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Disease Atlas · 全身 · 疾患

減圧症

Decompression sickness

別名
ベンズthe bends潜函病
臓器系
全身運動器
科目
PathologyCardiology, Heart Surgery, Angiology, Vascular Surgery
トピック
病理学 A/30:塞栓の種類循環器内科 A-14:心房・心室中隔欠損と先天性心疾患
鑑別疾患
脳卒中肺血栓塞栓症
続発疾患
大腿骨頭壊死
関連疾患
脂肪塞栓症候群卵円孔開存
症状
関節痛皮疹麻痺しびれ呼吸困難

🧠 全体像:は「が急に下がると、体に溶け込んでいた窒素が炭酸飲料の栓を開けたときのように化する」という一つの物理現象から、皮膚から中枢神経・肺までまったく違う臨床像が生まれる疾患である。の分類は関節・皮膚にとどまるtype I(軽症)、脳・脊髄を侵すtype II(重症)、致死的になりうる肺症状のtype IIIの3型からなり、治療は型によらず()が第一選択という点は共通する。由来の(AGE)とは病態も症状の方も異なるが、両者ともにの適応であるため、現場では鑑別に固執しすぎない実務的な判断が求められる。

病態:溶けていた窒素が気泡になる

高圧環境(、加圧環境での作業)に身体がさらされると、中の窒素が血液・組織に高い分圧で溶け込む。ここから急激にが低下する(など)と、溶けきれなくなった窒素が炭酸飲料の栓を開けたときのように気体としてし、血管内・組織内にを形成する。このが血管を機械的に閉塞し、同時に炎症反応を惹起することで、虚血と炎症の両方から組織障害が起こる。

窒素の組織からの排出速度は臓器によって異なり、内耳は脳より排出が遅いため、脳症状を伴わずに内耳症状だけが先行する「」が起こりうる。-酸素混合ガスから(コストを下げる目的で)窒素主体のへ切り替えたダイバーや、を持つダイバーはこのリスクが高い1。

flowchart TD
    A["高圧環境下で窒素が組織に高濃度で溶解"] --> B["急激な<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ambient pressure'>周囲圧</span>低下(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='rapid ascent'>急浮上</span>など)"]
    B --> C["溶存窒素が<span class='jp-term jp-term-diagram' title='air bubble'>気泡</span>として<span class='jp-term jp-term-diagram' title='precipitation'>析出</span>"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='vascular occlusion'>血管閉塞</span>(虚血)+局所炎症反応"]
    D --> E["皮膚・リンパ・筋骨格の症状<br>(type I)"]
    D --> F["脳・脊髄の症状<br>(type II)"]
    D --> G["致死的になりうる肺症状<br>(type III、chokes)"]

Type I・II・III:3型の分類

はDCSの病像を3型に分類する。Type Iは皮膚・筋骨格・リンパ症状、Type IIは脳・脊髄障害の症状、Type IIIは致死的になりうる肺症状(「チョークス」)である1。

項目 Type I(軽症、「ベンズ」) Type II(脳・脊髄) Type III(肺、「チョークス」)
侵される部位 皮膚・リンパ・ 中枢神経系(脳・脊髄) 肺
代表的症状 関節痛(肩が好発)、cutis marmorata様の斑状皮疹、リンパ節腫脹・疼痛 麻痺・しびれなどの、頭痛、視覚・聴覚障害、、失調、意識障害 呼吸困難・胸痛・
頻度・位置づけ 最も頻度が高い病型 Type Iの症状にして生じることが多い まれだが致死的になりうる
治療の基本 () ()— がより高い ()— 迅速な認識と治療開始を要する

⚠️ Type III(チョークス)は頻度こそまれだが、肺塞栓・・心筋梗塞とされうる致死的な病型である。 の呼吸困難・胸痛・を呈し、迅速な認識と治療開始を要する1。

動脈ガス塞栓症(AGE)との違い

とは別に、(AGE)という病態がある。AGEは気体が全身動脈循環に直接流入する病態で、では①重症のが動脈側へ及ぶ経路のほか、②肺の(息を止めたままし肺胞が破裂して気体がへ流入する経路)、③・などのを介してが動脈側へ抜ける経路、から生じうる2。⚠️ 出典が例示するは・だが、も同様にとして働きうる(この点は本ノートの一般的な理解であり、出典自身がPFOを名指ししているわけではない)。

⚠️ 臨床的に紛らわしいが、機序とが異なる。 は組織への窒素の飽和を要するため発症までに一定のがあるのに対し、AGEは浮上後10分未満という急激な経過で発症することが多く、初発症状は(39%)・(37%)・めまい(30%)の順に多い2。ただし両者は病態・臨床像が重なり合うことも多く、現場では厳密な鑑別よりも、いずれもの適応であるという共通点を優先して初期対応する。

項目 (DCS) (AGE)
機序 溶存窒素の組織内での化 気体の動脈循環への直接流入(肺、など)
発症までの経過 組織への窒素飽和を要し、浮上後にある程度のをおいて発症しうる 浮上後10分未満の急激な発症が典型的
侵される神経系 脊髄が 脳が主体(様の多巣性欠損)
初期対応 () ()

診断・治療

は臨床診断であり、・高所飛行・与圧作業からの急激な減圧という病歴と症状のパターンで疑う。画像・血液検査は非特異的だが、呼吸困難を訴える患者では気胸を除外するため胸部X線を直ちに撮影する(未処置の気胸はHBOTの)。

治療の第一選択は(、HBOT)である。搬送が可能になり次第、米国海軍治療表6に基づくを開始する。搬送手段が加圧できない場合は高度1,000フィート(約300m)以下に制限する。HBOTが利用できるまでは投与を継続し、・を行う。抗凝固薬・・ステロイドは現在推奨されておらず、アスピリンは症状を隠しうるため避ける1。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='diving'>潜水</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='rapid ascent'>急浮上</span>後の関節痛/皮疹/神経症状"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='high-flow oxygen'>高流量酸素</span>投与を直ちに開始"]
    B --> C["胸部X線で気胸を除外"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hyperbaric oxygen therapy (HBOT)'>高気圧酸素療法</span>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='recompression'>再圧</span>)が可能な施設へ搬送"]
    D --> E["米国海軍治療表6などの標準プロトコルで<span class='jp-term jp-term-diagram' title='recompression'>再圧</span>"]
    E --> F["症状改善を確認しつつ経過観察"]

合併症:骨壊死という慢性の代償

⭐ 急性期を乗り越えても、反復した減圧曝露は慢性の(を代表とする)を来しうる。好発部位は大腿骨近位、、である1。や職業士に蓄積するとして、とは切り離して評価する必要がある。

まとめ

  • は急激な低下により溶存窒素が化する病態で、Type I(皮膚・リンパ・筋骨格)・Type II(脳・脊髄)・Type III(肺、チョークス)の3型に分類する。
  • Type IIはType Iの症状にして生じることが多く、Type III(チョークス)は肺塞栓・・心筋梗塞に似て致死的になりうる。
  • (AGE)はとは機序(肺・など)と(より急激)が異なるが、現場では鑑別よりという共通の初期対応を優先する。
  • 治療の第一選択はによるで、未処置の気胸の除外が禁忌確認として必須。
  • 反復曝露はなどの慢性を来しうる、急性期とは別のである。

出典

  1. 1.Decompression Sickness(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2023)減圧症が急激な周囲圧低下により溶存ガス(主に窒素)が組織・血流中で気泡化することで生じること、専門家がその病像をtype I(皮膚・筋骨格・リンパ症状)・type II(脳・脊髄障害の症状)・type III(致死的になりうる肺症状)の3型に分類していること、type Iは最も多い型で肩が好発関節であること、type II症状(頭痛・視覚障害・聴覚障害・耳鳴・失調・意識障害)はtype Iの症状に上乗せして生じうること、肺症状(chokes)は肺塞栓・喘息発作・心筋梗塞に似うる致死的な病態であること、レジャーダイビングでの発生率が10,000ダイブあたり3例、商業ダイビングで1.5〜10例であること、患者の約75%が減圧後1時間以内に発症すること、標準治療は米国海軍治療表6を用いた高気圧酸素療法による再圧治療であり搬送に非与圧機を使う場合は高度1,000フィート以下に制限すること、抗凝固薬・NSAIDs・ステロイドは現在推奨されずアスピリンは症状を隠しうるため避けること、未処置の気胸がHBOTの絶対禁忌であること、慢性合併症として大腿骨近位・上腕骨・脛骨近位に好発する骨壊死があることを確認した閲覧 2026-09-02
  2. 2.Arterial Gas Embolism(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2024)動脈ガス塞栓症は気体が全身動脈循環に流入する病態で、潜水では重症減圧症の上昇相のほか肺のバロトラウマ(肺胞破裂)や心室中隔欠損・心房中隔欠損など右左シャントを介した静脈性気泡の移行でも生じうること、潜水関連の動脈ガス塞栓症は浮上後10分未満という急激な経過で発症することが多く、初発症状は意識消失39%・錯乱37%・めまい30%の順に多いこと、鑑別診断に脳卒中・減圧症・内耳バロトラウマなどが挙がることを確認した閲覧 2026-09-02