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Disease Atlas · 消化器 · 疾患

食道静脈瘤

Esophageal varices

臓器系
消化器肝胆膵
科目
HistopathologyPathology
トピック
組織病理 H2-039:食道静脈瘤病理学 B/41:静脈瘤・リンパ管疾患(静脈瘤/リンパ浮腫など)病理学 A/47:アルコール関連障害の病理病理学 C/50:肝硬変
治療薬
シアノアクリレートテルリプレシンカルベジロールプロプラノロールオクトレオチドノルフロキサシンセフトリアキソン
症状
静脈瘤出血吐血黒色便出血性ショック
スコア
Child-Pugh分類MELDスコア
元疾患
肝硬変門脈圧亢進症
適応薬
シアノアクリレートテルリプレシン

🧠 全体像は、により門脈-大循環間のが開き、からへ向かう経路が下部食道〜胃を拡張させた病変である。静脈瘤そのものは無症状のことが多いが、破裂すれば致死的な大量を来す。診療の骨格は「まだ出血していない静脈瘤をどう予防するか()」「出血した瞬間にどう止めるか()」「一度出血した患者の再出血をどう防ぐか()」という3つの場面で薬・処置が変わることにあり、もう一つの軸はが違うという点にある。

病態:どこがどう拡張するか

flowchart TD
    A["門脈圧亢進<br>(肝硬変などによる<span class='jp-term jp-term-diagram' title='intrahepatic'>肝内</span><span class='jp-term jp-term-diagram' title='sinusoids'>類洞</span>の抵抗上昇)"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='left gastric vein'>左胃静脈</span>へ<span class='jp-term jp-term-diagram' title='portal venous blood'>門脈血</span>が逆流"]
    B --> C["下部食道〜胃<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cardia'>噴門部</span>の<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='submucosal vein'>粘膜下静脈</span>叢が拡張・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='tortuosity'>蛇行</span>"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='esophageal varices'>食道静脈瘤</span>"]
    D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='azygos system'>奇静脈系</span>を経て<span class='jp-term jp-term-diagram' title='superior vena cava (SVC)'>上大静脈</span>へ還流"]
    D --> F["薄い被覆粘膜のため破裂しやすい"]
    F --> G["破裂:<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hematemesis'>吐血</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='melena'>黒色便</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hemorrhagic shock'>出血性ショック</span>"]

正常ではは門脈へ向かう。によりこの流れが逆転すると、を経由して下部食道・胃叢に血流が流れ込み、拡張・したとなる。💡 の行き先はからであって、下大静脈へ直接還流するわけではない。 解剖の向きを取り違えると、なぜ破裂が門脈圧亢進の「逃げ道」になっているのかが理解できない。原因の大半は肝硬変による性・性の門脈圧亢進だが、症などの門脈圧亢進でも同じ静脈瘤が形成される。

出血リスクの評価

出血リスクを左右する因子は、静脈瘤そのものの性状背景にある・門脈圧の2系統に分かれる。

因子 出血リスクとの関係
静脈瘤の径(大きい) が増し破裂しやすい
発赤所見 の血管壁がさらに菲薄化している
低下) 肝機能が悪いほど出血・再出血のリスクが高い
HVPG( 数値そのものが門脈圧の重症度を表す

⚠️ HVPG 10 mmHg以上が臨床的に有意なであり、12 mmHg以上では腹水・肝性脳症・が通常出現する1。この12 mmHgという値は「静脈瘤ができるかどうか」ではなく「破裂して出血するかどうか」を分ける実質的な閾値として扱われ、でのの要否判断にも用いられる2

治療:3つの場面で薬も処置も変わる

の治療は、という時間軸上の3つの場面に分けて理解すると整理しやすい。同じ「静脈瘤の治療」でも場面が違えば手段が違う。

場面 主な治療
(未出血) ・ナドロール、より効果的とされる)またはのいずれか2
内視鏡の結果を待たず)を開始+予防的抗菌薬経口またはセフトリアキソン静注、最大1週間)+緊急EVL2
難治例 までの短時間の橋渡し、それでも止血困難なら2
(再出血予防) +EVLの併用が基本。β遮断薬は死亡率を下げるが、EVL単独では死亡率は下がらない2
flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='esophageal varices'>食道静脈瘤</span>が判明"] --> B{"出血歴があるか"}
    B -->|"なし(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='primary prevention'>一次予防</span>)"| C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='non-selective beta blockers'>非選択的β遮断薬</span><br>またはEVL"]
    B -->|"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='acute blood loss'>急性出血</span>中"| D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='vasoactive drug'>血管作動薬</span>+予防的抗菌薬を直ちに開始"]
    D --> E["緊急<span class='jp-term jp-term-diagram' title='endoscopic variceal ligation, EVL'>内視鏡的静脈瘤結紮術</span>"]
    E --> F{"止血したか"}
    F -->|"難治性"| G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='balloon tamponade'>バルーンタンポナーデ</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='stent'>ステント</span>で橋渡し"]
    G --> H["TIPS"]
    F -->|"止血成功"| I["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='secondary prevention'>二次予防</span>:<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='non-selective beta blockers'>非選択的β遮断薬</span>+EVL併用"]

⚠️ 時の予防的抗菌薬は見落とされやすいが、単なる感染予防ではなく死亡率そのものを下げる治療である。 肝硬変に伴う(原因の65〜70%が食道)を対象とした26研究・12,440例のでは、予防的抗菌薬投与群は非投与群に比べ(RR 0.691、95%CI 0.518〜0.923)・感染関連死亡率・細菌感染・再出血・入院期間のいずれも有意に減少した3と並ぶ「同時に始めるべき治療」であり、抗菌薬投与を後回しにしない。

胃静脈瘤は治療が違う

⚠️ と同じ門脈圧亢進の産物だが、が異なる。」と一律に考えると、を誤る。

  • 側にできるの延長とみなせる型)は、と同様にを検討できる4
  • 部型のでは、注入またはBRTO(下逆行性経静脈的塞栓術)術より優れた止血・再出血予防成績を示し、第一選択となる4。2021年の試験ではBRTOが単独より再出血減少に優れ、単独より再出血予防に優れるとされる4

まとめ

  • は門脈圧亢進によりからへ向かうが下部食道〜胃を拡張させた病変で、破裂すれば致死的なを来す。
  • 出血リスクは静脈瘤の径・発赤所見・・HVPGで評価し、HVPG 12 mmHg以上は腹水・肝性脳症とともにが通常出現する実質的な閾値である。
  • 治療はまたはEVL)・+予防的抗菌薬+緊急EVL、難治例は)・(β遮断薬+EVL併用)の3場面で使い分ける。
  • 時の予防的抗菌薬は死亡率そのものを下げる治療であり、と同時に開始する。
  • (特に部型)は注入・BRTOが術より優れ、と同じ扱いをしない。

出典

  1. 1.Esophageal Varices(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2026)非選択的β遮断薬による一次予防は初回出血リスクを25%から15%へ低下させ、カルベジロール6.25 mg/日はプロプラノロール・ナドロールより効果的とされること。急性静脈瘤出血では内視鏡の結果を待たずオクトレオチドまたはテルリプレシンなどの血管作動薬を開始し、予防的抗菌薬(経口ノルフロキサシン400 mgまたは静注セフトリアキソン1 g/日を最大1週間)を併用し、内視鏡的静脈瘤結紮術は硬化療法より再出血率が低く合併症が少ないこと。難治例ではバルーンタンポナーデ・自己拡張型食道ステントでTIPSまでの橋渡しを行うこと。二次予防では非選択的β遮断薬と内視鏡的結紮術がいずれも再出血率を同程度に下げるが、死亡率を下げるのはβ遮断薬のみであること。HVPG 10 mmHg以上が臨床的に有意な門脈圧亢進症のゴールドスタンダードな診断基準であり、再出血予防の内視鏡治療は門脈圧が12 mmHgを超える場合に検討すること閲覧 2026-08-11
  2. 2.Gastric Varices(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2026)胃静脈瘤の確定的内視鏡治療薬はシアノアクリレート注入であること、バルーン閉塞下逆行性経静脈的塞栓術(BRTO)が安全で有効な代替治療として確立していること、2021年の試験でBRTOがシアノアクリレート注入単独より再出血減少に優れたこと、TIPSがシアノアクリレート注入単独より再出血予防に優れること、小弯側(食道静脈瘤の延長)の胃静脈瘤には食道静脈瘤と同様に内視鏡的結紮術を検討できる一方、胃底部型静脈瘤ではシアノアクリレート・BRTOが結紮術より優れた成績を示し第一選択にはならないこと閲覧 2026-08-11
  3. 3.Prophylactic antibiotics on patients with cirrhosis and upper gastrointestinal bleeding: A meta-analysis(PLOS ONE・2022)肝硬変合併の上部消化管出血に関する26研究・12,440例のメタ解析で、予防的抗菌薬投与群は非投与群に比べ全死亡率(RR 0.691、95%CI 0.518〜0.923)、感染関連死亡率、細菌感染、再出血、入院期間のいずれも有意に減少したこと(出血原因の65〜70%は食道胃静脈瘤)閲覧 2026-08-11
  4. 4.Portal Hypertension(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2025)肝静脈圧較差(HVPG)は正常値5 mmHg以下、6 mmHg以上で門脈圧亢進症を示唆、10 mmHg以上で臨床的に有意な門脈圧亢進症、12 mmHg以上では腹水・肝性脳症・消化管出血(静脈瘤出血を含む)が通常発生すること閲覧 2026-08-11