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Disease Atlas · 血液 · 疾患

鉄欠乏性貧血

Iron deficiency anemia

別名
IDA
臓器系
血液
科目
Internal MedicinePathologyPediatricsPharmacology
トピック
内科学 H-02:鉄欠乏性貧血内科学 L-58:低形成性貧血病理学 C-2:造血低下による貧血小児科 1-03:小児貧血の分類・診断薬理学 B3:貧血治療薬
上位概念
貧血
鑑別疾患
サラセミア鉛中毒巨赤芽球性貧血腎性貧血慢性疾患に伴う貧血
続発疾患
結節性痒疹
治療薬
水酸化鉄ポリマルトース硫酸鉄
原因微生物
Ancylostoma duodenaleNecator americanus
症状
めまい倦怠感蒼白頭痛動悸労作時呼吸困難嚥下障害口角炎
検査値
トランスフェリントランスフェリン飽和度フェリチン可溶性トランスフェリン受容体血小板増多網赤血球網赤血球産生指数赤血球数標的赤血球
スコア
Mentzer指数
元疾患
消化管間質腫瘍
原因となる疾患
クローン病ネフローゼ症候群血管異形成子宮筋腫消化管出血(上部・下部)消化性潰瘍大腸癌潰瘍性大腸炎
適応薬
硫酸鉄

🧠 全体像は、貧血の中で最も頻度が高く、体内鉄の枯渇がを段階的に障害してへ至る病態である。診療の幹は、①Hb低下を確認したらMCVとで「産生低下・」に位置づける、②を中心に鉄欠乏を確定し慢性炎症・と鑑別する、③鉄を補充するだけで終わらせず、年齢・性別に応じて消化管出血やなど鉄欠乏の原因を必ず検索する、の3段階である。

貧血診断の中でのIDAの位置づけ

貧血はまずHb低下を確認し、MCVと(または)で機序を分岐する。「正常」でも貧血下では不十分な反応であり得るため、絶対数または補正値で判断する。IDAは代表的な低値(産生低下)の貧血である。

MCV 低値(産生低下) 高値(破壊・出血)
鉄欠乏、慢性炎症、 出血など
、慢性炎症、、内分泌疾患 、溶血
B12・葉酸欠乏、、肝疾患、、薬剤 溶血・出血に伴う
flowchart TD
    A["Hb低下を確認"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='absolute reticulocyte count'>絶対網赤血球数</span>/<span class='jp-term jp-term-diagram' title='reticulocyte production index, RPI'>網赤血球産生指数</span>"]
    B --> C["反応低値:産生低下"]
    C --> D{"MCV"}
    D -->|"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='microcytosis'>小球性</span>"| E["鉄欠乏・慢性炎症・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Thalassemias'>サラセミア</span>などを鑑別"]
    D -->|"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='normocytic'>正球性</span>"| F["CKD・慢性炎症・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='bone marrow failure'>骨髄不全</span>・内分泌"]
    D -->|"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='macrocytic'>大球性</span>"| G["B12/葉酸欠乏・薬剤・MDS・肝/甲状腺"]
    E --> H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='iron metabolism'>鉄代謝</span>検査+原因検索へ"]

複数血球減少、芽球、著明な形態異常、発熱・出血を伴う場合は、IDAとして扱う前に早期の血液内科評価を要する。

病態

食事由来の鉄は主に十二指腸・で吸収され、(肉由来)と非(野菜由来)のいずれもに結合して骨髄へ運ばれ、大部分がに使われる。はマクロファージに回収され、鉄は再利用される。肝で産生されるは鉄輸送体を分解し、と貯蔵細胞からの鉄放出を抑える中心的な調節因子である。

鉄の喪失は吸収と異なり調節されておらず、粘膜・上皮細胞の脱落などで持続的に生じるため、摂取と喪失のバランスが負に傾くと鉄欠乏が進行する。

flowchart TD
    A["食事鉄(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='heme iron'>ヘム鉄</span>・非<span class='jp-term jp-term-diagram' title='heme iron'>ヘム鉄</span>)"] --> B["十二指腸・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='proximal jejunum'>近位空腸</span>で吸収"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='transferrin'>トランスフェリン</span>で運搬"]
    C --> D["骨髄で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hemoglobin synthesis'>ヘモグロビン合成</span>"]
    D --> E["赤血球"]
    E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='senescent red blood cell'>老化赤血球</span>をマクロファージが回収"]
    F --> C
    G["負の鉄バランス(喪失>吸収)"] --> H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='storage iron'>貯蔵鉄</span>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ferritin'>フェリチン</span>)枯渇"]
    H --> I["血清鉄低下・TIBC上昇"]
    I --> J["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hemoglobin synthesis'>ヘモグロビン合成</span>障害"]
    J --> K["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='microcytosis'>小球性</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hypochromia'>低色素性</span>赤血球"]
    K --> L["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='oxygen-carrying capacity'>酸素運搬能</span>低下"]

鉄欠乏は一度に貧血として現れるのではなく、段階的に進行する。

段階 血清鉄・TSAT・TIBC Hb・MCV
正常 正常 正常 正常
(負の鉄平衡) 低下し始める ほぼ正常、TIBCが上昇し始める 正常
骨髄鉄枯渇、低下 血清鉄・TSAT低下、TIBC上昇 Hbは正常〜低下、MCV低下が始まる
著減 著明に低下 Hb低下、

💡 この段階性から、MCVが正常であっても早期の鉄欠乏を否定できない低下は貧血の発症に先行する一方、炎症を伴う病態では化するため、単独では充足の保証にならない。

原因

機序 主な原因
慢性血液喪失 、消化性潰瘍、消化管腫瘍、、寄生虫、反復
需要増大 妊娠、授乳、成長期、持久運動
摂取不足 偏食、、厳格な食事制限、乳児期の主体栄養
セリアック病、、胃・小腸手術、活動性
その他 に伴う、反復採血

成人男性と閉経後女性の新規IDAでは、消化管出血を重要な原因として上下部消化管を評価する1 閉経前女性でも、月経量だけで説明しきれない、消化器症状がある、家族歴・重症度・再発性が示唆的な場合は消化管評価を検討する。小児では早産、急速な成長、1歳未満の主体栄養、鉄補充のない長期完全母乳栄養、セリアック病・、思春期のが代表的なリスクである。

臨床像

  • 、頭痛、集中力低下、めまい
  • 蒼白、頻脈
  • )、
  • 、特に
  • 小児では発達・認知への影響、;妊娠では母児合併症のリスク

⚠️ 鉄欠乏・嚥下障害・が揃う組み合わせはとも)と呼ばれ、のリスク増加が知られる。

診断

典型的な検査所見

検査 IDAの所見
CBC Hb低下、MCV・MCH低下、上昇、しばしば
低下。炎症がなければ特異度が高い
血清鉄 低下。ただしが大きい
TIBC・ 上昇
TSAT血清鉄 / TIBC × 100 低下
上昇し、炎症の影響を比較的受けにくい

⭐ 貧血患者における鉄欠乏の判定では、の2020年ガイドラインが45 ng/mL未満を、従来使われてきた15 ng/mL未満より高感度な実用的として推奨している(感度約85%・特異度約92%)1。ただし慢性炎症、、肝疾患ではが上昇するため、TSAT、、臨床背景を組み合わせて解釈する。

小球性貧血の鑑別

疾患 血清鉄 TIBC 追加の手掛かり
低下 上昇 低下 上昇、MCV/RBC比(Mentzer指数)> 13が参考
(ACD) 低下 低下〜正常 正常〜上昇 介在性の鉄制限、TIBC低下が鍵
(保因者) 正常〜上昇 正常 正常〜上昇 RBC数が保たれMCV/RBC比 < 13が参考、
上昇 正常〜低下 上昇 骨髄の、二峰性の赤血球分布

💡 は、(特にIL-6)が肝での産生を増やし、を低下させることでマクロファージに鉄を捕捉させ、への鉄供給とEPO反応をともに低下させる「真の鉄欠乏ではない鉄制限状態」である。IDAとACDは合併しうるため、が正常〜軽度上昇でもTSAT・sTfRが低ければ鉄欠乏の関与を疑う。MCV/RBC数)はスクリーニングの参考値にすぎず、単独で確定診断としない。

原因検索のアルゴリズム

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='microcytic hypochromic anemia'>小球性低色素性貧血</span>+<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ferritin'>フェリチン</span>低下でIDAを確認"] --> B["病歴:月経・消化器症状・薬剤・食事・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='blood donation'>献血</span>歴"]
    B --> C{"年齢・性別"}
    C -->|"成人男性/閉経後女性"| D["上部・下部消化管内視鏡を原則検討"]
    C -->|"閉経前女性"| E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='menorrhagia (heavy menstruation)'>月経過多</span>・婦人科原因を評価"]
    E --> F{"症状・重症度・再発性が示唆的か"}
    F -->|"はい"| D
    F -->|"いいえ"| G["経過観察+月経管理"]
    D --> H["内視鏡陰性ならセリアック病血清学・H. pylori検査を検討"]
    H --> I["なお原因不明・治療反応不良なら小腸病変を再評価"]

セリアック病はまず血清学的検査を行い、陽性なら小腸生検を検討する。消化管内視鏡が陰性であれば、非侵襲的なヘリコバクター・検査を考慮する。小児では、、食事内容(特に摂取量・母乳栄養期間)、消化器症状、家族歴を軸にし、Hb・MCVは必ず年齢基準で解釈する(は高値、生後2〜3か月に生理的最低値をとる)。

治療

経口鉄

の2021年ガイドラインとそれに沿った添付文書改訂により、経口鉄は硫酸鉄鉄・グルコン酸鉄などの鉄塩1錠を1日1回までとし、不良ならへ減量することが標準となっている2。低用量・の上昇を抑えて鉄吸収効率をむしろ高めつつ、悪心・便秘などの消化器副作用を減らし、を改善する。空腹時の方が吸収されやすいが、症状が強ければ食事とともに服用してよい。

  • 治療開始後4週以内を目安にHb反応を確認する。反応が乏しければ服薬状況、持続出血、を確認する2
  • Hb正常化後もを補充するため、一般に約3か月は治療を継続する。

静注鉄

経口鉄に不耐、十分な反応がない、が予想される、活動性、迅速な鉄補充が必要な場合に検討する。少ない投与回数で必要量を補える製剤を優先し、過敏反応や治療後のなど製剤固有の副作用を監視する。

赤血球輸血

鉄欠乏そのものを治療する手段ではない。循環不全、活動性大量出血、重篤な虚血症状などに限定し、輸血後も鉄補充と出血源治療を並行する。

貧血治療薬の全体像の中でのIDA治療薬

💡 貧血治療薬は「(どの系統を増やすか)」と「補充する基質(鉄・B12・葉酸)」ので整理できる。IDAに対応するのは補充系の(例:)であり、に用いるビタミンB12・葉酸とは適応が異なる。⚠️ の貧血)、G-CSF(好中球減少)、(血小板減少)はであり、いずれもIDAの治療薬ではない。

まとめ

  • IDAは貧血の最多原因であり、産生低下・の代表として、慢性炎症・と鑑別する。
  • 鉄欠乏は「」と段階的に進行し、MCV正常でも早期鉄欠乏を否定できない。
  • 45 ng/mL未満(AGA基準)が診断に有用だが、炎症・CKD・肝疾患ではTSAT・CRP・sTfRを組み合わせて解釈する。
  • 成人IDAでは鉄補充と同時に、性別・年齢に応じて消化管出血やなど原因を必ず検索する。
  • 経口鉄は1日1回以下を基本とし、不耐ならや静注鉄を選択する。Hb正常化後も補充のため約3か月継続する。

出典

  1. 1.AGA Clinical Practice Guidelines on the Gastrointestinal Evaluation of Iron Deficiency Anemia(American Gastroenterological Association・2020)フェリチン45 ng/mL未満を鉄欠乏診断のカットオフとして推奨(従来の15 ng/mL未満より高感度)、成人男性・閉経後女性の新規IDAでは上下部消化管内視鏡を評価する閲覧 2026-08-03
  2. 2.British Society of Gastroenterology guidelines for the management of iron deficiency anaemia in adults(British Society of Gastroenterology・2021)経口鉄は鉄塩1錠1日1回を基本とし不耐なら隔日投与へ減量、4週以内にHb反応を確認、Hb正常化後も約3か月継続する閲覧 2026-08-03