薬理学

薬理学 · Core17

薬物の排泄

Core17: Excretion of drugs

前提:正常
腎循環と糸球体濾過尿細管輸送過程
応用トピック
クリアランス薬物動態学的相互作用:排泄レベル特殊集団-薬物相互作用:妊娠特殊集団-薬物相互作用:加齢抗菌薬選択の考慮事項:併存疾患薬剤性有害反応:てんかん性発作
薬剤
プロベネシド

🧠 全体像:薬物が体から消える道は2つしかない——未変化体のまま排泄されるか、代謝を受けてから排泄されるかである。量的に最も重要な出口は腎で、尿中に出る量は「 + − 」の差し引きで決まる。この3過程のうち再吸収だけが尿のpHに支配されるので、尿pHを動かせば性薬・薬の排泄速度を変えられる(中毒治療で使うがこれである)。もう一つの出口が胆汁で、ここには出したはずの薬が腸から戻ってくるという経路が挟まる。

消失とは何か

💡 代謝は「消失」の一部だが「排泄」ではない。 代謝されただけでは分子は体内に残っており、最後は必ずどこかの出口から出ていく必要がある。代謝の役割は、出口を通りやすい形(極性の高い形)に変える前処理である。

排泄経路の全体像

経路 機序・例 ポイント
腎 、/再吸収、 上、最も重要な排泄経路
胆汁・ 、ドキシサイクリン、、 によりが延長しうる1
肺 の薬物で重要。呼気中に未変化体が出る
唾液・汗・乳汁 量的な寄与は小さい。ただし乳汁は乳児への曝露という別の意味をもつ

腎排泄

尿中に現れるは、3つの過程の足し引きで決まる。

flowchart TD
    A["血漿中の薬物"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='glomerular filtration'>糸球体濾過</span><br>蛋白非結合型のみ<br>担体を使わない・飽和しない"]
    A --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='tubular secretion'>尿細管分泌</span><br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='proximal tubule'>近位尿細管</span>の担体を介する<br>蛋白結合型も運べる・飽和し競合する"]
    B --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='tubular lumen'>尿細管腔</span>内の薬物"]
    C --> D
    D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='tubular reabsorption'>尿細管再吸収</span><br>主に<span class='jp-term jp-term-diagram' title='passive diffusion'>受動拡散</span><br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='Non-ionized'>非イオン型</span>・脂溶性の分子だけが戻る"]
    E --> A
    D --> F["尿中へ排泄"]

糸球体濾過

  • 濾過されるのはと結合していない遊離型だけである。したがって蛋白結合率が高い薬物は、血中濃度が高くても濾過される量は少ない。
  • 担体を介さないので飽和も競合も起こらない。
  • 濾過による除去能力の上限は()で決まる。

尿細管分泌

尿細管再吸収とpH

  • ・集合管での再吸収は主にで、を通れる()の分子だけが血中へ戻る。
  • (極性)の分子はに取り残され、そのまま排泄される。
  • したがって尿のpHが再吸収量を決める。性薬はアルカリ性尿でが進んで再吸収されにくくなり、薬はでそうなる。
  • ⭐ この「膜を通った側でして戻れなくなる」現象がである。との比を決めるpH分配仮説とHenderson-Hasselbalchの式は Core12: で扱う。pHとpKaが1ずれるごとに比が10倍動くので、尿pHを1〜2動かすだけで排泄量は大きく変わる。

尿アルカリ化

を治療に使ったのがである。を静注して尿pHを7.5以上にし、性の毒物をに閉じ込めて排泄させる2。

⚠️ 「」「アルカリ利尿」という用語は使わない。 米国臨床毒性学会・欧州中毒センター臨床毒性学会(AACT/EAPCCT)の共同ポジションペーパーは、この治療の主眼が利尿ではなく尿pHの操作にあることを強調し、逐語で「the terms forced alkaline diuresis and alkaline diuresis should therefore be discontinued」——これらの用語の使用をやめるべきだと述べている2。利尿を目標に輸液量を増やすことと、尿pHを上げることは別の操作である。

「排泄が増える」と「第一選択である」は別

同ポジションペーパーは、によってが増えるものとして8つを挙げている——、2,4-ジクロロフェノキシ酢酸、ジフルニサル、、メコプロップ、メトトレキサート、、2。ただし治療としての位置づけは物質ごとに違う。

物質 同ポジションペーパーの位置づけ
の適応基準を満たさない中等度以上の中毒では第一選択治療として考慮すべき
⚠️ 多回投与のほうが優れるため、第一選択としては推奨できない
を含む支持療法でほぼ常に十分
2,4-ジクロロフェノキシ酢酸・メコプロップ 重症例ではに加えて約600 mL/時の高い尿流量も考慮する
メトトレキサート 臨床では用いられているが、現時点で支持する研究は1件のみ
ジフルニサル 排泄は増えるが、中毒治療としての価値は乏しいと考えられる
ボランティア試験は排泄増加を強く示唆するが、臨床研究では未確認

合併症

はをに作る治療なので、それ自体の有害事象がある2。

  • によりが生じ、血液pHが7.70近くまで上昇した記録がある。
  • ⚠️ 最も多い合併症はで、カリウムの補充で是正できる。
  • アルカローシス性は時にみられるが、はまれである。
  • 数時間程度の短時間のが、正常者や冠動脈・脳動脈疾患を有する者の生命を脅かすという証拠はないとされる。

💡 カリウムの補充は「副作用対策」以上の意味をもつ。 カリウムが枯渇した状態ではでカリウムの代わりに水素イオンが分泌され、全身がアルカローシスでも尿が酸性のままになる。つまりを放置するとそのものが達成できない(→ における肺と腎の役割)。

胆汁排泄と腸肝循環

腎に次ぐ出口が胆汁である。肝細胞が薬物や代謝物をへ汲み出し、胆汁とともに腸管へ送る。

  • 胆汁排泄されやすいかどうかは、薬物の化学構造・極性・、とでの輸送、肝での、からの再吸収の有無で決まる1。
  • ⭐ =胆汁中へ出た薬物が腸管から再吸収されて肝へ戻る循環。肝でのと、腸内細菌によるを伴うことがある1。
  • がある薬物では、-に多峰性のピークが現れ、見かけの半減期が延長する1。一般に、一部の薬物とその代謝物のを延長しうる。

💡 抱合体が腸で「元に戻る」のがの要である。 肝で抱合された代謝物は極性が高く、そのままでは腸から吸収されない。腸内細菌が抱合を外すと元の脂溶性の高い薬物に戻り、再吸収されて肝へ帰ってくる1。抗菌薬でが変われば、この循環が細るという筋道が成り立つ。

  • ⚠️ はを「増幅」する。 同総説は、のばらつきが対象化合物の・見かけの・クリアランスのを拡大しうる点をとくに重要だとしている1。
  • 経口吸着薬(・など)、一部の併用薬、疾患、はいずれもに影響する1。循環を断つことで消失を速められる——これが多回投与の理屈の一つである。
  • なおは、の程度そのものに加えてのによる排出とでの代謝にも左右される1(→ Core12:)。

腎機能が落ちたときにどうするか

主たる出口が腎である以上、腎機能低下は「用量をどうするか」という問題に直結する。ただし具体的な調整法は別トピックで扱う。

まとめ

  • 消失の形は未変化体の排泄と代謝後の排泄の2つ。量的に最重要の出口は腎である。
  • 量=(遊離型のみ・飽和しない)+ (担体介在・飽和し競合する)− (・pH依存)。
  • 極性()=尿に出る/()=再吸収される。 この一点がの全部である。
  • はペニシリンのを阻害する——担体が飽和し競合することの代表例。
  • は性薬を排泄しやすくする。 ただし用語は「」であり、「」「アルカリ利尿」は使わない(主眼は利尿ではなく尿pH)2。
  • 目標は尿pH 7.5以上。排泄が増える物質は8つ挙げられているが、では第一選択として考慮すべきである一方、中毒では多回投与が優る2。
  • の最多の合併症はで、カリウムの補充で是正できる2。補充を怠ると(下では水素イオンが代わりに分泌されるため)そのものが達成しにくくなる。
  • は胆汁排泄+腸管再吸収(腸内細菌によるを伴いうる)で成立し、多峰性のピークと見かけのを生む。・・クリアランスのを増幅する1。

出典

  1. 1.Enterohepatic circulation: physiological, pharmacokinetic and clinical implications(Clinical Pharmacokinetics・2002)抄録(PMID 12162761)で確認した。全文は取得できていない。腸肝循環は胆汁排泄と腸管での再吸収(肝での抱合と腸内細菌による脱抱合を伴うことがある)により生じ、血漿中濃度-時間プロファイルで多峰性のピークや見かけの半減期延長として現れること。胆汁排泄を左右する因子として薬物の性質(化学構造・極性・分子サイズ)、類洞側膜および毛細胆管膜での輸送、生体内変換、肝内胆管からの再吸収の可能性を挙げること。腸肝循環を完結させる腸管での再吸収は抱合体が腸内細菌により加水分解されるかどうかに依存しうること。バイオアベイラビリティは腸管吸収の程度・腸管壁のP糖タンパク質による排出・腸管壁代謝にも左右されること。一般に腸肝循環は一部の薬物とその代謝物の薬理作用を延長しうること。とくに重要な点として、腸肝循環のばらつきがその化合物のバイオアベイラビリティ・見かけの分布容積・クリアランスの個人差を増幅しうること。遺伝的異常・疾患・経口吸着薬・一部の併用薬が腸肝循環に影響すること閲覧 2026-08-27
  2. 2.Position Paper on urine alkalinization(American Academy of Clinical Toxicology / European Association of Poisons Centres and Clinical Toxicologists・2004)抄録(PMID 15083932)で確認した。全文は取得できていない。尿アルカリ化を「重炭酸ナトリウムの静注により尿pHを7.5以上にして毒物の排泄を増やす治療法」と定義し、逐語で「The term urine alkalinization emphasizes that urine pH manipulation rather than a diuresis is the prime objective of treatment; the terms forced alkaline diuresis and alkaline diuresis should therefore be discontinued.」として「強制アルカリ利尿」「アルカリ利尿」という用語の使用をやめるべきだとしている。尿中排泄が増えるものとしてクロルプロパミド、2,4-ジクロロフェノキシ酢酸、ジフルニサル、フッ化物、メコプロップ、メトトレキサート、フェノバルビタール、サリチル酸の8つを挙げる。血液透析の適応基準を満たさない中等度以上のサリチル酸中毒には第一選択治療として考慮すべき(should be considered as first line treatment)とする一方、フェノバルビタール中毒では多回投与活性炭のほうが優れるため第一選択としては推奨できないとする。クロルプロパミド中毒ではブドウ糖輸液を含む支持療法でほぼ常に十分、重症の2,4-ジクロロフェノキシ酢酸・メコプロップ中毒では尿アルカリ化に加えて約600 mL/時の高い尿流量も考慮すべき、メトトレキサート毒性では臨床で用いられているが支持する研究は現時点で1件のみ、ジフルニサルでは排泄は増えるが中毒での有用性は乏しい、フッ化物ではボランティア試験が排泄増加を強く示唆するが臨床研究では未確認、としている。合併症は低カリウム血症が最も多くカリウム補充で是正できること、アルカローシス性テタニーは時にみられるが低カルシウム血症はまれなこと、血液pHが7.70近くまで上昇した記録があること、数時間程度の短時間のアルカリ血症が正常者や冠動脈・脳動脈疾患を有する者の生命を脅かすという証拠はないことを挙げる閲覧 2026-08-27