薬理学

薬理学 · Core18

線形・非線形薬物動態

Core18: Linear and non-linear pharmacokinetics

前提:病態
Core16:薬物代謝(生体内変換)の相
前提:正常
酵素の速度論的パラメータの決定
応用トピック
抗てんかん薬・鎮痛補助薬

🧠 全体像:では、用量を2倍にすれば血中濃度も(薬物血中濃度)も2倍になり、クリアランスと半減期は濃度によらず一定である——だから次の濃度が予測できる。では、消失(または吸収)を担う酵素・輸送体が飽和するため比例関係が崩れ、わずかな増量が不釣り合いに大きな濃度上昇を生んでに至りやすい。⚠️ ただし「=」ではない。Michaelis-Menten型の消失は低濃度では一次に近く、濃度が上がるにつれて連続的にゼロ次へ近づく。臨床で危ないのは、その移行が起きている濃度帯で用量を動かしたときである。

線形薬物動態

消失(または吸収)を担う過程が、拡散や濾過のように飽和しないときに成り立つ。担体や酵素を使っていても、臨床で問題になる濃度範囲で飽和に近づかなければ線形に振る舞う。

  • はに比例する(=)。
  • 典型的な濃度-
    • 濃度-は負のになる。
    • 対数濃度-時間プロットではおおむね直線になる。
  • のもとでは
    • クリアランス(CL)は濃度に依存しない(→ Core19:クリアランス)。
    • 半減期も濃度に依存しないので、1つの値として定義できる(→ Core20:半減期)。
    • はに到達したに比例する。
    • ・では、がに比例する。

非線形薬物動態

消失または吸収を担う過程がになると、この比例関係が崩れる。

  • 濃度がKmを超える帯域に入ると、用量と濃度の比例が失われる。
  • 消失は予想より遅くなり、速度は最大値に近づく。
  • のもとでは
    • CLと半減期を一定値として信頼できない。
    • が用量に比べて不釣り合いに大きく増える。
    • で、予想外に高いに達することがある。
    • にはが必要なことが多い。

Michaelis-Menten式:VmaxとKm

飽和する消失は、酵素反応と同じ形の式で書ける。

消失速度 v = Vmax × C / (Km + C) (C=)

記号 定義 読み方
Vmax 酵素・輸送体が完全に飽和したときに到達する最大(量/時間) その薬を1日に処理できる量の上限
Km がVmaxの半分になるときの(Michaelis-Menten定数) 「どのくらいの濃度で飽和が効いてくるか」の目盛り

この式をクリアランスの定義(CL = ÷ 濃度)に当てはめると、

CL = Vmax / (Km + C)

となり、濃度が上がるほどCLが下がることが式から直接読める。でCLが定数扱いできたのは、C ≪ Km でこの式が CL ≈ Vmax/Km という定数に落ちていたからである。

⚠️ 「非線形=ゼロ次」ではない

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='drug concentration (drug level)'>薬物濃度</span> C と Km の関係"] --> B["C が Km よりずっと低い<br>C ≪ Km"]
    A --> C["C が Km と同じくらい<br>C ≈ Km"]
    A --> D["C が Km よりずっと高い<br>C ≫ Km"]
    B --> B1["v ≈ (Vmax/Km) × C<br>速度が濃度に比例する<br>=<span class='jp-term jp-term-diagram' title='first-order kinetics'>一次速度論</span>に近い"]
    C --> C1["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='transformation zone (prostate: transition zone)'>移行帯</span><br>用量を少し変えただけで<br>濃度が大きく動く"]
    D --> D1["v ≈ Vmax<br>速度が濃度によらず一定<br>=<span class='jp-term jp-term-diagram' title='zero-order kinetics'>ゼロ次速度論</span>に近い"]
    B1 --> E["CL = Vmax/(Km+C)<br>C が上がるほど CL は下がる"]
    C1 --> E
    D1 --> E
  • 同じ薬物が、濃度しだいで一次寄りにもゼロ次寄りにも振る舞う。StatPearlsの当該章も、「同一の物質で2つの消失様式のあいだにがありうる」とし、飽和が解けて濃度が一定の水準より下がれば再びが見られると述べている1。
  • ⭐ 臨床で危険なのは、低濃度側でも高濃度側でもなく「」である。 一次の領域なら増量分だけ濃度が上がり、完全にゼロ次の領域ならは頭打ちだと最初から分かっている。治療域がちょうどKmの近くにある薬(フェニトインが典型)では、日常のがそのままをまたぐことになる。

フェニトインで数字を見る

日本人てんかん患者116例(外来112例、年齢15.6±6.6歳=範囲1〜37歳、体重42.4±16.5 kg、フェニトイン1日量200±64 mg)の531点をNONMEMで解析した研究では、典型的な42 kg患者で次の値が推定されている2。

推定値(典型的な42 kg患者)
V 1.23 L/kg(100%と仮定)
Vmax 9.80 mg/日/kg(=42 kgで約412 mg/日)
Km 9.19 μg/mL

⚠️ この値は小児と若年成人が中心の日本人集団のものである。 同論文は、VmaxとVが体重に単純比例せず(体重のべき乗指数0.463)、体重当たりで用量を決めると、とくに小児で血中濃度の予測を大きく誤ると明記している2。成人一般の代表値として使わないこと。

💡 式に代入すると「少し増やすと跳ね上がる」が数字で見える。 定常状態では R がと釣り合うので R = Vmax × Css / (Km + Css)、すなわち Css = Km × R / (Vmax − R) である。上の典型患者(Vmax ≈ 412 mg/日、Km = 9.19 μg/mL)に当てはめると——

1日量 計算されるCss 直前の行からの変化
200 mg/日 約 8.7 μg/mL —
250 mg/日 約 14.2 μg/mL 用量は1.25倍なのに濃度は約1.6倍
300 mg/日 約 24.7 μg/mL 用量は1.5倍なのに濃度は約2.8倍

⚠️ この3つの数値は論文が掲げている値ではなく、論文の集団平均を論文自身のモデル式に代入した計算である。 VmaxとKmのは大きいので、実際の患者の値を予測するものではない。読み取るべきは「用量の増加率より濃度の増加率のほうがはるかに大きい」という形のほうである。

⭐ 併用はKmを動かす。 同解析では併用によりKmが16%上昇すると推定され、同じ用量でのフェニトインの見かけのクリアランスは平均14%低下、は16%上昇した2。著者はこれをによるとしてモデル化している。はKmを上げてVmaxを変えないというの帰結が、そのまま血中濃度の変化として現れた例である(→ Core24:薬)。なお同解析で有意な影響が検出されたのはだけで、カルバマゼピン・バルプロ酸・については有意差が示されていない2。

代表的な非線形の薬物

薬物 飽和するもの ポイント
フェニトイン (CYP2C9・CYP2C19) 治療域がKmの近くにあり、が狭い。増量はに、とともに
エタノール きわめて低い濃度で飽和するため、臨床的に問題になる濃度域ではほぼ一定速度で消失する(=ほぼゼロ次)
() 抱合による代謝 StatPearlsがを示す薬物として名指ししている1。中毒時の排泄促進は Core17:薬物の排泄 のを参照
高用量でになる
メトトレキサート 吸収(消化管の担体) なのは消失側とは限らない。高用量では経口の吸収が頭打ちになるため、やの調整が必要になることがある

StatPearlsの当該章がを示す薬物として挙げているのは、・・・フェニトイン・シスプラチンの5つである1。

💡 が「ゼロ次であることが臨床判断を変える」例として挙げられている。 同章は、自体は鎮静を起こすがおおむね無毒で毒性は代謝物によること、がに従うため「本当の危険は摂取量ではなく摂取からのにある」と読めることを述べている1。⚠️ ただしこれは消失動態の性質を強調した表現であり、実際の治療判断では摂取量・血中濃度・アシドーシスの程度が閾値として使われる(→ )。

線形と非線形の対比

特徴
用量と濃度・ 比例する 不釣り合いに増える
クリアランス 一定(Vmax/Km に相当) 濃度が上がるほど低下(Vmax/(Km+C))
半減期 一定値として定義できる 一つの値として固定できない
濃度- 対数プロットで直線 高濃度域で直線から外れる
増量後の 予測しやすい 高い。が要る

まとめ

  • 線形=予測しやすい。 用量を2倍にすれば濃度もも2倍、CLと半減期は濃度によらず一定で、はに比例する。
  • =飽和+危険。 酵素・輸送体が飽和すると比例が崩れ、CLも半減期も一定値として使えなくなる。
  • Vmax=最大、Km=がVmaxの半分になる濃度。 v = Vmax·C/(Km+C)、したがって CL = Vmax/(Km+C) で、濃度が上がるほどCLが下がる。
  • ⚠️ 「=ゼロ次」ではない。 C ≪ Km では一次に近く、C ≫ Km でゼロ次に近づく連続的な移行であり、同じ薬物が濃度しだいで両方の顔をもつ1。危ないのは治療域がにかかる薬である。
  • フェニトイン:小さな用量変更で血中濃度が大きく変わりうる。 日本人集団の推定値(典型42 kg患者でVmax 9.80 mg/日/kg、Km 9.19 μg/mL)をモデル式に代入すると、1日量を200 mgから250 mgへ25%増やすだけでは約1.6倍になる2。
  • 併用ではKmが16%上昇し、見かけのクリアランスが14%低下、が16%上昇する——がKmを動かすという教科書どおりの形で現れる2。
  • は消失側だけの話ではない。メトトレキサートのように吸収が飽和する例もある。

出典

  1. 1.Physiology, Zero- and First-Order Kinetics(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2026)⚠️ この実行ではライブページを取得できなかった。素の curl も `?report=printable` も HTTP 200 を返すが実体は20 KB前後の reCAPTCHA ページで、陽性対照(zero-order・phenytoin)がいずれも0件である。照合にはWayback Machineの2024年スナップショット(`https://web.archive.org/web/2024id_/https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK499866/`、19 KB、reCAPTCHA 0件)を用いた。そのスナップショットの章は著者Borowy・Ashurst、表示は「Last Update: September 19, 2022」である(⚠️ 現行版の最終更新日は確認できていない。id と year の2026は本実行では裏づけられていない)。本文の逐語は「the system of first-order kinetic elimination can become saturated, forcing a zero-order kinetic model to take place. Once the concentration falls below a certain level, a first-order kinetic elimination is again seen as the system is no longer saturated.」であり、導入でも「there can be fluidity between the 2 types of elimination with the same specific substance」と述べる。ゼロ次消失を示す薬物として「salicylates, omeprazole, fluoxetine, phenytoin, and cisplatin」の5つを挙げ、メタノールについては「As methanol follows zero-order kinetic elimination, a clinician can understand that the actual danger lies in the time from the ingestion, not the total amount.」と述べる。⚠️ 章の本文に ethanol(エタノール)は0件で、出現する5件はすべて methanol の部分一致である。Michaelis-Menten も本文0件(サイドバーの関連論文題名に2件あるのみ)。フェニトインについて「小さな用量増加が不釣り合いに高い血中濃度を生む」と述べる記述も、サリチル酸を「高用量で」と限定する記述も本文には無い閲覧 2026-08-27
  2. 2.Population pharmacokinetics of phenytoin in Japanese patients with epilepsy: analysis with a dose-dependent clearance model(Biological & Pharmaceutical Bulletin・1996)全文(J-STAGEのPDF、5頁。本文は画像なので頁を描画して目視した)で確認した。対象は京都大学医学部附属病院で1989年11月〜1994年9月に経口フェニトインの治療薬物モニタリングを受けたてんかん患者116例で、Table 1では外来112例・女性43例・年齢15.6±6.6歳(本文で範囲1〜37歳)・体重42.4±16.5 kg・フェニトイン1日量200±64 mg・測定点531点である(⚠️ 小児と若年成人が中心の集団で、成人一般の代表値ではない)。定常状態の531点をNONMEMの用量依存クリアランスモデルで解析し、経口バイオアベイラビリティを100%と仮定した典型的な42 kg患者で分布容積Vは1.23 L/kg、最大消失速度Vmaxは9.80 mg/d/kg、Michaelis-Menten定数Kmは9.19 μg/mlと推定された。モデル式(1)は逐語で「CLij=(Vmaxi−Dij/τij)/Kmi」。VmaxとVを体重で調整するべき関数の指数θWTは0.463と推定され、本文は「metabolic activity (Vmaxi) and the distribution volume (Vi) for phenytoin are not simply proportional to body weight」「the correction of dose by weight results in a considerable misconception for predicting phenytoin levels especially in pediatric patients」と述べる。ゾニサミド併用の影響はθZNS=1.16と推定され、本文は「the apparent clearance of phenytoin at a given dose was 14% (on the average) decreased by zonisamide, and that the serum phenytoin concentration was 16% increased in patients receiving zonisamide」(p<0.01)とし、抄録は「Km for phenytoin appeared to be 16% increased in patients receiving zonisamide concurrently」と書く。著者はゾニサミドがフェニトイン代謝を競合的に阻害しうるとモデル化している。⚠️ 検出できた有意な併用薬の影響はゾニサミドのみで、カルバマゼピン・バルプロ酸・フェノバルビタールについては有意差が示されていない閲覧 2026-08-27