薬理学

薬理学 · Core14

バイオアベイラビリティ(生物学的利用能)

Core14: Bioavailability

前提:病態
Core11:薬物の吸収
応用トピック
中毒学総論飽和用量と維持用量

🧠 全体像:(F)は、「投与した量のうち、どれだけが未変化のままに届いたか」を1つの数にしたものである。基準は——もも無いので定義上F = 100%、つまり F = AUC_EV ÷ AUC_IV という比で表せる。のFが下がる理由は Core11:薬物の吸収 で見た2つの関門(と肝臓)そのものである。そしてこの概念がの場に降りてくると、がと同じFを持つかという生物学的同等性の判定になり、通常は90%で80.00〜125.00%、治療域が狭い薬ではさらに厳しく、という線引きが出てくる。

定義

  • = 投与した薬物のうち、未変化体としてへ到達する割合1。
  • 実用式:F = の ÷ の(⚠️ 2つの経路で投与量が違う場合は、それぞれのを投与量で割ってから比べる)
  • AUC = -。の指標である。
  • EV() = 経口(PO)、皮下(SC)、(IM)、経皮など、血管内へ直接入れないすべての経路。

絶対的バイオアベイラビリティと相対的バイオアベイラビリティ

同じ「F」でも、何を基準に比べたかで2種類ある。混同すると「Fが90%」という数字の意味が変わってしまう。

基準(分母) 何が分かるか 使う場面
同一薬物のの に届いた絶対量の割合。上限は100% 新規薬物の吸収との大きさを測る
相対的 別の製剤(、別剤形、別経路)の 2つの製剤の差。100%を超えることもある の生物学的同等性、剤形変更、食事の影響
  • ⚠️ 静注製剤が無い薬物では、は原理的に測れない。 その場合に示せるのは相対値だけである。
  • 💡 の生物学的同等性試験は相対的の比較である。 試験薬と標準薬をどちらも経口で飲ませて比べるので、両者が揃って吸収不良でも「同等」という判定は成立しうる。

静脈内投与と血管外投与の違い

経路 曲線の相 Cmaxの位置
(IV) のみ 投与終了時点が最大 定義上100%
(PO・IM・SC など) + 投与後に遅れて最大 薬物・製剤・患者で変動する

⭐ 静注でFが100%になるのは「よく効くから」ではなく「定義がそう決めてあるから」である。 静注が基準だからこそ、他のすべての経路をこの物差しの上に並べられる。

経口バイオアベイラビリティを下げるもの

のFは、次の4段階で削られた残りである。

  • 消化管からの吸収そのもの(と。生物薬剤学的分類システムの2軸)。
  • 消化管()での代謝。
  • 肝での代謝。
  • このと肝を合わせた。

経路ごとにこの関門をどこまで回避できるかは Core11:薬物の吸収、膜を越える機構そのものは Core12: が正典として扱う。

💡 Fが低いほど、同じ血中濃度を得るのに必要な経口用量は大きくなる1。経口と静注で用量が違う薬があるのはこのためで、経路を変えるときに用量を据え置くと過量にも過少にもなる。

生物学的同等性 — Fを規制の言葉にすると

がと入れ替えて使えるかは、両者のとCmaxがどれだけ近いかで判定される。これがである。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='generic drug'>後発品</span>と<span class='jp-term jp-term-diagram' title='originator (brand-name) drug'>先発品</span>を比べる<br>AUC0-t と Cmax の幾何平均比(GMR)"] --> B["GMRの90%<span class='jp-term jp-term-diagram' title='confidence interval'>信頼区間</span>が<br>判定域に入るか"]
    B --> C["通常の薬物<br>80.00〜125.00%"]
    B --> D["高変動薬・高変動製剤<br>(標準薬の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='study participant / subject'>被験者</span>内<span class='jp-term jp-term-diagram' title='coefficient of variation'>変動係数</span>が30%超)"]
    B --> E["治療域の狭い薬物(NTI薬)"]
    D --> D1["Cmax の判定域だけを<br>変動に応じて拡大できる<br>上限は69.84〜143.19%<br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='coefficient of variation'>変動係数</span>50%に相当)"]
    D --> D2["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='area under the curve'>AUC</span> の判定域は拡大しない"]
    D1 --> D3["ただしCmaxのGMR自体は<br>80.00〜125.00%に収める"]
    E --> E1["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='area under the curve'>AUC</span> の判定域を<br>90.00〜111.11%へ狭める<br>安全性・有効性・血中濃度監視の<br>必要があればCmaxも"]
  • 通常の判定域は 80.00〜125.00%。 幾何平均比(GMR)の90%が、AUC0-t(または AUC0-72h)とCmaxのいずれについてもこの範囲に入ることを求める2。
  • 高変動薬では Cmax の判定域だけを広げられる。 標準薬の内が30%を超える場合に限り、変動の大きさに応じて拡大でき、上限は 69.84〜143.19%(50%に相当)。⚠️ の判定域は広げられず、さらにCmaxのGMR自体は80.00〜125.00%に収まっていなければならない2。
  • 治療域の狭い薬物(NTI薬)では逆に狭められる。 の判定域は 90.00〜111.11% へ、安全性・有効性・血中濃度監視の必要があればCmaxも同様に狭められる2。⚠️ NTI薬を分類する基準の一覧は作れないとされており、個別に臨床的判断で決める——EMAが明示的にNTI薬としているのはとで、では狭まるのはだけでCmaxは通常どおりである2。そのものは Core9: を参照。
  • 💡 欧米で数字の細部が違う。 米国も80/125ルールと90%を用い、変動に応じた拡大も認めるが、拡大の計算に使う上の標準変動が EMA 0.294・ 0.25 と異なるため、の拡大幅は不連続でEMAより広くなる2。

両極の例 — 吸収されない薬と、静注と変わらない薬

薬物 時の 学習上のポイント
バンコマイシン(経口) ほとんど吸収されない。 健常志願者では血中濃度が検出されず、尿中回収率は0.76%以下3 吸収されないことが利点になる。腸管内に高濃度でとどまるのでの治療に使え、全身感染には必ず静注を用いる
メトロニダゾール 非常に高い。 添付文書は逐語で「体内動態は経口剤と静注剤で同様」と述べる4(⚠️ 教科書でよく引かれる「90%超」という百分率そのものは、この添付文書には記載が無い) 経口と静注をほぼ等価に扱えるので、重症例でも早期に経口へ切り替えられる。脳脊髄液・唾液・乳汁には血漿と同程度の濃度が、の膿にも殺菌濃度が到達する4
  • ⚠️ 「は全く吸収されない」とまでは言えない。 同じ添付文書が、の・関連下痢症では血清中濃度が測定されうること、腎障害があれば蓄積しうることを明記している3。腸管が炎症で荒れている状況こそ、この薬を使う状況である点に注意する。
  • ⭐ この2剤は「Fが低い=劣った薬」ではないことの反例である。 Fの高低は良し悪しではなく、どこに薬を届けたいかとの組み合わせで意味が決まる。

まとめ

  • F = AUC_EV ÷ AUC_IV。 静注はもも無いので、定義上F = 100% が基準になる。
  • は、Cmaxは曝露の高さ。生物学的同等性はこの2つで判定する。
  • (静注が基準)と相対的(別の製剤が基準)を区別する。 静注製剤が無ければ絶対値は測れず、試験が測っているのは相対値である。
  • 経口のFを削るのは吸収・での代謝・肝での代謝=で、Fが低いほど必要な経口用量は大きくなる1。
  • 生物学的同等性の通常の判定域は、GMRの90%が 80.00〜125.00% に入ること2。
  • 高変動薬ではCmaxの判定域だけを最大 69.84〜143.19% まで拡大できるが、は拡大しない。治療域の狭い薬では逆に 90.00〜111.11% へ狭める2(→ Core9:)。
  • は腸管内にとどまり、経口メトロニダゾールは静注とほぼ同等。 ただし前者も、活動性の大腸炎や腎障害では血中に現れ蓄積しうる3。

出典

  1. 1.Drug Bioavailability(StatPearls [Internet], StatPearls Publishing・2023)バイオアベイラビリティは全身循環に到達する活性型薬物の割合と速度の指標であり、静注は吸収・初回通過代謝を受けないため基準(100%)とされ、経口薬は消化管吸収と肝初回通過代謝の影響を受けること。バイオアベイラビリティが低いほど必要用量は大きくなること。⚠️ 2026-09-21の実行では本文を取得できなかった(素のcurlもブラウザUA付きも`?report=printable`もHTTP 200を返すが、実体は約20 KBのreCAPTCHAページで陽性対照が0件)。以上は過去の実行が記録した内容であり、今回は検算していない閲覧 2026-08-27
  2. 2.The Revised 2010 EMA Guideline for the Investigation of Bioequivalence for Immediate Release Oral Formulations with Systemic Action(Journal of Pharmacy & Pharmaceutical Sciences・2012)全文(13頁、Unpaywallが示す出版社版PDFをアルバータ大学のホストから取得)で確認した。生物学的同等性の判定は逐語で「the 90% confidence interval (CI) around the geometric mean ratio (GMR) of the test and reference values of an appropriate bioavailability measure, i.e. AUC0-t (or AUC0-72h) and Cmax, is required to fall within preset BE limits, which normally are 80.00 to 125.00%」。高変動薬・高変動製剤(reference製剤の被験者内変動係数CVWRが30%超)では、EMAは逐語で「Widening of the usual BE acceptance limits of 0.80-1.25 according to this method recommended by the EMA is only acceptable for Cmax」とし、拡大の上限は「a maximum of 69.84-143.19%, corresponding to a CVWR of 50%」、さらに「the GMR for Cmax should lie within the conventional 80.00-125.00% acceptance range」という制約を課す。AUCの基準幅は拡大しない。米国FDAも変動に応じた拡大を認めるが、規制上の標準変動σ0が「0.294 and 0.25, respectively」とEMA・FDAで異なるため、FDAの拡大幅は不連続でEMAより広くなる。治療域の狭い薬物については逐語で「for narrow therapeutic index drugs (NTIDs) the usual acceptance interval for AUC, and also for Cmax if necessary for safety, efficacy or drug level monitoring reasons, may need to be tightened to 90.00-111.11%」。ただし同ガイドラインは「It is not possible to define a set of criteria to categorise drugs as narrow therapeutic index drugs (NTIDs) and it must be decided case by case if an active substance is an NTID based on clinical considerations」とも述べる。EMAが明示的にNTIDとしているのはシクロスポリンとタクロリムスで、タクロリムスでは狭められるのはAUCだけでCmaxは通常の80.00-125.00%のままである閲覧 2026-09-21
  3. 3.VANCOCIN- vancomycin hydrochloride capsule(ANI Pharmaceuticals / DailyMed (U.S. National Library of Medicine)・2025)米国処方情報の本文(印字された改訂表示は10/2025、DailyMedの製品名表示はVANCOCIN、製造販売元はANI Pharmaceuticals)で確認した。12.3 Pharmacokineticsは逐語で「Vancomycin is poorly absorbed after oral administration」とし、健常志願者に250 mgを8時間ごと7回投与した試験で糞便中濃度は多くの検体で100 mg/kgを超え、血中濃度は検出されず「urinary recovery did not exceed 0.76%」だったとする。腎機能正常でクロストリディオイデス・ディフィシル関連下痢症のある患者では、1日2 gで糞便中3100 mg/kg超・血清中1 μg/mL未満。ただし同じ節は逐語で「After multiple-dose oral administration of vancomycin, measurable serum concentrations may occur in patients with active C. difficile-associated diarrhea, and, in the presence of renal impairment, the possibility of accumulation exists」と述べており、「経口では全く吸収されない」とは書いていない。⚠️ この処方情報は経口カプセル剤のものであり、静注製剤の添付文書ではない閲覧 2026-09-21
  4. 4.FLAGYL- metronidazole capsule(Pfizer Laboratories Div Pfizer Inc / DailyMed (U.S. National Library of Medicine)・2025)米国処方情報の本文(印字された改訂表示は07/2025、DailyMedの製品名表示はFLAGYL)で確認した。CLINICAL PHARMACOLOGYのAbsorptionは逐語で「Disposition of metronidazole in the body is similar for both oral and intravenous dosage forms」と述べる。Distributionは逐語で「Metronidazole appears in cerebrospinal fluid, saliva, and breast milk in concentrations similar to those found in plasma. Bactericidal concentrations of metronidazole have also been detected in pus from hepatic abscesses」とし、血漿蛋白結合は20%未満。⚠️ この処方情報には経口バイオアベイラビリティの百分率そのものは記載が無い(本文に「bioavailability」という語は現れず、経口と静注の体内動態が同様であるという定性的な記述にとどまる)閲覧 2026-09-21