recognition and management(The Lancet Infectious Diseases・2025)全文(PMC7617864)で、壊死組織を除去する外科的デブリードマンが一見軽微な創でも必要であること、抗菌薬を経腸または静注で7〜10日投与すること、メトロニダゾールとペニシリンを比べた研究は少なく1985年の非盲検試験ではメトロニダゾール群の死亡が有意に低かったが後続の3研究では死亡・在院日数・人工呼吸の必要性に差が無く、筋弛緩薬の必要量が少なかった報告がペニシリンのGABA作動性伝達への理論上の影響を反映しうるとされ、総体としてエビデンスはわずかにメトロニダゾールを支持するがペニシリンも有効で忍容性の良い代替であると述べていること、抗毒素の筋注または静注が死亡率を改善すること、ヒト破傷風免疫グロブリンが歴史的に優先されてきたが高価で世界的に供給不足のため負担が大きく資源の限られた環境の多くでは馬由来抗毒素が標準治療であり、ベトナムの無作為化試験で死亡・人工呼吸期間・在室在院日数に差が無く有害事象もどちらもまれだったこと、それでも馬由来抗毒素の全量投与は筋注のテスト用量が陰性であることを確かめてから行うべきこと、成人の投与量が500〜10,000 IUと施設間で大きく幅があること、英国ではヒト破傷風免疫グロブリンを未防御者の破傷風傾向創への曝露後予防に取っておき確定例には静注用免疫グロブリン(体重50 kg未満で5000 IU相当、50 kg超で10,000 IU相当)を用いること、痙攣の制御にはベンゾジアゼピン系が要であり不十分なら筋弛緩薬による神経筋遮断(人工呼吸・鎮静下でのみ安全)に進むこと、自律神経障害の治療の主柱が静注硫酸マグネシウムとオピオイドであること、自然感染は免疫を付与しないため回復後の全例に予防接種の全コースが必要であることを確認した閲覧 2026-09-27
  2. 2.Clinical Guidance for Wound Management to Prevent Tetanus(Centers for Disease Control and Prevention・2025)2026年9月8日最終確認版で、創傷管理として壊死組織の除去を行うこと、適応があれば破傷風免疫グロブリン250単位を筋注すること(汚染創・重症創で接種歴が不明・未接種・不完全、あるいはHIV感染や重度免疫不全がある場合)、清潔で軽微な創では最終接種から10年以上・それ以外の創では5年以上で追加接種が必要になること、そして**創傷後の破傷風予防のために局所・全身の抗菌薬を用いるべきではない**ことを確認した閲覧 2026-09-27
  3. 3.Tetanus Vaccine Recommendations(Centers for Disease Control and Prevention・2026)2026年9月10日最終確認版で、7歳未満にはDTaPを2か月・4か月・6か月・15〜18か月・4〜6歳の5回接種、11〜12歳にTdapを1回、成人は10年ごとの追加接種(Tdapを1回受けたあとはTdまたはTdap)を米国で勧告していることを確認した閲覧 2026-09-27
  4. 4.Expected Resistant Phenotypes, Version 1.2(European Committee on Antimicrobial Susceptibility Testing (EUCAST)・2023)PDF(v1.2、2023年1月)を取得し、Table 5(嫌気性菌)の表題が逐語で「Anaerobes are usually resistant to aztreonam, aminoglycosides, polymyxin B/colistin and nalidixic acid.」であることを確認した。同表に種別の行として挙がるのは Clostridium ramosum・C. innocuum のバンコマイシン耐性のみで、*C. tetani* の個別の行は無い(アミノグリコシド系への耐性は嫌気性菌全体に対する記述として読む)閲覧 2026-09-27