内科学

内科学 · L-58

低形成性貧血

Hyporegenerative Anemias

前提:病態
造血低下による貧血
前提:正常
造血・血液の組成
疾患
Fanconi貧血巨赤芽球性貧血再生不良性貧血鉄欠乏性貧血貧血
症状
感覚性運動失調動悸
検査値
エリスロポエチン汎血球減少網赤血球産生指数

🧠 全体像:貧血ではまずHb低下を確認し、と補正で病態を整理する。はが不十分な群であり、と併せて鉄・B12/葉酸、炎症・腎機能、を分け、欠乏を補うだけでなく原因を特定する。

貧血評価の基本

貧血はHb低下によりが不足した状態であり、倦怠感、、、頭痛、めまい、蒼白などを来す。発症速度とにより症状の強さは異なるため、Hだけで重症度を判断しない。

・、、またはを起点に、鉄、B12・葉酸、ビリルビン・・、腎・肝・甲状腺機能を選ぶ。「正常」でも貧血時には不十分な反応であり得るため、絶対数または補正値で判断する。

低値 高値
鉄欠乏、慢性炎症、、 出血など
、慢性炎症、 、溶血
B12/葉酸欠乏、、肝疾患、、薬剤 溶血・出血に伴う

診断の入口

flowchart TD
    A["Hb低下"] --> B["絶対<span class='jp-term jp-term-diagram' title='reticulocyte'>網赤血球</span>/産生指数"]
    B --> C["反応低値:産生低下"]
    C --> D{"MCV"}
    D -->|"低値"| E["鉄欠乏・慢性炎症・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Thalassemias'>サラセミア</span>など"]
    D -->|"正常"| F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='chronic kidney disease'>CKD</span>・慢性炎症・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='bone marrow failure'>骨髄不全</span>・内分泌"]
    D -->|"高値"| G["B12/葉酸・薬剤・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='myelodysplastic syndrome'>MDS</span>・肝/甲状腺"]
    E --> H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='iron metabolism'>鉄代謝</span>+原因検索"]
    F --> I["腎機能・炎症+他血球・骨髄評価"]
    G --> J["塗抹+B12/葉酸+原因検索"]

複数血球減少、芽球、著明な形態異常、発熱・出血は早期血液科評価を要する。

鉄欠乏性貧血

、月経・妊娠、摂取不足、セリアック・・胃切除などが原因。・、上昇、時にを示し、pica、、を来す。

、が消失するも手掛かりで、鉄欠乏+嚥下障害+の組み合わせはである。

鉄欠乏の進展

段階 ・ 血清鉄/・TIBC Hb・赤血球形態
負の鉄 減少し始める なお正常のことが多い Hb正常
鉄欠乏性 低値、骨髄鉄枯渇 血清鉄・低下、TIBC上昇 Hb合成が障害され始める
枯渇 鉄・さらに低下 Hb/Hct低下、・、・

この順序から、が正常でも早期鉄欠乏を否定できず、低値は貧血に先行する。一方、炎症時の正常〜高値は充足を保証しない。

検査 鉄欠乏 慢性炎症
低値 正常〜高値
血清鉄 低値 低値
TIBC/ 高値 低値〜正常
低値 低値
上昇 通常正常

は炎症で上昇するため、、、sTfRなどを統合する。は1つではなく、炎症と併存症で上げる。

状況 鉄欠乏とみなす
の定義(成人・5歳超の小児) 15 µg/L未満
実務上最も受け入れられている閾値 30 µg/L未満(感度85%→92%、特異度は98%のまま)
炎症所見あり(・上昇)の成人 70 µg/L未満
併存症が多くと併読するとき 100 µg/L未満(またはそれ以上)
65歳超+または 少なくとも45 µg/L未満

閾値を30 µg/Lへ上げても特異度が落ちないのが要点で、15 µg/L未満だけを鉄欠乏とすると軽症例を取りこぼす1。が消化管評価の前段として提案した45 ng/mL未満も、この「感度側へ寄せる」流れの一つである。成人男性・閉経後女性の新規は原則上下部消化管を評価し、セリアックとH. pyloriも適応に応じ検査する。閉経前女性でも月経だけに決めつけず、症状・重症度・リスクに応じ評価する。

経口鉄は1日1回まで、は性を改善し得る。Hb反応と回復を追い、正常化後も補充を続ける。数値でいえば、Hb反応は4週以内に確認し20 g/L の上昇または正常化を至適反応とする、Hb正常化後も少なくとも3か月継続して100 µg/L超を目標にする、が目安である1。

💡 静注鉄の適応は「経口が効かなかったとき」だけではなくなった。 現行の推奨では、①中等症〜重症の貧血、②経口鉄への反応不良、③経口不耐、④吸収不良、⑤継続出血、⑥周術期など迅速な補充が必要な場合、が静注鉄の適応で、Hb上昇は経口より速い1。のように貧血が無い鉄欠乏でも補正の利益が認められつつある領域もある1。欠点は主にコストで、経口不応を待たずに選べる場面が広がった。輸血は鉄補充の代わりではなく、循環不安定・重症症候性で個別判断する。

巨赤芽球性貧血

ビタミンB12欠乏

、胃・回腸手術、Crohn病、、、長期摂取不足など。と、に加え、末梢神経障害、後索・障害、認知・精神症状を来す。B12境界値ではとを用い、はに特異的である。

神経症状・重い欠乏・では注射B12を開始し、安定例では高用量経口も選択できる。低K血症、、鉄欠乏の顕在化を追う。

⚠️ B12欠乏を確定する単一のは存在しない。 血清が第一選択、曖昧なときの第二選択がで、はより特異度が低い——両者を同格に並べない2。測定法が施設で異なるため確定的なも置けず、が中途半端でも臨床像が強ければ治療を遅らせない(神経障害は不可逆になりうる)2。

葉酸欠乏

低摂取・アルコール、妊娠、吸収不良、メトトレキサートなどで生じ、は上がるがは上がらない。神経障害は典型的でない。B12欠乏を除外・同時治療せず葉酸だけを投与すると貧血が改善して神経障害が進行し得る。

慢性炎症・CKDの貧血

IL-6–増加で鉄吸収・マクロファージからの放出が抑制され、反応も低下する。はを分解してとマクロファージからの鉄放出を同時に止めるため、体内の鉄は足りているのに造血へ回らない「」になる3。原疾患治療、真の鉄欠乏補正を優先する。のESAは鉄状態、症状、輸血回避、心血管・を考えて個別化し、Hb正常化を目標にしない。

💡 には-PH阻害薬という経口の選択肢が加わったが、ESAの代わりに置かれてはいない。 -阻害薬は低酸素応答を模倣して内因性産生と低下をもたらすだが、 2026年ガイドラインはESAを優先したうえで、その後に位置づけ、心血管既往などのハイリスク患者では回避するとしている4。ESA開始の目安はHb 8.5〜10 g/dL(非透析)・9〜10 g/dL以下(透析)、維持目標は11.5 g/dL未満である4。

再生不良性貧血

とを示し、脾腫は通常目立たない。薬剤・毒物・ウイルス、PNHクローン、、遺伝性を除外し、・・・遺伝検査を選ぶ。

重症度はで決める。骨髄細胞密度25%未満(または25〜50%で残存造血細胞が30%未満)に加え、次の3項目のうち2項目以上を満たすと重症(SAA)である5。

項目 重症の基準
好中球 < 0.5 × 10^9/L
血小板 < 20 × 10^9/L
絶対 手算定で< 20 × 10^9/L、自動算定で< 60 × 10^9/L

好中球< 0.2 × 10^9/Lなら最重症(VSAA)である。の閾値が2つあるのは、古典的が手算定に由来し、自動算定では高く出るためで、測定法に対応した値を使う5。

重症/最重症では感染・出血予防、照射・白血球除去など支持療法を行い、年齢、併存症、ドナーにより適合血縁/非HCTまたは++を選ぶ。GM-単独を骨髄全系統回復の標準治療としない。非血縁ドナー移植は成人では免疫抑制療法が無効のあとに考えるのが原則だが、重症感染があり適合非血縁ドナーがすぐ得られる若年成人では初回から検討する5。

💡 の追加は「」だけでなく「までの速さ」を変えた。 未治療重症例197例の第3相RACE試験で、ウマATG+にを加えると3か月時のが10%→22%(3.2、95%CI 1.3〜7.8)、6か月時のが41%→68%、初回までのが8.8か月→3.0か月へ短縮した。の頻度は両群同等だった6。感染・出血の危険期間が短くなることが臨床的な意味である。

⚠️ 移植を第一選択に置けるかは年齢で大きく変わる。 EBMTの2025年推奨では、同一同胞移植の成績は年齢とともに低下し、40歳を超えると死亡率増加が意味を持ち、50歳を超えると許容できないとされる。35〜50歳は境界域で併存症評価が決め手になる。慢性GVHD低減のため全例でATGまたはによるを行い、幹細胞源は末梢血ではなく骨髄が推奨される。小児・思春期(18〜20歳まで)では同胞移植が初回標準で、同胞がいなくても10/10適合非血縁ドナーが診断後2か月以内に確保できれば初回治療になりうる7。

まとめ

  • は低値を確認し、・塗抹で検査を分岐する。
  • 鉄欠乏は補充と同時に出血・の原因を検索し、B12欠乏を除外せず葉酸単独投与しない。
  • +はを疑い、で重症度を決めてから、移植またはATG・・を専門的に選ぶ(同胞移植の成績は40歳超で落ち、50歳超では許容されない)。
  • のは固定値ではなく、炎症・併存症・年齢で30→70→100 µg/Lへ引き上げる。静注鉄は経口不応だけでなく、中等症以上の貧血や急速補充が要る場面でも選べる。

出典

  1. 1.Recommendations for diagnosis, treatment, and prevention of iron deficiency and iron deficiency anemia(European Hematology Association Scientific Working Group on Red Cells and Iron / HemaSphere・2024)WHOは鉄欠乏をフェリチン15 µg/L未満(5歳超の小児・青年・成人)・12 µg/L未満(5歳未満)と定義するが、カットオフを30 µg/Lへ上げると感度が85%から92%へ上がり特異度は98%のまま変わらないため30 µg/Lが最も広く受け入れられている。炎症所見(CRP・赤沈上昇)があるときWHOは5歳未満で30 µg/L未満、それ以上の小児・成人で70 µg/L未満を鉄欠乏とし、併存症が多い状況ではTSATと組み合わせて100 µg/L未満以上の閾値が提案される。65歳超でCKDや慢性心不全があれば少なくとも45 µg/Lを閾値に使える。静注鉄は中等症〜重症の貧血、経口鉄への反応不良、経口不耐、周術期など急速な反応を要する場合に用い、Hb上昇はより速い。経口鉄はまず1日1回とし、不耐なら隔日投与へ。Hb反応は4週以内に確認し20 g/Lの上昇または正常化を至適反応とする。Hb正常化後も貯蔵鉄補充のため少なくとも3か月継続し、フェリチン100 µg/L超を目標とする閲覧 2026-08-25
  2. 2.Guidelines for the diagnosis and treatment of cobalamin and folate disorders(British Journal of Haematology(British Committee for Standards in Haematology)・2014)コバラミン欠乏を定義する単一の基準検査(gold standard)は存在せず、血清コバラミンが第一選択、判断が曖昧なときの第二選択が血漿メチルマロン酸である。血漿ホモシステインも第二選択になりうるがメチルマロン酸より特異度が低い。確定的なカットオフ値は設定できず施設ごとの基準範囲を用い、検査値と強い臨床所見が食い違うときは神経障害を避けるため治療を遅らせない閲覧 2026-08-25
  3. 3.Iron metabolism(Haematologica・2020)ヘプシジン・フェロポーチン系が全身の鉄恒常性を担い、炎症でヘプシジンが増えるとフェロポーチンが分解されて腸管からの鉄吸収とマクロファージからの鉄放出が抑えられる(機能的鉄欠乏)閲覧 2026-08-25
  4. 4.KDIGO 2026 Clinical Practice Guideline for the Management of Anemia in Chronic Kidney Disease(KDIGO・2026)非透析CKDのESA開始Hbは個別化(目安8.5〜10 g/dL)、透析患者は9〜10 g/dL以下で開始、維持目標は11.5 g/dL未満。鉄補充は透析患者でフェリチン500 ng/mL以下・TSAT 30%以下、非透析患者でフェリチン100 ng/mL未満・TSAT 40%未満が目安。HIF-PH阻害薬はESAを優先したうえで後に位置づけ、心血管既往等のハイリスク患者では回避する閲覧 2026-08-25
  5. 5.Guidelines for the diagnosis and management of adult aplastic anaemia: A British Society for Haematology Guideline(British Society for Haematology・2024)再生不良性貧血の重症度はCamitta基準(骨髄細胞密度25%未満〈または25〜50%で残存造血細胞30%未満〉に加え、好中球0.5×10^9/L未満・血小板20×10^9/L未満・絶対網赤血球20×10^9/L未満〈自動算定では60×10^9/L未満〉の3項目中2項目以上。好中球0.2×10^9/L未満で最重症)で評価し、年齢とHLA適合ドナーの有無とあわせて治療を決める。新規診断の重症/最重症例の標準初回治療は、ウマ抗胸腺細胞グロブリン+シクロスポリン+エルトロンボパグによる免疫抑制療法か、HLA適合同胞ドナーからの同種造血幹細胞移植である。成人の非血縁ドナー移植は免疫抑制療法が無効のあとに考え、重症感染があり適合非血縁ドナーがすぐ得られる若年成人では初回から検討する閲覧 2026-08-25
  6. 6.Eltrombopag Added to Immunosuppression in Severe Aplastic Anemia(New England Journal of Medicine・2022)未治療重症再生不良性貧血197例の第3相RACE試験で、ウマATG+シクロスポリンにエルトロンボパグを加えると3か月時の完全奏効が10%から22%へ増え(オッズ比3.2、95%CI 1.3〜7.8、P=0.01)、6か月時の全奏効率は41%から68%へ、初回奏効までの期間中央値は8.8か月から3.0か月へ短縮した。重篤有害事象の頻度は両群同等閲覧 2026-08-25
  7. 7.Indications for haematopoietic cell transplantation and CAR-T for haematological diseases, solid tumours and immune disorders: 2025 EBMT practice recommendations(European Society for Blood and Marrow Transplantation / Bone Marrow Transplantation・2025)成人の重症再生不良性貧血ではHLA同一同胞ドナーからの同種造血幹細胞移植が標準治療だが、成績は年齢とともに低下し、40歳を超えると死亡率の増加が意味を持ち、50歳を超えると許容できない。35〜50歳の境界域では併存症の評価が特に重要。慢性GVHDを減らすため全例でATGまたはアレムツズマブによる生体内リンパ球除去を行い、幹細胞源は骨髄が推奨される。小児・思春期(18〜20歳まで)ではHLA適合同胞移植が初回標準治療で、同胞がいない場合も10/10適合非血縁ドナーがすぐ得られ診断後2か月以内に実施できるなら初回治療になりうる閲覧 2026-08-25