病理学

病理学 · A/30

塞栓の種類

Types of emboli

タグ
Mechanism / 機序High-yield / ポイント
応用トピック
感染性心内膜炎の外科的治療肺塞栓症と肺性心
疾患
コレステロール塞栓症減圧症脂肪塞栓症候群動脈血栓塞栓症羊水塞栓症

🧠 全体像:塞栓の99%は血栓塞栓で、肺塞栓は深部静脈血栓(膝より上)が右心を経て肺血管に運ばれるという経路が大部分を占める。閉塞の程度と肺の二重血流支配(+肺動脈)が、無症状〜突然死までの臨床像の幅を決める。

定義

  • 塞栓 = 血流に乗って遠隔部位へ運ばれる、血管内で剥離した・液体・気体の塊 → 閉塞 → (梗塞)。
  • 99%は血栓塞栓(外れた血栓)。または体循環に生じる。

肺血栓塞栓症

flowchart TD
    A["下肢深部静脈血栓<br>(膝より上、約95%)"] --> B["右心"]
    B --> C["肺血管"]
    C --> D["閉塞の程度により<br>無症状〜突然死"]
  • 種類: 鞍状塞栓(分岐部)、全体(両肺 → 突然死)、亜全体(片肺)、部分(小血管)、(などのシャントを介し静脈 → 動脈へ)1。
  • 結果: 多くは臨床的に無症状(小さい)。60%以上の閉塞 → 突然死・。中血管 → 出血(のため梗塞は起きにくい、がなければ)。小さな → 梗塞。

💡 の主な導管は(PFO)で、一般成人人口の約25%に残存する。患者ではを50%に認め、対照群の15%より高い1。

全身性血栓塞栓症

非血栓性塞栓

種類 由来 主な特徴
脂肪 、軟部組織外傷 +の → (呼吸不全・神経症状・点状出血)、受傷後24〜72時間の無症候期を経て発症。患者の0.9%に臨床的なが生じた10年間の外傷センター27例では、低酸素血症96%・頻脈93%・発熱70%・意識状態の変化59%に対し、三徴の一つである点状出血は33%にとどまり、三徴に含まれない貧血67%・血小板減少37%のほうがむしろ高頻度だった——三徴は診断の枠組みであって出現頻度の順ではない2
空気・ガス 産科・胸部手技、 は約100 mL/秒の流入速度がとされ、5 cmH₂Oのがあれば14ゲージ針でも到達しうる流量である3。由来は — N₂の(「ベンズ」)、治療は再加圧
羊水 分娩(胎盤裂傷・子宮静脈破裂) 突然の呼吸困難、ショック、→ DIC
腫瘍細胞 腫瘍の断片 虚血+転移の播種
・大動脈操作後、まれに自然発症 臨床的に明らかな候群は後1.4%(1,786例中)に生じ、そのうち64%に腎障害を認めた。症例を分母にすると70%は・心科手術のあとに医原性に生じるが、例もある(本総説はの割合そのものを示していない)4

💡 は「塞栓」という名称ほど単純ではない。 米国の登録46例をに解析した研究では、臨床像・血行動態がアナフィラキシーやと酷似し、これらに共通する病態機序が示唆されることから、「」という名称自体が誤称である可能性が指摘された5。この考え方から「妊娠の」という呼称も提案されている。

💡 ポイント: 塞栓の99% = 血栓塞栓。肺塞栓は通常(膝より上)由来、鞍状塞栓 → 突然死。肺は → か小さなでのみ梗塞。非血栓性:脂肪()、空気(減圧)、羊水(→)、腫瘍。

まとめ

  • 塞栓の99%は血栓塞栓で、(多くは由来)または体循環(多くは心臓由来)に生じる。
  • 肺塞栓は約95%が膝より上の下肢由来で、60%以上の閉塞は突然死・を来す。
  • 肺は二重血流支配のため、中では出血にとどまり、梗塞は主に終末小血管の閉塞や合併時に生じる。
  • の80%は心臓由来(の、心房細動)で、脳・四肢へ移動しやすい。
  • には脂肪()、空気・ガス()、羊水(→)、腫瘍細胞がある。

出典

  1. 1.Patent Foramen Ovale(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2022)卵円孔開存が一般成人人口の約25%に残存する所見であること、奇異性塞栓(静脈側から体循環への塞栓の導管となる)とin situ血栓形成の2つの機序で症候性となりうること、潜因性脳梗塞患者の50%に右左シャントを認めるのに対し対照群では15%であったことを確認した。閲覧 2026-08-27
  2. 2.Fat embolism syndrome. A 10-year review(Archives of Surgery・1997)外傷センターの10年間で臨床的に明らかな脂肪塞栓症候群は27例、長管骨骨折患者の0.9%だった。診断根拠となった所見は低酸素血症26例(96%)、意識状態の変化16例(59%)、点状出血9例(33%)、39度を超える発熱19例(70%)、頻脈(>120/分)25例(93%)、血小板減少(<150×10⁹/L)10例(37%)、説明のつかない貧血18例(67%)で、脂肪塞栓症候群は除外診断であり臨床基準に基づくと結論している。閲覧 2026-08-27
  3. 3.Venous air embolism related to the use of central catheters revisited: with emphasis on dialysis catheters(Clinical Kidney Journal・2017)ヒトにおける空気の致死量はおよそ100 mL/秒と推定されており、5 cmH2Oの圧較差があれば14ゲージ針を介してもこの流入が起こりうること、大量の空気が急速に流入すると右室流出路で気泡による air-lock(気塊閉塞)が生じ循環虚脱に至りうることを確認した。閲覧 2026-08-27
  4. 4.Cholesterol-embolization syndrome: current perspectives(Vascular Health and Risk Management・2019)臨床的に明らかなコレステロール塞栓症候群(CES)の頻度は報告により0.09〜2.9%とばらつくこと、心臓カテーテル施行1,786例の前向き観察研究ではCESが1.4%に生じそのうち64%に腎障害を認め確診CESは0.8%であったこと、本総説が「CESの70%は血管内治療・心血管外科手術のあとに医原性に生じるが自然発生もありうる」と述べ自然発生例の割合そのものは示していないことを確認した。閲覧 2026-08-27
  5. 5.Amniotic fluid embolism: analysis of the national registry(American Journal of Obstetrics and Gynecology・1995)羊水塞栓46例の後方視的検討で、臨床的・血行動態的所見がアナフィラキシーおよび敗血症性ショックと酷似しており、これらの病態に共通の機序が示唆されること、したがって「羊水塞栓」という名称自体が誤称である可能性を指摘した。閲覧 2026-08-27