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Disease Atlas · 腫瘍 · 腫瘍

脈絡叢腫瘍

Choroid plexus tumors

別名
脈絡叢乳頭腫脈絡叢癌choroid plexus papillomachoroid plexus carcinoma
臓器系
腫瘍神経小児
科目
PathologyPathology (Histopathology)Pediatrics
トピック
病理学 C/104:頭蓋内圧亢進の病理(浮腫・ヘルニア・水頭症)組織病理 H2-122A:外水頭症(脳外水頭症)小児科 3-03:小児脳腫瘍と網膜芽細胞腫
上位概念
中枢神経系腫瘍(成人・小児)
続発疾患
水頭症
治療薬
ビンクリスチンシスプラチンカルボプラチンエトポシドシクロホスファミド
症状
頭痛嘔吐乳頭浮腫頭蓋内圧亢進
画像所見
脳室拡大
原因となる疾患
Li-Fraumeni症候群

🧠 全体像:は、髄液を産生する上皮に由来する稀な腫瘍で、大半が乳児・幼児に発生する。水頭症の起こし方が二重である点が病態理解の核心で、腫瘍そのものが髄液の通り道を物理的に塞ぐ「閉塞」と、という産生装置自体がして髄液を過剰に作る「過剰産生」の両方が働きうる——他のによる水頭症の多くが閉塞機序のみであるのとは対照的である。組織学的にはCNS grade 1の良性のからgrade 3の悪性のまで連続体をなし、乳幼児のはを疑う重要な契機になる。

病態と組織分類

は・・のからなり、髄液を産生する。この上皮細胞に由来する腫瘍は、細胞異型・有糸分裂数・壊死の程度でCNS grade 1〜3の連続体として分類される1。

💡 grade をアラビア数字で書くのは分類第5版(2021年)以降の表記である。 第5版は、①gradeをローマ数字からアラビア数字へ改め、②腫瘍型を越えて共通のgradeを当てる方式から腫瘍型の中でgradeを付ける方式へ変え、③gradeを記す際に「CNS grade」という語を用いることを推奨した2。そのものの分類は第5版でもおおむね変更されていないが、上皮性格が強いことを理由にグリオーマ・グリア神経細胞系腫瘍のカテゴリーからは分離された2(分類全体の枠組みは(成人・小児)を参照)。

CNS grade 名称 組織学的特徴
1 構造を保った良性腫瘍。有糸分裂・核異型・壊死を伴わない1
2 10あたり2個以上の分裂像。分裂像の増加が唯一の必須所見である3
3 分裂像(10あたり5個超)・核異型・・境界不明瞭な構造・壊死の5項目のうち4項目以上を満たす悪性腫瘍1

💡 grade 2 の線引きが「分裂像だけ」なのには理由がある。 164例を後ろ向きに調べた検討では、を受けていない124例の37%が何らかの異型所見(細胞密度の増加・核異型・増殖・壊死・分裂像)を示したが、で再発と独立に関連したのは分裂像の増加だけであった(p=0.001。も単変量で関連 p=0.03)。この結果から著者らはを「10あたり2個以上の分裂像」で定義することを提案し、これが grade IIに採用された3。⚠️ 閾値は「2個を超える」ではなく「2個以上」である。

⭐ 水頭症は「」と「過剰産生」の両方で起こる。 腫瘍そのものが髄液の流出路(・・出口)を物理的に閉塞する機序に加え、では出血によるの閉塞や、した上皮そのものが髄液を過剰に産生する機序も働きうる1。水頭症ノートで扱う交・のに、この腫瘍特有の「産生過剰」という第三の機序が加わる点が特徴である。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='choroid plexus epithelial cell'>脈絡叢上皮細胞</span>の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='transformation'>腫瘍化</span>"] --> B1["髄液流出路の物理的閉塞<br>(出血による<span class='jp-term jp-term-diagram' title='arachnoid granulations'>くも膜顆粒</span>閉塞を含む)"]
    A --> B2["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='transformation'>腫瘍化</span>した<span class='jp-term jp-term-diagram' title='choroid plexus'>脈絡叢</span>による<br>髄液の過剰産生"]
    B1 --> C["水頭症"]
    B2 --> C
    C --> D["頭蓋内圧亢進・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ventricular enlargement (dilatation)'>脳室拡大</span>"]

疫学

は全の1%未満と稀である。全の0.4〜0.6%を占め、小児では・グリオーマに次いで3番目に多い先天性である1。⚠️ 出典のこの一文はされていて、「小児では」がどこまで掛かるかが読み取りにくい。同じ文が典拠として挙げる原著は「は全の1〜4%」という別の数字を示しており4、0.4〜0.6%を小児を分母にした値と読むと原著と合わなくなる。他の文献も0.3〜0.6%を全年齢のに対する割合として用いているため、ここでは分母を全年齢として扱い、小児限定なのは「3番目に多い先天性」のほうだと読んだ。診断時年齢中央値は3.5歳で、約70%が2歳未満で診断されるという強い乳幼児偏在を示す1。好発部位も年齢で異なり、乳幼児では()に多く、成人では()に多い1。

遺伝性素因:Li-Fraumeni症候群

⭐ 乳幼児のはを積極的に疑う契機になる。 ある単施設の後ろ向き解析では患者12例中8例(67%)にTP53を認めており、通常は稀な小児腫瘍であるが、TP53を背景に発生することが少なくない5。でも、・・のいずれかを発症した患者は家族歴を問わずTP53生殖細胞系列検査の対象とされており(詳細はを参照)、よりもでこの関連が問題になる。

臨床像

腫瘍そのものによる局所症状よりも、水頭症・頭蓋内圧亢進による症候が前景に立つことが多い。

  • 乳児:の急速な増大、、、、
  • 年長児:頭痛、嘔吐、を含む頭蓋内圧亢進の徴候

具体的な年齢層別の症候パターンは水頭症ノートの臨床像節に準じる。

診断

  • で脳室内の・の造影腫瘤として描出され、を伴う。
  • 水頭症が閉塞のみで説明できるか、腫瘍摘出後も過剰による症状が残存しうるかを術前から念頭に置く。
  • 確定診断は摘出標本のにより、grade 1〜3を鑑別する。乳幼児のではTP53生殖細胞系列検査との評価を並行する。

治療

⭐ 治療の基本は外科的なである。 grade 1()は全摘出のみで治癒することが多く、現在の治癒率はほぼ100%に達する一方、腫瘍摘出時の出血制御が難しく小児のは12%とされる1。

  • grade 2(異型乳頭腫)は全摘出を基本とし、再発リスクがgrade 1より高いため画像による経過観察を強化する。
  • grade 3()では全摘出に加え、、シスプラチン/、、などを含むを併用する。
  • ⚠️ TP53を有する患者では、放射線療法が予後に不利にはたらく可能性がある。 12例を集めた単施設の後ろ向き解析では、Kaplan-Meier法で評価した無増悪生存が、を受けた群(12例、P=0.012)と、TP53を有する8例のうち放射線療法を受けなかった群(8例、P=0.028)でそれぞれ良好であった5。⚠️ されていない12例の後ろ向き解析であり、著者自身が追跡期間の不足のため全生存率の差は示せなかったと述べている。 評価されたのは無増悪生存であってではなく、「放射線療法を省けば長生きする」と読み替えてはならない5。の背景を持つ患者はへの感受性が高くリスクが上がるため(を参照)、放射線療法の適応は特に慎重に判断する。
  • 水頭症が遷延する場合は、腫瘍摘出とは別にやを検討する(詳細は水頭症ノートに譲る)。

まとめ

  • は上皮由来の腫瘍で、CNS grade 1(乳頭腫)〜3の連続体をなし、乳幼児に強く偏在する(全の0.4〜0.6%、約70%が2歳未満で診断)。grade 2(異型乳頭腫)の線引きは10あたり2個以上の分裂像である。
  • 水頭症は髄液流出路の物理的閉塞と、した自体による髄液過剰産生の両方の機序で生じうる点が他のと異なる。
  • 乳幼児のは(TP53)を積極的に疑う契機であり、でも家族歴を問わない検査対象に位置づけられる。
  • 治療の基本はで、grade 1の治癒率はほぼ100%だがはできない。grade 3ではを併用し、TP53例では放射線療法の適応を特に慎重に判断する(根拠は12例の後ろ向き解析による無増悪生存の差であり、の差は示されていない)。
  • 臨床像は腫瘍そのものより水頭症・頭蓋内圧亢進による症候が前景に立つことが多く、詳細な症候・シャント合併症の管理は水頭症ノートに譲る。

出典

  1. 1.Choroid Plexus Papilloma(StatPearls Publishing (NCBI Bookshelf)・2024)2024年2月28日更新版の全文を閲覧した。WHO分類が脈絡叢腫瘍を乳頭腫(grade I)・異型乳頭腫(grade II)・癌(grade III)に分けること、乳頭腫が有糸分裂・核異型・壊死を欠くこと、癌が分裂像(10強拡大視野あたり5個超)・核異型・高細胞密度・境界不明瞭な乳頭状構造・壊死の5項目のうち4項目以上で診断されること、脈絡叢乳頭腫が全脳腫瘍の1%未満であること、疫学の節が "In the pediatric population, they are the third-most common congenital brain tumor, after teratomas and gliomas, comprising 0.4% to 0.6% of all intracranial neoplasms." という圧縮された一文でこの割合を述べており、「小児集団では」がどこまで掛かるかを明示していないこと(成人についての別の割合は示していない)、診断時年齢中央値が3.5歳で約70%が2歳未満であること、乳児ではテント上・成人ではテント下に多いこと、水頭症が出血によるくも膜顆粒閉塞という機械的閉塞と髄液の過剰産生の両方で生じうること、肉眼的全摘出後の長期治癒率が100%に近づく一方で小児の周術期死亡率が12%であることを確認した。⚠️ 異型乳頭腫の分裂像の閾値について本書は「more than 2 mitoses per high-power field」と書いており「10強拡大視野あたり」ではない。本ノートは原著の定義(jeibmann-jnen-atypical-cpp-2006)に従っている。閲覧 2026-09-05
  2. 2.The 2021 WHO Classification of Tumors of the Central Nervous System: a summary(Neuro-Oncology・2021)PMC版の全文を閲覧した。WHO中枢神経系腫瘍分類第5版がgradeの表記をローマ数字からアラビア数字へ改め、腫瘍型を越えた横断的なgradingから腫瘍型の中でのgradingへ変更し、gradeを記す際に「CNS WHO grade」の語を用いることを推奨していること、脈絡叢腫瘍については「分類はおおむね変更されていない」が、上皮性格が強いことを理由にグリオーマ・グリア神経細胞系・神経細胞系腫瘍のカテゴリーから分離されたこと、第5版の一覧が脈絡叢腫瘍を脈絡叢乳頭腫・異型脈絡叢乳頭腫・脈絡叢癌の3型で掲げていることを確認した。閲覧 2026-09-05
  3. 3.Prognostic implications of atypical histologic features in choroid plexus papilloma(Journal of Neuropathology & Experimental Neurology・2006)抄録を閲覧した。脈絡叢腫瘍164例の検討で、補助療法を受けていない脈絡叢乳頭腫124例のうち46例(37%)が何らかの異型所見を示したこと、単変量・多変量のいずれでも再発と独立に関連したのは分裂像の増加だけであったこと(多変量 p=0.001。不完全切除は単変量で p=0.03)、そのため著者らが異型脈絡叢乳頭腫を「10強拡大視野あたり2個以上の分裂像」で定義することを提案し、これがWHO grade IIに相当すると述べていることを確認した。閲覧 2026-09-05
  4. 4.Choroid plexus tumors in adult and pediatric populations: the Cleveland Clinic and University Hospitals experience(Journal of Neuro-Oncology・2017)抄録を閲覧した(Europe PMC、PMID 28290001。isOpenAccess は N で全文は取得していない)。冒頭が "Choroid plexus tumors (CPT) are rare neoplasms accounting for 1-4% of all pediatric brain tumors." と、脈絡叢腫瘍の割合を全小児脳腫瘍を分母として1〜4%と述べていること、脈絡叢乳頭腫・異型脈絡叢乳頭腫・脈絡叢癌の3つに分けられること、主に2歳未満の小児を侵すこと、とくに脈絡叢癌で肉眼的全摘出が生存の最も重要な予測因子であることを確認した。⚠️ この文献は StatPearls NBK539749 の疫学の一文が典拠として挙げているものだが、そこに書かれた0.4〜0.6%という数字そのものは抄録には現れない閲覧 2026-09-05
  5. 5.Choroid Plexus Carcinomas With TP53 Germline Mutations: Management and Outcome(Frontiers in Oncology・2021)PMC版の全文を閲覧した。単施設の後ろ向き解析で脈絡叢癌12例のうち8例(67%)にTP53生殖細胞系列変異を認めたこと、Kaplan-Meier法と log-rank 検定で評価した評価項目が全生存ではなく無増悪生存(progression-free survival)であること、肉眼的全摘出を受けた群の無増悪生存が良好であったこと(12例、P=0.012)、TP53生殖細胞系列変異を有する8例に限ると放射線療法を受けなかった群の無増悪生存が良好であったこと(8例、P=0.028)を確認した。⚠️ P=0.028の比較は「全摘出を受けた患者のうち」ではなくTP53生殖細胞系列変異例8例全体での比較である。⚠️ 著者自身が限界の節で「追跡期間が不十分で全生存率の差は示せなかった」と述べており、全生存についての主張はこの論文からは書けない。閲覧 2026-09-05