薬理学

薬理学 · Core10

耐性・タキフィラキシー・依存

Core10: Tolerance, tachyphylaxis, dependence

前提:病態
Core5:受容体理論:作動薬・部分作動薬・拮抗薬・逆作動薬Core23:酵素誘導薬
応用トピック
オピオイドベンゾジアゼピン非ベンゾジアゼピン系抗不安薬・睡眠薬間接型交感神経刺激薬・選択的α1作動薬経口・非経口グルココルチコイドミネラルコルチコイド・外用グルココルチコイド・副腎皮質拮抗薬及びステロイド合成阻害薬選択的β2刺激薬およびその他の気管支拡張薬心臓の酸素需要・供給に作用する薬・微小循環改善薬アルコール使用症の疫学・診断・離脱・アルコール幻覚症・経過精神作用物質使用症の診断と臨床管理

🧠 全体像:同じ薬に繰り返しさらされると生体は適応する。その適応が「同じ用量で効かなくなる」形で表れれば耐性、数回の投与で一気に頭打ちになるほど速ければ、「やめると具合が悪くなる/また使いたくなる」形で表れれば依存である。⚠️ 身体が適応したこと()と、薬を求める行動が制御できなくなること()は別の現象であり、この区別は臨床判断でも診断分類でも要になる。

定義の整理

概念 何が起きているか 代表例
耐性 後に、同じ用量へのが低下する 徐々に/ オピオイド、、アルコール、
投与後に反応が急速に低下する 急性/数回の投与以内 、
依存 再使用への欲求と中止時の離脱を起こす、生物心理学的な適応状態 の反復使用で生じる オピオイド、アルコール、ベンゾジアゼピン

⭐ 3つは別々の現象ではなく、同じ「適応」がどこに出たかの違いである。 下の図の分岐を押さえると、後述の「があってもとは限らない」という臨床上いちばん大事な但し書きが理解しやすい。

flowchart TD
    A["同じ薬への反復曝露"] --> B["生体の適応"]
    B --> C["同じ用量で効果が落ちる<br>=耐性"]
    B --> D["中止・減量で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='recoil'>反跳</span>症状が出る<br>=<span class='jp-term jp-term-diagram' title='physical dependence'>身体依存</span>"]
    B --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='reward system'>報酬系</span>の可塑的変化<br>→<span class='jp-term jp-term-diagram' title='craving'>渇望</span>・制御できない使用<br>=<span class='jp-term jp-term-diagram' title='addiction'>嗜癖</span>"]
    C --> F["増量、または<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hormone-free interval (drug-free interval)'>休薬期間</span>を設けて回復させる"]
    D --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='tapering'>漸減</span>して離脱を避ける<br>⚠️ <span class='jp-term jp-term-diagram' title='physical dependence'>身体依存</span>があること自体は<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='addiction'>嗜癖</span>の証拠にならない"]
    E --> H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='substance use disorder'>物質使用症</span>として<br>行動・薬物療法の対象になる"]

耐性

機序

  • 長期の後の 。
  • (前駆体・貯蔵小胞の枯渇)。
  • によるの促進(学的耐性 → Core23:)。
  • 生物学的製剤、特に型抗体に対する ()の産生。

💡 「受容体側が鈍る」のか「薬が早く消える」のかで対処が変わる。 受容体側(耐性)ならが要り、(学的耐性)なら併用薬の見直しやで対応できる。

代表例

硝酸薬の耐性 — 休薬時間で設計する

は「耐性を前提にを組む」数少ない薬で、耐性の典型例として繰り返し問われる。

  • されたは、対照つきの大多数で 24時間以内にと区別できなくなった1。
  • ⚠️ 増量では克服できない。 急性期の用量をはるかに超える量まで増やしても耐性の克服は一貫して失敗しており、数時間にわたり体内からが消失して初めて効果が回復する1。だから対処は増量ではなくである2。
  • 耐性を避けるには 10〜12時間の で十分とされ、それより短い間隔は十分に検討されていない。なら 1日12〜14時間の装着+10〜12時間の非装着 が適切なになる1。
  • ⚠️ は無害ではない。 少数の試験で無投薬時間中に狭心症発作の頻度が増えた患者が観察され、1試験では無投薬時間の終わりにが低下した1。

⭐ は「でなくてもが起こる」ことの教科書的な証拠でもある。 高濃度の有機に長期曝露された工業労働者では、が一時的に断たれたときに胸痛・・突然死が起こっており、これは真のが存在することを示すと添付文書自身が述べている1。とはまったくのである。

タキフィラキシー

  • 耐性の急性型で、初回〜早期の投与で急速に生じることがある。
  • 機序:
    • の枯渇(では、ノルアドレナリンの放出可能なプールが尽きる)。
    • 受容体の。
  • 徐々に生じる耐性と異なり、は 単純な増量では克服できない ことがある。
  • 例:

⚠️ 「増量で克服できるか」は耐性とを分けるな軸ではない。 上のは分類上は耐性だが、増量による克服は一貫して失敗している1。区別の本筋は発現までの速さであり、増量の可否は結果として付いてくる性質にすぎない。

依存・嗜癖

起こりやすい薬

依存は、神経伝達を変化させて以下を刺激する薬で起こりやすい。

  • 中枢神経系の。
  • 。
  • 鎮痛。

これらがの強化につながる。よくある例:

⚠️ 身体依存と精神依存は独立に起こりうる

  • =中止・減量でが出る生理的適応。
  • 精神依存=と強迫的な探索行動。
  • この2つは独立に生じうる。治療用オピオイドの長期使用などでは、的行動を伴わずにだけが生じる。

⭐ 自身がこの但し書きを診断規則に書き込んでいる。 刺激薬・・オピオイド・・鎮静/などをに監督下で用いる場合、耐性と離脱は正常な生理的適応として生じうるため、他の基準を満たさない耐性・離脱だけではと診断してはならない3。がん疼痛や術後疼痛のオピオイド管理で、「が出る=だから減らすべきだ」と読み違えると、必要な鎮痛を取り上げる方向に倒れる。

診断分類はどう整理されているか(歴史と現行)

旧:-IV(〜2013年) 現行:(2013年〜) 現行:ICD-11(2022年1月1日発効)
一次カテゴリー 「乱用」と「依存」の2診断 の1カテゴリーのみ 物質依存/有害な物質使用パターン/有害な物質使用のエピソード の3つ(階層的・)
「依存」という診断名 ある 無い(統合された) ある(維持されている)
診断閾値 依存は7基準中3つ以上、乱用は3基準中1つ以上かつ依存の診断が無いこと(いずれも12か月以内) 11基準中2つ以上(12か月以内) 3つの中核基準のうち 2つ以上
重症度 乱用/依存の別で表す 基準数で 軽度2〜3・中等度4〜5・重度6つ以上 重症度の段階分けは置かない
  • が乱用と依存を統合したのは、20万人超の研究参加者から得られた一貫した知見に基づく作業部会の勧告による3。なお-IVにあった「生理的」というは、予測能が一貫せず実際にもほとんど使われていないとして廃止された3。
  • ⚠️ 「依存という診断名が無くなった」はに限った話である。 の現行の国際分類であるICD-11(2022年1月1日発効)では、物質依存は診断名として維持されており、有害な使用パターンとは別のカテゴリーである4。ICD-11の依存は、①使用に対する制御の障害、②生理学的特徴(耐性、、離脱を和らげるための反復使用)、③生活の中で使用の優先度が増すことの3つのうち2つ以上で診断する5。
  • 💡 はもともとの診断名ではない。 -IVの診断名は「乱用」と「依存」であり、は診断名ではなく総称として使われてきた語である。の章題が「物質関連障害および性障害群」に決まった経緯自体が、を総称とし依存を耐性・離脱に限って使うべきだという分野内の論争を反映している3。
  • ⚠️ とICD-11は一致していない。にある「」と「身体的に危険な状況での反復使用」はICD-11に対応項目が無く、同じ患者でも体系によって診断が変わりうる4。どちらの枠組みの話をしているかを先に決めること。

なお訳では、版が「」、-TR版が「」を採っており、同じ substance use disorder に2つの訳語が流通している。

診断体系そのものの詳しい比較(ICD-10の6基準、-TRの11基準、非物質性のの扱い)は 医療心理学10:と物質使用 が正典なので、ここではで必要な骨格だけを置いた。関連する臨床管理は (アルコール以外)、、 を参照。

まとめ

  • 耐性は「な低下」。機序は、、、の4つで整理する。
  • は「速い耐性」。数回の投与で頭打ちになり、単純な増量では克服できないことがある。区別の本筋は増量の可否ではなく発現までの速さ。
  • 依存は「中止後の離脱/」。(離脱)と精神依存()は独立に生じうる。
  • ⚠️ があること自体はを意味しない。 は、監督下ので生じた耐性・離脱だけではと診断してはならないと明記している3。
  • は耐性の典型例。では24時間以内に効果が失われ、増量では克服できず、10〜12時間の無投薬時間で防ぐ(貼付は装着12〜14時間・非装着10〜12時間)1。
  • 診断分類は体系ごとに違う。 は乱用と依存を単一のへ統合したが3、ICD-11は物質依存を独立した診断として維持している4。

出典

  1. 1.NITRO-DUR (nitroglycerin) Transdermal Infusion System: Prescribing Information(DailyMed(Ingenus Pharmaceuticals, LLC)・2022)文書本体に印字された改訂表示は 07/2022 で、DailyMed のSPL検索でもNITRO-DURは当該setid 1件のみ、NDCディレクトリでも販売終了日が無く現行であることを確認した。全文に、対照つき臨床試験の大多数で持続投与された硝酸薬が24時間以内にプラセボと区別できなくなったこと、急性期の用量をはるかに超える増量によっても耐性の克服は一貫して失敗してきたこと、数時間にわたり体内から硝酸薬が消失して初めて抗狭心症効果が回復すること、耐性を避けるには10〜12時間の無投薬時間で十分でそれより短い間隔は十分に検討されていないこと、したがって貼付剤の適切な投与計画は1日12〜14時間の装着と10〜12時間の非装着になることが逐語で記載されている。⚠️ 無投薬時間中に狭心症発作の頻度が増えた患者が少数の試験で観察されたこと、1試験では無投薬時間の終わりに運動耐容能が低下したことも同じ文書に記されている。さらに、高濃度の有機硝酸に長期曝露された工業労働者では耐性が明らかに生じ、硝酸薬を一時的に中断した際に胸痛・急性心筋梗塞・突然死が起こっており、真の身体依存(true physical dependence)の存在を示すと記載されている。閲覧 2026-09-21
  2. 2.Nitrates(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2023)硝酸薬は持続投与下で12〜24時間以内に急速に耐性が生じうるため、1日あたり10〜12時間の休薬(nitrate-free interval)または低用量期間を設けて耐性を防ぐこと、休薬期間を設けない慢性使用は症状管理不良に加えフリーラジカル蓄積による内皮機能障害を来すことを確認した。閲覧 2026-08-27
  3. 3.DSM-5 criteria for substance use disorders: recommendations and rationale(American Journal of Psychiatry・2013)全文(PMC3767415)で確認した。DSM-5物質関連障害作業部会は、20万人超の研究参加者データの一貫した知見に基づき、それ以前の「乱用(abuse)」と「依存(dependence)」という二分診断を単一の物質使用症基準へ統合することを勧告した。DSM-IVでは依存は7基準のうち3つ以上、乱用は3基準のうち1つ以上かつ依存の診断が無いこと(いずれも12か月以内)で診断された。DSM-5ではこの7+3に渇望を加えた11基準となり、診断閾値は12か月以内に2つ以上、重症度は基準数で軽度(2〜3)・中等度(4〜5)・重度(6つ以上)と表す。あわせて、刺激薬・コカイン・オピオイド・亜酸化窒素・鎮静睡眠薬/抗不安薬・(一部の法域では)大麻を医療目的に監督下で用いる場合、耐性と離脱は正常な生理的適応として生じうるため、他の基準を満たさない耐性・離脱だけでは物質使用症と診断すべきでないと明記している。DSM-IVにあった「生理的(physiological)」特定用語は有用性が乏しいとして廃止された。旧来の用語をめぐっては、嗜癖(addiction)を総称とし依存(dependence)を耐性・離脱に限って用いるべきだという論争が続いていたことも述べられている。閲覧 2026-09-21
  4. 4.Alcohol and substance use disorders diagnostic criteria changes and innovations in ICD-11: An overview(Clinical Psychology in Europe・2022)全文(PMC9881115、CC BY)で確認した。ICD-11は2022年1月1日に発効し、物質使用に関する一次診断のカテゴリーは「物質依存(Substance dependence)」「有害な物質使用パターン(Harmful Pattern of Psychoactive Substance Use)」「有害な物質使用のエピソード(Episode of Harmful Psychoactive Substance Use)」の3つ(ほかに使用パターン不明時の「特定不能」)で、これらは階層的かつ相互排他的である。ICD-10では「物質依存」と「有害な物質使用」の2区分だった。DSM-5は対照的に「物質使用症」という単一カテゴリーだけを置き、11基準のうち2〜3で軽度、4〜5で中等度、6つ以上で重度とする。DSM-5の「渇望」と「身体的に危険な状況での反復使用」はICD-11に対応項目が無く、両体系で診断が一致しない集団が生じる。閲覧 2026-09-21
  5. 5.ICD-11: changes in the diagnostic criteria of substance dependence(Der Nervenarzt・2021)全文(PMC8763741、オープンアクセス)で確認した。ICD-11でも従来どおり依存(Abhängigkeit)と有害な使用(schädlicher Gebrauch)が区別される。ICD-10の6基準が3つの対にまとめられ、そのうち2つを満たすことが依存の診断要件になる(ICD-10は6基準中3つ)。3つの中核基準は、①物質使用に対する制御の障害、②生理学的特徴(耐性、中断・減量時の離脱症状、離脱症状を和らげるための反復使用)、③物質使用が生活の中で優先度を増していくこと。診断には原則として12か月以上の持続を要し、1か月以上の連日ないしほぼ連日の使用でも診断しうる。⚠️ 本論文は2021年の時点でWHOの臨床記述・診断ガイドライン(CDDR)が未公表であったため、WHO作業部会メンバーによる事前公開版の基準に基づくと著者自身が明記している。閲覧 2026-09-21