薬理学

薬理学 · Core31

特殊集団-薬物相互作用:妊娠

Core31: Special groups - drug interactions: pregnancy

前提:病態
Core13:薬物の分布Core16:薬物代謝(生体内変換)の相Core17:薬物の排泄
前提:正常
妊娠・分娩・授乳の内分泌学
応用トピック
妊娠中の双極性障害とてんかんの薬物療法プロゲスチン・抗プロゲスチン薬・避妊薬甲状腺・抗甲状腺薬・下垂体ホルモン・視床下部ホルモン及びその類似体・拮抗薬膵ホルモンおよび注射用抗糖尿病薬経口血糖降下薬血液凝固に作用する薬II:抗凝固薬平滑筋作用薬・子宮収縮作用薬免疫薬理学I(細胞傷害性薬)抗がん薬I(代謝拮抗薬)レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系(RAAS)作用薬抗菌薬選択の考慮事項:妊娠・小児
薬剤
サリドマイド

🧠 全体像:妊婦への処方で考えるのは、・催奇形性・周産期の作用・より安全な代替薬の4点である。この4点は次の順に展開する——①母体のが妊娠で変わる(循環血液量↑・↑・蛋白結合↓・・活性が酵素ごとに逆向きに動く)、②胎盤を越えるかどうかは分子の性質で決まる(脂溶性・分子量・・蛋白結合)、③同じ薬でも曝露の時期で害の種類が変わる(全か無か→構造奇形→出生後に現れる機能障害)、④だから「避ける薬」と対になる「使える代替薬」を必ず持っておく。母体の病気を治療しないこと自体が胎児の害になるからである。かつて暗記させられたA〜Xの文字カテゴリーは、この4つのどれも表現できないという理由で米国では撤廃された。

妊娠中の処方で問うべき4つのこと

問い 何を見るか どこで扱うか
母体の血中濃度はどう動くか 循環血液量・・肝血流・蛋白結合・との活性 下記「母体の」
胎児に届くか 分子量・脂溶性・・蛋白結合・胎盤の輸送体 下記「胎盤を越えるか」
届いたとき何が起きるか 曝露の時期(全か無かの時期・・) 下記「時期が最大の規定因子」
治療しない害はどれくらいか 母体疾患そのもののリスク(、甲状腺機能亢進症、高血糖) 下記「禁忌薬と代替薬」
  • ⚠️ 多くの薬は胎盤を通過し、胎児に影響しうる。 起こりうる害は2種類に分かれる。
    • 催奇形性——への悪影響でを生じる。古典例が/である。
    • 周産期の——子宮内での発生は必ずしも変えないが、出生後に害を起こす。例:による。
  • 💡 もを変える。 は経口・非経口より母体と胎児のが少ない1。で外用と全身投与の扱いが分かれるのはこのためである。

母体の薬物動態は妊娠で変わる

過程 妊娠で起きること 帰結
吸収 プロゲステロンによる胃平滑筋の変化でが遅延。胃内pHがアルカリ側へ上がる 塩基性薬(、)の吸収↓、酸性薬(、フェニトイン)の吸収↑。ただしでは大半ののは変わらないと報告されている
吸収(非経口・吸入) 筋血流・心拍出量・呼吸数・の増加 筋注・の吸収が速まる
分布 循環血液量が約50%増加しが希釈される。体重と脂肪量も増える 蛋白結合↓(遊離型分画↑)、多くの薬で↑ → とピーク/比が変わる
代謝 ・CYP2C19は活性が低下。・CYP3A5・・CYP2E1・UGT1A4・UGT2B7は上昇。肝血流は約50〜60%増加 の基質は蓄積しうる。上昇側の基質は血中濃度が下がり無効域へ落ちうる。肝抽出率の高い薬(、、、)は肝でクリアランス↑
排泄 ・・が30〜50%増加。の輸送体活性も上がる 型薬のクリアランス↑。第2・に血中濃度が下がり、用量を上げないと無効になる薬がある

すべて2。

  • ⭐ の動く向きは酵素ごとに逆である。 はクリアランスで測ると妊娠14〜18週に約30%、24〜28週に50%、36〜40週に65〜70%と進行性に低下する2。同じ妊婦の体内で、ある薬は溜まり、別の薬は薄まっている。
  • 💡 「妊娠中は薬を減らす」は誤った一般化である。 が増えが上がり多くの酵素活性も上がるので、・のように妊娠中は増量して濃度を保つ薬のほうが多い。モニタリングできる薬は濃度を測る。
flowchart TD
    A["妊娠"] --> B["循環血液量 +約50%<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='plasma proteins'>血漿蛋白</span>の希釈"]
    A --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='glomerular filtration rate, GFR'>糸球体濾過量</span> +30〜50%<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='renal blood flow'>腎血流</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='tubular secretion'>尿細管分泌</span>↑"]
    A --> D["肝血流 +50〜60%"]
    A --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cytochrome P450'>CYP</span>活性が酵素ごとに逆向きに変化"]
    B --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='volume of distribution'>分布容積</span>↑・遊離型分画↑<br>総濃度は下がりやすい"]
    C --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='renal excretion (renal elimination)'>腎排泄</span>型薬のクリアランス↑"]
    D --> H["肝抽出率の高い薬のクリアランス↑"]
    E --> I["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cytochrome P450 3A4'>CYP3A4</span>・2D6・2E1・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='UDP-glucuronosyltransferase'>UGT</span>の基質は濃度↓"]
    E --> J["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cytochrome P450 1A2'>CYP1A2</span>・2C19の基質は濃度↑"]
    F --> K["第2・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='third trimester'>第3三半期</span>に<br>有効濃度を割り込む薬がある"]
    G --> K
    H --> K
    I --> K
    J --> L["同じ妊婦で蓄積しうる薬もある"]

胎盤を越えるか

胎盤を越える経路はと輸送体を介した能動輸送の2つで、の量は分子の性質で決まる3。バリアとしての胎盤の一般則(脂溶性が高いほど通過しやすい、分子量が小さいほど通過しやすい)は Core13:薬物の分布 が正典として扱う。

因子 通過を増やす向き
脂溶性 高いほど通りやすい
分子量 小さいほど通りやすい。大きい薬はクリアランス指数が低く、通過が部分的にとどまる
が通る
水素結合能 多いほど通りにくい
非結合型だけが通るので、結合が強いほど通りにくい。妊娠では母体のが下がるため、遊離型が増えて移行がむしろ高まりうる
胎盤の輸送体 の側・基底膜側にある取り込み/排出輸送体が、分子の性質とは独立に移行量を決める
  • ⚠️ の。 胎児血漿と羊水は母体血漿よりわずかに酸性である。の薬はでして膜を戻れなくなるために溜まり、胎児のが母体血漿を上回ることがある3。胎児がアシドーシスに陥るほどこの勾配は強まるので、胎児仮死の状況でこそ蓄積が進む。の機序そのものは Core12: が正典である。
  • 💡 「胎盤は関門である」という言い方は誤解を招く。 胎盤は選択的に通す膜であって遮断壁ではない。しかも妊娠が進むと層が部分的に消えてバリアが薄く狭くなるため、満期胎盤と早産胎盤では移行の程度が同じではない3。

時期が最大の規定因子

⭐ 薬が胎児に影響するかどうか、そしてどう影響するかを決める最大の因子は曝露の時期である1。

時期 からの週数 何が起きるか
全か無かの時期 2〜4週(受精後2週まで) は未分化な分裂細胞の塊でとの接触も乏しい。曝露は流産に至るか、まったく影響しないかのどちらかで、奇形は一般に起こさないとされる
期() 4〜11週 最も危険な時期。構造奇形(、、)と流産のリスクが最大になる
11週〜出生 奇形は起こさないが、低酸素・血管収縮・低血圧・などを介して形成済みの臓器を障害する。多くは薬の既知のそのものによる

すべて1。

  • ⭐ 催奇形性は「期間」ではなく「窓」で働く。 ほとんどの催奇形性薬は比較的短い時間帯にだけ効く。のはから34〜49日の曝露で生じた1。
  • ⚠️ 週数の数え方が2通りあることが混乱のもとになる。 発生学は受精からの日数で書き、臨床はから数える(その差は約2週)。上の表は基準である。
  • 💡 時期の枠組みで読むと、同じ薬の扱いが説明できる。 阻害薬との胎児腎障害・頭蓋形成不全は第1三半期より後の曝露で問題になり、の動脈管早期閉鎖もの話である。逆にメトトレキサート・はが勝負になる。
flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='drug exposure'>薬物曝露</span>"] --> B{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='final menstrual period, FMP'>最終月経</span>からの週数は"}
    B -->|"2〜4週"| C["全か無かの時期<br>流産するか影響しないか"]
    B -->|"4〜11週"| D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='organogenesis'>器官形成期</span><br>構造奇形・流産のリスク最大"]
    B -->|"11週〜出生"| E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='fetal period'>胎児期</span><br>奇形ではなく機能障害・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='growth failure'>成長障害</span>"]
    D --> F["例:<span class='jp-term jp-term-diagram' title='thalidomide'>サリドマイド</span>の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='limb loss'>四肢欠損</span>は<br>34〜49日の曝露で生じた"]
    E --> G["例:<span class='jp-term jp-term-diagram' title='angiotensin-converting enzyme'>ACE</span>阻害薬・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='angiotensin II receptor blocker'>ARB</span>の胎児腎障害<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='nonsteroidal anti-inflammatory drug'>NSAID</span>による動脈管早期閉鎖"]

妊娠カテゴリー——廃止された枠組みと、残っている枠組み

下の表はかつて米国で使われていたの文字カテゴリーである。米国では2015年6月30日施行のPLLR(妊娠・授乳ラベリング規則)により撤廃されたが、試験で問われうるうえ、他国には別の文字体系が現存するので残してある。

カテゴリー 意味 例
A 妊婦でので胎児リスクが示されない
B 動物試験で有害性なし。ヒトデータは不十分 、アモキシシリン
C 十分な動物/ヒト研究がない 、外用
D ヒトデータで胎児リスクあり。ただしがリスクを上回ることがある ドキシサイクリン、
X 妊娠中または妊娠可能性がある場合は禁忌 メトトレキサート、全身性

米国で撤廃された理由は「古いから」ではない

  • ⚠️ 使い方を誤らせるから撤廃された。 は最終規則で、カテゴリーは「confusing で、胎児リスクの程度の違いを正確かつ一貫して伝えられていない」、そして臨床医がカテゴリーの根拠になった情報を理解せずカテゴリーの文字だけで処方判断をしていたと述べている4。置き換え先は「妊娠」「授乳」「生殖可能な女性および男性」の3節からなる叙述形式で、妊娠の節は妊娠曝露レジストリ・背景リスク・胎児リスクの要約・臨床上の考慮事項・データの順に並ぶ4。
  • ⚠️ 移行は一夜にして起きたのではない。 2001年6月30日より前に承認された申請は施行から3年以内にカテゴリー表示を削除し、PLR様式の対象となる申請は新様式の改訂添付文書を提出する時点まで削除を要しないという段階的実施である4。実際、本ノートが引用しているの2015年掲載の添付文書には、まだ「Pregnancy Category D.」と印字されている5。古い文書にカテゴリーが残っていること自体は矛盾ではない。

豪州は別の文字体系を今も使っている

  • ⚠️ 文字カテゴリー制度は世界からは消えていない。しかし国ごとに文字も割り当ても違う。 豪州のADEC(現TGA)の分類は A・B1・B2・B3・C・D・X の7区分で、現在も使われている1。Bが3つに分かれている点だけを見ても米国の旧分類とは別物で、文字が同じでも同じ意味ではない。国をまたいで読み替えてはならない。

どの文字体系にも共通する限界

💡 文字カテゴリーそのものに次の3つの限界がある1。

  • 序列に見えるが序列ではない——「カテゴリーBの薬がカテゴリーCの薬より安全とは限らない」と明記されている。
  • 妊娠の時期を考慮していない——上で見たとおり、時期こそが最大の規定因子である。
  • 授乳には当てはまらない——授乳中の安全性は別の情報である。

禁忌薬と代替薬

適応 避ける薬 理由 代替薬
発熱/痛み/炎症 阻害薬:、
抗凝固 ワルファリン 催奇形性、 低分子ヘパリン(など)
高血圧 阻害薬(など)、 胎児腎/ 、
スタチン 催奇形性
と潜在的有害性 インスリン
甲状腺機能亢進症 催奇形性 (第1三半期)
てんかん バルプロ酸 催奇形性 、
  • ⚠️ 母体疾患を治療しない害を計算に入れる。 、甲状腺機能亢進症、重症高血圧、高血糖は、いずれも治療しないこと自体が胎児のリスクになる。「妊娠したので薬をやめる」という判断は、しばしば薬を続ける判断より危険である。

甲状腺機能亢進症は三半期ごとに薬を入れ替える

💡 「に切り替えて終わり」ではない。 の添付文書はで重篤な肝障害・(を要した例、致死例を含む)をし、に耐えられない患者や・手術が適さない患者に限って使う薬と位置づけたうえで、同じ文書の中で「は無頭蓋症・のような稀な胎児異常と関連しうるので、である第1三半期にはが望ましい場合がある」「の(肝毒性)を考えると、第2・にはへ切り替えるほうが望ましい場合がある」と書き分けている5(後者について 2016は推奨を出していない。下記)。表の「代替薬=」は第1三半期の話である。

💡 自体も胎盤を通過する。 同じ添付文書は、が胎盤を容易に通過して胎児に甲状腺腫やを起こしうるため、十分だが過剰でない用量にとどめるよう求めている5。妊娠が進むと母体の甲状腺機能異常が軽くなることが多く、減量や中止が可能になる例もある。

💡 観察研究のも第1三半期のを支持する。 13件のを統合した系統的レビュー・(の解析は10研究・児20,581例)は、のほうがのリスクが高いと報告している(はを前に置いた向きで0.80、95%CI 0.69-0.92)6。一方で、妊娠途中でからへ切り替える運用が、継続と比べてを減らすという結果は得られていない(4研究、1.18、95%CI 1.00-1.40、P=0.061で有意差なし)6。肝毒性と流産の頻度も両薬で有意差はなかった。⚠️ いずれもされていない観察研究の統合なので、適応による(重症例ほどどちらかの薬に偏る)は残る。

妊娠糖尿病でメトホルミンをどう扱うか

💡 「は避けインスリンへ」も、については評価が動いている。 の女性751例を妊娠20〜33週にしたMiG試験では、群(46.3%がを要した)とインスリン群で新生児合併症の複合転帰に有意差はなく(32.0%対32.2%、0.99、95%CI 0.80-1.23)、に関連する重篤な有害事象も認めなかった7。⚠️ この試験が組み入れたのは妊娠20〜33週の女性であり、の曝露については何も述べていない。

⚠️ ただしは胎盤を通過し、の濃度がを上回ることがある。 分娩時に中濃度を測った臨床研究の報告では、/母体血漿濃度比は0.7〜3の幅にある8。「胎児にはほとんど届かないから安全」という説明は成り立たない。

子宮に働く薬

目的 薬 機序
() (β2作動薬) を介したの弛緩
同上
同上 カルシウム拮抗的な平滑筋弛緩(子癇予防・胎児の目的でも使う)
子宮収縮の誘発(・流産/) オキシトシン オキシトシン受容体刺激
同上 類似体による熟化と収縮

まとめ

  • 妊娠中の処方は、母体のの変化・・曝露時期・治療しない害の4つを同時に見る。
  • :循環血液量が約50%増えて蛋白結合が下がり、が30〜50%、肝血流が50〜60%増える。・・CYP2E1・は活性が上がり、とCYP2C19は下がる2。多くの薬は第2・に濃度が下がるので、「妊娠中は一律に減量」は誤りである。
  • 胎盤:を決めるのは脂溶性・分子量・・水素結合能・蛋白結合で、非結合型だけが通る。輸送体も独立に効く3。
  • ⚠️ 胎児血漿は母体血漿よりわずかに酸性なので、薬はでに蓄積し、母体濃度を上回ることがある3。
  • 時期:全か無かの時期(から2〜4週)→ (4〜11週、構造奇形のリスク最大)→ (11週以降、機能障害)。のは34〜49日の窓で生じた1。
  • 文字カテゴリー:米国のA〜Xは2015年6月30日施行のPLLRで撤廃され、3節からなる叙述形式へ置き換わった。理由は「胎児リスクの程度の違いを正確かつ一貫して伝えられない」ことである4。豪州はA・B1・B2・B3・C・D・Xの別体系を今も使っており、文字が同じでも意味は同じではない1。
  • 禁忌薬の暗記の軸:ワルファリン/阻害薬・/スタチン/バルプロ酸が避ける側、//・/インスリンが安全側の定番。
  • 甲状腺機能亢進症では、米国の添付文書が第1三半期はが望ましい場合があり、肝毒性を理由に第2・はへ切り替えるほうが望ましい場合があると書く5。一方 2016は、第1三半期は・それより後に開始するならとしたうえで、第1三半期にを使った妊婦をに切り替えるか続けるかには推奨を出していない(根拠不十分)9。

出典

  1. 1.Drug safety in pregnancy(Australian Prescriber(Aust Prescr 2025;48(1):5-9)・2025)全文(PMC11875727、CC BY-NC-ND)を取得して確認した。逐語で「Gestational timing is the most important factor in determining whether a drug will affect a developing fetus」とし、時期を全か無かの時期(受精後2週まで=最終月経から2〜4週)・胎芽期=器官形成期(最終月経から4〜11週)・胎児期(最終月経から11週以降)に分ける。器官形成期は「the most critical period」で構造奇形と流産のリスクが最も高く、サリドマイドの四肢欠損は「exposure between 34 and 49 days post-LMP」で生じた。胎児期の曝露は奇形ではなく、低酸素・血管収縮・低血圧・羊水過少などを介して形成済みの臓器を障害する。時期以外の規定因子として用量・投与経路(外用は経口・非経口より母体および胎児の全身曝露が少ない)・母児の薬理遺伝学・胎盤通過量(分子量とイオン化に左右される)を挙げる。豪州の分類は逐語で「The Australian categories for prescribing medicines in pregnancy (A, B1, B2, B3, C, D, X) were established by the ADEC and are still in use today」であり、その限界として「the A to X categorisation is overly simplistic and may misleadingly imply there is a hierarchy of risk. For example, a drug labelled category B is not necessarily safer than a drug labelled category C」「the categories do not consider the timing of pregnancy. Furthermore, they are not relevant for breastfeeding」と述べる。米国については「the FDA abandoned their A to X categorisation in 2015 in favour of a descriptive labelling system」閲覧 2026-09-22
  2. 2.Physiologic Changes During Pregnancy and Impact on Small-Molecule Drugs, Biologic (Monoclonal Antibody) Disposition, and Response(The Journal of Clinical Pharmacology(J Clin Pharmacol 2023;63 Suppl 1)・2023)全文(PMC10365893、CC BY-NC)を取得して確認した。吸収についてはプロゲステロンによる胃平滑筋の変化で胃排出が遅延し、胃内pHがアルカリ側へ上がるため塩基性薬(アンフェタミン、メサドン)の吸収が減り酸性薬(アスピリン、フェニトイン)の吸収が増えること、ただし反復投与では大半の経口薬の生物学的利用能と治療効果は妊娠による消化管変化の影響を受けないと報告されていること、筋血流と心拍出量の増加により非経口投与の吸収は増えることを述べる。分布については循環血液量が約50%増え、血漿蛋白が希釈されて蛋白結合が低下し、体重と脂肪量の増加により多くの薬の分布容積が増えること。代謝についてはCYP1A2とCYP2C19の基質のクリアランスが妊娠中に低下し(CYP1A2活性はカフェインクリアランスで妊娠14〜18週に約30%、24〜28週に50%、36〜40週に65〜70%低下する)、CYP3A4・CYP3A5・CYP2D6・CYP2E1・UGT1A4・UGT2B7の活性は一般に上昇して基質の血中濃度が下がること、肝血流が約50〜60%増えるため肝抽出率の高い薬(リドカイン、シクロスポリン、メチルプレドニゾロン、プロプラノロール)の肝クリアランスが上がること。排泄については腎血流・腎血漿流量・糸球体濾過量が30〜50%増えて大半の薬と代謝物の排泄が増え、多くの薬は第2・第3三半期に血中濃度が下がり用量調節を要すること閲覧 2026-09-22
  3. 3.Fetus Exposure to Drugs and Chemicals: A Holistic Overview on the Assessment of Their Transport and Metabolism across the Human Placental Barrier(Diseases(MDPI)・2024)全文(PMC11202568、CC BY)を取得して確認した。胎盤を越える経路は受動拡散と輸送体を介した能動輸送の2つで、受動拡散の規定因子は逐語で「lipophilicity, ionization, hydrogen bonding, and molecular weight」であり、分子量が大きい薬はクリアランス指数が低く通過が部分的にとどまること、血漿蛋白結合は非結合型だけが通過するため通過を減らすこと、合胞体栄養膜の刷子縁側・基底膜側にある排出/取り込み輸送体が関与することを述べる。イオントラッピングについては逐語で「fetal plasma and amniotic fluid tend to be slightly more acidic than maternal plasma」「the accumulation of basic drugs due to ion trapping may often result in fetal drug concentrations that exceed maternal plasma concentrations, leading to fetotoxic effects」とある。母体側のアルブミン結合の低下は非結合型分画を増やし受動拡散による胎盤移行を高めうること、妊娠経過に伴う胎盤バリアの厚さと表面積の減少(細胞栄養膜層の部分的消失)により満期胎盤と早産胎盤で移行が同等ではないことも述べる閲覧 2026-09-22
  4. 4.Content and Format of Labeling for Human Prescription Drug and Biological Products; Requirements for Pregnancy and Lactation Labeling(U.S. Food and Drug Administration (Federal Register)・2014)全文(79 FR 72064、2014年12月4日公布、施行日2015年6月30日)を取得して確認した。逐語で「the final rule requires the removal of the pregnancy categories A, B, C, D, and X from all human prescription drug and biological product labeling」とあり、撤廃の理由は「the pregnancy categories were confusing and did not accurately and consistently communicate differences in degrees of fetal risk」「prescribing decisions were being made based on the pregnancy category, rather than an understanding of the underlying information」である。置き換え先は「Pregnancy」「Lactation」「Females and Males of Reproductive Potential」の3節で、妊娠の節は妊娠曝露レジストリ・背景リスクの一般記述・胎児リスクの要約・臨床上の考慮事項・データの順に置く。実施は段階的で、PLR様式の対象外(2001年6月30日より前に承認)の申請は施行から3年以内にカテゴリー表示を削除し、PLR対象の申請は新様式の改訂添付文書を提出する時点まで削除を要しない閲覧 2026-09-22
  5. 5.PROPYLTHIOURACIL TABLETS, USP - Prescribing Information(U.S. Food and Drug Administration・2015)PDF全文(12頁、Reference ID 3699805)を取得して確認した。枠組み警告の逐語は「Severe liver injury and acute liver failure, in some cases fatal, have been reported in patients treated with propylthiouracil. These reports of hepatic reactions include cases requiring liver transplantation in adult and pediatric patients. Propylthiouracil should be reserved for patients who can not tolerate methimazole and in whom radioactive iodine therapy or surgery are not appropriate treatments」であり、続けて「Because of the risk of fetal abnormalities associated with methimazole, propylthiouracil may be the treatment of choice when an antithyroid drug is indicated during or just prior to the first trimester of pregnancy」とする。PRECAUTIONSのPregnancyには逐語で「Since methimazole may be associated with the rare development of fetal abnormalities such as aplasia cutis and choanal atresia, propylthiouracil may be the preferred agent during organogenesis, in the first trimester of pregnancy. Given the potential maternal adverse effects of propylthiouracil (e.g., hepatotoxicity), it may be preferable to switch from propylthiouracil to methimazole for the second and third trimesters.」とあり、プロピルチオウラシル自体も胎盤を通過して胎児に甲状腺腫・クレチン症を起こしうるため必要十分量にとどめるよう求めている。⭐ この2015年掲載の文書は同じ節の末尾に「Pregnancy Category D.」という文字カテゴリー表示をまだ載せている閲覧 2026-09-22
  6. 6.Comparison of the safety between propylthiouracil and methimazole with hyperthyroidism in pregnancy: A systematic review and meta-analysis(PLoS One・2023)全文(PMC10198569、CC BY)を取得して確認した。組み入れられたのは13件の**コホート研究**で、先天奇形の解析は10研究・児20,581例。逐語は「Compared with women treated with propylthiouracil, women exposed to methimazole had a higher risk of congenital anomalies (OR 0.80, 95%CI 0.69-0.92, P = 0.002)」で、図2の題も「Forest plots of showing the effects of PTU vs MMI on congenital anomalies」=オッズ比はプロピルチオウラシルを前に置いた向きの値である。妊娠中の切り替えは4研究で評価され「no significant difference in the incidence of congenital abnormality risk among those who switched between MMI and PTU compared with those who received PTU alone (OR 1.18, 95%CI 1.00-1.40, P = 0.061)」=有意差なし。肝毒性(OR 1.54、95%CI 0.77-3.09)と流産(OR 0.89、95%CI 0.72-1.11)も両薬で有意差はなかった閲覧 2026-09-22
  7. 7.Metformin versus insulin for the treatment of gestational diabetes(The New England Journal of Medicine・2008)抄録で確認した(全文は未取得)。MiG試験は妊娠糖尿病の女性751例を**妊娠20〜33週**に無作為化した非盲検試験で、主要評価項目は新生児低血糖・呼吸窮迫・光線療法の必要・分娩損傷・5分Apgar 7未満・早産の複合。メトホルミン群363例のうち92.6%が分娩まで継続し46.3%が追加インスリンを要した。複合転帰はメトホルミン群32.0%対インスリン群32.2%(相対危険度0.99、95%CI 0.80-1.23)で、逐語で「There were no serious adverse events associated with the use of metformin」。割り付け治療をもう一度選びたいと答えた割合はメトホルミン群76.6%対インスリン群27.2%(P<0.001)閲覧 2026-09-22
  8. 8.Comparison of Metformin PBPK Models Incorporating Placental Transfer to Predict Fetal and Maternal Exposure(CPT: Pharmacometrics & Systems Pharmacology・2026)全文(PMC12823317)を取得して確認した。緒言が既報の臨床研究をまとめて逐語で「Clinical studies that collected metformin umbilical cord plasma concentrations (UCCs) at delivery have reported UCC to maternal plasma concentration (MPC) ratios in the range of 0.7-3」と述べており、胎児側が母体側を上回る報告もある。メトホルミンは複数の輸送体(OCT1-3、MATE1、MATE2、PMAT、OCTN1/2、SERT、THTR2)の基質で、この論文自身のPBPKモデルでは受動拡散に加えて輸送体クリアランスを組み込んだ手法が観測値を最もよく再現した(92%が予測分布の5〜95パーセンタイル内)。⚠️ 0.7〜3という範囲はこの論文自身の測定ではなく、引用している6件の臨床研究の要約である閲覧 2026-09-22
  9. 9.2016 American Thyroid Association Guidelines for Diagnosis and Management of Hyperthyroidism and Other Causes of Thyrotoxicosis(American Thyroid Association・2016)全文(出版社PDFのWayback保存版、2020-03-07取得分)で確認した。推奨80は妊娠第1三半期に抗甲状腺薬を用いるならPTU、第1三半期より後に開始するならMMIを用いるとする(強い推奨・エビデンスの質は低)。推奨88は、第1三半期にPTUを用いた妊婦は第2三半期の初めにMMIへ切り替えても、抗甲状腺薬が要るなら残りの妊娠期間をPTUで続けてもよいとし、利益と危険を評価する根拠が不十分なため推奨なし(No recommendation)とする。そのうえで、PTUの副作用の危険を、PTUで安定している妊婦に切り替えが一時的な甲状腺機能異常を招く危険と比べて考えるべきだとする。閲覧 2026-09-24