薬理学

薬理学 · Core19

クリアランス

Core19: Clearance

前提:病態
Core16:薬物代謝(生体内変換)の相Core17:薬物の排泄
応用トピック
半減期飽和用量と維持用量薬物の蓄積と累積特殊集団-薬物相互作用:小児特殊集団-薬物相互作用:加齢抗菌薬選択の考慮事項:併存疾患

🧠 全体像:クリアランス(CL)は「単位時間あたりに薬物が完全に取り除かれる血漿の容積」であって、取り除かれた薬物の量ではない。だから単位は mL/min のような〈容積/時間〉になる。全身CLは腎・肝・その他の臓器のCLの足し算で、に従う薬では濃度が変わってもCLは一定である。CLが決めるのは (曝露の大きさ) と 、つまり「同じ投与を続けたときにどこまで濃度が上がるか」であり、したがってを決めるのはCLである。

定義 — 「量」ではなく「容積」

見るところ 中身
定義 単位時間あたりに薬物が取り除かれる血漿の容積1
単位 〈容積/時間〉(mL/min、L/hr)1
もう1つの書き方 CL = ÷ 血漿中(mg/mL)2
  • ⚠️ CLは「どれだけの薬が消えたか」を直接には表さない。 腎CLが20 mL/min、肝CLが5 mL/minの薬なら全身CLは25 mL/minだが、その意味は「毎分25 mLの血漿がこの薬について浄化される」であって、実際に消えた薬物の量は、そこへ濃度を掛けて初めて決まる1。
  • は濃度に比例する。
    • ΔM / Δt = − CL × C(t)
    • 濃度が半分になれば単位時間に消えるも半分になる。消えていく速さは変わるが、CLは変わらない。
  • ⚠️ 基準にする体液は資料によって違う。 StatPearlsは「の容積」と定義し1、腎臓病領域の総説は「の容積」と定義している3。数値を引くときは血漿基準か血液基準かを確かめる(両者は血球移行の分だけずれる)。

全身クリアランスは臓器クリアランスの和

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='systemic clearance'>全身クリアランス</span><br>CL total"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='renal clearance'>腎クリアランス</span><br>未変化体の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='urinary excretion'>尿中排泄</span>"]
    A --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hepatic clearance'>肝クリアランス</span><br>主に代謝"]
    A --> D["その他<br>呼気・胆汁・腸管など"]
    C --> E["非<span class='jp-term jp-term-diagram' title='renal clearance'>腎クリアランス</span><br>肝+その他"]
    D --> E
    C --> F["高抽出率の薬"]
    C --> G["低抽出率の薬"]
    F --> F1["律速は肝血流<br>心拍出量が落ちるとCLも落ちる"]
    G --> G1["律速は固有クリアランスと遊離型分画<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='enzyme inhibition'>酵素阻害</span>・蛋白結合の変化が効く"]
  • 全身CL = 腎CL + 肝CL + その他の組織のCL13
    • 過程の側から見れば、代謝による消失、未変化体の、その他の経路(例:)の合計である。
    • 肝CLとその他のCLをまとめて 非 と呼ぶ3。
    • 能動的な過程(代謝・)と受動的な過程()の両方が含まれる3。

腎クリアランス

  • 腎CLは +での−尿細管での受動再吸収 の正味であり、式には遊離型分画が入る——濾過されるのはに結合していない薬物だけだからである3。
  • の寄与が大きい薬では、腎CLがを超えることがある(、など)3。
  • 尿細管での再吸収はpH依存性で、は再吸収され、は尿中に残る。機序の詳細は→Core17:薬物の排泄。

肝クリアランス — 抽出率で律速因子が入れ替わる

肝で代謝される薬は、肝を1回通るあいだにどれだけ取り除かれるか(抽出率)によって低・中間・高の3群に分けられ、何がCLを決めているかが群ごとに違う4。

高抽出率の薬 低抽出率の薬
律速になるもの 肝血流4 固有クリアランス(酵素の処理能力)と遊離型分画4
CLが下がる場面 肝血流の低下(心不全・ショック・) の阻害、肝細胞量の減少
での姿 が大きく、が低い は小さい
  • 💡 極端な場合を考えると腑に落ちる。 肝を1回通るだけで血中の薬が全部取り除かれる「完全な抽出臓器」を想像すると、CLはその臓器を流れる血流量そのもので頭打ちになる2。高抽出率の薬はこの上限に近いので、酵素をいくら持っていても血流以上には速く処理できない。
  • ⚠️ だから「肝障害だからCLが落ちる」と一括りにできない。 高抽出率の薬では血行動態の変化が効き、低抽出率の薬では酵素活性と蛋白結合の変化が効く。同じ肝疾患でも薬によって動く向きと大きさが違う。
  • 💡 この区別は、蛋白結合の置換相互作用がなぜ臨床的に問題になりにくいかの説明にもなる。 低抽出率の薬では遊離型分画が増えるとCLも比例して増えるので、定常状態の遊離型濃度は結局変わらない。高抽出率の薬を静注する場合はこの埋め合わせが効かない(→Core13:薬物の分布、Core28::分布レベル)。

一次速度論とゼロ次速度論

何が一定か 単位時間あたり一定の割合が除去される 単位時間あたり一定の量が除去される
理由 消失機構が飽和していない 消失機構が飽和している
CL 濃度に依存しない(一定) 濃度によって変わるので一定値として信頼できない
半減期 定義できる → 半減期 固定した半減期を決められない

AUCとの関係

  • では AUC = M / CL(M = に到達した = F × 投与量)。
  • 意味するところ:
    • 用量が大きいほどは大きい。
    • CLが高いほどは小さい。 ある用量に対して、はCLの低下に比例して増える3。
  • ⚠️ 腎障害などでCLが落ちると、同じ用量でも曝露()が増えるので、のリスクが上がる3。
  • は、しばしば AUC におおむね比例する。

定常状態と維持用量

  • はCLとする1。
    • Css = ÷ CL
    • Css = (D / T) ÷ CL(D = 1回投与量、T = )
  • ⚠️ この形はが100%(静注)のときの式である。 StatPearlsも「は全身CLにを掛けて求める」と書いたうえで、逐語で「assuming the drug is fully bioavailable」という但し書きを付けている1。経口ではFで割る。
    • Dm = Css × CL × T ÷ F(F = )2
  • CLは「定常状態でを保つのに必要なの速度」を決めるである3。との役割分担は→Core21:と。

臓器障害・加齢での調節

  • 重度の肝障害では、その薬のクリアランスに肝が占める割合に応じてを減らす1。
  • 腎障害でも減量が必要なことが多く、腎疾患の種類・・薬物と腎臓の相互作用を踏まえて用量を決める1。
  • 加齢そのものによってもCLは低下する1。
  • ⚠️ 血清蛋白が減ると遊離型の濃度が上がり、が上がりうる1。低抽出率の薬では、この蛋白結合の変化がCLそのものを動かす4。

まとめ

  • CLは容積/時間であって、消えた薬物の量ではない。 量を知るには濃度を掛ける1。
  • 高CL=薬物が速く除去される/低CL=薬物が蓄積しやすい。
  • 全身CL=臓器CLの和。 肝CLは抽出率によって律速因子が変わり、高抽出率なら肝血流、低抽出率なら固有クリアランスと遊離型分画が効く4。
  • はCLとする3。
  • はCLとに依存する(Dm = Css × CL × T ÷ F)2。

出典

  1. 1.Drug Clearance(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2023)全文(Last Update 2023年6月20日の版)を取得して確認した。定義は逐語で「Drug clearance is defined as the volume of plasma cleared of a drug over a specified time period」「Thus, the unit of measurement for drug clearance is volume/time」であり、続けて逐語で「It is important to be aware of the fact that clearance does not tell us the amount of drug cleared」と明記し、腎クリアランス20 mL/min・肝クリアランス5 mL/minなら全身クリアランスは「毎分25 mLの血漿が浄化される」ことだと例示している。全身クリアランスは腎クリアランス+肝クリアランス+その他組織のクリアランスの合計。一次速度論では消失機構が飽和していないため一定の割合が除去され、クリアランスは血漿中濃度によって変わらない。ゼロ次速度論では飽和しているため単位時間あたり一定の量が除去され、クリアランスは濃度により変わりうる。定常状態血漿中濃度は全身クリアランスと逆相関し、投与速度は全身クリアランスに目標定常状態濃度を掛けて計算するが、逐語で「assuming the drug is fully bioavailable」という但し書きが付く。血清蛋白の低下は遊離型濃度を上げて消失速度を高めうる。重度の肝障害では、その薬の肝クリアランスが占める割合に応じて維持用量を減らすべきとし、腎障害でも減量が必要なことが多く、加齢によってもクリアランスは低下するとしている。閲覧 2026-09-21
  2. 2.Pharmacokinetics(StatPearls [Internet], StatPearls Publishing・2023)全文(Last Update 2023年7月30日の版)を取得して確認した。クリアランスは逐語で「defined as the ratio of a drug's elimination rate to the plasma drug concentration」であり、薬物側の性質と患者の血流・臓器の状態に左右される。極端な場合として逐語で「In the perfect extraction organ, in which blood would completely be cleared of medication, the clearance would become limited by the overall blood flow through the organ」と述べる。維持用量は逐語で「Maintenance doses are calculated by clearance times the desired plasma concentration divided by bioavailability」、負荷用量は逐語で「Loading doses are directly related to the volume of distribution and are calculated by Vd times the desired plasma concentration divided by bioavailability」と定義されている。閲覧 2026-09-21
  3. 3.Clinical Pharmacokinetics in Kidney Disease: Fundamental Principles(Clinical Journal of the American Society of Nephrology・2018)全文(PMC6032582)で確認した。クリアランスの定義は逐語で「CL is the volume of blood cleared of a drug in a period of time」であり、StatPearlsの「血漿の容積」と基準液が異なる。全身クリアランスは臓器ごとのクリアランスの和(腎・肝・その他)で、能動過程(代謝・能動分泌)と受動過程(糸球体濾過)の両方を含み、肝とその他の和を非腎クリアランスと呼ぶ。腎クリアランスは糸球体濾過・近位尿細管での能動分泌・尿細管での受動再吸収の3過程の正味で、式には遊離型分画Fuが入り、能動分泌が大きい薬(メトホルミン・メロペネムなど)では腎クリアランスがGFRを超える。クリアランスは定常状態で目標血漿中濃度を得るのに必要な維持用量の速度を決めるパラメータであり、ある用量に対するAUCはクリアランスの低下に比例して増える。閲覧 2026-09-21
  4. 4.Drug-disease interaction: Clinical consequences of inflammation on drugs action and disposition(Journal of Pharmacy & Pharmaceutical Sciences・2023)全文(PMC9990632)で確認した。逐語で「Drugs metabolized by the liver are categorized based on the efficiency of their extraction by the liver into drugs with low, intermediate and high extraction ratios」と3群に分け、逐語で「The clearance of drugs with low hepatic extraction ratio is dependent on the hepatic intrinsic clearance and unbound fraction of the drug」「the clearance of drugs with high extraction ratio are rather dependent on the hepatic blood flow」と述べている。すなわち肝クリアランスの律速因子が抽出率によって入れ替わる。閲覧 2026-09-21