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Disease Atlas · 血液 · 疾患

慢性疾患に伴う貧血

Anemia of chronic disease

別名
ACD炎症性貧血
臓器系
血液
科目
Internal Medicine
トピック
内科学 H-04:慢性疾患に伴う貧血
上位概念
貧血
鑑別疾患
巨赤芽球性貧血腎性貧血鉄欠乏性貧血
治療薬
エポエチンアルファ水酸化鉄ポリマルトースロキサデュスタット
症状
倦怠感労作時呼吸困難蒼白動悸
検査値
トランスフェリントランスフェリン飽和度フェリチン可溶性トランスフェリン受容体赤沈網赤血球
原因となる疾患
関節リウマチ

🧠 全体像(ACD)は、感染・自己免疫疾患・悪性腫瘍などの慢性炎症が肝での産生を上げ、鉄はあるのに骨髄へ届かない「」を作り出す病態である。とは対極の正常〜高値、TIBC低下)を示すが、両者はしばしば併存するため、真の鉄欠乏を隠さずに見抜くことが診療の要になる。ではこれに産生低下が加わる。

病態

・自己免疫疾患・悪性腫瘍などから放出されるIL-6を中心としたが、肝での産生を増加させる。は鉄輸送体を分解し、腸管からの鉄吸収とマクロファージからの鉄放出の両方を抑制する。この結果、体内のは十分でも骨髄の赤芽球へ供給される鉄が不足する「」が生じる。はさらにEPOの産生・反応性を低下させ、も短縮させるため、鉄制限と造血刺激不足の両方からが低下する。CKDではこれに加えて腎からのEPO産生そのものが低下し、貧血をさらに悪化させる。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='chronic infection'>慢性感染</span>・炎症・悪性腫瘍"] --> B["IL-6などの<span class='jp-term jp-term-diagram' title='inflammatory cytokine'>炎症性サイトカイン</span>"]
    B --> C["肝で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hepcidin'>ヘプシジン</span>上昇"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ferroportin'>フェロポルチン</span>分解"]
    D --> E["腸管鉄吸収低下"]
    D --> F["マクロファージからの鉄放出低下"]
    E --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='functional iron deficiency'>機能的鉄欠乏</span>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='storage iron'>貯蔵鉄</span>はあるが骨髄へ届かない)"]
    F --> G
    B --> H["EPO産生・反応性低下と<span class='jp-term jp-term-diagram' title='red blood cell lifespan'>赤血球寿命</span>短縮"]
    G --> I["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Erythropoiesis'>赤血球産生</span>低下"]
    H --> I
    J["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='chronic kidney disease, CKD'>慢性腎臓病</span>"] --> K["EPO産生低下(腎性)"]
    K --> I
    I --> L["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='normocytic'>正球性</span>〜(長期化で)<span class='jp-term jp-term-diagram' title='microcytosis'>小球性</span>の貧血"]

💡 は存在するのに骨髄へ供給されにくいこの状態をと呼ぶ。炎症下ではとして上昇するため、単独ではの充足を保証できない。

臨床像

ACDの症状はIDAなど他の貧血と同様に非特異的で、蒼白などがみられる。ただし多くは軽度〜中等度のにとどまり、進行が緩徐なため代償が働きやすく、症状が基礎疾患(感染・炎症・悪性腫瘍)そのものの感・と重なって埋もれやすい。貧血自体がとして前景に立つことは少なく、基礎疾患の評価中に指摘されることが多い。

主な背景疾患

  • 症:結核、骨髄炎、など
  • 自己免疫・炎症性疾患:関節リウマチ、、血管炎など
  • 悪性腫瘍
  • など持続的な全身炎症を伴う病態

鉄欠乏性貧血との鑑別

ACDは通常だが、長期化するとになりうる点でIDAと重なりやすい。両者の鑑別はのパターンに依存する。

項目
MCV 正常〜低下 低下しやすい
血清鉄 低下 低下
TIBC・ 低下〜正常 上昇
低下 低下
正常〜上昇 低下
通常正常 上昇
CRP・ 背景炎症により上昇 通常は正常

TIBC()はACDでは低下〜正常、IDAでは上昇するという逆方向の変化が最も鍵となる鑑別点である。 は炎症でとして上昇するため単独で判断せず、CRP・TSAT・sTfRを組み合わせる。

ACDと真の鉄欠乏の併存

はしばしば併存する(例:関節リウマチ患者の消化管出血)。低は併存する鉄欠乏を強く支持するが、が正常〜高値でも炎症下での真の鉄欠乏を除外できない。この場合、TSATの低下やsTfRの上昇が鉄欠乏の関与を示唆する手掛かりになる。

診断

  1. CBC、不良)を確認する。
  2. 、血清鉄、TIBC、TSAT、CRPを組み合わせて解釈する。
  3. 腎機能、肝機能、甲状腺機能、B12・葉酸、出血・溶血の可能性を必要に応じて評価する。
  4. 他系統の血球減少、異常細胞、説明困難な進行例では骨髄疾患を除外する。

治療

基礎疾患の治療

感染・炎症・悪性腫瘍の制御が治療の中心である。炎症が改善すればの作用が弱まり、鉄利用と造血が回復する。

鉄補充

またはを確認したうえで行う。活動性炎症、吸収不良、CKDでは経口鉄の吸収・利用が乏しく、静注鉄が有効な場合がある。KDIGO 2026年改訂版は、CKDでを受けている患者では≤500 ng/mLかつTSAT≤30%で、非透析・患者では<100 ng/mLかつTSAT<40%(または100〜300 ng/mL未満かつTSAT<25%)で鉄補充の開始を検討する目安を示している1。感染状況や過剰投与のリスク(>700 ng/mLまたはTSAT≥40%ではルーチンの鉄投与を控える)を考慮しつつ、・TSATを追跡する。

CKDにおける赤血球造血刺激因子(ESA)とHIF-PH阻害薬

は、鉄欠乏など可逆的原因を補正した後に開始を検討する。KDIGO 2026年改訂版は、非透析CKDについて開始Hbの固定閾値を廃止し、症状の有無、Hb上昇による利益、輸血・ESA自体のリスクを踏まえたによる個別化へ転換した1(実務上はハイリスク例で8.5 g/dL前後、症候性では10 g/dL前後を目安とすることが多い)。ではHbが9〜10 g/dL以下に低下した時点で開始する。非透析・透析いずれでも維持Hbは11.5 g/dLを超えないようにする。⚠️ 正常Hbを目標とした過度な補正は、CHOIR試験・TREAT試験で示されたように脳卒中・心を増やしうる。

などのHIF-PH()阻害薬は、内因性EPO産生と鉄利用を高めるとしてCKDに伴う貧血に用いられる。KDIGO 2026年改訂版は、可逆的原因を補正した患者ではESAをHIF-PH阻害薬より第一選択とすることを弱く推奨し、心血管・血栓塞栓症の既往、、妊娠などリスクの高い患者ではHIF-PH阻害薬を避けるよう注意喚起している1。ESAとHIF-PH阻害薬の併用は推奨されない。

輸血

重い症候性貧血、、緊急の改善が必要な場合に限る。慢性のACDでは、鉄過剰のリスクを考慮し、Hbの固定値だけで輸血を決定しない。

まとめ

  • ACDはによる上昇が、鉄を隔離し()、EPO産生・反応性も低下させて生じる。
  • 典型的には低血清鉄・低〜正常TIBC・正常〜高を示し、TIBC上昇を示すIDAと対照的である。
  • ACDと真の鉄欠乏はしばしば併存するため、だけでなくTSAT・sTfR・CRPを合わせて判断する。
  • 治療の中心は基礎疾患の制御で、鉄・ESA・輸血は患者背景に応じて選択する。
  • CKDでESAを用いる際は、非透析では固定閾値でなく症状・利益・リスクに基づくで開始し、正常Hbへのを避けて維持Hb 11.5 g/dL 未満を守る。HIF-PH阻害薬はESAに次ぐ位置づけで、心血管リスクの高い患者では避ける。

出典

  1. 1.KDIGO 2026 Clinical Practice Guideline for the Management of Anemia in Chronic Kidney Disease(Kidney Disease: Improving Global Outcomes (KDIGO)・2026)非透析CKDのESA開始Hbは個別化(目安8.5〜10 g/dL)、透析患者は9〜10 g/dL以下で開始、維持目標は<11.5 g/dL。鉄補充は透析患者でフェリチン≤500 ng/mL・TSAT≤30%、非透析患者でフェリチン<100 ng/mL・TSAT<40%(または100〜300 ng/mL未満・TSAT<25%)が目安。HIF-PH阻害薬はESAを優先しその後に位置づけ、心血管既往等のハイリスク患者では回避する。閲覧 2026-08-02