生理学

生理学 · 4.1

腎循環。糸球体濾過。

Circulation of the kidney. Glomerular-filtration.

応用トピック
腎・内臓血管の閉塞性・動脈瘤性疾患と人工動静脈瘻・血液透析アクセスICUにおける急性腎障害の病態・診断・治療急性腎障害慢性腎臓病・尿毒症症候群糸球体疾患腎疾患の鑑別診断急性・急速進行性・慢性糸球体腎炎ネフローゼ症候群と蛋白尿性疾患腎代替療法―透析と腎移植血尿の鑑別診断妊娠に伴う生理的変化(腎・内分泌系)妊娠と腎疾患・尿路感染症小児の血尿小児糸球体疾患小児急性腎障害小児慢性腎臓病小児糸球体疾患薬物の排泄特殊集団-薬物相互作用:加齢抗菌薬選択の考慮事項:併存疾患薬剤性有害反応:腎毒性血尿

🧠 腎臓は「濾過のための臓器」であり、その血流量の大きさ自体が機能そのものだと捉える。はを除くほぼ全成分を素通しするため、大量の血流(心拍出量の20-25%)がなければアルブミンなどの濾さない成分の濃度(, oncotic pressure)がし濾過が止まってしまう——「濾過を止めないために大量に流す」という論理を軸に、輸入・による2段階の抵抗調節(・・交感神経・ANP)をこの上に重ねて理解する。

腎臓の機能

  1. の排泄(濾過)
  2. 恒常性の維持(水/塩分バランス→EC液量・血液量→血圧、電解質バランス、)
  3. ホルモン産生:レニン(それ自体はホルモンでないがANG IをANG IIへ活性化するカスケードを起動)、(erythropoietin、低酸素で産生、を促進)、(骨・組織・腸管でのCa²⁺調節)

腎の解剖とネフロン

腎臓は外側の皮質(・糸球体が存在)と内側の髄質(に分かれる)から成る。(機能単位)は(+Bowman嚢)→→(loop of Henle、太い・細い上行脚、細い下行脚)→(がここで糸球体に接する)→という構造。

型 糸球体の位置
(約90%) 皮質 短い(外髄質までしか届かない)
(約10%) 近傍、糸球体が大きい 長い(内髄質・乳頭部まで届く)

腎循環の経路と数値

→→葉間動脈→弓状動脈→小葉間動脈→→→→尿細管周囲毛細血管()/(性)→静脈系\text{} \to \text{} \to \text{葉間動脈} \to \text{弓状動脈} \to \text{小葉間動脈} \to \text{} \to \text{} \to \text{} \to \text{尿細管周囲毛細血管()/(性)} \to \text{静脈系}
指標 値
1200〜1300 mL/分(心拍出量の20〜25%)
600〜700 mL/分(の約半分)
腎重量 わずか300〜400g(脳・心臓の約5倍/100gの血流を受ける)

💡 なぜこれほど大量の血流が必要か。 から水・小分子を濾過し続けると、濾されないアルブミンなどの()が血管内で上昇し、濾過に対抗する力として働いてしまう。十分な濾過を維持するには、この上昇を抑えるだけの大量の血流が不可欠——の大きさそのものが濾過機能の前提条件になっている。

腎循環の調節(5つの目的)

①を過度の高血圧から保護し、過剰な血流・を防ぐ ②個々のへ均等な血流供給 ③Na⁺欠乏時にはNa⁺温存を促進 ④重篤な緊急時にはを減らし生命維持に重要な臓器への血流を確保 ⑤Na⁺過剰/増大時にはに寄与するを起こす。

1. 自己調節

輸入・が腎血管抵抗の主体。

機構(myogenic mechanism、Bayliss効果): のみで働く(でも起これば圧がさらに上昇してしまう)。伸展活性化→脱分極→Ca²⁺流入→収縮、という機序でRBFとを90〜180mmHgという広い圧範囲でほぼ一定に保つ(2-09-local-control-of-circulation-myogenic-humoral-control-mechanisms-functional-and参照)。

xychart-beta
    title "腎血流量とGFRの自己調節(模式図)"
    x-axis "平均動脈圧(mmHg)" 60 --> 210
    y-axis "基準値に対する割合(%)" 0 --> 130
    line "腎血流量" [58, 78, 100, 101, 100, 100, 101, 100, 98, 112, 125]
    line "GFR" [55, 75, 100, 100, 101, 100, 100, 99, 97, 108, 118]

90〜180 mmHgでは、が変わってもRBFとはほぼ平坦に保たれる。範囲の外ではが破綻し、圧依存性が強くなる。上図は健常腎の制御範囲を示す相対値の模式図で、実測値や個人のではない。重症疾患、腎障害、、薬剤により平坦部は変化する。

: 内の[NaCl]に依存する機構。

flowchart TD
  A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='glomerular filtration rate'>GFR</span>上昇(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='elevated blood pressure'>血圧上昇</span>/Na+過剰)"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='loop of Henle'>ヘンレループ</span>内[NaCl]上昇"]
  B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='macula densa'>緻密斑</span>細胞へのNaCl流入増加"]
  C --> D["ATP・アデノシン産生↑"]
  D --> E["アデノシンがA1受容体(Gi)を介し<span class='jp-term jp-term-diagram' title='afferent arteriole'>輸入細動脈</span>平滑筋を収縮"]
  E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='glomerular filtration rate'>GFR</span>低下(元に戻す)"]

逆に低下/Na⁺欠乏時はへの[NaCl]流入が減り、アデノシン産生が低下→(granular cell、)で・PGE₂↑→↑→ANG I→ANG II↑→の収縮とNa⁺温存()へつながる。

⭐ アデノシンは骨格筋・心臓ではだが、ではとして働く。 同じ物質が臓器によって正反対の効果を持つ好例——受容体分布・(Gi→↓→平滑筋弛緩ではなくここでは収縮)の違いを反映する。

2. 交感神経

重度の血圧低下(出血など)時に発動。

標的 受容体 機序
α1(Gq) IP₃/↑→Ca²⁺↑→収縮
(経由) β1(Gs) レニン-カスケード活性化→ANG II→収縮(はANG IIへの感受性がより高い)

のは①低血圧の直接感知②③シグナルの3経路で促進される——重要臓器への血流再分配のため、RBF・ともに低下する。

3. 心房性ナトリウム利尿ペプチド

Na⁺過剰/増大を心房・大静脈の低(, volume receptor)が検知し分泌される。cGMP依存性にを拡張し、圧を上昇させ濾過・Na⁺/Cl⁻排泄を増加させる。

輸入・輸出細動脈の収縮/拡張が及ぼす効果の整理

変化 への血流 の
収縮 ↓ ↓ ↓
↓(流出しにくい) ↑ ↑
輸入拡張+輸出収縮 変化なし ↑ ↑

糸球体濾過

指標 値
125 mL/分(180 L/日)
(FF = /RPF) 約20%

⭐ ・FFが全身の毛細血管濾過よりはるかに大きい理由は2つ: ①圧が体循環毛細血管の約2倍 ②濾過係数(透過性×濾過面積)が体循環毛細血管の約100倍。

💡 「125 mL/分」は若年健常者を代表する1点にすぎず、実際のは年齢・性で大きく変わる。 候補1,057例(ヒト、イオタラマートクリアランスで実測)の検討では、女性は補正後で男性よりわずかに高いを示し、45歳以上の女性・40歳以上の男性では(5)が補正後125 mL/分を下回り、年代が進むごとに補正後が10年あたり平均1.49 mL/分低下したと報告されている——教科書の単一値は加齢による低下を織り込んでいない1。

濾過障壁の3層構造

層 特徴
負電荷を帯び性蛋白を反発。水・小分子(Na⁺、尿素、グルコース)は通過可
基底膜 内皮の下にあり、厚く負電荷を帯びる
() 間のも負電荷分子を反発

濾過の一般則: 分子が大きいほど、また負電荷が強いほど通過しにくい——結果として水と小分子は濾過されるが、蛋白質・血球は濾過されない。

腎クリアランス

単位時間あたり、ある物質を完全に除去するのに必要な(mL/分)。CxC_xと表記。

=+(が唯一の、と尿管が2つの流出路)というマスバランスに基づき、濾過・再吸収・分泌という3過程の組み合わせでクリアランスが決まる。

物質 濾過 再吸収/分泌 用途
アルブミン されない(大きさ・負電荷) — —
グルコース される 完全に再吸収(の輸送体が飽和すると=糖尿病でみられる) —
PAH(パラアミノ, para-aminohippuric acid) される 濾過を免れた分もすべて尿細管周囲毛細血管から分泌される CPAH=RPFC_{PAH} = RPF、RBF=CPAH1−HtRBF = \dfrac{C_{PAH}}{1-Ht}
される 再吸収も分泌もされない外因性多糖 C=GFRC_{} = (診断の)
クレアチニン される ほぼ再吸収・分泌されない内因性物質(骨格筋の) GFR≈Cクレアチニン \approx C_{クレアチニン}(外因性投与不要で実用的)
FF=GFRRPF=CCPAHFF = \frac{}{RPF} = \frac{C_{}}{C_{PAH}}

⚠️ 血漿クレアチニン濃度とは反比例に近い関係。 定常状態では「排泄量=産生量」が一定に保たれるため、が半分になると血漿クレアチニン濃度はおよそ2倍になる——臨床での腎機能スクリーニングの基礎となる関係。

⚠️ クレアチニンは「ほぼ」再吸収・分泌されないだけで、実際はから分泌される分だけ真の(クリアランス基準)を過大評価する。 糸球体疾患のあるヒト171例でクリアランスと同時測定したところ、はクリアランスの平均1.64倍(tubular secretionの薬理学的阻害薬で1に近づく)に達し、この過大評価の割合はが低下するほど大きくなることが確認されている——を腎機能低下の追跡に使うと、低下が実際より緩やかに見えることがある2。臨床で広く使われる推算式()も同じ限界を抱えていたため、⭐ 2021年に発表された-EPI式の改訂版では、それまで組み込まれていた人種係数が「人種は式において生物学的ではなくなである」という前提のもと除外された(ヒトでの検証研究)3。

まとめ

  • (RBF約1200-1300mL/分)は心拍出量の20-25%に達し、この大量の血流が濾過の維持(上昇の抑制)に必須。
  • (の反応、90-180mmHgで有効)と([NaCl]依存性、アデノシンが収縮)がを一定に保つ。
  • 交感神経(α1=輸入収縮、β1=レニン経由で輸出収縮)とANP(輸入拡張)が状況に応じてを調節する。
  • =125mL/分、FF≈20%。クリアランス=、PAHクリアランス=RPF、クレアチニンは分泌の分だけ真のを過大評価するが実用的な推定指標。

出典

  1. 1.Demographic and clinical characteristics associated with glomerular filtration rates in living kidney donors(Kidney International・2009)クリーブランドクリニックで1972〜2005年に評価された生体腎移植ドナー候補1,057例(ヒト、56%女性、125I-イオタラマートクリアランスによる実測GFR)を検討し、体表面積補正後では女性が男性よりわずかに高いGFRを示すが人種による差はなかったこと、45歳以上の女性・40歳以上の男性では正常下限(5パーセンタイル)が体表面積補正後125 mL/分/1.73m²を下回ったこと、45歳以上のドナーでは若年ドナーに比べGFR低下速度が有意に倍加したこと、評価時代が下るにつれ体表面積補正後実測GFRが10年あたり平均1.49±0.61 mL/分/1.73m²低下したことを確認した。閲覧 2026-08-26
  2. 2.Limitations of creatinine as a filtration marker in glomerulopathic patients(Kidney International・1985)糸球体疾患を有するヒト171例で、真の濾過マーカーであるイヌリンを基準にクレアチニン・99mTc-DTPA・デキストランの同時クリアランスを比較し、イヌリンに対するクレアチニンの分画クリアランスが平均1.64±0.05(すなわちイヌリンクリアランスを64%上回る)であったこと、尿細管クレアチニン分泌を急性阻害するシメチジン静注でこの比が1に近づいたこと、クレアチニンの分泌分画はGFRが低いほど大きくなる逆相関を示したことを確認した。閲覧 2026-08-26
  3. 3.New Creatinine- and Cystatin C-Based Equations to Estimate GFR without Race(New England Journal of Medicine・2021)人種は eGFR 推算式において生物学的ではなく社会的な構成概念であるとして、人種を含まない新しいクレアチニン式およびクレアチニン・シスタチンC併用式を開発し、実測GFRとの精度を検証した原著(ヒトのデータ)。抄録で「race in eGFR equations is a social and not a biologic construct」という前提と、併用式の方が精度が高いことを確認した。閲覧 2026-08-26