病理学

病理学 · A/32

頭蓋内出血

Intracranial hemorrhages

タグ
Mechanism / 機序High-yield / ポイント
応用トピック
頭頸部損傷
疾患
脳内出血(非外傷性)

🧠 全体像:4種類のはいずれもだが、破れる血管の違い(動脈か静脈か、どの血管か)が発症速度と像の形をそのまま決める。の「」は、が急速に血腫を拡大させる過程そのものを表す。

概要

は頭蓋内での出血で、部位ごとに特徴的な原因がある。いずれも hemorrhagia per rhexim 型 — 壁圧の変化や外傷による血管破裂からの出血。主要な4部位は、硬膜下、くも膜下、内。

型 血管 誘因 像・手がかり
レンズ状()、
硬膜下 外傷、 (凹)、慢性型は緩徐な発症
くも膜下 ・() 「」
内 大脳基底核/視床/橋/小脳

脳出血(脳実質内出血)

  • 内への出血。高血圧に関連(「BP >200 mmHgは」とされるが、これは病因の説明であって急性期の目標ではない)。
  • 大脳基底核、視床、橋、小脳の内血管の破裂。米国の二人種住民ベース研究(1,038例)では、いずれの人種でも深部(大脳基底核・視床)が最多の部位で、人口10万人あたりの年間は黒人で深部25.7・脳葉15.2・脳幹5.1・小脳2.9、白人で深部13.0・脳葉9.4・脳幹1.3・小脳2.9だった1。
  • 古典的には、高血圧が小血管にを生じ、が壁をさせると説明される(下の⚠️を参照)。

⚠️ がの原因かどうかには、1世紀来の論争がある。 高血圧例35例・非高血圧例20例の厚切り脳切片をマイクロラジオグラフィで再検討した研究では両群ともが際立って認められず、従来の血管注入法は細動脈のコイル状のねじれを動脈瘤と見誤りうると指摘された2。2,700例超の剖検を調べた2021年の研究でもC-B動脈瘤は12例(ほぼ全例が70歳超)と稀で、大きなを伴ったのは1例だけだった。同研究は、高血圧性で血管が破れる機序そのものがまだ分かっておらず、とC-B動脈瘤がともに候補とされてきたとしたうえで、C-B動脈瘤はの主因というより、やCAAを含む重いの一表現だろうとしている3。つまり「存在しない」のではなく「稀で、出血との因果が確かでない」。試験では従来どおりで問われるため、名称と概念自体はそのまま保持する。

💡 は、高血圧性というより(CAA)を疑う。 所見から診断するBoston基準(version 2.0、2022年改訂)は、50歳以上で自然発症の・一過性・のいずれかを呈する患者を対象に、①厳密にの出血性病変(・・皮質表在性シデローシス/の)が組み合わせを問わず2つ以上、または②の出血性病変1つ+白質所見1つ(の重度の、または多発斑状の)があり、深部の出血性病変が無く他の原因も無ければprobable CAAとする。病理を基準にしたでは、剖検例におけるとの一致は感度74.5%・特異度95.0%だった(旧基準は感度64.5%)4。⚠️ 深部のが混在する例は「厳密に」ではないので、この基準ではprobable CAAにならない。小脳の出血性病変はにも深部にも数えない。

  • 出血 → → 心肺中枢の圧迫 → への → → 死。

くも膜下出血

  • への出血。
  • 脳動脈の(ベリー)動脈瘤の非破裂。のに動脈瘤が最も多い。
  • の「ジェット様」出血 → 急性のICP上昇 → 突然の激烈な頭痛。
  • 「時限爆弾」のように破裂時期が予測できない。血圧が上昇する40〜50歳代の発症が典型とされる。

💡 ただし発症率は「40〜50歳が頂点」ではなく、加齢とともに上昇し続ける。 21か国58研究集団・延べ4,582万人年を対象とした系統的レビューでは、45〜55歳を基準にした発症率比は25歳未満で0.10、85歳超で1.61と年齢とともに一貫して上昇し、全体の発症率は地域差が大きく、日本(22.7/10万人年)とフィンランド(19.7)で高かった5。

⚠️ 再出血の危険は発症後ごく早期に集中する。 のultra-early rebleedingに関する文献レビューでは、発症24時間以内に9〜17%の患者が再出血し、その大部分は発症後6時間以内に生じるとされる6。

💡 は発症数日後から始まり、およそ2週目までが(DCI)のリスク期である。 時期の数字は資料によって少しずつ違う。2013年の総説は「3日目に始まることが最も多く、5〜7日目で最大」とする7。2023年のAHA/ASAガイドラインは「DCIは約30%に起こり、多くは4〜14日目」「DCIとのリスクのピークは6〜10日目」とする8。この期間は観察を続ける。

のは、英国4施設554例(発症96時間以内)ので、を22%対33%、転帰不良を20%対33%に減らした9。2023年のAHA/ASAガイドラインも、早期の開始はDCIの予防と機能予後の改善に有益であるとし、を治療の柱と位置づける。ただし根拠となるデータが古いことを同ガイドライン自身が断っている8。

硬膜下血腫

  • 脳表からへ注ぐのによる、への出血。
  • 高齢者ではがを伸展させを高める(乳児の揺さぶられ症候群でも)。
  • 2つの型:
    • 急性 — 交通事故、突然の外傷。
    • 慢性 — 長期の反復外傷(ボクシング)→ 反復出血 → 髄膜周囲の線維化 → 神経症状。実際には、高齢・・・抗凝固薬を背景に、軽い外傷から数週〜数か月かけて頭痛・認知や人格の変化・として現れる例が多い(を参照)。

硬膜外血腫

  • 頭蓋骨骨折に関連。硬膜は通常、頭蓋内板()に強固に癒着している。
  • が硬膜と頭蓋骨の間を走行し、でこれが破裂 → 血液が硬膜をから剥離 → 血腫が脳を圧迫。
  • — 古典的な臨床経過:(衝撃)→ 意識回復 → 出血がICPを上げる → 再び。⚠️ 古典的だが全例にはみられない。が無いことはを否定する根拠にならない(を参照)。者は保護反射の障害により感受性が高い。
flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='temporal region'>側頭部</span>の外傷・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='temporal bone fracture'>側頭骨骨折</span>"] --> B["受傷時の衝撃で一時的に<span class='jp-term jp-term-diagram' title='loss of consciousness'>意識消失</span>"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lucid interval'>意識清明期</span><br>意識はいったん回復"]
    C --> D["その間も<span class='jp-term jp-term-diagram' title='middle meningeal artery'>中硬膜動脈</span>から出血が続き<br>血液が硬膜を頭蓋骨から剥離して血腫が拡大"]
    D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='raised intracranial pressure'>頭蓋内圧上昇</span><br>→再び意識低下・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='brain herniation'>脳ヘルニア</span>"]

💡 ポイント: = ()、・レンズ状、。硬膜下 = ()、、高齢者・。くも膜下 = 、。内・ = 高血圧+Charcot–Bouchard動脈瘤(古典的な説明。動脈瘤の関与には論争あり)、大脳基底核・視床・橋・小脳。ならCAA。

まとめ

  • はいずれもhemorrhagia per rhexim型(血管破裂)で、部位は・硬膜下・くも膜下・内の4つ。
  • はの破裂()によるで、・レンズ状の像とが特徴(は全例にはみられない)。
  • はのによる出血で、の像を呈し、高齢者ではが発症リスクを高める。
  • はのの非破裂が原因で、「」を来す。
  • 内出血()はに関連し、大脳基底核・視床・橋・小脳に好発し、進行するとへので死に至る。古典的にはの破裂とされるが、この動脈瘤は稀での主因かどうかには論争がある。ではCAA(Boston基準v2.0)を疑う234。
  • の再出血は発症後6時間以内に集中する。は発症数日後から始まり、ピークは資料により5〜7日目(2013年の総説)とも6〜10日目(2023年AHA/ASA)ともされる。は対策の柱である6798。

出典

  1. 1.Racial variations in location and risk of intracerebral hemorrhage(Stroke・2005)米国Greater Cincinnati/Northern Kentucky地域の20歳以上の入院脳内出血1,038例を対象にした住民ベース研究で、人口10万人あたりの年間発生率は黒人で脳葉15.2・深部(大脳基底核・視床)25.7・脳幹5.1・小脳2.9、白人で脳葉9.4・深部13.0・脳幹1.3・小脳2.9であり、いずれの人種でも深部が最多の部位であったこと、黒人における脳出血の過剰リスクは35〜54歳の若年〜中年層の脳幹・深部出血で最も大きかったことを確認した閲覧 2026-08-27
  2. 2.The Charcôt-Bouchard aneurysm controversy: impact of a new histologic technique(Journal of Neuropathology and Experimental Neurology・1992)抄録で、Charcot-Bouchard微小動脈瘤の頻度と脳内出血との関係は1世紀にわたり論争があること、高血圧例35例・非高血圧例20例(高血圧性脳内出血4例を含む)の厚切り脳切片をアルカリホスファターゼ内皮染色と高分解能マイクロラジオグラフィで再検討したところ両群とも微小動脈瘤が際立って認められなかったこと、従来の血管注入法では細動脈のコイル状・ねじれ構造が動脈瘤と誤認されうること、10年間2,800剖検の通常切片でも脳実質内動脈瘤はまれであったこと、注入アーチファクトと誤読を除けばC-B動脈瘤はまれで脳内出血との関係は乏しいと結論したことを確認した。抄録は代わりの破綻機序(脂肪硝子変性など)には触れていない閲覧 2026-08-27
  3. 3.Charcot–Bouchard aneurysms revisited: clinicopathologic correlations(Modern Pathology・2021)Europe PMCの全文(PMC8592842)で確認した。高血圧とCAAが原発性脳内出血の最も多い原因だが、いずれも出血の機序は不明で、フィブリノイド壊死とCharcot-Bouchard動脈瘤が血管破綻の候補として挙げられてきたこと、2,700例超の剖検でC-B動脈瘤を認めたのは12例(ほぼ全例が70歳超で高血圧・脳梗塞・CAAなどを併存)にとどまり、大きな脳内出血を伴ったのは1例だけで、その出血も多因子性と考えられたこと、C-B動脈瘤は脳内出血の主要な原因ではなく、高血圧性細動脈症とCAAを含む重い脳小血管病の一表現である可能性が高いと結論したこと閲覧 2026-09-23
  4. 4.The Boston criteria version 2.0 for cerebral amyloid angiopathy: a multicentre, retrospective, MRI-neuropathology diagnostic accuracy study(The Lancet Neurology・2022)抄録と、PMCの著者最終稿(PMC9389452)の基準表で確認した。対象は50歳以上で、自然発症の脳内出血・一過性局所神経症状・認知機能障害のいずれかを呈する患者であり、probable CAAは①厳密に脳葉型の出血性病変(脳内出血・微小出血・皮質表在性シデローシス/円蓋部くも膜下出血の病巣)が組み合わせを問わず2つ以上、または②脳葉型の出血性病変1つ+白質所見1つ(半卵円中心の重度の血管周囲腔拡大、または多発斑状の白質高信号)で、いずれも深部の出血性病変(脳内出血・微小出血)が無く、他の原因が無いことを要し、小脳の出血性病変は脳葉型にも深部にも数えないこと、剖検を基準とした全例で感度74.5%・特異度95.0%(旧基準は64.5%・95.0%)で、導出コホートでは74.8%・84.6%だったこと閲覧 2026-08-27
  5. 5.Incidence of subarachnoid haemorrhage: a systematic review with emphasis on region, age, gender and time trends(Journal of Neurology, Neurosurgery and Psychiatry・2007)21か国58研究集団・延べ45,821,896人年を対象とした系統的レビューで、くも膜下出血の発症率は10万人年あたり日本22.7(95%CI 21.9〜23.5)・フィンランド19.7・南米/中米4.2・その他地域9.1であったこと、45〜55歳を基準にすると発症率比が25歳未満で0.10、85歳超で1.61と年齢とともに一貫して上昇すること、女性の発症率が男性の1.24倍でこの性差は55歳から始まりその後拡大することを確認した閲覧 2026-08-27
  6. 6.Rebleeding after aneurysmal subarachnoid hemorrhage(Neurocritical Care・2011)1975〜2010年の英語文献を対象にした文献レビューで、動脈瘤性くも膜下出血の再出血は従来の研究では発症後24時間以内に約4%とされてきたが、超早期再出血に着目した研究では発症後24時間以内に9〜17%の患者が再出血し、その大部分が発症後6時間以内に生じていたこと、抗線溶療法の全体的な有効性は明確には示されていないが、動脈瘤閉鎖前の短期投与には役割がありうることを確認した閲覧 2026-08-27
  7. 7.Cerebral vasospasm pharmacological treatment: an update(Neurology Research International・2013)動脈瘤性くも膜下出血に伴う脳血管攣縮についての総説で、脳血管攣縮は出血後3日目に始まることが最も多く、5〜7病日でピークに達するとされていることを確認した閲覧 2026-08-27
  8. 8.2023 Guideline for the Management of Patients With Aneurysmal Subarachnoid Hemorrhage: A Guideline From the American Heart Association/American Stroke Association(American Heart Association / American Stroke Association (Stroke誌)・2023)Wayback Machineに保存された誌面HTML全文(推奨表の画像部分は含まれない)で確認した。遅発性脳虚血(DCI)は約30%に起こり、多くは発症後4〜14日に生じること、DCIと脳血管攣縮のリスクのピークは出血後6〜10日であること、早期の経腸ニモジピン開始はDCIの予防と機能予後の改善に有益であること(Top 10 Take-Home Messagesの7)、ニモジピンは治療の柱であり続けるが根拠となるデータが古く経口剤での無作為化試験を今からやり直すのは難しいと本文自身が断っていること閲覧 2026-09-23
  9. 9.Effect of oral nimodipine on cerebral infarction and outcome after subarachnoid haemorrhage: British aneurysm nimodipine trial(BMJ・1989)英国4施設でSAH後96時間以内の554例を対象にした二重盲検プラセボ対照試験で、経口ニモジピン60mgを4時間ごと21日間投与した群は脳梗塞発生率が22%(プラセボ33%、34%減少)、転帰不良(死亡・重度障害)が20%(プラセボ33%、40%減少)に減少したことを確認した閲覧 2026-08-27