病理学

病理学 · A/31

出血の種類と臨床像

Types of hemorrhages and their clinical presentation

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Mechanism / 機序High-yield / ポイント
応用トピック
損傷の用語と分類

🧠 全体像:出血は機序で3つに分けられる——血管が破れる(per rhexim)、外からびらんされる(per arrosionem)、壁は保たれたまま漏れ出る(per diapedesim)。この3分類さえ押さえれば、・くも膜下・消化性潰瘍・血小板減少といった一見バラな病態が、同じ軸で整理できる。

定義

出血 とは、血管から腔へ血液が漏出すること — 血管系から血液が逃れる状態。部位ごとの用語:

用語 出血の部位
血腫 組織内(限局した血液の塊)
腹腔()
血心膜(心嚢内出血) (急速に貯留すると心タンポナーデを来す)
血尿 尿中
血液の嘔吐(消化管由来)
喀血 気道由来の血液の(消化管由来の嘔吐であると区別する)

💡 心タンポナーデは「部位の名前」ではなく「結果の名前」である。 に血液がたまること自体は血心膜で、その貯留が心臓の拡張を妨げて循環不全を起こした状態が心タンポナーデ。少量でも急速にたまれば起こり、ゆっくりなら大量でも起こりにくい。

臨床経過と結果

⚠️ の「クラスI〜IV」という古典的な区分は、との対応が近年疑問視されている。 英国の外傷登録データベースの成人外傷患者を対象に、推定失血量で分類の4クラスに層別して心拍数・を比較した研究では、クラス1からクラス4にかけて心拍数の中央値は82→95/分、の中央値は135→120mmHgとわずかに変化したのみで、呼吸数・にも有意な変化がなく、分類が想定するほどの頻脈・低血圧の悪化は認められなかった1。代替案として、の(BD)でクラスI〜IVに層別する分類は、16,305例のドイツ外傷登録データで損傷重症度・輸血必要性・死亡率を分類より明確に段階づけた2。第10版(2018年)の表は、心拍数・血圧・に加えて脈圧・尿量・(0〜2、2〜6、6〜10、10 mEq以上)と輸血の要否の行を持つ(系統的レビューが転記した表による)。そのレビュー自身も、2010年以降の19研究のメタ回帰で来院早期の心拍数と死亡率の間に有意な関係を見いだせなかった3。「クラスI〜IV」という枠組みは現在も使われるが、「頻脈がなければ大量出血ではない」とは読まない。

  • 黄疸 — 溶血 → ヘモグロビンが酵素的にビリルビンへ変換 → 。
  • — (鉄)の局所・全身的蓄積。通常はを来さない。

機序による分類

型 機序 例
Per rhexim(破綻) 血管壁の破裂(圧の変化・外傷) 、・、、
Per arrosionem(びらん) 外側からの血管のびらん 消化性潰瘍、腫瘍のびらん、
Per diapedesim(漏出) 壁は保たれるが「透過性亢進」による漏出 、、血管障害

3a. 破綻による出血

  • — 高血圧(BP >200 mmHg)に関連した。での内血管(大脳基底核、視床、橋)の破裂。が血管を。 → への→ → 死。ただしこのとの関係には1世紀来の論争がある。厚切り切片とマイクロラジオグラフィで再検討した研究では高血圧例でも際立って見られず、血管注入法で細動脈のねじれを動脈瘤と見誤っていた可能性が指摘された4。2,700例超の剖検を調べた研究でもC-B動脈瘤は12例と稀で、大きなを伴ったのは1例だけだった。この研究は、高血圧性の血管破綻の機序そのものがまだ分かっておらず(とC-B動脈瘤がともに候補とされてきた)、C-B動脈瘤はの主因というより重いの一表現だろうとしている5。
  • — の(ベリー)動脈瘤()の非破裂 → 「ジェット様」の → 突然の激烈な頭痛(「人生最悪」)。40〜50歳代の発症が典型とされるが、発症率そのものは加齢とともに上昇し続ける(を参照)。
  • — の。高齢者ではがを伸展させる。急性(突然の外傷)と_慢性_(反復する軽微な外傷、例:ボクシング → 線維化 → 神経症状)。
  • — 頭蓋骨骨折()がを破る → 血液が硬膜をから剥離 → (受傷時の → 回復 → 血腫拡大で再び意識低下)。は古典的だが全例にはみられない(を参照)。
  • 破裂 — 肝硬変による門脈圧亢進 → 拡張した食道周囲シャントの破裂 → 大量の。

3b. びらんによる出血

3c. 漏出による出血

明確な病変がないまま壁の透過性が亢進し、赤血球が毛細血管を通過する。大きさによる分類:

原因:

検査

  • (約3〜10分)— 全体を評価。
  • () — (第VII・X・V因子、、フィブリノゲン)。
  • — 正常 約150〜400 × 10⁹/L。

皮膚出血の: 血小板減少+延長 → 敗血症・、血小板減少+正常 → ・・骨髄腫瘍、血小板正常+延長 → 、血小板正常+正常+延長 → 、すべて正常 → 外傷。

⚠️ この3項目の組み合わせはを見ていない。 は・の因子しか反映しないので、第VIII・IX因子が欠ける血友病は・・がいずれも正常になり、上の表だけで考えると「すべて正常」の枠に落ちる。は()で評価する。同様に、や血管炎のような血管障害による出血も、これらの検査はふつう正常である。「すべて正常=外傷」と決める前に、と皮疹の性状(なら血管炎)を確かめる。

💡 ポイント: 3つの機序 — per rhexim(破綻)、per arrosionem(びらん)、per diapedesim(漏出)。点状出血(1〜2mm)→ 紫斑(3〜5mm)→ 。 = +、硬膜下 = 、くも膜下 = 。は・のをスクリーニング(血友病のはで見る)、血小板減少+所見は敗血症を示唆。

まとめ

  • 出血の機序は per rhexim(血管壁の破綻)、per arrosionem(外側からのびらん)、per diapedesim(透過性亢進による漏出)の3つに分けられる。
  • は()、はを来す。分類のクラスI〜IVは現在も使われる枠組みだが、失血量との対応はが問い直されており、第10版の表はも併記している123。
  • 破綻による出血の代表は(古典的にはとされるが、の主因かどうかには論争がある)、()、()、(、)。
  • 漏出による出血は大きさで点状出血(1〜2mm)、紫斑(3〜5mm)、に分類され、・・血管障害が原因となる。
  • 皮膚出血の鑑別はとの組み合わせで絞り込める(血小板減少+延長→敗血症・、血小板正常+延長→など)。ただし血友病()と血管障害はこの組み合わせでは正常に見えるので、と皮疹の性状も確かめる。

出典

  1. 1.Vital signs and estimated blood loss in patients with major trauma: testing the validity of the ATLS classification of hypovolaemic shock(Resuscitation・2011)英国の外傷登録(Trauma Audit and Research Network)データベースに登録された1989〜2007年の成人外傷患者について、推定失血量からATLS分類のクラス1〜4に層別し心拍数・収縮期血圧・呼吸数・GCSの中央値を比較したところ、心拍数中央値はクラス1の82/分からクラス4の95/分へ、収縮期血圧中央値は135mmHgから120mmHgへわずかに変化したのみで、呼吸数・GCSには有意な変化がなく、推定失血量の増加に見合うだけの頻脈・低血圧・頻呼吸・意識障害の悪化はATLS分類が想定する程度には認められなかったことを確認した閲覧 2026-08-27
  2. 2.Renaissance of base deficit for the initial assessment of trauma patients: a base deficit-based classification for hypovolemic shock developed on data from 16,305 patients derived from the TraumaRegister DGU(Critical Care・2013)ドイツのTraumaRegister DGUから2002〜2010年の16,305例を後方視的に検討し、来院時の塩基欠乏(BD)でクラスI(BD 2mmol/L以下)〜クラスIV(BD 10mmol/L超)に層別したところ、損傷重症度スコア(ISS)はクラスIの19.1からクラスIVの36.7へ、死亡率は7.4%から51.5%へ段階的に上昇し、輸血量もクラスIの1.5単位からクラスIVの20.3単位、大量輸血の頻度も5%から52%へ増加したこと、このBDに基づく分類が従来のATLS分類(心拍数・血圧に基づく)より輸血必要性・大量輸血・死亡率を有意によく判別したことを確認した閲覧 2026-08-27
  3. 3.Predictive value of tachycardia for mortality in trauma-related haemorrhagic shock: a systematic review and meta-regression(BMJ Open・2022)Europe PMCの全文(PMC9582324)で確認した。外傷性出血性ショックで早期の心拍数と死亡率の関係を調べた系統的レビュー・メタ回帰(2010年以降の19研究)で、心拍数と死亡率の間に有意な関係は無く(p=0.847)、輸血例に絞った10研究でも直線的な関係を示せなかったこと。あわせて、本文のTable 2(表注に「ATLS第10版に基づく」と明記)は、推定失血量(クラスI 15%未満、II 15〜30%、III 31〜40%、IV 40%超)ごとに心拍数・収縮期血圧・GCS・脈圧・呼吸数・尿量に加えて塩基欠乏(0〜2、2〜6、6〜10、10 mEq以上)と輸血の要否の行を持つこと。ATLSの教本そのものではなく、この論文が転記した表である閲覧 2026-09-23
  4. 4.The Charcôt-Bouchard aneurysm controversy: impact of a new histologic technique(Journal of Neuropathology and Experimental Neurology・1992)抄録で、Charcot-Bouchard微小動脈瘤の頻度と脳内出血との関係は1世紀にわたり論争があること、高血圧例35例・非高血圧例20例(高血圧性脳内出血4例を含む)の厚切り脳切片をアルカリホスファターゼ内皮染色と高分解能マイクロラジオグラフィで再検討したところ両群とも微小動脈瘤が際立って認められなかったこと、従来の血管注入法では細動脈のコイル状・ねじれ構造が動脈瘤と誤認されうること、10年間2,800剖検の通常切片でも脳実質内動脈瘤はまれであったこと、注入アーチファクトと誤読を除けばC-B動脈瘤はまれで脳内出血との関係は乏しいと結論したことを確認した。抄録は代わりの破綻機序(脂肪硝子変性など)には触れていない閲覧 2026-08-27
  5. 5.Charcot–Bouchard aneurysms revisited: clinicopathologic correlations(Modern Pathology・2021)Europe PMCの全文(PMC8592842)で確認した。高血圧とCAAが原発性脳内出血の最も多い原因だが、いずれも出血の機序は不明で、フィブリノイド壊死とCharcot-Bouchard動脈瘤が血管破綻の候補として挙げられてきたこと、2,700例超の剖検でC-B動脈瘤を認めたのは12例(ほぼ全例が70歳超で高血圧・脳梗塞・CAAなどを併存)にとどまり、大きな脳内出血を伴ったのは1例だけで、その出血も多因子性と考えられたこと、C-B動脈瘤は脳内出血の主要な原因ではなく、高血圧性細動脈症とCAAを含む重い脳小血管病の一表現である可能性が高いと結論したこと閲覧 2026-09-23