生理学

生理学 · 4.2

尿細管輸送過程。

Tubular transport processes.

応用トピック
ICUにおける急性腎障害の病態・診断・治療尿細管間質性疾患・嚢胞性腎疾患腎疾患の鑑別診断電解質異常急性尿細管間質性疾患慢性尿細管間質性疾患小児腎尿細管疾患薬物の排泄薬剤性有害反応:腎毒性

🧠 尿細管を1本の川として、上流(, proximal tubule)から下流(集合管, collecting duct)へ「Na⁺の再吸収方法が段階的に変わっていく」物語として読む。近位では他の溶質と抱き合わせでNa⁺を回収し(漏れやすい上皮)、ヘンレのでは単独ポンプで濃度勾配を作り、遠位〜集合管ではホルモン(アルドステロン・ADH)による最終を行う——「上流ほど大量・大雑把、下流ほど少量・精密」という原則で全体を整理する。

糸球体濾過のダイナミクス

を駆動するのも2-07-functional-organization-of-microcirculation-and-its-control-control-ofと同じスターリング力だが、方向がBowman嚢へ向く。

NUP=(PC−PB)−(πC−πB)NUP = (P_C - P_B) - (\pi_C - \pi_B)
輸入端 輸出端
(濾過) 53 mmHg 51 mmHg
(再吸収) −26 mmHg −33 mmHg
Bowman嚢(再吸収) −12 mmHg −12 mmHg
Bowman嚢(濾過) 0 mmHg 0 mmHg
15 mmHg 6 mmHg

💡 輸出端でNUPが下がるのは、濾過が進むにつれの()が上昇し続けるから。 濾過液には蛋白が含まれないため、血漿中の残った蛋白が相対的に濃縮され、輸出端に近づくほど再吸収方向の力()が強くなりを圧迫する。

濾過障壁の性質(・負電荷)により、濾液の[塩類][有機小分子]は血漿とほぼ同じだが蛋白はほぼ含まれない(4-01-circulation-of-the-kidney-glomerular-filtration参照)。

尿生成の3過程

\ 120\text{mL/分(180L/日)} \to \text{尿排泄 1-2 L/日}\quad(\text{濾過水の約99%が再吸収})

①濾過(糸球体)②再吸収(濾液から水・溶質を回収)③分泌(へ溶質を放出)——尿の量と組成は再吸収と分泌のバランスで決まる。

近位尿細管

濾過されたNa⁺の65-70%をここで再吸収する。「漏れやすい(leaky)」上皮のため大きな浸透圧・電気・pH勾配は作られず、の輸送に等量の水がついてくる。

前半:Na⁺と他物質との共輸送

flowchart TD
  A["管腔側:Na+/H+<span class='jp-term jp-term-diagram' title='antiporter'>対向輸送体</span>(Na+流入・H+流出)"]
  A --> B["CO2+H2O→(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='carbonic anhydrase'>炭酸脱水酵素</span>)→H2CO3→H++HCO3-"]
  B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='basolateral side'>基底側</span>:Na+/K+-ATPaseがNa+を排出、1Na+/3HCO3-<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cotransporter'>共輸送体</span>がHCO3-を排出"]
  C --> D["正味:Na+とHCO3-の再吸収、管腔pH低下"]
  • HCO₃⁻との共役: Na⁺/H⁺(NHE3、Na⁺/H⁺ antiporter)で管腔側からNa⁺を取り込みH⁺を分泌。細胞内でがCO₂+H₂O→H⁺+HCO₃⁻を触媒し、でとNa⁺-3HCO₃⁻がそれぞれを排出——結果、H⁺分泌により管腔pHが低下する。
  • SGLT(sodium-glucose cotransporter、Na⁺-グルコース): (近位曲部、1:1輸送、高濃度域を担う)と(より下流、2Na⁺:1グルコースで低濃度でも効率よく回収)。グルコースはで間質側へ、Na⁺はで。に生じる負電位がCl⁻のを駆動する。⭐ 正常血糖下では前半のだけで濾過グルコースの約97%が再吸収され、が残り約2〜3%を担う。 を阻害すると再吸収能力が約80 g/日(のみの残存能力)まで低下し、この性質を利用した阻害薬が2型糖尿病治療薬として臨床導入されている(総説)1。
  • アミノ酸・乳酸・リン酸との共役: 管腔側でNa⁺、で。リン酸再吸収は(parathyroid hormone, 、受容体→Gs→↑)により抑制される。
  • これらの機構で、前半では濾過Na⁺の約20%のみが再吸収される。

後半:Cl⁻濃度勾配による駆動

前半でNa⁺が優先的に他物質と共に、水も伴って再吸収された結果、後半では[Cl⁻]が上昇する——これが後半の再吸収を駆動する。

flowchart TD
  A["後半:管腔[Cl-]が上昇"] --> B["Cl-の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='paracellular reabsorption'>傍細胞再吸収</span>→管腔に陽性電位が残る"]
  B --> C["Na+・K+・Ca2+が電位に従い傍細胞的にCl-を追う"]
  C --> D["間質浸透圧上昇→<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Aquaporins'>アクアポリン</span>1(Aq1)経由で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='water reabsorption'>水再吸収</span>"]

近位尿細管再吸収を修飾する因子

因子 機序
→Na⁺/HCO₃⁻再吸収阻害
阻害→阻害
非再吸収性浸透物質(、、グルコース/ケトン体) 水をに引き留めを起こす(糖尿病でみられる)

ヘンレループ

NaCl再吸収のさらに25%を担う。細い下行脚・上行脚はのみ、は能動輸送を行う。

部位 水透過性 溶質透過性 結果
細い下行脚 高い(Aq1) 低い 水のみ再吸収→管腔液は化(内髄質で300→1200mOsm)
細い上行脚 低い(Aq1欠如) NaCl・尿素に透過性 NaClが間質へ拡散→管腔液は低浸透圧化
低い(Aq1欠如、なし) 能動輸送 溶質除去継続、管腔液はさらに低浸透圧化

太い上行脚の能動輸送機構

flowchart TD
  A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='basolateral side'>基底側</span>Na+/K+-ATPase→細胞内[Na+]低下"]
  A --> B["Na+/K+/2Cl-<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cotransporter'>共輸送体</span>(管腔側):1Na+2Cl-1K+を細胞内へ(K+は濃度勾配に逆らう)"]
  B --> C["K+/Cl-<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cotransporter'>共輸送体</span>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='basolateral side'>基底側</span>)でK+・Clを間質へ"]
  B --> D["ROMKチャネルでK+が管腔側へ<span class='jp-term jp-term-diagram' title='recycling'>再循環</span>→陽性電位形成"]
  D --> E["陽性電位が傍細胞的にNa+/K+/Ca2+の再吸収を駆動"]
  • はNa⁺/K⁺/2Cl⁻(NKCC2)を阻害する(の)。
  • ROMKチャネルはアシドーシス(pH↓)で阻害される。

遠位曲尿細管

NaCl再吸収の5-7%を担う。管腔側のNa⁺/Cl⁻(NCC、の標的)でNaClを取り込み、でNa⁺を排出、Cl⁻チャネルでCl⁻をへ拡散させる。水は再吸収されないため、管腔液はさらに低浸透圧化する。DCTではCa²⁺再吸収(調節)も行われる。

集合管系

Na⁺再吸収: 管腔側の(epithelial sodium channel、上皮性Na⁺チャネル)を介する。はアルドステロンにより発現が増強される(→管腔陰性電位が増強)、ANPにより抑制される(→)。

K⁺分泌: 管腔陰性電位に依存し、管腔側K⁺チャネルを通って分泌される。アルドステロン↑→Na⁺再吸収↑→陰性電位↑→K⁺分泌↑という連動。はを阻害しNa⁺排泄を増やすがK⁺には影響しない。アシドーシスはK⁺分泌を抑制(体内にK⁺が貯留し高K血症, hyperkalemia)。

: TDL下端からDCT終わりまでは水不透過性。から集合管にかけて、水透過性は(ADH)が支配する——ADHがGs共役に結合→↑→PKA→(aquaporin 2, Aq2)が細胞内小胞から管腔膜へ移行→可能に。

参考:K⁺・Ca²⁺のセグメント別ハンドリング

セグメント K⁺ Ca²⁺
傍細胞的再吸収(Cl⁻由来の陽性電位が駆動) 傍細胞的再吸収(同上)
Na⁺/K⁺/2Cl⁻で再吸収(アシドーシスがROMK1阻害→再吸収↑=高K血症) 傍細胞的再吸収(K⁺由来の陽性電位が駆動)
集合管 Na⁺再吸収と連動して分泌(アルドステロン↑や酸血症↓で分泌↑/↓) —
— 非共役の能動的(管腔側+Ca²⁺-ATPase、とが促進)

グルコース: SGLTによる再吸収は血糖値約11〜12 mmol/L(200 mg/dL前後)で完全飽和に達する(正常血糖4-5mMには十分な)。濾過量=×濃度で決まる1。⚠️ 「180 mg/dL」は単一の固定値ではない。 が出始める血糖値にはがあり(ごとのTmのばらつき=splay現象)、1型糖尿病患者23例に静注糖負荷を行い出現の瞬間を記録したヒトの研究では、閾値は6.0〜14.3 mmol/L(約108〜257 mg/dL)の範囲で2倍近くばらつき、腎機能()が低いほど閾値が高い方向へ相関したことが確認されている2。

蛋白の回収: の管腔膜にある・複合体が濾液中の蛋白(アルブミンやインスリンなど蛋白結合物質)を認識しエンドサイトーシス/的に回収する。

NaCl・水再吸収の全身性調節(総括)

因子 主な作用部位 効果
II(angiotensin II) 、TAL・DCT・集合管 Na⁺・Cl⁻・水(近位)、Na⁺(それ以降)の再吸収↑
アルドステロン TAL・DCT・集合管(特にDCT・CDで強力) 主細胞の↑・発現↑→Na⁺・Cl⁻再吸収↑
ANP ・ ↑→Na⁺・K⁺濾過↑→排泄↑
(ADH) 集合管 ↑または血液量↓で分泌→Aq2発現↑→↑

まとめ

  • はNa⁺の65-70%を、他の溶質(HCO₃⁻、グルコース、アミノ酸、乳酸、リン酸)と抱き合わせで再吸収する「漏れやすい」上皮。
  • はさらに25%を担い、のNa⁺/K⁺/2Cl⁻(の標的)が濃度勾配形成の主エンジン。
  • DCT(5-7%、標的)と依存性の集合管がNa⁺再吸収の最終を行い、アルドステロンとADHがそれぞれNa⁺再吸収とを全身性に制御する。
  • K⁺・Ca²⁺もセグメントごとに異なる機構で扱われ、アシドーシスはROMKを阻害しK⁺分泌/再吸収パターンを変化させる。

出典

  1. 1.Targeting renal glucose reabsorption to treat hyperglycaemia: the pleiotropic effects of SGLT2 inhibition(Diabetologia・2017)総説として、健常ヒトの腎は正常血糖下で1日約160gの糖を濾過し近位尿細管が最大約450g/日まで再吸収する能力を持つこと、この再吸収能の大半(正常血糖下で約97%)を近位尿細管前半のSGLT2が担い残り2〜3%をSGLT1が担うこと、SGLT2を阻害すると再吸収能力が約80g/日(SGLT1の残存能力)まで低下し尿糖排泄が起こること、高血糖では再吸収能力が約20%増加し500〜600g/日に達すること、この再吸収機構を標的とするSGLT2阻害薬が2型糖尿病治療薬として承認され尿細管糸球体フィードバックの活性化を介し糸球体過剰濾過も軽減することを確認した。閲覧 2026-08-26
  2. 2.Variations in renal threshold for glucose in Type 1 (insulin-dependent) diabetes mellitus(Diabetologia・1984)1型糖尿病患者23例(ヒト)に緩徐なグルコース静注負荷を行い血糖と尿糖排泄の関係を記録したところ、尿糖がわずかでも検出される時点の血糖値(腎閾値)は6.0〜14.3 mmol/Lの範囲で2倍の個人差があったこと、尿細管糖再吸収の最大速度も0.93〜1.98 mmol/分の範囲で2倍の個人差があったこと、腎閾値はクレアチニンクリアランスと負に相関した(腎機能が低いほど閾値が高い)ことを確認した。尿糖排泄はネフロンごとのTmのばらつき(splay現象)と曲線の傾きにも依存するため、単一の固定された腎閾値では血糖コントロールの指標として不十分であるとした。閲覧 2026-08-26