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Disease Atlas · 全身 · 中毒

サリチル酸中毒

Salicylate poisoning

別名
アスピリン中毒サリチル酸塩中毒
臓器系
全身内分泌・代謝神経
科目
PathophysiologyInternal Medicine
トピック
病態生理学 2-16:代謝性酸塩基平衡障害:代謝性アシドーシスとアルカローシス病態生理学 2-17:呼吸性酸塩基平衡障害:呼吸性アシドーシスとアルカローシス内科学 L-72:中毒患者の一般的管理
合併症
肺水腫
治療薬
活性炭
原因薬剤
アセチルサリチル酸
症状
耳鳴り発熱意識変容
検査値
アニオンギャップ動脈血液ガス

🧠 全体像の核心は、と代謝性アシドーシスが同時に進む異常という一点にある。延髄のを直接刺激してを起こす経路と、させて乳酸を増やす経路が、同じ薬物から並行して走るために起こる。年齢でこの混合の「見え方」が変わり、成人は優位で始まるが、小児は代謝性アシドーシスが早く前面に出る。そして治療のジレンマも1点に集約できる——が進むほどが増えて中枢神経へ移行しやすくなるため、挿管・の抑制は一見呼吸を助けるようでいて、むしろ中毒を悪化させうる。

病態:2つの機序が同時に走る

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='salicylic acid'>サリチル酸</span>(アスピリンなど)の過量摂取"] --> B["延髄の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='respiratory center'>呼吸中枢</span>を直接刺激"]
    A --> C["ミトコンドリアの<span class='jp-term jp-term-diagram' title='oxidative phosphorylation'>酸化的リン酸化</span>を<span class='jp-term jp-term-diagram' title='uncoupling'>脱共役</span>"]
    B --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hyperventilation'>過換気</span>→CO2排出↑"]
    D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='respiratory alkalosis'>呼吸性アルカローシス</span>"]
    C --> F["ATP産生障害・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='anaerobic metabolism'>嫌気性代謝</span>亢進"]
    F --> G["乳酸などの酸が蓄積"]
    G --> H["代謝性アシドーシス(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='anion gap'>アニオンギャップ</span>開大)"]
    E --> I["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='mixed'>混合性</span><span class='jp-term jp-term-diagram' title='acid-base balance'>酸塩基平衡</span>異常"]
    H --> I
    I --> J{"pHが低下すると"}
    J --> K["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='salicylic acid'>サリチル酸</span>の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Non-ionized'>非イオン型</span>が増える"]
    K --> L["組織・中枢神経系への移行が進む"]

延髄のが直接刺激されてが起こる一方、によってミトコンドリアでのATP産生が障害され、の亢進による乳酸産生増加を主体とした代謝性アシドーシスが並行して進む。この2つの機序が同時に走るため、特に成人のではと代謝性アシドーシスが混在するのが典型像になる1は当初、代謝性アシドーシスへの代償としても働くが、やがて呼吸筋が疲労して代償しきれなくなると代謝性アシドーシスが優位になっていく1

⭐ 年齢で異なる酸塩基所見

同じ障害でも、年齢によって前面に出る所見が異なる。

年齢層 酸塩基所見の傾向
成人 と代謝性アシドーシスの混合パターンを呈しやすい12
小児 は一過性の相にとどまりやすく、代謝性アシドーシスが早期から前面に出る2

⚠️ 小児の中毒を「が無いから軽症」と判断しない。 小児患者は成人より軽症から重症への進行が速く1の相をほとんど経ずに代謝性アシドーシスが前景に立つことがある。年齢を踏まえずに教科書的な「障害」だけを探すと、小児の重症例を見誤る。

臨床像

治療

尿のアルカリ化(イオントラップ)

治療の柱は尿のである。 輸液にナトリウムを加え、目標尿pH 7.5超を維持する32のため、尿がアルカリ性になるほど(イオン型)の割合が増える。イオン型は尿細管で再吸収されにくく尿中に留まるため、を「トラップ」して排泄を促す——これがの機序である3。血清側をする意味合いも同時にあり、組織(中枢神経を含む)に分布したを血清側へ引き戻す方向に働く。

血液透析

重症・・腎不全を伴う例ではを検討する。適応は、血中濃度100 mg/dL超(腎機能低下があれば90 mg/dL超)、pH 7.20未満、低酸素血症、意識障害・、標準治療への反応不良のいずれかである3

消化管除染

は摂取後1〜2時間以内という一般的な目安を過ぎても有用でありうる(は胃内での腸石形成・幽門痙攣により吸収が遅延しうるため)3

⚠️ 挿管・過換気の抑制はなぜ危険か

⚠️ が進むと、(非)の割合が倍増以上に増え、組織・中枢神経系への移行が加速する3。患者は代謝性アシドーシスを代償するために懸命にしており、このこそが血液pHを保ち、を血清側にとどめている防波堤になっている。

鎮静・を用いて挿管し人工呼吸に切り替えると、無呼吸の時間帯にが生じてpHがさらに低下し、の組織移行を後押ししてしまう3。挿管が避けられない場合は、設定で患者自身のを上回るを維持し、pHを下げないことが必須になる。

まとめ

  • は、の直接刺激によると、による代謝性アシドーシスが同時に進む異常である。
  • 成人はと代謝性アシドーシスの混合パターンを呈しやすいのに対し、小児は代謝性アシドーシスが早期から前面に出やすい。
  • ・発熱・が臨床像で、治療の柱は尿の(目標尿pH 7.5超、イオントラップによる排泄促進)である。
  • は血中濃度100 mg/dL超(腎機能低下時90 mg/dL超)、pH 7.20未満、、腎不全のいずれかで検討する。
  • ⚠️ が進むとが中枢神経へ移行しやすくなるため、挿管・の抑制はかえって危険であり、を維持する設定が必須である。

出典

  1. 1.Salicylates Toxicity(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2023)延髄の直接刺激による呼吸性アルカローシスと、酸化的リン酸化の脱共役による乳酸産生増加を主因とする代謝性アシドーシスが混在すること、この混合性酸塩基平衡異常は特に成人の急性中毒で典型的であること、過換気が代償として続くがやがて疲労し代謝性アシドーシスが優位になっていくこと(Pathophysiology節)、小児患者は成人より速く軽症から重症へ進行すること(History and Physical節)を確認した閲覧 2026-08-11
  2. 2.Acute Salicylate Toxicity: A Narrative Review for Emergency Clinicians(Cureus・2025)血中pHが低下するとサリチル酸の非イオン型(非解離型)の割合が倍増以上に増え組織・中枢神経系への移行が進むこと(Mechanism of toxicity節)、鎮静・筋弛緩による無呼吸からの高炭酸ガス血症がさらにpHを低下させサリチル酸を組織側へ移動させうること(ED management節)、尿アルカリ化は目標尿pH 7.5超で重炭酸ナトリウム持続投与により行い解離型を増やして腎再吸収を妨げる(イオントラップ)こと、血液透析は血中濃度100 mg/dL超(腎機能低下時90 mg/dL超)、pH 7.20未満、低酸素血症、意識障害・錯乱、標準治療への反応不良のいずれかで推奨されること(ED management節・Table 2)、活性炭は摂取後1〜2時間という一般的な目安を過ぎても有用でありうること(ED management節)を確認した閲覧 2026-08-11
  3. 3.Acute Salicylate Toxicity in Children: Diagnosis and Treatment of Overingestion(Consultant360 (HMP Global)・2013)小児では呼吸性アルカローシスが一過性の相にとどまりやすく代謝性アシドーシスが早期に前面に出るのに対し、成人では呼吸性アルカローシスと代謝性アシドーシスの混合パターンを呈しやすいこと(Pathophysiology/Acid-base status節)、尿アルカリ化は静脈内輸液へ重炭酸ナトリウムを加え尿pHを7.5超に維持して行うこと、血液透析は著明な神経毒性を伴う場合や血漿サリチル酸濃度90 mg/dL超の場合に最後の手段として考慮されること(Treatment節)を確認した閲覧 2026-08-11