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Disease Atlas · 腫瘍 · 腫瘍

毛様細胞性星細胞腫

Pilocytic astrocytoma

別名
毛様細胞性星状細胞腫pilocytic astrocytoma
臓器系
腫瘍神経小児
科目
PathologyNeurologyOncology and Reconstructive Oncoplastic SurgeryPediatrics
トピック
病理学 C/111:中枢・末梢神経系腫瘍神経内科 G3-06:脳腫瘍の病理学的分類腫瘍学 II-32:中枢神経系腫瘍の疫学・病因・分類・症状・診断小児科 3-03:小児脳腫瘍と網膜芽細胞腫
上位概念
中枢神経系腫瘍(成人・小児)
鑑別疾患
びまん性内在性橋グリオーマ血管芽腫神経節膠腫髄芽腫多形黄色星細胞腫乏突起膠腫胚芽異形成性神経上皮腫瘍
合併症
水頭症
治療薬
カルボプラチンビンクリスチン
症状
頭痛嘔吐小脳性運動失調眼振視力低下眼球突出
画像所見
壁在結節
原因となる疾患
神経線維腫症1型

🧠 全体像:は、成人のとは反対の側にある腫瘍である。境界が比較的明瞭で、CNS grade 1、10年全生存率は90%を超え、⭐ 完全切除できれば追加治療なしに治癒しうる1。同じ小児のでも、切除できず生存期間中央値が1年に届かないと予後がほぼ正反対で、この2つを並べると「小児の」という括りが何も言っていないことが分かる。分子的には⭐ MAPK経路が一箇所だけ壊れた腫瘍で、その代表がKIAA1549-BRAF融合遺伝子である。⚠️ そしてのという顔を持つときは、切らないほうがよいことが多い2——同じ組織型でも文脈で行動が変わる。

どこに、誰に生じるか

全体の約5.1%を占め、小児に最も多い1。⭐ CBTRUSの集計では0〜19歳で最も頻度の高いであり、は10万人あたり0.84、小児・思春期(0〜19歳)のの15.4%、小児(0〜14歳)では17.6%を占める1。10〜14歳から15〜19歳にかけては大きく落ちる。

部位 全年齢での割合
小脳 42%
36%
・視床下部 9%
脳幹 9%
脊髄 2%

(部位別頻度は総説が参照文献を引用したもの1)

💡 年齢で部位の分布が変わる。 小児では小脳が67%を占めるが、成人では小脳とが各33%で差が無くなる1。⚠️ 成人の例はで問題になる。 著明な・出血や壊死・を伴う例が/とされた経験が報告されており、またに酷似しうる(の発育、やを伴うで形態学的に区別できることが多い)1。⚠️ の向きは「低悪性度を見落とす」ではなく「と読みすぎる」側である。

症状は緩徐に進む。では・と頭蓋内圧亢進(頭痛・悪心・嘔吐)が典型で、ではや、視床下部では・・電解質異常といった内分泌症候になる。⚠️ 髄液路が閉塞すれば水頭症で急速に悪化しうる1。

画像——嚢胞と壁在結節

では境界明瞭な等〜軽度低吸収の類円形病変として強く造影され、ではT1で低〜、T2/で高信号を示し、強くびまん性に造影される1。⭐ 嚢胞を含むか、嚢胞の中の腫瘍結節()として現れることが、小脳と大脳半球の腫瘍でとくに多い1。

⚠️ 「嚢胞+」はこの腫瘍の専売ではない。 同じ形を取る代表は血管芽腫・・・で、より稀になどがある3。

血管芽腫
好発年齢 小児(小脳が最多) 成人
背景疾患
嚢胞壁の造影 時に造影されるが、腫瘍組織があることを必ずしも意味せず、嚢胞壁の摘出は転帰を変えないとされる3 見ることは稀3

⭐ 脳幹に生じたときはとの区別が決定的である。 後者が橋の内部へ浸潤して膨張するのに対し、は背側に位置し、外方へ突き出すように育つ()1。切除できるかどうかも、その先の予後も、この一点で分かれる。

ではの腫瘤を作る。⭐ 両側性の視神経腫大はにほぼ診断的である1。

病理

⭐ の組織像が核。 に富む密な線維性領域(毛髪様の細長い突起を持つ)と、を伴う疎な領域が混在する1。Ki67/MIB-1は4%までなら一般的である1。

⚠️ に見える所見が出ても、それだけでgradeを上げない。 (肥厚・した血管や)やは本腫瘍でも生じうる1。⭐ 鑑別の鍵はを伴わないことと、が低いことである。同様に、髄膜への微小浸潤は小脳と視神経の腫瘍でしばしば起こるが、不吉な所見ではない1。

所見を伴う例は存在するが極めて稀で、Mayo Clinicの手術例全体の0.6%、コンサルテーション症例の1.8%にとどまる1。⭐ は1歳未満と視床下部・に多い亜型で、ながの背景に浮かびとを欠く点で本体と区別され、 grade 2に位置づけられている(分類にgrade 3の亜型は無い)1。

⚠️ 紛らわしいものが3つある1。

  • :とくに。初回検体でと読んだ症例が、再切除でと判明した経験が繰り返し報告されている。
  • :の壁やの近傍などに生じる慢性で、を伴い、小さな生検では区別できないことがある。
  • /、および:が乏しく、出血や壊死を伴った検体で最も難しい。成人の例で問題になる。

分子——MAPK経路の一箇所が壊れる

flowchart TD
    A["7q34の約2 Mbの<span class='jp-term jp-term-diagram' title='internal tandem duplication'>縦列重複</span>"] --> B["KIAA1549とBRAFの融合遺伝子"]
    B --> C["BRAFのN末端調節領域が<br>KIAA1549のN末端に置き換わる"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='kinase domain'>キナーゼドメイン</span>が調節を離れ<br>恒常的に活性化"]
    D --> E["MAPK経路の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='constitutive activation'>恒常的活性化</span>"]
    F["BRAF V600E変異・FGFR1変異<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='NTRK fusion'>NTRK融合</span>・NF1の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='biallelic inactivation'>両アレル不活化</span>"] --> E
    E --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pilocytic astrocytoma'>毛様細胞性星細胞腫</span>"]

⭐ KIAA1549-BRAF融合が最も頻度の高い変化で70%を超える。 部位差が明確で、小脳では約90%に認められる一方、ではやや少なく、FGFR1の変化はに偏り、BRAF V600E変異とNTRK融合は腫瘍で相対的に多い1。

⚠️ KIAA1549-BRAF融合とBRAF V600E変異はまったく別の変化である。 前者は融合遺伝子()、後者は点変異で、意味づけも違う。

KIAA1549-BRAF融合 BRAF V600E変異
変化の型 7q34のによる融合遺伝子 点変異
本腫瘍での頻度 70%超(小脳では約90%) 一部の症例
診断的価値 適切な組織像と併せれば本腫瘍を支持する ⚠️ ・・でも高頻度で、単独では区別できない

⚠️ 融合が無いことは診断的情報を与えない。 MAPK経路を活性化する道筋は他にいくつもあるためである1。

神経線維腫症1型の視路膠腫

⭐ 同じ組織型でも、NF1という文脈では行動が変わる。 では患者の約15%にが生じ、が最も多く侵される1。はNF1のの1項目でもあり、頻度は15〜20%、発症年齢は出生から6歳である2。

⚠️ NF1のは、通常は無症状で生涯無症状のまま経過することが多い。 NF1でない症例より臨床経過が軽く、多くは何年も安定しているか非常に緩徐にしか進行しない2。⭐ 大多数は自然に退縮するとみられ、は幼児の約20%から高齢のNF1成人では5%未満へ低下する2。外科切除検体を見ることが今日では稀なのはこのためである1。

場面 対応
無症候性 頭部MRIによる監視と、NF1の経験を持つ眼科医・医による診療2
症候性(通常6歳未満に・・で発症) 進行例に化学療法。⚠️ ただし結果は一定しない2
進行する と。NF1の小児は同様の腫瘍を持つNF1でない小児より良好な生存を示した2
手術 通常は失明した眼の整容的緩和に限られる2
放射線療法 ⚠️ 通常は避ける。 にとを誘発するリスクがある2

⚠️ を持つNF1患者の17〜20%に、第2の中枢神経系が生じる2。1つ見つけたことで探索を終えない。

治療と予後

⭐ 治療の主体は手術である。 では放射線療法が加えられ、ができない進行例では化学療法が検討される1。

10年全生存率は90%を超える1。⚠️ ただし全例が同じではない。 次の3つでは無増悪生存もも不良になる1。

  • 視床下部・の腫瘍(毛様亜型が生じる部位でもある)
  • 完全切除ができなかった、あるいは部位のためにできない腫瘍
  • を来した腫瘍(局所のとは区別する)

は極めて稀で、多くは複数回再発しても形態とgradeを保つ1。

⚠️ 分子標的薬は「経路が分かれば効く」とはならなかった。 を投与した少数例では、NF1・BRAFの変異の有無にかかわらず腫瘍増大の予期せぬ加速が起こり、PLX4720はKIAA1549-BRAFを発現する細胞でMAPK経路のを示した1。の片方だけに薬が結合すると、結合していない側が強く活性化するためと説明されている。

まとめ

  • はCNS grade 1の境界明瞭なで、⭐ 10年全生存率90%超、完全切除できれば治癒しうる。同じ小児でもで予後不良のとは正反対の位置にある。
  • 0〜19歳で最も頻度の高い。小脳が42%(小児では67%)で最多だが、⚠️ 成人ではと小脳が同率になり、成人の例は・と読み違えられやすい。
  • 画像は強く造影される境界明瞭な腫瘤で、嚢胞+が小脳・大脳半球で多い。⚠️ 血管芽腫・・・も同じ形を取る。脳幹ではというがと分ける。
  • 組織像はの密な領域とを伴う疎な領域の。⚠️ ・・髄膜への微小浸潤があってもgradeを上げない。 を伴わないことと低いが支えになる。
  • ⭐ KIAA1549-BRAF融合が70%超(小脳では約90%)。BRAF V600E変異とは別の変化で、V600Eは・・DNETでも高頻度なため単独では区別できない。⚠️ 融合が無いことは診断的情報を与えない。
  • ⚠️ NF1のでは切らない。 通常無症状で、多くはし、は幼児の約20%から高齢成人の5%未満へ下がる。管理はによる監視で、放射線療法はとのリスクから避ける。
  • 予後が悪いのは視床下部・、、の3つ。分子標的薬はで腫瘍増大の加速が観察されており、経路が分かったことがそのまま治療にはなっていない。

出典

  1. 1.Pilocytic astrocytoma: pathology, molecular mechanisms and markers(Acta Neuropathologica(Collins VP, Jones DTW, Giannini C)・2015)Europe PMC経由でPMC4436848の全文を取得して確認した総説。毛様細胞性星細胞腫が神経膠腫全体の約5.1%を占め小児に最も多いこと、CBTRUSの集計で0〜19歳の最も頻度の高い原発性脳腫瘍であり年齢調整罹患率が10万人あたり0.84で10〜14歳から15〜19歳にかけて大きく低下すること、小児・思春期(0〜19歳)の原発性脳腫瘍の15.4%・小児(0〜14歳)の17.6%を占めること、発生部位が小脳42%・テント上36%・視路と視床下部9%・脳幹9%・脊髄2%であり小児では小脳が67%を占める一方で成人では小脳とテント上が各33%で差が無いこと(部位別頻度は本総説が参照文献9を引用したもの)、ほぼ全例がWHO grade 1で稀な亜型の毛様粘液性星細胞腫(1歳未満と視床下部・視交叉部に多い)がgrade 2に位置づけられWHO grade 3の亜型は分類に存在しないこと、CTで境界明瞭な等〜軽度低吸収の類円形病変として強く造影されMRIではT1で低〜等信号・T2/FLAIRで高信号を示し強くびまん性に造影されること、嚢胞を含むか嚢胞内の腫瘍結節として現れることが小脳と大脳半球の腫瘍でとくに多いこと、視路の腫瘍が紡錘状腫瘤を作り両側性の視神経紡錘状腫大は神経線維腫症1型にほぼ診断的であること、脳幹ではびまん性内在性橋グリオーマが橋の内部へ浸潤・膨張するのと対照的に背側に位置し外方突出性の発育を示すこと、組織像がRosenthal線維に富む密な線維性領域と好酸性顆粒小体を伴う疎な微小嚢胞性領域の二相性であること、Ki67/MIB-1標識率4%までは一般的であり微小血管増殖や梗塞様壊死(偽柵状壊死は伴わない)が生じうるがそれだけで高悪性度と診断しないこと、髄膜への微小浸潤が小脳と視神経の腫瘍でしばしば起こるが不吉な所見ではないこと、退形成所見を伴う毛様細胞性星細胞腫の頻度がMayo Clinicの手術例全体の0.6%・コンサルテーション症例の1.8%と極めて低いこと、KIAA1549とBRAFの融合遺伝子が7q34の約2 Mbの縦列重複により生じBRAFのN末端調節領域が置換されキナーゼドメインが恒常的に活性化すること、この融合が毛様細胞性星細胞腫で最も頻度の高い遺伝子変化で70%を超えとくに小脳では約90%に認められる一方でテント上ではやや少なくFGFR1変化が正中構造に偏りBRAF V600E変異とNTRK融合がテント上腫瘍で相対的に多いこと、KIAA1549:BRAF融合が無いことは診断的情報を与えないこと、BRAF V600Eが神経節膠腫・多形黄色星細胞腫・胚芽異形成性神経上皮腫瘍でも高頻度であること、神経線維腫症1型患者の約15%に毛様細胞性星細胞腫が生じ視路が最も多く侵されること、NF1患者の視神経膠腫は良性で緩徐な自然経過を取り時に退縮するため外科切除検体を見ることが今日では稀であること、10年全生存率が90%超と報告される一方で視床下部・視交叉部の腫瘍と完全切除ができなかった腫瘍・髄膜播種を来した腫瘍では無増悪生存と全生存が不良であること、治療が主として手術であり不完全切除では放射線療法が、進行例で再手術ができない場合に化学療法が加えられること、悪性転化が極めて稀であること、ソラフェニブを投与した少数例で腫瘍増大の予期せぬ加速が起こりPLX4720がKIAA1549-BRAF融合蛋白を発現する細胞でMAPK経路の逆説的活性化を示したこと、側頭葉の毛様細胞性星細胞腫では再切除で神経節膠腫と判明した例が繰り返し経験されていること、脊髄空洞症の壁や頭蓋咽頭腫の近傍などに生じる毛様性グリオーシスがRosenthal線維を伴い本腫瘍と鑑別困難でありうることを確認した閲覧 2026-09-03
  2. 2.Neurofibromatosis 1(GeneReviews (University of Washington, Seattle)・2025)Europe PMC経由でNBK1109の全文XMLを取得して確認した(2025年4月3日改訂)。視路膠腫が神経線維腫症1型の診断基準の1項目であること、頻度が15〜20%で発症年齢が出生から6歳であり成人では頻度が低いこと、NF1の視路膠腫が通常は無症状で生涯無症状のまま経過することが多くNF1でない症例より臨床経過が軽いこと、多くが何年も安定しているか非常に緩徐にしか進行しないこと、大多数が自然に退縮するとみられ有病率が幼児の約20%から高齢のNF1成人では5%未満へ低下すること、症候性の視路膠腫は通常6歳未満に視力低下・眼球突出・斜視で発症するが小児期後半や成人期まで症候化しないこともあること、視路膠腫を持つNF1患者の17〜20%に第2の中枢神経系神経膠腫が生じること、管理が頭部MRIによる監視とNF1の経験を持つ眼科医・腫瘍内科医による診療であること、進行する視路膠腫には化学療法が用いられるが結果は一定しないこと、外科的治療は通常は失明した眼の整容的緩和に限られること、NF1と低悪性度の進行性神経膠腫(大半が視路膠腫)を持つ小児がカルボプラチンとビンクリスチンで同様の腫瘍を持つNF1でない小児より良好な生存を示したこと、放射線療法が二次発癌とモヤモヤ血管症を照射野に誘発するリスクのため通常は避けられること、NF1の非視路神経膠腫の頻度が2〜5%で小児より成人で高いことを確認した閲覧 2026-09-03
  3. 3.Cyst with a mural nodule tumor of the brain(Cancer Imaging(Raz E, Zagzag D, Saba L, et al.)・2012)Europe PMCの全文で確認した総説。中枢神経系で「嚢胞+壁在結節」の形を取る代表的な腫瘍が血管芽腫・毛様細胞性星細胞腫・神経節膠腫・多形黄色星細胞腫であり、より稀なものとしてtanycytic上衣腫・脳実質内神経鞘腫・線維形成性乳児神経節膠腫・嚢胞性転移が挙げられること、本総説が採用した組み入れ基準が①病変が主として嚢胞性②嚢胞が病変全体の3分の1以上③嚢胞に対して辺縁に位置する結節がある④結節が造影されることであること、血管芽腫では嚢胞壁の造影効果を見ることが稀である一方で毛様細胞性星細胞腫では嚢胞壁が時に造影されるがそれが腫瘍組織の存在を必ずしも意味せず嚢胞壁の摘出は転帰を変えないとされること(この2点は本総説自身の観察ではなく参照文献10〜12の引用である)を確認した閲覧 2026-09-03