内科学

内科学 · L-36

急性腎障害

Acute Kidney Injury

前提:病態
急性腎不全の原因と全身的影響急速進行性糸球体腎炎(RPGN)
前提:正常
腎循環と糸球体濾過
疾患
急性腎障害後腹膜線維症造影剤腎症
症状
乏尿
検査値
Na排泄分画クレアチニン

🧠 全体像:はクレアチニン上昇または乏尿で定義される症候群で、・・を並行して評価する。原因除去、循環・体液管理、薬剤調整、合併症監視が中心で、透析はクレアチニン値ではなく治療抵抗性合併症で判断する。

KDIGO診断基準

の2012年版ガイドラインでは、以下のいずれかを満たせばAKIとする1。

  • 48時間以内にが≥0.3 mg/dL(≥26.5 μmol/L)上昇。
  • 7日以内にがの≥1.5倍。
  • 尿量が<0.5 mL/kg/時で6時間以上。
病期 クレアチニン基準 尿量基準
1 1.5–1.9倍または≥0.3 mg/dL上昇 <0.5 mL/kg/時が6–12時間
2 2.0–2.9倍 <0.5 mL/kg/時が12時間以上
3 3倍、≥4.0 mg/dLへの上昇、または開始 <0.3 mL/kg/時が24時間以上、または12時間以上

基準クレアチニンが不明な場合の推定には不確実性があり、、輸液、薬剤、採血間隔も解釈に影響する。尿量は早期変化を捉える一方、閉塞したカテーテルや利尿薬の影響を受ける。

💡 2026年時点でも、正式なは2012年のガイドラインのままである。 2012年版以来はじめての全面改訂となる 2026 AKI・AKDガイドラインは2026年3月に公開査読草案として公開されたが、2026年8月時点で正式発刊には至っていない2。試験でも臨床でも、当面はこの2012年版の3基準と1〜3を答えとする。

原因

分類 主な原因 手掛かり
出血、消化管喪失、敗血症、心不全、肝硬変、過度の、病変 ・、改善可能な循環要因
虚血/毒性、糸球体腎炎、間質性腎炎、血管炎、、 尿沈渣、蛋白尿・血尿、全身所見、曝露
、結石、腫瘍、、、 、膀胱拡張、水腎症;早期は画像正常もあり得る

は、阻害薬/はの緊張度を変え、特定の血行動態でAKIを悪化させ得る。造影剤、アミノグリコシド、バンコマイシン、シスプラチン、造血・腫瘍崩壊関連薬なども確認する。

⚠️ 「」という呼称は「」へ置き換えられつつある。 造影剤投与後にAKIが起きたという時間的関係と、造影剤が原因だというを言葉の上で分けるための変更である。米国放射線学会(ACR)と全米腎臓財団(NKF)の2020年合同声明は、腎機能低下患者での静注によるAKIリスクは従来過大評価されてきたとし、予防は禁忌(心不全など)がなく維持透析を受けていないAKIまたは 30 mL/min/1.73 m²未満の患者で適応( 30〜44は個別の高リスク状況で考慮、安定した 45以上では不要)、行うときはによる等張のが望ましい方法とした。は無作為化試験でに優らず推奨されない一方、は予防効果がと同等らしいものの薬剤師による調製を要するため優先されないとした3。救急外来の 17,934件をで背景をそろえて比べたでも、造影剤投与はAKIの上昇と関連しなかった(従来の基準で0.96、95%CI 0.85〜1.08。AKIN/基準で1.00、95%CI 0.87〜1.16)4。⚠️ これは造影剤を無害と読み替えてよいという意味ではなく、適応のある造影検査を腎機能だけを理由に控えないという主旨であり、腎毒性物質の一覧から造影剤を外す根拠にはならない。

診断アプローチ

flowchart TD
    A["クレアチニン上昇/乏尿"] --> B["直ちに再測定・尿量・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='vital sign'>バイタルサイン</span>・薬剤を確認"]
    B --> C["尿検査+尿沈渣+血算・電解質"]
    B --> D["膀胱スキャン/<span class='jp-term jp-term-diagram' title='renal and urinary tract ultrasonography'>腎尿路超音波</span>"]
    B --> E["循環血液量・心拍出・敗血症を評価"]
    C --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='RBC casts'>赤血球円柱</span>・蛋白:<span class='jp-term jp-term-diagram' title='glomerular'>糸球体性</span>"]
    C --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='muddy brown cast'>泥状褐色円柱</span>:<span class='jp-term jp-term-diagram' title='tubular injury'>尿細管障害</span>"]
    C --> H["白血球・薬剤歴:間質性"]
    D --> I["閉塞なら緊急解除"]
    E --> J["灌流異常を是正"]

💡 クレアチニンと尿量より早く「腎への負荷」を捉える目的で、尿中が研究されている。 マーカーである尿中TIMP-2とIGFBP7の積は、重症患者728例の検証コホート(Sapphire研究)で採取後12時間以内の2〜3のAKI発症を 0.80で予測し、が0.72を超えなかったNGALなど既報のマーカーより有意に優れていた5。これらは早期の危険層別化を助ける補助所見であって、のそのものを置き換えるものではない。

/クレアチニン比、尿浸透圧、、FENa、FEureaは補助所見にすぎない。、利尿薬、敗血症、早期などで典型値から外れるため、単独で/腎性を決めない。尿沈渣は診断価値が高く、や血管炎が疑われれば補体・自己抗体、腎生検を急ぐ。

初期治療

  • 原因薬・腎毒性物質を中止または調整し、すべての薬を現在の腎機能に合わせる。
  • hypovolemiaにはを用い、反応を見ながら投与する。出血、敗血症、など原因別に治療し、を避ける。
  • 閉塞は膀胱カテーテル、、などで解除する。は泌尿器救急である。
  • K、酸塩基、Na、リン酸、、栄養、尿量を継続監視する。
  • 利尿薬はの管理には使えるが、AKIそのものの回復目的には用いない。低用量を腎保護目的に用いない6。

腎代替療法

緊急適応は、薬物治療に抵抗する高K血症・重症アシドーシス・肺水腫/、・脳症・出血、一部の透析可能な中毒などである。クレアチニンやの単一だけで開始せず、症状、推移、代謝需要、回復可能性を総合する6。AKI後は回復してもリスクが高いため、約3か月後を含め腎機能・を再評価する1。

⚠️ 「早く始めるほどよい」という説は、なでは支持されていない。 生命を脅かす明確な適応が無い重症AKIでは、加速的な早期開始は標準的な戦略に比べて90日死亡率を改善しなかった(STARRT-AKI、多施設)7。AKIKI試験(620例、3で人工呼吸またはを要する例)でも60日死亡率は早期開始群48.5%・群49.7%(P=0.79)と差が無く、群の49%は結局を要さずに済み、はむしろ早期開始群で多かった(10%対5%、P=0.03)8。💡 ただし早期開始を支持する試験も1つある——単施設・231例のELAIN試験は早期開始で90日死亡率が低下したと報告した9。単施設・小規模で、対象が2と早い時点であった点がとの違いとして議論されており、「ELAINだけが陽性」という構図で覚えるとよい。

まとめ

  • AKIはクレアチニン変化と尿量で診断・する。
  • 尿沈渣、循環評価、薬剤歴、超音波で・実質性・を並行評価する。
  • 透析は数値だけでなく、治療抵抗性の電解質・酸塩基・体液・合併症で判断する。

出典

  1. 1.KDIGO Clinical Practice Guideline for Acute Kidney Injury(KDIGO・2012)AKIの定義(48時間以内に血清クレアチニンが0.3 mg/dL以上上昇、7日以内に基礎値の1.5倍以上、尿量0.5 mL/kg/時未満が6時間以上)とステージ1〜3の閾値、および回復後3か月時点でのCKD評価の推奨閲覧 2026-08-25
  2. 2.KDIGO 2026 AKI and AKD Guideline: Public Review Draft(KDIGO・2026)2012年版以来初めての全面改訂が2026年3月に公開査読草案として公開されたが、2026年8月時点で正式発刊はされておらず、現行の正式な診断基準は引き続き2012年版である閲覧 2026-08-25
  3. 3.Use of Intravenous Iodinated Contrast Media in Patients With Kidney Disease: Consensus Statements from the American College of Radiology and the National Kidney Foundation(American College of Radiology / National Kidney Foundation・2020)同時掲載のKidney Medicine版全文(PMC7525144)で確認した。静注ヨード造影剤による急性腎障害リスクは腎機能低下患者でも過大評価されてきたとし、予防(生理食塩水の静注)は禁忌(心不全など)がなく維持透析を受けていないAKIまたはeGFR 30 mL/min/1.73 m²未満の患者で適応、eGFR 30〜44は個別の高リスク状況で考慮しうる、安定したeGFR 45以上では適応とならないとする。予防を行うときは生理食塩水による等張の容量負荷が望ましい方法で、炭酸水素ナトリウムは予防効果が生理食塩水と同等らしいが薬剤師による調製を要するため優先されず、N-アセチルシステインは推奨されない閲覧 2026-09-24
  4. 4.Risk of Acute Kidney Injury After Intravenous Contrast Media Administration(Annals of Emergency Medicine・2017)救急外来のCT 17,934件を対象とした傾向スコア併用の後ろ向きコホートで、静注造影剤の投与はAKI発生率の上昇と関連しなかったこと(造影剤腎症の基準でオッズ比0.96、95%CI 0.85〜1.08、AKIN/KDIGO基準でオッズ比1.00、95%CI 0.87〜1.16)を確認した閲覧 2026-08-25
  5. 5.Discovery and validation of cell cycle arrest biomarkers in human acute kidney injury(Critical Care・2013)重症患者728例の検証コホート(Sapphire研究)で、細胞周期停止マーカーである尿中TIMP-2とIGFBP7の積が採取後12時間以内のKDIGOステージ2〜3のAKI発症をAUC 0.80で予測し、AUCが0.72を超えなかった既報のバイオマーカー(NGALを含む)より有意に優れていたことを確認した閲覧 2026-08-25
  6. 6.Diagnosis, evaluation, and management of acute kidney injury: a KDIGO summary (Part 1)(Critical Care・2013)AKIのクレアチニン・尿量診断基準、原因評価、非透析的支持療法(体液・電解質管理、腎毒性物質の中止、利尿薬を回復目的に使わないこと、腎保護目的の低用量ドーパミンを用いないこと)の原則を確認した閲覧 2026-08-25
  7. 7.Timing of Initiation of Renal-Replacement Therapy in Acute Kidney Injury (STARRT-AKI)(STARRT-AKI Investigators・2020)生命を脅かす明確な適応が無い重症患者では、加速的な早期腎代替療法開始は標準的な待機戦略と比べて90日死亡率を改善せず、不要な導入につながり得る閲覧 2026-08-25
  8. 8.Initiation Strategies for Renal-Replacement Therapy in the Intensive Care Unit(New England Journal of Medicine・2016)AKIKI試験。人工呼吸または昇圧薬を要しKDIGOステージ3のAKIで生命を脅かす合併症が無い620例で、60日死亡率は早期開始群48.5%・待機群49.7%(P=0.79)と差が無く、待機群の49%(151例)は腎代替療法を要さずに済み、カテーテル関連血流感染は早期開始群で多かった(10%対5%、P=0.03)閲覧 2026-08-25
  9. 9.Effect of Early vs Delayed Initiation of Renal Replacement Therapy on Mortality in Critically Ill Patients With Acute Kidney Injury: The ELAIN Randomized Clinical Trial(JAMA・2016)ELAIN試験。単施設・KDIGOステージ2のAKI重症患者231例で、早期開始(ステージ2診断から8時間以内)は待機開始(ステージ3から12時間以内)に比べ90日死亡率を低下させたが、単施設・小規模であり多施設試験による確認が必要と結論づけられている閲覧 2026-08-25