薬理学

薬理学 · Core16

薬物代謝(生体内変換)の相

Core16: Phases of drug biotransformation

前提:正常
生体内変換反応の特徴と分類(第I相・第II相)ファーマコゲノミクスとニュートリゲノミクス
応用トピック
線形・非線形薬物動態クリアランス酵素誘導薬酵素阻害薬薬物動態学的相互作用:代謝レベル特殊集団-薬物相互作用:妊娠特殊集団-薬物相互作用:小児抗菌薬選択の考慮事項:併存疾患解毒薬:定義と例薬理遺伝学・薬理ゲノム学:定義と例薬剤性有害反応:肝毒性

🧠 全体像:()は、脂溶性の高い薬物をより極性が高くの代謝物へ変えて排泄しやすくする反応の総称である。反応は2つの相に分けられ、第I相=酸化・還元・加水分解で分子にを付けるか露出させ、第II相=抱合でそこに極性の大きい基を結合させる。⚠️ ただし「代謝=解毒」ではない。同じ反応が、薬を効かなくすることも、を活性化することも、を生むこともある——の肝毒性はまさにこの分岐から生じる。

生体内変換とは何か

  • = 体内に入った物質を酵素的に化学変換すること。
  • 主目的は、分子をより極性・の高い形へ変え、腎や胆汁から排泄されやすくすることである。
  • 主な場は肝だが、消化管・腎・肺・皮膚にも酵素は存在する。

💡 なぜ極性を上げる必要があるのか。 脂溶性の高い分子は腎で濾過されても尿細管から受動的に再吸収されてしまい、いつまでも体内に留まる。極性を上げるというのは「再吸収されない形にする」ことであり、代謝と排泄は一続きの話である(→ Core17:薬物の排泄)。

生体内変換が生む4つの帰結

帰結 意味 例
不活性化 を失い、そのまま排泄される (のみで代謝されをもたない)
代謝物もをもつ → ()/ → 1-ヒドロキシ
の活性化 代謝を受けてはじめて活性体になる → 、 → (いずれも肝でのエステル加水分解=第I相)
反応性の高い有害な中間体が生じる → ()

⚠️ 「がある/ない」は臓器障害のある患者でそのまま臨床判断になる。 代謝物が活性をもつ薬は、その代謝物の消失が遅れる病態(腎障害・高齢)で作用が遷延する。ではのが腎不全で蓄積して覚醒が遅れるのに対し、にはこの問題がない。

プロドラッグ:代謝されて初めて効く

は、それ自体は不活性か活性が低く、体内で代謝されて活性体に変わることを前提に設計された薬である。したがって「代謝を阻害する=効果が落ちる」という、通常の薬とは逆向きの相互作用が成り立つ(→ Core24:薬)。

  • 阻害薬の多くは肝でのエステル加水分解を受けて活性体(〜プリラト)になる。
  • はによるO-でモルヒネへ変換されてはじめて鎮痛作用を示すので、のがそのまま効き方を決める(→ 下の「の」)。

毒性代謝物:パラセタモールとNAPQI

は「第I相と第II相の綱引き」を最もよく示す教材である。英国のは代謝経路を次のように記述している1。

  • 肝で90〜95%が代謝され、主に・体として尿中に排泄される(未変化体としての排泄は5%未満)=第II相が主経路。
  • ごく一部が肝の(=第I相)により()へ酸化される。
  • は通常、肝のとの抱合(=第II相)で速やかに無毒化される。
  • ではが蓄積し、肝障害を起こす。

⚠️ 毒性の引き金は2つあり、どちらも「相のバランス」の話である。 同のの項は、成人では10 g以上で肝障害が起こりうるとする一方、次の危険因子があれば5 g以上でも肝障害に至りうるとしている1。

危険因子 相のどこが動くか
カルバマゼピン・・フェニトイン・・リファンピシン・などを誘導する薬剤の長期投与 第I相が亢進し、の産生量が増える
推奨量を超える常習的なエタノール摂取 同上(加えて備蓄の低下)
摂食障害・嚢胞性線維症・感染症・・などが枯渇しやすい状態 第II相の解毒能が落ちる

危険因子の3項目はが列挙しているものだが、右列の「相のどこが動くか」は本ノート側の整理であって、同文書がそう説明しているわけではない。

  • ⚠️ 腎障害は肝障害の「おまけ」ではない。 同§は、を伴うが、重度の肝障害がなくても生じうると明記している(側腹部痛・血尿・蛋白尿が手がかり)1。
  • のはの前駆体を補い、第II相側を立て直す薬である。摂取後24時間まで使用しうるが、最大の保護効果が得られるのは摂取後8時間までとされる1。

💡 が「効かなくする」方向にだけ働くと覚えない。 とでは、誘導はむしろ活性体・毒性体を増やす方向に働く(→ Core23:)。

第I相反応:官能基をつける

第I相は分子に -OH・-COOH・-NH₂・-SH のようなを導入する、または覆いを外して露出させる反応である。

  • 主な
    • 酸化(最も多い)
    • 還元
    • 加水分解
  • 生成物は通常、元の薬物より
    • 極性が高い
    • 水溶性が高い
    • 反応性が高い(はこの「反応性が高い」の極端な例である)

ミクロソーム反応 — シトクロムP450

  • 主役はに局在する()で、主部位は肝、ほかに消化管・腎・肺にも存在する。
  • ヒトの機能的は約57種あるが、臨床使用薬の70〜80%の代謝を担うのは、CYP1・CYP2・CYP3ファミリーに属する約12酵素だけである2。
  • 肝での発現量が最も多いのは ・CYP2C9・CYP2C8・CYP2E1・ で、CYP2A6・・CYP2B6・CYP2C19・CYP3A5はそれより少なく、CYP2J2・CYP1A1・CYP1B1は主にで発現する2。

⚠️ 「肝にたくさんある」と「多くの薬を代謝する」は別の量である。 は両方に当てはまるので目立つが、は発現量が少ないのに臨床的な重要性が大きい——多型の影響が強く、・多くの抗うつ薬・抗精神病薬の代謝を担うからである。発現量の順位をへの寄与の順位と読み替えないこと。

非ミクロソーム反応

を介さない第I相反応もある。

  • 加水分解(エステラーゼ・アミダーゼ。阻害薬の活性化がこれ)
  • ()による
  • ・によるエタノール代謝

第II相反応:抱合して送り出す

第II相は、転移酵素が極性の大きいを薬物(または第I相代謝物)に結合させる反応である。

  • 付加される基の例:・硫酸・・・・アミノ酸
  • 主な酵素群3
    • UGT()
    • SULT()
    • NAT(N-)
    • GST()
    • (TPMT=チオプリンS-、=カテコールO-など)
  • ⭐ 寄与が最大なのはによるで、ヒトの臨床使用薬の約40〜70%がこの反応を受けるとされる3。
  • 抱合体は一般に元の化合物よりが高く、脂溶性が低く、排泄されやすい3。

⚠️ 「抱合=不活性化」も例外がある。 (M6G)はモルヒネ自身より強い鎮痛作用をもち、腎障害では蓄積して呼吸抑制の原因になりうる。抱合体だからといって薬理学的に無害だと決めつけない。

「第I相 → 第II相」は必ずしも順番ではない

「相」という名前は反応の種類の区分であって、必ずこの順に起こるという意味ではない。既にをもつ薬物は第I相を飛ばして直接抱合されるし、第I相の産物がそのまま排泄されることもある。

flowchart TD
    A["薬物"] --> B{"極性の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Group'>官能基</span>を<br>既にもっているか"}
    B -->|"もっている"| C["第II相へ直行<br>(抱合)"]
    B -->|"もっていない"| D["第I相<br>酸化・還元・加水分解で<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='Group'>官能基</span>を導入・露出"]
    D --> E["第II相<br>抱合"]
    D --> F["第I相産物のまま排泄<br>(十分に極性が上がった場合)"]
    C --> G["排泄(尿・胆汁)"]
    E --> G
    F --> G
    D -.->|"反応性の高い中間体が<br>生じた場合"| H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='glutathione conjugation'>グルタチオン抱合</span>で<br>無毒化されなければ毒性"]
  • 第II相直行の例:は肝で代謝された分の大部分が・体として尿中に出る1。分子が性を既にもっているので、第I相でを作る工程が要らないためである。・・も同様にだけで代謝される。
  • ⭐ だからこそでは、第II相の主経路が飽和したときに第I相(経路)へ流れる量が相対的に増えるという構図が成り立つ。

CYPの遺伝的多型と代謝者表現型

活性には大きながあり、その一部はで説明できる。

  • 多の機能的多型の影響が大きいのは ・CYP2C19・CYP2C9・CYP2B6・CYP3A5・CYP2A6 の6つで、その頻度は民族によって大きく異なる2。
  • これらでは、代謝能に応じて4つの代謝者表現型に分けて論じられる2。
表現型 英語表記 代謝能
poor metabolizer 著しく低い
者 intermediate metabolizer 低い
通常(広範)代謝者 extensive metabolizer 標準
超迅速代謝者 ultrarapid metabolizer 著しく高い
  • ⚠️ 表現型が効き方に及ぼす向きは、「通常の薬」と「」で逆になる。 通常の薬ではで曝露が増えて毒性側へ、超迅速代謝者では曝露が減って無効側へ傾く。(など)ではこれが反転し、超迅速代謝者で活性体が増えすぎることが問題になる。
  • 一方、CYP1A1・・CYP2C8・CYP2E1・CYP2J2・の多型は一般に予測性が低いとされる2。「多型がある=臨床的に効く」ではない。
  • にも臨床的に重要な多型がある(TPMTとチオプリン系薬、NATによるアセチル化の速い/遅い表現型など)3。

まとめ

  • 第I相=(酸化・還元・加水分解)、第II相=抱合。疎水性 → → 排泄、という流れを作るのが目的である。
  • ただし「相」は反応の種類の区分であって順序の規定ではない。既にをもつ薬は第II相へ直行するし、第I相産物がそのまま排泄されることもある。
  • 代謝の帰結は4通り——不活性化・・の活性化・。は代謝されないと効かず、は代謝されるからこそ生じる。
  • 第I相の主役は。ヒトの機能的約57種のうち、CYP1・2・3ファミリーの約12酵素が臨床使用薬の70〜80%の代謝を担う2。肝での発現量の順位(・2C9・2C8・2E1・1A2)と、への寄与の順位は別物である。
  • 第II相で寄与が最大なのはによる(臨床使用薬の約40〜70%)3。ただしのように、抱合体がより活性の高い例がある。
  • は主に第II相(・)で処理され、一部が第I相でとなりで無毒化される1。の併用や枯渇状態では、肝障害の閾値が10 gから5 gへ下がる1。を伴う腎不全は重度の肝障害がなくても起こりうる1。
  • 多型の影響が大きいは2D6・2C19・2C9・2B6・3A5・2A6の6つで、・者・・超迅速代謝者の4表現型に分けられる。頻度は民族によって大きく異なる2。

出典

  1. 1.Paracetamol 500 mg Tablets - Summary of Product Characteristics(Zentiva Pharma UK Limited(英国 emc、PL 17780/0069)・2025)英国の製品概要の全文を取得して照合した。§10の改訂表示は「Date of revision of the text 24/01/2025」。§5.2は逐語で「It is metabolised in the liver (90-95%) and excreted in the urine mainly as the glucuronide and sulphate conjugates. Less than 5% is excreted as unchanged paracetamol.」とし、続けて「A minor hydroxylated metabolite (N-acetyl-p-benzoquinoneimine) which is usually produced in very small amounts by mixed-function oxidases in the liver and which is usually detoxified by conjugation with liver glutathione may accumulate following paracetamol overdosage and cause liver damage.」と述べる。§4.9は、成人で10 g以上の摂取で肝障害が起こりうるとし、危険因子がある場合は5 g以上でも肝障害に至りうるとして、危険因子にカルバマゼピン・フェノバルビタール・フェニトイン・プリミドン・リファンピシン・セイヨウオトギリソウなど肝酵素を誘導する薬剤の長期投与、推奨量を超える常習的なエタノール摂取、摂食障害・嚢胞性線維症・HIV感染症・飢餓・悪液質などグルタチオンが枯渇しやすい状態の3項目を挙げる。同§は「Acute renal failure with acute tubular necrosis, strongly suggested by loin pain, haematuria and proteinuria may develop even in the absence of severe liver damage.」とも述べる。解毒薬については「Treatment with N-acetylcysteine may be used up to 24 hours after ingestion of paracetamol, however, the maximum protective effect is obtained up to 8 hours post-ingestion.」と記載する。⚠️ 英国の1製品の製品概要であり、他国の添付文書の記載は確認していない閲覧 2026-09-21
  2. 2.Cytochrome P450 enzymes in drug metabolism: regulation of gene expression, enzyme activities, and impact of genetic variation(Pharmacology & Therapeutics・2013)ヒトの機能的CYP約57種のうちCYP1・2・3ファミリーに属する約12酵素が臨床使用薬の70〜80%の代謝に関与すること、CYP2D6・CYP2C19・CYP2C9・CYP2B6・CYP3A5・CYP2A6は多対立遺伝子性の機能的多型の影響が大きく、poor・intermediate・extensive・ultrarapidの4代謝者表現型に分けられること閲覧 2026-08-27
  3. 3.Phase II drug metabolizing enzymes(Biomedical Papers of the Medical Faculty of the University Palacky, Olomouc・2010)第II相薬物代謝酵素は主にUDP-グルクロン酸転移酵素(UGT)・硫酸転移酵素(SULT)・N-アセチル基転移酵素(NAT)・グルタチオンS-転移酵素(GST)・メチル基転移酵素(チオプリンS-メチル転移酵素・カテコールO-メチル転移酵素など)であり、臨床使用薬の代謝に占める寄与はUGTが最大であること。ヒトの臨床使用薬の約40〜70%がUGTによるグルクロン酸抱合を受けること閲覧 2026-08-27