生理学

生理学 · 5.1

造血。血液の組成。

Hematopoiesis. The composition of the blood.

応用トピック
貧血患者の診断アプローチ慢性疾患に伴う貧血再生不良性貧血血小板減少患者の診断アプローチ血小板増多症骨髄系増殖性疾患の症候学自家造血幹細胞移植低形成性貧血急性白血病骨髄異形成症候群自家・同種造血幹細胞移植妊娠に伴う生理的変化(心血管・呼吸器系)化学療法の副作用小児貧血の分類・診断貧血の徴候・症状と評価白血病小児白血病薬剤性有害反応:骨髄障害
検査値
絶対単球数

🧠 造血は「1つの幹細胞が、で自己複製と分化を同時に行い、→→へと段階的に運命を狭めていく」樹形図として理解する。骨髄という「」の環境がその分化ルートを決め、サイトカイン(cytokine:、など)が個々の系統の産生量をする——「幹細胞→系統決定→成熟」という共通の骨格の上に、赤血球・血小板・顆粒球それぞれの固有の成熟過程が乗っている。

血液の組成

項目 男性 女性
0.40–0.52 0.37–0.48
160–170 g/L 135–145 g/L
約5 million/μL 約4.4 million/μL
約300,000/μL
約7,000/μL(好中球 4000・好酸球 200・ 50・単球 500・リンパ球 2000)

💡 男女差の主因はテストステロン。 テストステロンがを促進するため、男性は・Hb濃度とも高くなる。

⚠️ 「好中球減少=異常」とは限らない。 アフリカ系・中東系・西インド諸島系など特定の集団では、感染リスクの増加を伴わない良性のが高頻度にみられる——健康なのに好中球数だけが基準下限を下回る状態が実在し、これらの集団に一般的な基準下限をそのまま当てはめると不必要な精査を招く1。「の」は集団によって読み替えが必要な値であり、単一の下限値がすべての人に等しく当てはまるわけではない。

各血球の寿命

細胞 寿命 除去/消費の機序
赤血球 120日 脾臓が柔軟性を失ったを除去。赤血球径7μm・毛細血管径6μmのため柔軟性必須。で柔軟性が失われ内皮を通過できなくなる
血小板 約1週間(10日) 血管の微小/損傷で持続的に消費される
白血球 約8時間 免疫(病原体の排除)で持続的に消費される

💡 「約120日」は代表値であって固定値ではない。 51Cr標識法に基づく総説では、正常者の平均は115日、個体により70〜140日の幅を取りうるとされる2。51Crは半減期27.8日で標識が溶出するため全寿命の測定には向かず、非放射性の標識で実測すると、循環赤血球の平均年齢は非糖尿病者で38〜60日と個人間でばらついた3。この差は、同じ平均血糖値でもが臨床的に意味のある幅で動く程度に大きい——「120日」は暗記のとして持ちつつ、のある実測値だと位置づけておく(ヒトのデータ)。

造血

血液のすべての細胞成分と血漿を産生する過程。2形態がある。

形態 内容
1日約10¹¹個の血球を産生し、消費と産生のバランスを維持。赤血球は寿命が長いため白血球より産生数は少ない
定常産生を上回る需要が生じた時に誘導される(例:低酸素→赤血球、感染→顆粒球)

造血の場

時期 場所
卵黄嚢→肝臓→骨(赤色)
成人期 (axial skeleton:骨盤・胸骨・椎骨)と近位部

骨髄は約1.5kgで、(yellow marrow、不活性、主に)と(red marrow、活性、赤血球等を産生)に分かれる。活性骨髄は造血細胞・(stromal cell、構造支持・シグナル伝達・成熟制御)・造血幹細胞から構成される。

造血幹細胞と分化系譜

HSCは自己複製する——分裂時にを行い、1つは幹細胞として残り(自己複製)、もう1つは分化細胞系列へ進む()。特有の形態はなく表面マーカー(CD34⁺=骨髄マトリックスへの接着に関与、c-Kit=に結合する)で同定する。

flowchart TD
  A["長期・短期HSC(自己<span class='jp-term jp-term-diagram' title='replication competence'>複製能</span>あり)"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pluripotent'>多能性</span>前駆細胞 MPP(自己<span class='jp-term jp-term-diagram' title='replication competence'>複製能</span>なし)"]
  B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='common lymphoid progenitor'>共通リンパ系前駆細胞</span> CLP"]
  B --> D["共通<span class='jp-term jp-term-diagram' title='myeloid progenitor'>骨髄系前駆細胞</span> CMP"]
  C --> E["T前駆細胞/B前駆細胞/NK前駆細胞"]
  D --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='megakaryocyte'>巨核球</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='erythroid progenitor cell'>赤血球前駆細胞</span> MEP"]
  D --> G["顆粒球・単球前駆細胞 GMP"]
  F --> H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='erythroid lineage'>赤芽球系</span>列/<span class='jp-term jp-term-diagram' title='megakaryocytic'>巨核球系</span>列"]
  G --> I["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='granulocytic'>顆粒球系</span>列/<span class='jp-term jp-term-diagram' title='monocytic'>単球系</span>列"]

⭐ 「/→→」という運命の絞り込みが造血の一本道。 MPP(multipotent progenitor)はか列かの二択に進み、そこから先はさらに枝分かれが進み後戻りできなくなる。

💡 この二分岐樹は「まず覚える」であって、単一細胞解析はこの階層モデルを描き替えつつある。 ヒト造血幹細胞を・単一細胞トランスーム・機能アッセイで同時に測ると、定常状態の個々の造血幹細胞は複数方向へ徐々に系列傾向を獲得していき、MPP→CLP/CMPのような離散的な前駆細胞集団を順番に通過するわけではない。単一系列に限定された細胞は「低度にプライムされた未分化な造血幹・前駆細胞の連続体(CLOUD-HSPC)」から直接現れるとされる4。教科書の樹形図の「節」は、実在する所というより連続体を切り分けた目印だと捉え直すと矛盾が消える(ヒトのデータ)。

造血の調節因子

因子 内容
サイトカイン 糖蛋白の細胞外シグナル分子。複数の細胞種に重複した作用を持つ。例:(erythropoietin, 、低酸素に応じ腎から分泌)、(granulocyte colony-stimulating factor, 、白血球産生↑)
環境(, niche) の特定領域で、HSCが未分化・自己複製可能な状態を維持する場。が細胞遊走(, chemotaxis)を誘導し、ごとに産生される細胞型に偏り(環境的非対称性)がある
ホルモン 特定系列への分化を誘導しうる

赤血球産生

幹細胞からへの発生(7〜10日、赤芽球島 erythroblastic islandで進行)。

前赤芽球→赤芽球(Hb蓄積・核が縮小)→→(マクロファージが核を貪食)→(無核・無ミトコンドリア)→赤血球\text{前赤芽球} \to \text{赤芽球(Hb蓄積・核が縮小)} \to \text{} \to (\text{マクロファージが核を貪食}) \to \text{(無核・無ミトコンドリア)} \to \text{赤血球}

調節: 主に腎の間質線維芽細胞が産生するによる負のフィードバック。

flowchart TD
  A["腎の低酸素"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hypoxia-inducible factor (HIF)'>低酸素誘導因子</span><span class='jp-term jp-term-diagram' title='hypoxia-inducible factor'>HIF</span>活性化"]
  B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='erythropoietin'>EPO</span>産生↑"]
  C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Erythropoiesis'>赤血球産生</span>↑"]
  D --> E["腎の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='oxygen content'>酸素含量</span>↑(フィードバック収束)"]

は・葉酸・ビタミンB12(vitamin B12)にも依存し、これらの欠乏はの原因となる。

血小板産生

赤血球と同じ列だが、前→→血小板という経路をたどる。

  • は(分裂を伴わないゲノム複製)を行い32nに達し、径約60μmの巨大細胞・となる。
  • の突起が血管内皮の細胞間隙を通って内へ伸び、そこから約10⁴個の血小板が「」する。

単球・マクロファージ・樹状細胞・破骨細胞の発生

いずれもに由来する。は破骨細胞・マクロファージ・のいずれにもなりうる(約6日)。顆粒球の成熟には通常9〜12日を要するが、感染時にはサイトカインの作用で2日まで短縮されうる。成熟顆粒球は骨髄を出て自由に循環するか、血管内皮に付着する。

まとめ

  • 血液の細胞成分(赤血球・血小板・白血球)は寿命が大きく異なり(120日・10日・8時間)、それぞれ脾臓・血管損傷・免疫反応で消費される。
  • 造血幹細胞はで自己複製と分化を両立し、MPP→CLP/CMPという運命の絞り込みを経て各成熟血球に至る。
  • は(腎、低酸素依存性経由)による負のフィードバックで、はのと突起のという特殊な機構で行われる。

出典

  1. 1.Benign ethnic neutropenia(Blood Reviews・2019)アフリカ系・中東系・西インド諸島系など特定の民族的背景を持つヒト集団に高頻度でみられる良性の慢性好中球減少(benign ethnic neutropenia)は、感染リスクの増加を伴わない「健康な状態での好中球減少」であり、一般的な好中球数の基準下限をこれらの集団にそのまま適用すると不必要な精査を招くことを確認した閲覧 2026-08-26
  2. 2.Measurement of red cell lifespan and aging(Transfusion Medicine and Hemotherapy・2012)赤血球寿命の測定法(51Cr標識・ビオチン標識・一酸化炭素産生・標識グリシンの取り込み)を総説し、正常者の平均赤血球寿命は115日で、個体により70〜140日の幅を取りうるとする。51Crは半減期27.8日で標識の溶出もあるため全寿命の正確な測定には向かず、共有結合する非放射性のビオチン標識が全寿命にわたる測定に適する閲覧 2026-08-26
  3. 3.Red cell life span heterogeneity in hematologically normal people is sufficient to alter HbA1c(Blood・2008)ビオチン標識で赤血球寿命を実測したところ、循環赤血球の平均年齢は糖尿病者6人で39〜56日、非糖尿病対照6人で38〜60日と個人差が大きかった。この寿命のばらつきは、同じ平均血糖値でも臨床的に意味のあるHbA1cの差を生じるだけの大きさである閲覧 2026-08-26
  4. 4.Human haematopoietic stem cell lineage commitment is a continuous process(Nature Cell Biology・2017)フローサイトメトリー・単一細胞トランスクリプトーム・機能アッセイを単一細胞レベルで統合すると、定常状態のヒト造血幹細胞は複数方向へ段階的に系列傾向を獲得し、離散的に階層化された前駆細胞集団を順に通過しない。単一系列に限定された細胞は低度にプライムされた未分化な造血幹・前駆細胞の連続体(CLOUD-HSPC)から直接出現する閲覧 2026-08-26