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Disease Atlas · 消化器 · 病態

幽門痙攣

Pylorospasm

別名
幽門攣縮pylorospasm
臓器系
消化器小児
科目
Pediatrics
トピック
小児科 13:胎便性イレウス、腸閉鎖症、幽門狭窄症、横隔膜ヘルニア小児科 2-12:新生児消化管閉塞:胎便性イレウス・肥厚性幽門狭窄症・腸閉鎖
鑑別疾患
胃食道逆流症肥厚性幽門狭窄症
症状
嘔吐悪心体重減少
画像所見
くちばし徴候

🧠 全体像:は、がではなく機能的に閉塞する病態である1。臨床像はとほとんど同じ——の、嘔吐後もすぐ欲しがる、体重増加不良——なので、このノートの存在意義はただ一つ、「らしい所見」を見たときにそれで確定しないことにある。⚠️ 超音波の一枚の静止画では分けられない。 でも検査中のある時点では4 mm以上が53%に出る2。⭐ 決め手は数値そのものではなく、時間のなかで所見が変わるかどうかである。 痙攣は解除されて蠕動が見られ、狭窄症は最後まで何も変わらない3。そして両者の行き先は正反対で、痙攣は保存的に軽快し、狭窄症は手術を要する1。

定義と位置づけ

1925年にHughsonが用いた古い呼称で、乳児のがではなく機能的に閉塞する状態を指す1。乳児のの原因の一つであり、と同様に多くがを示し嘔吐後もすぐに哺乳を欲しがるが、持続する幽門の狭窄病変を欠く点が違う1。

⚠️ 文献が少ない主題である。 診断と画像所見についての議論は限られており1、頻度・・長期予後を語れるだけの集積は無い。この項に数値が少ないのは、確かめられた数値が少ないからである。

⭐ 超音波──「一枚の静止画」では分けられない

この主題で最も重要な事実である。の乳児を対象に、37例と34例を比較した検討がある2。

(37例) (34例)
検査中の所見 ・とも変化しなかった 値または画像所見が大きく変動した
平均22.5 mm 最長値の平均14.4 mm。18%が検査中のある時点で18 mm以上
平均5.3 mm 最大値の平均3.8 mm。53%が検査中のある時点で4 mm以上

⚠️ 「4 mm以上だから」は成り立たない。 でも・が狭窄症の陽性基準と重なりうる。画像や値のそのものが、を診断する手がかりである2。

💡 裏返せば「変わらないこと」が狭窄症の所見である。 痙攣は解除されて蠕動が見え、では所見が変化せず蠕動も見られない3。⭐ したがって、疑いが生じたら追跡のを行う3。1回の検査で決めきれないことは失敗ではなく、この病態の性質である。

二重管腔徴候も特異的ではない

⚠️ 超音波のは、かつてに特異的とされたが、そうではない。で検査された連続91例の検討では、手術で確認された37例のうち26例(70.2%)にこの徴候が見られた一方、臨床経過で確認された34例のうちも18例(52.9%)に同じ徴候が見られた4。

計測の落とし穴

⚠️ 収縮したをに描出すると、誤って肥厚して見える。 方向による見かけの肥厚に注意するよう助言されている1。

上部消化管造影とくちばし徴候

超音波で決められないときにが用いられる。米国放射線学会のガイドラインは、嘔吐の閉塞性原因の評価にこの検査を用いうるとしている3。

  • では、細く延長したを細い一条の造影剤が通過する string sign を示しうる3。
  • ⚠️ が出たから、とは短絡できない。 は「先細りの狭窄が一点にある」という形だけを述べた記述子であり、その狭窄を作っているのが肥厚したなのか弛緩しない痙攣なのかまでは語らない。でも造影上の狭小化は起こりうるが、それは持続せず、時間とともに変化する。
  • を延長すると両者の区別に役立つという提案がある(本症例報告自身の検討ではなく文献の引用である)1。⚠️ ただしは時間がかかり、を伴い、性がある3。まず超音波を繰り返すほうが筋が通る。
flowchart TD
    A["生後数週の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='spurting (bleeding)'>噴出性</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='nonbilious vomiting'>非胆汁性嘔吐</span>"] --> B["腹部超音波"]
    B --> C{"幽門筋の肥厚と<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pyloric canal'>幽門管</span>の延長は<br>検査を通じて変化しないか"}
    C -->|"変化せず蠕動も見られない"| D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hypertrophic pyloric stenosis'>肥厚性幽門狭窄症</span><br>輸液で補正のうえ<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pyloromyotomy'>幽門筋切開術</span>へ"]
    C -->|"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='measuring'>計測</span>値・画像が変動し<br>痙攣が解除されて蠕動が見える"| E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pylorospasm'>幽門痙攣</span>を考える"]
    C -->|"判断がつかない"| F["時間をおいて超音波を繰り返す"]
    F --> C
    E --> G["保存的に経過を見る<br>体重と嘔吐の頻度を追う"]
    G --> H{"改善するか"}
    H -->|"改善しない・増悪する"| I["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hypertrophic pyloric stenosis'>肥厚性幽門狭窄症</span>への移行を疑い<br>超音波を再検する"]
    I --> C

治療

⭐ が手術を要するのに対し、の治療は主に保存的である。 を用いるか、経過観察にとどめる1。多くは保存的に管理でき、一部で薬物療法を要する1。

  • 在胎33週・生後6日の男児で、超音波にの所見が無くでと診断され、経口0.05 mg/kg/日から開始する施設プロトコルで治療して体重増加が得られた報告がある1。
  • ⚠️ これは単一症例の報告であり、標準治療として一般化できない。 の新生児・乳児への使用そのものが文献上ほとんど記録されていない1。用量や適応をこの1例から決めない。
  • 一方で、脱水・電解質異常の補正(脱水と低Cl性・低K性)は、どちらの診断であっても先に行うべきことに変わりはない。

鑑別

病態 見分ける手がかり
検査中を通じて・が変化せず、蠕動が見られない23。を触知しうる。手術()を要する
早期進行中の ⚠️ 「」と読んだものが、実は形成途上の狭窄症であることがある。「または早期進行中の」と判定された7例では10〜14 mm・1.3〜2.7 mmだったと引用されている1。保存的に見ると決めたら、再検する日を決めて手放さない
プロスタグランジン投与による 心疾患の児にプロスタグランジンを投与すると消化管の粘膜(腺窩上皮)肥厚と収縮低下が起こり、肥厚粘膜で満たされた非収縮の幽門が幽門径・の増大として写る。の筋層のみをすることで避けられる3
(生理的な) 非で、哺乳・成長・全身状態が良好。生後1年前後で自然軽快する
・ ⚠️ 嘔吐が胆汁性なら幽門より肛門側の閉塞である。 がまったく違う
出生直後からの嘔吐。単純X線の

💡 鑑別表の上2行が本質である。 とは「別の疾患」であると同時に「同じ経過の別の時点」でもありうる。だからという診断は、その場で手術を回避する判断であって、経過観察を打ち切る判断ではない。

乳児以外の文脈

「」の語は乳児以外でも使われる。たとえばでは、胃内での形成とともにが吸収遅延の機序として挙げられ、投与の時間的な目安が延びる根拠になっている。本項が扱うのは乳児の機能的であり、これらは同じ語で呼ばれる別の文脈である。

まとめ

  • は乳児のがではなく機能的に閉塞する病態で、臨床像はとほとんど区別できない。
  • ⚠️ 超音波の一枚の静止画では分けられない。でも検査中のある時点で4 mm以上が53%、18 mm以上が18%に見られる。
  • ⭐ 決め手は値そのものではなくである。痙攣は解除されて蠕動が見え、は検査を通じて何も変わらない。疑ったら時間をおいて超音波を繰り返す。
  • 二重管腔徴候はに特異的ではなく、の52.9%にも見られる。収縮したのの描出は見かけの肥厚を作る。
  • は「先細りの狭窄がある」以上のことを語らない。この所見だけでと決めない。
  • 治療は主に保存的で、手術を要さない。による治療報告はあるが単一症例であり、標準治療として一般化しない。
  • 「」と読んだものが早期進行中のでありうる。保存的に見ると決めたら、再検の予定まで含めて決める。

出典

  1. 1.Pylorospasm: a less common functional disorder mimicking hypertrophic pyloric stenosis, leading to persistent vomiting in a preterm male infant(International Journal of Surgery Case Reports(Samady Khanghah A, Boskabadi A, Parvizi Mashhadi M, Ebrahimisaraj G, Atqiaee K)・2026)全文を閲覧。単一症例の報告に文献の議論を付した論文である。幽門痙攣が歴史的に、乳児の幽門管が器質的ではなく機能的な閉塞を来す状態として定義されてきたこと、1925年にHughsonが最初にこの語を用いたこと、乳児の胃排出遅延の原因の一つであること、肥厚性幽門狭窄症と同様に多くが噴出性嘔吐を示し嘔吐後もすぐに欲しがるが、持続する幽門の狭窄病変を欠くこと、連続的な消化管透視または超音波検査が診断の助けになること、多くは保存的に管理でき一部で薬物療法を要すること、肥厚性幽門狭窄症が手術を要するのに対し幽門痙攣の治療は主に保存的で抗痙攣薬または経過観察であること、収縮した幽門管を接線方向に描出すると誤って肥厚して見えることがあるため注意を要すると助言されていること、報告例は在胎33週・生後6日の男児で、超音波で肥厚性幽門狭窄症の所見が無く上部消化管造影で幽門痙攣と診断され、経口アトロピン硫酸塩0.05 mg/kg/日から開始する施設プロトコルで治療されて体重増加が得られたことを確認した。文献の引用として、幽門痙攣では通常は幽門筋の肥厚が無いこと、150例中7例が「幽門痙攣または早期進行中の肥厚性幽門狭窄症」と判定され、その7例では幽門長10〜14 mm・筋層厚1.3〜2.7 mmであったこと、透視時間を延長すると両者の区別に役立つと提案されていることも確認した(いずれも本症例報告自身の測定ではない)閲覧 2026-09-02
  2. 2.Ultrasonography of pylorospasm: findings may simulate hypertrophic pyloric stenosis(Journal of Ultrasound in Medicine(Cohen HL, Zinn HL, Haller JO, Homel PJ, Stoane JM)・1998)抄録のみを閲覧しており全文は未取得。噴出性嘔吐の乳児を対象に肥厚性幽門狭窄症と診断された37例と幽門痙攣と診断された34例の超音波像・計測値を比較した研究であること、肥厚性幽門狭窄症の37例では幽門長(平均22.5 mm)と筋層厚(平均5.3 mm)が検査中を通じて変化しなかったのに対し、幽門痙攣の34例では検査中に計測値または画像所見が大きく変動したこと、幽門痙攣例の最長・最大の計測値の平均が幽門長14.4 mm・筋層厚3.8 mmであったこと、そのうち53%が検査中のある時点で筋層厚4 mm以上を、18%が幽門長18 mm以上を示したこと、臨床経過の追跡で超音波診断が確認されたこと、したがって幽門痙攣は超音波検査の一部の時間帯において肥厚性幽門狭窄症を模しうること、筋層厚や幽門長の計測値が肥厚性幽門狭窄症の陽性基準と重なりうること、画像所見または計測値の変動性が幽門痙攣を診断する重要な手がかりであることを確認した閲覧 2026-09-02
  3. 3.Hypertrophic Pyloric Stenosis in a Four-Week-Old Infant: Radiological Diagnosis and Pitfalls(Cureus(Pokhrel B, Bhatta A, Basnet A, Pokhrel N, Regmi D)・2025)全文を閲覧。症例報告に画像診断の議論を付した論文である。画像上の鑑別として一過性の幽門痙攣を挙げ、幽門の一過性痙攣が肥厚性幽門狭窄症を模しうるが、痙攣は解除されて蠕動が見られるのに対し肥厚性幽門狭窄症では所見が変化せず蠕動が見られないこと、疑いが生じたら追跡の超音波検査が勧められることを確認した。もう一つの鑑別としてプロスタグランジン投与による粘膜(腺窩上皮)肥厚があり、心疾患の児にプロスタグランジンを投与すると消化管の粘膜肥厚と収縮低下が起こり、肥厚した粘膜で内腔が満たされた非収縮の幽門が幽門径と幽門長の増大を来すため、低エコーの筋層のみを計測すべきであることも確認した。また米国放射線学会のガイドラインが嘔吐の閉塞性原因の評価に上部消化管造影を用いうるとしていること、肥厚性幽門狭窄症では細く延長した幽門管を細い一条の造影剤が通過する「string sign」を示しうること、透視は時間がかかり被曝を伴い検者依存性があるため好まれないことを確認した閲覧 2026-09-02
  4. 4.The sonographic double-track sign: not pathognomonic for hypertrophic pyloric stenosis; can be seen in pylorospasm(Journal of Ultrasound in Medicine(Cohen HL, Blumer SL, Zucconi WB)・2004)抄録のみを閲覧しており全文は未取得。1999年から2002年に噴出性嘔吐で超音波検査を受けた連続91例のデータを後方視的に検討した研究であること、超音波で肥厚性幽門狭窄症と診断され手術で確認された37例のうち26例(70.2%)に超音波の二重管腔徴候(double-track sign)が見られたこと、超音波で幽門痙攣と診断され綿密な臨床経過の追跡で確認された34例のうち18例(52.9%)にも同じ徴候が見られたこと、したがって超音波の二重管腔徴候は肥厚性幽門狭窄症に病理特異的ではないことを確認した閲覧 2026-09-02