薬理学

薬理学 · Core21

飽和用量と維持用量

Core21: Saturating and maintenance dose

前提:病態
Core14:バイオアベイラビリティ(生物学的利用能)Core15:分布容積Core19:クリアランスCore20:半減期
応用トピック
強心薬(陽性変力薬)心臓電気生理に作用する薬(抗不整脈薬)薬物の蓄積と累積

🧠 全体像:投与を始めてから定常状態に届くまでには 4〜5半減期かかる。待てないときに最初だけ大きく入れるのが () で、その後を保つのが である。⭐ 試験で最も問われる対比は「は(Vd)で決まり、はクリアランス(CL)で決まる」——前者は「体という容れ物をで満たすのに何 mg 要るか」、後者は「1のあいだに失われた分をどれだけ補うか」という別の問いに答えているからである。だから⚠️ 腎機能・肝機能が落ちたときに調節するのは、原則としてのほうである。

血漿中濃度を決める因子

  • 非結合/。
  • 間の分布。
  • 薬物相互作用。
  • 用量と。
  • クリアランスと。

反復投与と定常状態

  • 有効な治療には、・が必要なことが多い。
  • ではが変動する。
    • 上側の ピーク。
    • 下側の 。
  • を続けると曲線は安定する → 定常状態。定常状態とは、単位時間あたりのとへの到達量が等しくなった状態である1。
  • 定常状態には およそ4〜5半減期 で到達する(→Core20:半減期)。
  • ⚠️ 「およそ5半減期で定常状態」というには例外がある。 一・二のモデルに従わない薬や、に減衰しない薬(エタノールのなど)には当てはまらない1。

2つの用量は別々のパラメータで決まる

flowchart TD
    A["目標とする<span class='jp-term jp-term-diagram' title='steady-state concentration'>定常状態濃度</span>を決める"] --> B["定常状態まで4〜5半減期待てるか"]
    B --> C["待てる<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='maintenance dose'>維持用量</span>だけで開始する"]
    B --> D["待てない<br>先に<span class='jp-term jp-term-diagram' title='loading dose'>負荷用量</span>を入れる"]
    D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='loading dose'>負荷用量</span> = Vd × <span class='jp-term jp-term-diagram' title='target concentration'>目標濃度</span> ÷ F<br>決めるのは<span class='jp-term jp-term-diagram' title='volume of distribution'>分布容積</span>"]
    C --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='maintenance dose'>維持用量</span> = CL × <span class='jp-term jp-term-diagram' title='target concentration'>目標濃度</span> × <span class='jp-term jp-term-diagram' title='dosing interval'>投与間隔</span> ÷ F<br>決めるのはクリアランス"]
    E --> F
    F --> G["腎機能・肝機能が低下している"]
    G --> H["原則は<span class='jp-term jp-term-diagram' title='maintenance dose'>維持用量</span>を減らす<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='loading dose'>負荷用量</span>は通常は変えない"]
    G --> I["例外 <span class='jp-term jp-term-diagram' title='volume of distribution'>分布容積</span>そのものが変わる薬<br>ジゴキシンでは<span class='jp-term jp-term-diagram' title='loading dose'>負荷用量</span>も減らす"]

式

  • () = 見かけのVd(apparent Vd) × ÷ F1
  • Dm = × CL × ÷ F1
  • なら注入速度 k0 = CL × 1
  • F = (では 1)→Core14:
()
答えている問い 体をで「満たす」のに何mg要るか 1で失われた分をいくつ補うか
決める Vd1 CL1
大きくなる条件 Vdが大きい薬ほど大きい CLが大きい/が長いほど大きい
腎機能低下で 原則として変えない1 減らす(または間隔を延ばす)1
の影響 受けない に比例する
  • 💡 が「どれだけの薬物を体内へ分布させる必要があるか」を決め、Vdがそれを用量へ換算する。 の計算に半減期もクリアランスも出てこないのは、「どれだけ速く消えるか」ではなく「どれだけの容れ物を満たすか」の話だからである。

維持用量と負荷用量の比は「投与間隔と半減期の比」で決まる

上の2式を割り算すると ÷ = CL × ÷ Vd になる。CL/Vd はそのものなので、この比に効くのはと半減期の比だけである。

  • 目安として の25〜35% 程度という数字が使われる。
  • ⚠️ これは固定比ではない。 が半減期より十分短ければ比は小さくなり、が半減期に近づけば比は大きくなる。薬が変われば、あるいは1日1回を1日2回に変えれば、この比も変わる。

飽和用量・負荷投与量を使う場面

  • 半減期が長い薬は、自然に定常状態へ到達するまで時間がかかる。は へ速く到達するため に使う1。
  • 代表例:
  • ⚠️ 「古典的な負荷投与の例」と「今の標準的な使い方」は別である。 ジゴキシンは負荷投与の教科書的な例だが、現在の診療では通常は負荷を行わずから開始し、負荷投与は急速なが要る場面に限られる(→ジゴキシン)。

⚠️ 腎機能低下時に何を調節するか

原則はである。 腎では「同じを目指すなら、は一般に変える必要がなく、消失の変化を補うためにのほうを調節する」とされる1。はVdで決まり、Vdは腎機能そのものの関数ではないからである。

⚠️ ただしジゴキシンは、その原則の例外にあたる薬である。 腎不全では見かけのVd自体が変わるので、の前提が崩れる。

  • 透析依存の患者22例に10 μg/kgを静注した検討では、見かけのVdが腎機能正常者の報告値よりおよそ3分の1小さかった(は大きい)2。
  • ⭐ ただし この研究自身のは「進行した腎不全の大半の患者では10 μg/kgが適切な静注である」 で、この用量では中毒の所見は観察されていない(24時間後のは平均1.5±0.4 ng/mL)2。Vdが小さいことと、その用量が危険であることは別の主張である。
  • 実地のをに調べた研究では、30〜59 mL/minの群にも60 mL/min以上の群にも 14〜16 μg/kg が投与されており、用量と体重で補正した後、60 mL/min未満では負荷投与後に濃度へ至るが2.60(95%信頼区間1.55-4.39) であった。著者らはこの集団でを 6〜10 μg/kg へ減らすことを推奨している3。
  • ⚠️ この研究の「中毒」はが治療域(1.0〜2.6 nmol/L)を超えたことを指す定義で、の有無ではない。 2 nmol/L以上の患者の診療録を見直すと、症状を伴う中毒は最大20%、中毒に帰しうる心電図変化は3例で、ジゴキシン特異的Fab抗体を投与された患者はいなかった3。単一施設の観察研究であり、介入の効果を示したものではない。
  • 💡 2つの研究は矛盾していない。 Gaultは「進行した腎不全でも10 μg/kgなら適切で、中毒は起きなかった」と述べ2、Pawloskyは「実地では14〜16 μg/kgが使われており、それが濃度につながっている」と述べている3。Pawloskyが推奨する6〜10 μg/kgの上限は、Gaultが実際に用いた用量と一致する。

維持用量

  • は、負荷投与後に濃度を治療域内に保つ役割をもつ。消失した分を補って、到達量とを釣り合わせ続ける1。
  • は主に次に依存する。
    • クリアランス(最も効く)
  • ⚠️ 同じ1日量でも、が長いほどピークとの振れ幅は大きくなる。狭い治療域の薬ではが要る(→Core22:薬物の蓄積と)。
  • 💡 は定常状態で行う1。定常状態に達する前に測ると、その値は目標を下回って見える。

まとめ

  • はVdに依存する( = Vd × ÷ F)1。
  • はCLに依存する( = CL × × ÷ F)1。
  • 定常状態までおよそ4〜5半減期かかる。半減期が長い薬では、へ速く到達するためにが要る1。
  • ⚠️ 腎機能・肝機能が落ちたときに調節するのは、原則として。 は通常そのままでよい1。
  • ⚠️ 例外はジゴキシン。 腎不全では見かけのVdが約3分の1小さくなり2、実地で使われている14〜16 μg/kgでは60 mL/min未満の患者が濃度に至りやすい(2.60)ため、6〜10 μg/kgへの減量が推奨されている3。

出典

  1. 1.Steady State Concentration(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2023)全文(Last Update 2023年3月6日の版)を取得して確認した。定常状態は単位時間あたりの消失量と全身循環への到達量が等しくなった状態と定義される。負荷用量は逐語で「a relatively large dose of the drug can also be administered to reach a therapeutic or steady-state concentration more rapidly」と説明され、多回投与の式は逐語で「LD = SSC•Vd/B」(LDが負荷用量)、「MD = SSC•CL•DI/B」(MDが維持用量、SSCが目標定常状態濃度、Bがバイオアベイラビリティ、DIが投与間隔)、持続注入の速度は逐語で「K0 = CL•SSC」である。すなわち負荷用量を決めるのは分布容積、維持用量を決めるのはクリアランスである。⭐ 腎肝機能障害では逐語で「Although the drug's loading dose generally does not need to be changed, if the same steady-state concentration is desired, the drug's maintenance dose (drug addition) should be adjusted to compensate for the change in elimination (drug removal)」と述べる。定常状態へ約5半減期で到達するという経験則には例外があり、一・二コンパートメントモデルに従わない薬や非指数関数的に減衰する薬(エタノールのゼロ次消失など)には当てはまらないとする。治療薬物モニタリングについては逐語で「therapeutic drug monitoring should take place in a steady state」と述べる。閲覧 2026-09-21
  2. 2.Loading dose of digoxin in renal failure(British Journal of Clinical Pharmacology・1980)抄録(PMC1429997)で確認した。透析依存の患者22例にジゴキシン10 μg/kgを静脈内負荷投与したところ、24時間後の血清ジゴキシン濃度の平均は1.5±0.4 ng/mL(範囲0.8-2.1)で、中毒の所見は観察されなかった。見かけの分布容積は腎機能正常者の報告値と比べておよそ3分の1小さかったが、個体差が大きかった。⭐ 本論文自身の結論は逐語で「An appropriate intravenous loading dose of digoxin in most patients with advanced renal failure is 10 microgram/kg」であり、負荷用量の算出根拠である分布容積が腎不全で変化することを示す一方、10 μg/kgという用量そのものは妥当だとしている。⚠️ 本文は走査画像のため未取得で、上記は抄録の3項目の逐語である。閲覧 2026-09-21
  3. 3.Evaluation of digoxin concentration after loading dose in patients with renal dysfunction(Canadian Journal of Hospital Pharmacy・2013)全文(PMC3633494)で確認した。単一施設の後方視的観察研究で、背景の逐語は「Loading dose recommendations for digoxin are based on the volume of distribution, which is proportional to lean body weight, whereas maintenance dose recommendations depend on renal function」。実際に投与された平均負荷用量はクレアチニンクリアランス15 mL/min未満で9.8±4.1 μg/kg、15〜29で14.4±5.4、30〜59で16.0±5.6、60以上で14.0±3.7 μg/kgであった。用量と体重で補正した後、クレアチニンクリアランス60 mL/min未満は負荷投与後に中毒域の血清濃度へ至るオッズ比が2.60(95%信頼区間1.55-4.39)と高く、著者らはこの集団で負荷用量を6〜10 μg/kgへ減らすことを推奨している。⚠️ 本研究の「中毒(toxic)」は治療域1.0〜2.6 nmol/Lを超えた血清濃度を指す定義であり、臨床症状の有無ではない。血清濃度2 nmol/L以上の患者の診療録を見直した結果、症状を伴う中毒は最大20%に生じ、中毒に帰しうる心電図変化は3例(クレアチニンクリアランス30〜59が2例、60以上が1例)で、ジゴキシン特異的Fab抗体を投与された患者はいなかった。閲覧 2026-09-21