薬理学

薬理学 · Core11

薬物の吸収

Core11: Absorption of drugs

前提:病態
Core12:膜輸送機構
応用トピック
バイオアベイラビリティ(生物学的利用能)薬物動態学的相互作用:吸収レベル
疾患
Nicolau症候群

🧠 全体像:を選ぶことは、速さ・・・リスクの4つを一度に選ぶことである。は最も速く完全だが後戻りができない。経口は便利だが消化管と肝臓という2つの関門を通るぶん変動が大きい。舌下・直腸・経皮・吸入といった経路は、この「肝臓を先に通ってしまう」問題を回避するために存在する。

投与経路

経路 主な特徴 吸収を左右する因子・
経口 消化管を通る 、消化管pH、食事、製剤に影響され、を受ける
舌下 吸収が速い 口腔粘膜の静脈は門脈に入らないためを避ける
直腸 が難しいとき(嘔吐・意識障害・小児)に有用 静脈還流により、を部分的に避ける
皮下 皮膚と筋肉の間の組織に注射 血流、、、が影響
に注射 血流、、が影響。⚠️ 中の患者では血腫のリスクがあり避ける
へ直接投与 速く完全。が高く、必要時はゆっくり注入する
へ投与 が難しい緊急時の代替。骨髄の静脈洞は体循環へ直結する
経皮 /で皮膚から投与 はなど。はやなど
吸入 肺から投与 の、またはの。、脂質-、に依存
脳脊髄液へ直接投与 、抗菌薬、化学療法、。血液脳関門を迂回する
鼻腔 から投与 またはを得られる

初回通過効果

だけが通る2つの関門(と肝臓)を、どの経路がどこまで回避するかで整理する。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='oral'>経口投与</span>"] --> B["消化管管腔からの吸収"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='intestinal epithelium'>腸上皮</span>での代謝<br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cytochrome P450 3A4'>CYP3A4</span>・抱合酵素)"]
    C --> D["門脈"]
    D --> E["肝での代謝<br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='first-pass metabolism'>初回通過代謝</span>)"]
    E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='systemic circulation'>全身循環</span>に到達した分<br>=<span class='jp-term jp-term-diagram' title='bioavailability'>バイオアベイラビリティ</span>"]
    G["舌下・口腔粘膜"] --> F
    H["直腸下部(下直腸静脈)"] --> F
    I["経皮・吸入・経鼻"] --> F
    J["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='intravenous'>静脈内</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='intramuscular'>筋肉内</span>・皮下"] --> F
    K["直腸上部(上直腸静脈)"] --> D
  • は、と肝臓でを受けることが多い。
  • は、口腔粘膜の静脈が門脈ではなくを経て体循環へ還流するためを避け、速く作用しうる。
  • は、下直腸静脈が下大静脈へ、上直腸静脈が門脈へ還流するため、を部分的にしか避けられない。どこまで避けられるかはの位置と吻合のに左右されるので、「直腸=なし」とは書けない。
  • 💡 強いを受ける代表薬:、モルヒネ、、アルプレノロール、ペンタゾシンなど。では静注より高用量を要する1。
  • 💡 舌下 は、高い脂溶性のおかげで口腔粘膜から速やかに吸収されを回避するため、狭心症症状を速やかに軽快させる1。経口錠が成立しないのはこの裏返しである。

⭐ は「薬が壊れる」だけでなく「薬が作られる」場合もある。 肝でので活性体に変わることを前提に設計されたでは、の小さい経路を選ぶと期待した効果が得られないことがある。

定量的な指標(F=_EV/_IV)と生物学的同等性は Core14: を参照。

吸収に影響する因子

  • 投与部位の血流。
  • 薬物の脂溶性・と。
  • 局所pHと。
  • 製剤:、、、、。
  • では食事と。

pHとイオン化

膜を通れるのは原則としてなので、投与部位のpHと薬物のpKaの組み合わせがを決める。

  • 性薬は酸性の胃内での割合が増え、薬は塩基性の小腸での割合が増える。
  • ただし実際のは表面積と滞留時間にも支配されるので、性薬でも吸収の大半は小腸で起こる。「は胃から吸収される」と単純化しない。
  • との比はHenderson-Hasselbalchの式で決まる。機序の詳細は Core12: を参照。

溶解性と膜透過性 — 生物薬剤学的分類システム(BCS)

の吸収を支配する基本は製剤からの溶出と消化管のの2つであり、この2軸でを4つに分けるのがBCSである2。

クラス 水溶性 吸収で問題になりやすい段階
Class I 高 高 どちらも障壁にならない
Class II 低 高 溶出
Class III 高 低 膜透過
Class IV 低 低 溶出と膜透過の両方
  • ⚠️ 原著(1995年)はこれを Class I〜IV ではなく Case 1〜4 と呼んでいる2。Class の呼称は後年の文書で定着したもので、内容は同じである。
  • 💡 どちらの軸が低いかが、そのまま「何を改善すれば吸収が増えるか」を決める。 溶出が律速なら製剤(微粉化・)で対処でき、透過性が律速なら製剤では解決しない。原著も、溶出は速いが透過性の低い薬物では in vitro の溶出試験と吸収の相関が期待できないと述べている2。

まとめ

  • は 速さ・・・リスク の組み合わせで選ぶ。
  • =100%。が無く、投与開始時に濃度が最大になる。
  • 舌下=速い+なし。 口腔粘膜の静脈が門脈を通らないため。
  • 直腸=を部分的にだけ回避する。 下直腸静脈は下大静脈へ、上直腸静脈は門脈へ還流するので「なし」とは言えない。
  • 経口=便利だが変動が大きい。 ・消化管pH・食事・製剤・と肝の代謝がすべて効いてくる。
  • /皮下=血流依存。は中では避ける。
  • 経皮=遅く持続する全身投与の選択肢(ほかに目的でも使う)。
  • 膜を通れるのは原則としてで、投与部位のpHと薬物のpKaがを左右する。ただし表面積と滞留時間の効果が大きく、性薬でも吸収の大半は小腸で起こる。
  • BCSはとの2軸でを4クラスに分け、どちらが吸収の障壁かを予測する枠組みである2。

出典

  1. 1.First-Pass Effect(StatPearls [Internet], StatPearls Publishing・2023)初回通過効果を強く受ける代表薬としてアルプレノロール・フルオロウラシル・モルヒネ・ペンタゾシン・メルカプトプリンが挙げられ、経口投与では静注より高用量を要すること。舌下ニトログリセリンは高い脂溶性により初回通過を回避し、狭心症症状を速やかに軽快させること閲覧 2026-08-27
  2. 2.A theoretical basis for a biopharmaceutic drug classification: the correlation of in vitro drug product dissolution and in vivo bioavailability(Pharmaceutical Research・1995)抄録(PubMed、PMID 7617530)で確認した。Unpaywallで oa_status が closed かつリポジトリ版も無く、全文は取得できていない。抄録は、薬物の溶出(dissolution)と消化管透過性(gastrointestinal permeability)が吸収の速度と程度を支配する基本パラメータであるという認識に基づいて分類体系を提案するとし、4クラスを Case 1(高溶解性・高透過性)、Case 2(低溶解性・高透過性)、Case 3(高溶解性・低透過性)、Case 4(低溶解性・低透過性)と逐語で定義している。原著は Class I〜IV ではなく Case 1〜4 という呼び方をしている。また、溶出は速いが透過性の低い薬物のように in vitro と in vivo の相関が期待できない条件があること、非常に速く溶ける高溶解性薬物(15分未満で85%溶出など)では1点の溶出試験で足りうることも述べている。閲覧 2026-09-21