薬理学

薬理学 · Core9

治療係数

Core9: Therapeutic index

前提:病態
Core6:有効性と力価Core7:集団レベルでの用量反応関係
応用トピック
中毒学総論腫瘍薬物療法の原則血液凝固に作用する薬II:抗凝固薬強心薬(陽性変力薬)心臓電気生理に作用する薬(抗不整脈薬)抗菌薬治療の原則:選択毒性

🧠 全体像:(TI)は、有効な用量と害が出る用量がどれだけ離れているか を1つの数にしたもので、基本形は TI = TD50 ÷ ED50 である。⚠️ ただし「TIが大きい=安全」は近似にすぎない。TIは2つの中央値どうしの比なので、曲線のさも、1%の患者に毒性が出る用量も式に入らない。由来の定義(LD50/ED50)と臨床での使われ方も別物である。

定義

指標 意味 どこで測るか
ED50 集団の 50% に望ましい反応を起こす ヒト・動物いずれでも
TD50 集団の 50% に毒性を起こす 主にヒト(臨床)
LD50 集団(動物)の 50% を死に至らせる
  • はとの比である。
    • TI = TD50 ÷ ED50(臨床側の書き方)12
    • TI = LD50 ÷ ED50(側の書き方)13
  • TIが2であれば、「集団の半分に毒性を起こす用量は、集団の半分に効く用量の2倍」という意味になる。2

動物実験由来の定義と臨床での定義は別物

⚠️ 同じ「」という語が、2つの違うものを指している。

  • 動物試験:分子は (LD50)。原文は逐語で In animal studies, the TI can be calculated as the lethal dose of a drug for 50 % of the population (LD50) divided by the minimum effective dose for 50 % of the population (ED50), i.e. TI = LD50/ED50。この定義を原著は「academic(学術的な)」定義と呼び、では扱いやすいが、臨床へ持ち込むと解釈の幅を生むと述べている。
  • 臨床:分子は死亡ではなく 許容できない。臨床でのTIは「で、参加者の中央値に対して許容できないなく有効だった 用量の幅」であり、比というより範囲として扱われる。3

💡 試験で「TI=LD50/ED50」と答えるのは正しいが、それはの指標である。ヒトでLD50を測ることはないので、臨床でTIを語るときは毒性の定義(何をもって毒性とするか)が先に要る。

LD50は現行の指標か、歴史的な指標か

⚠️ 古典的なLD50試験そのものは廃止されている。 OECDの急性経口毒性試験の指針は、旧 テストガイドライン401(の急性経口毒性試験)を逐語で「動物福祉の点で最も強く批判されてきた試験」と述べ、それが代替3法(TG420 固定用量法・TG423 急性毒性等級法・TG425 上下法)開発の原動力になったこと、加盟国が401の削除を計画したこと、2000年に代替3法の改訂が完了して401の削除手続きが始まったことを記している。同文書は401を「the deleted guideline 401」と呼んでいる。4

💡 一方で「LD50という値」は現役である。 代替3法はいずれも、国際的に調和された LD50の による分類(GHSの急性毒性区分)に対応することを要件として設計されており、TG425はつきのLD50推定そのものを行う。「LD50試験は廃止された」は正しく、「LD50はもう使われない」は誤りである。4

広い治療係数と狭い治療係数

概念 意味 臨床的意味
広いTI(wide TI) がよりかなり高い 比較的安全で、投与量調整がしやすい
狭いTI(narrow TI) がに近い 慎重な投与量設定とモニタリングが必要
  • 目安として、TIが10を超えれば良好な安全性プロファイル とみなされるのが一般的である。3
  • ⚠️ 狭いTIの薬は、有効性・毒性のいずれか、または両方について 濃度反応関係が であることが多く、リスクとの境目が狭く定義される。3

治療係数が狭い薬(NTI薬)の扱い

  • 米国の定義では、(a) LD50とED50の差が2倍未満、または (b) 最小中毒濃度と最小有効濃度の差が2倍未満、かつ (c) 安全かつ有効に使うには慎重なと患者モニタリングを要すること、がNTI薬の条件である。3
  • ⚠️ NTI薬の「リスト」は存在しない。 EMAは「NTI薬を分類する具体的基準の一覧を定めることはできず、臨床的考慮に基づいて症例ごとに判断しなければならない」とし、も包括的なリストは示していない——ただしの場合は品目別ガイダンスから、より厳格な生物学的同等性を要求される薬剤を特定できる。2
  • 💡 この区分はの置換に直結する。 NTI薬では、生物学的同等性の許容区間が通常の 80〜125%から90〜111% へ狭められる(通常の80〜125%ルールは→Core14:)。が品目別ガイダンスでこの扱いをしている例として、カルバマゼピン・・フェニトイン・ワルファリン・ジゴキシン・バルプロ酸が挙げられている。2

治療係数の限界

⚠️ TIは中央値どうしの比なので、曲線の形は式に入らない。 TD50もED50も「集団の50%が反応する用量」という1点にすぎず、その点に至るまでののさは式のどこにも現れない。したがって TIが同じ2つの薬が、同じ安全さを意味するとは限らない。

💡 だから、分布の端を見る指標が別に定義されている。 古典的な式では、を TI = TD50/ED50 = LD50/ED50 と置くのに対し、は TD1/ED99 = LD1/ED99 と定義される——「99%に効く用量」に対して「1%に毒性(致死)が出る用量」がどれだけ上にあるかを見る。中央値どうしではなく、実際に問題になる端どうしを比べる指標である。5 上で見た「狭いTIの薬は濃度反応関係がであることが多い」という観察3も、TIとは別の軸の話である。

例

関連概念

  • 力価:反応を起こすのに必要なが少ないこと。ED50/EC50が低い。
  • 有効性:薬物が起こせる最大の。⚠️ 「」という語はこの意味でも potency の意味でも使われるので、原語を確かめる。
  • は、力価や有効性そのものではなく、主に を表す。力価が高い(少量で効く)ことと安全であることは別で、どちらも→Core6:有効性と力価の枠で区別する。

まとめ

  • =/。臨床側の書き方は TD50/ED50、側の書き方は LD50/ED50 で、同じ語が別のものを指している。13
  • 広いTI=広い、狭いTIの薬はモニタリングが必要。目安はTI 10超。3
  • ⚠️ TIは2つの中央値の比であり、の傾きを反映しない。端を見る指標として(TD1/ED99=LD1/ED99)が別に定義されている。5
  • NTI薬にリストは無い。EMAは症例ごとの臨床判断、は品目別ガイダンスで対応し、の生物学的同等性の許容区間が80〜125%から90〜111%へ狭まる。2
  • 古典的LD50試験(OECD TG401)は動物福祉を理由に廃止され、TG420/423/425に置き換わった。ただしLD50という値自体はGHSの急性毒性分類の物差しとして現役である。4

分母のED50はCore7:集団レベルでので定義した集団レベルの指標であり、分子側の毒性の中身はCore8:で扱う。

出典

  1. 1.ED50(StatPearls Publishing・2024)治療係数をTD50/ED50またはLD50/ED50と定義し、ED50・TD50・LD50をいずれも集団の50%に効果・毒性・致死をもたらす用量(集団レベルの中央値)としている閲覧 2026-08-27
  2. 2.Bioequivalence, Drugs with Narrow Therapeutic Index and the Phenomenon of Biocreep: A Critical Analysis of the System for Generic Substitution(Healthcare (Basel)・2022)全文(PMC9394341)で確認した。治療係数を逐語で「the ratio (TD50/ED50) between the dose required to produce a toxic effect in 50% of the population (TD50) and the dose required to produce a therapeutic effect in 50% of the population (ED50)」と定義し、TIが大きいほど安全だとしている。NTI薬については「普遍的に受け入れられたNTI薬のリストは存在せず、すべての規制当局が定義の基準を整備しているわけではない」としたうえで、EMAは「NTI薬を分類する具体的基準の一覧を定めることはできず、臨床的考慮に基づいて症例ごとに判断しなければならない」とし、FDAも包括的なリストは示さないが、より厳格な生物学的同等性を要する薬剤は品目別ガイダンスから特定できるとしている。例としてカルバマゼピン・エベロリムス・フェニトイン・ワルファリン・ジゴキシン・バルプロ酸を挙げ、NTI薬では生物学的同等性の許容区間が通常の80〜125%から90〜111%へ狭められると述べている閲覧 2026-08-27
  3. 3.Narrow therapeutic index drugs: a clinical pharmacological consideration to flecainide(European Journal of Clinical Pharmacology・2015)全文(PMC4412688)で確認した。治療係数は「薬物が治療効果を生じる血中濃度と、動物試験では死を、ヒト試験では毒性をきたす量とを比べる比」であり、動物試験では逐語で「In animal studies, the TI can be calculated as the lethal dose of a drug for 50 % of the population (LD50) divided by the minimum effective dose for 50 % of the population (ED50), i.e. TI = LD50/ED50」と定義される。この定義を原文は「academic」なものと呼び、前臨床では扱いやすいが臨床では多様な解釈の余地を開くとしている。臨床でのTIは「臨床試験で参加者の中央値に対して許容できない有害作用なく有効だった用量の幅」である。TIが大きいほど安全とされる一方、逐語で「a drug with a narrow TI has generally a steep concentration–response relationship for efficacy, toxicity or both so that there is a narrowly defined range between risk and benefit」と述べ、またTIが10を超えれば良好な安全性プロファイルとみなされるのが一般的だとしている。米国FDAのNTI薬の定義は、(a) LD50とED50の差が2倍未満、または (b) 最小中毒濃度と最小有効濃度の差が2倍未満、かつ (c) 安全かつ有効な使用に慎重な用量調節と患者モニタリングを要すること閲覧 2026-09-21
  4. 4.Guidance Document on Acute Oral Toxicity Testing (OECD Series on Testing and Assessment No. 24, ENV/JM/MONO(2001)4)(OECD・2002)全文(PDF、24頁、表紙に ENV/JM/MONO(2001)4・Paris June 2001)で確認した。序論の逐語は「The conventional acute oral toxicity test (formerly OECD Test Guideline 401) is the most heavily criticised test in terms of animal welfare and this concern was the driving force behind the development of three alternative tests for acute oral toxicity (Test Guideline 420, 423, 425). Anticipating the presence of validated alternatives, Member countries took the initiative to plan the deletion of Guideline 401.」であり、続けて「The revision of Guidelines 420, 423 and 425 was completed in 2000 … and the process of deletion of guideline 401 was started.」と述べる。限界の節では TG401 を逐語で「the deleted guideline 401」と呼んでいる。一方で代替3法はいずれも調和されたLD50カットオフ値による分類を目的としており、同文書はGHSの急性毒性分類に対応させることを要件として挙げている。⚠️ 本文書はTG401の廃止「日付」を記していないので、日付は書いていない。⚠️ 本文はoecd.orgの公開PDF(…/reports/2002/05/…/9789264078413-en.pdf)を取得して読んだ。CrossrefではDOI 10.1787/9789264078413-enの刊行が2002年5月10日、文書自身の表紙はENV/JM/MONO(2001)4・2001年6月で、yearは前者を採っている閲覧 2026-09-21
  5. 5.Comparative therapeutic index, lethal time and safety margin of various toxicants and snake antivenoms using newly derived and old formulas(BMC Research Notes・2020)全文(PMC7296648)で確認した。「Previously established formulas」として式1に「Therapeutic index TI = TD50/ED50 = LD50/ED50」、式2に「Margin of safety = TD1/ED99 = LD1/ED99」を逐語で掲げている。ED99は「Effective dose per 99 animal」、LD1は「Dose that kills one animal」と略語表で定義される。本論文は実験動物モデルの変動性・予測妥当性・信頼性の不足と、治療係数・安全域・致死時間に関する臨床報告の不一致を理由に、現行の治療係数と安全域の式を改訂する必要があると述べている。⚠️ 全文に slope・gradient・steep・curve はいずれも0件で、用量反応曲線の傾きについては論じていない。conservative も0件で、安全域の式をより保守的だと形容してもいない閲覧 2026-08-27