疾患ノート一覧へ

Disease Atlas · 腫瘍 · 腫瘍

髄芽腫

Medulloblastoma

別名
medulloblastoma髄芽細胞腫
臓器系
腫瘍神経小児
科目
Pathology (Histopathology)PathologyPediatricsOncology and Reconstructive Oncoplastic SurgeryNeurology
トピック
組織病理 H2-115B:髄芽腫(組織像と分子群)組織病理 H2-129:髄芽腫(M分類とリスク層別化)病理学 C/111:中枢・末梢神経系腫瘍小児科 3-03:小児脳腫瘍と網膜芽細胞腫腫瘍学 II-33:中枢神経系腫瘍の放射線療法神経内科 G3-06:脳腫瘍の病理学的分類
上位概念
後頭蓋窩腫瘍・脳幹腫瘍
鑑別疾患
びまん性内在性橋グリオーマ非定型奇形腫様ラブドイド腫瘍毛様細胞性星細胞腫
合併症
水頭症
治療薬
ビンクリスチンシスプラチンカルボプラチンエトポシドシクロホスファミド
症状
小脳性運動失調頭痛嘔吐乳頭浮腫眼振複視
画像所見
脳室拡大軟膜増強効果
原因となる疾患
Li-Fraumeni症候群家族性大腸腺腫症・リンチ症候群母斑性基底細胞癌症候群

🧠 全体像:は小脳に生じるで、小児のを代表する。⭐ 「の腫瘍」という組織像の一言では、もう診断も予後も決まらない。 WNT・SHH・グループ3・グループ4という4つの分子群は遺伝子異常・発症年齢・予後がそれぞれ異なり、分類に取り込まれている1。💡 覚え方は「場所→播種→分子群」——小脳正中に生まれ、脳脊髄液を伝って全へ播種し、その上で分子群が治療強度を決める。⚠️ TP53 変異の意味は分子群によって正反対になる(SHH群では致命的、WNT群では予後に影響しない)2。

位置づけ

はの代表格で、・に生じることが多い。診断は組織形態・分子遺伝学・画像を統合して下すものと位置づけられており1、これは分類第5版( CNS5、2021年)が全体として求めると階層化レポートの枠組みそのものである3。

⭐ を塞ぐため、初発症状は腫瘍そのものより水頭症の症状で来ることが多い。 頭痛・嘔吐・という頭蓋内圧亢進の三徴に、(・眼振)とによるが重なる。画像ではを伴う。

⚠️ に張り付いた腫瘍でと迷ったらを見る(は細胞密度が高くが低い)。この鑑別の詳細は・に譲る。

組織像

は密に増殖する小円形・未分化な腫瘍細胞()からなり、核/細胞質比が高く、とアポトーシス像が目立つ。を中心に腫瘍細胞が放射状に並ぶが神経細胞方向への分化を示す。組織学的亜型にはのほか、結節性・(乳児に多く比較的予後良好)と大細胞性・性亜型(核異型が強く予後不良の傾向)がある。

⚠️ 組織学的亜型と分子群は完全には一致しない。 両者を併記して報告する(詳細は H2-115B)。

分子群

CNS5 で遺伝学的に定義される区分は、WNT活性化型、SHH活性化型かつ TP53 野生型、SHH活性化型かつ TP53 、非WNT非SHH型(グループ3・グループ4)である。4つの分子群は遺伝子異常・発症年齢・予後がそれぞれ異なる1。

分子群 国際コンセンサスでの位置づけ4
WNT活性化型 ⭐ 低リスク(90%超)。治療強度の縮小の対象になりうる
SHH活性化型・MYCN 増幅あり 高リスク(50〜75%)
SHH活性化型・転移あり 高リスク(50〜75%)
SHH活性化型・TP53 変異あり ⚠️ (50%未満)
グループ3・転移あり ⚠️ (50%未満)
グループ4・転移あり 高リスク(50〜75%)
グループ4・転移なし+全11番染色体欠失または全17番染色体増加 ⭐ 低リスク(90%超)

⚠️ この表は3〜17歳の非乳児について定義されたもので、乳児にそのまま当てはめない4。

⭐ TP53 変異の意味は分子群で変わる

397例(検証コホート156例)の解析による2。

SHH群 WNT群
TP53 変異の頻度 21% 16%
(変異あり) ⚠️ 41%±9% 90%±9%
(変異なし) 81%±5% 97%±3%
有意差 P<0.001 P=0.21(差なし)
  • グループ3・グループ4では TP53 変異はほぼ皆無だった2。
  • ⚠️ 5歳超のSHHの死亡の72%を TP53 変異例が占めた2。でも TP53 の状態がSHHの最も重要な危険因子だった。
  • SHH/TP53 変異例の患者はほぼ例外なく5〜18歳に分布し、SHH群全体の年齢分布(乳児と成人に山がある)とは大きく異なる2。
  • ⭐ SHH/TP53 変異例の小児の56%が生殖細胞系列 TP53 変異をもち、WNT/TP53 変異例では認められなかった2。⚠️ つまりとして片づけず、を疑う契機として扱う。

💡 「TP53 変異=予後不良」ではなく「SHH群での TP53 変異が予後不良」と、分子群込みで覚える。 過去の報告が食い違っていた理由が、分子群を分けずに集計していたことにあった2。

遺伝性素因

⭐ のうちで説明されるものは1割に満たないが、分子群によって偏りが大きい。 患者1,022例で110のを解析した検討では、で説明されるはで6%、前向きコホートで5%だった5。

遺伝子 主に発症する分子群 備考5
APC WNT群 体細胞 CTNNB1 エクソン3変異をもたないWNT群7例のうち5例(71%)を占めた
PTCH1・SUFU SHH群 多くが乳児のSHH群
TP53 SHH群 ⚠️ 小児のSHH群にのみ認められ、同群の全chromothripsis 14件のうち8件(57%)を説明した
PALB2・BRCA2 SHH群・グループ3・グループ4 型のと関連した

⭐ 分子群別の素因保有率はSHH群が最も高く、で20%(前向きコホートで14%)5。著者らはWNT群とSHH群では遺伝カウンセリングと遺伝学的検査を標準診療とすべきだとしている。

💡 の名前より遺伝子で並べたほうが、分子群との対応が見える。 PTCH1・SUFU は()のであり、APC は(を伴う表現型が古くはと呼ばれた)、TP53 はのである。⚠️ PALB2・BRCA2 がとして同定された点は、症候群名だけで覚えていると抜け落ちる。

⚠️ 素因をもつ患者の予後はごとに有意に異なった(全体では5年52%、65%)5。「遺伝性だから一律に予後不良」とはまとめない。

病期評価と治療

治療の骨格は腫瘍の外科的切除・・化学療法の組み合わせである1。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='posterior fossa tumor'>後頭蓋窩腫瘍</span>として発見<br>頭蓋内圧亢進・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cerebellar signs'>小脳症状</span>"] --> B["治療前に全脊髄<span class='jp-term jp-term-diagram' title='magnetic resonance imaging'>MRI</span>と<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cerebrospinal fluid cytology'>髄液細胞診</span>で播種を評価"]
    B --> C["手術で最大限安全な切除と組織・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='molecular diagnostics'>分子診断</span>"]
    C --> D["年齢・転移の有無・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='residual tumor'>残存腫瘍</span>量・分子群を統合"]
    D --> E{"リスク群"}
    E -->|"低リスク(WNT群など)"| F["治療強度の縮小が検討される"]
    E -->|"標準リスク"| G["減量した<span class='jp-term jp-term-diagram' title='craniospinal irradiation'>全脳全脊髄照射</span>+化学療法"]
    E -->|"高リスク・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='very high risk'>超高リスク</span>"| H["強化した照射+化学療法"]
    D --> I["乳幼児では放射線の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='late toxicity'>晩期毒性</span>を避け<br>化学療法中心の戦略をとる"]

⚠️ 播種の評価は手術より前に済ませる。 術後は髄液所見が修飾されて病期が決められなくなる。播種の程度はChang分類のM分類(M0〜M4)で表し、これがの中心的因子になる(定義は H2-129)。⭐ 髄液を介した播種は画像上として現れる。

化学療法には、シスプラチン・、、などを組み合わせる。

⚠️ 治療そのものがを生む。 は神経認知・内分泌・の問題を残すため、乳幼児では照射の回避・遅延が図られ、低リスク群では治療強度の縮小が検討される4。⭐ 分子群による層別化の実用的な意味は「弱められる患者を見つけること」にある。

💡 正中の手術に固有の合併症としてがある。 で頻度が高く、術後に・失調・情動の変化が現れて回復は不完全なことが多い(詳細は・)。

まとめ

  • は小脳ので、小児のの代表。を塞いで水頭症を来し、で発症することが多い。
  • 組織像はと。組織学的亜型と分子群は一致しないので両方を報告する。
  • CNS5 の遺伝学的区分はWNT活性化型・SHH活性化型(TP53 野生型/)・非WNT非SHH型(グループ3・4)13。
  • ⭐ 国際コンセンサスのリスク群(3〜17歳)は低リスク90%超・標準75〜90%・高リスク50〜75%・50%未満。WNT群と「転移なし+全11番染色体欠失または全17番染色体増加のグループ4」が低リスク、転移のあるグループ3と TP53 変異を伴うSHH群が4。
  • ⚠️ TP53 変異の予後的意味は分子群で正反対。SHH群では41%対81%(P<0.001)だがWNT群では90%対97%で差がない2。
  • ⭐ SHH/TP53 変異例の小児の56%がをもつ。は APC・BRCA2・PALB2・PTCH1・SUFU・TP53 で、は全体の5〜6%、SHH群では14〜20%を占める5。
  • 治療は手術・・化学療法の組み合わせ1。播種評価は術前に行い、乳幼児では照射のを避ける戦略をとる。

出典

  1. 1.Medulloblastoma(Nature Reviews Disease Primers・2019)髄芽腫は小脳の胎児性腫瘍からなる生物学的に不均一な一群で、WNT・SHH・グループ3・グループ4という4つの分子群が記載されており、それぞれ遺伝子異常・発症年齢・予後が異なる。この4群はWHO中枢神経系腫瘍分類に取り込まれたが、治療強度をリスクに合わせるにはなお個別に評価する必要がある。診断は組織形態・分子遺伝学・画像を統合して行う。治療戦略は腫瘍の外科的切除・全脳全脊髄照射・化学療法から成る。抄録のみを閲覧しており全文は未取得。閲覧 2026-09-04
  2. 2.Subgroup-specific prognostic implications of TP53 mutation in medulloblastoma(Journal of Clinical Oncology・2013)髄芽腫397例(検証コホート156例)で、TP53変異はWNT群16%・SHH群21%に集積しグループ3・4ではほぼ皆無だった。SHH群の5年全生存率はTP53変異例41%±9%、非変異例81%±5%(P<0.001)で、5歳超のSHH髄芽腫の死亡の72%をTP53変異例が占めた。一方WNT群では変異例90%±9%・非変異例97%±3%(P=0.21)と差が出なかった。SHH/TP53変異例の小児の56%が生殖細胞系列TP53変異をもち、WNT/TP53変異例では認めなかった。またSHH/TP53変異例の患者はほぼ例外なく5〜18歳に分布し、SHH群全体の年齢分布とは大きく異なった。多変量解析でTP53の状態はSHH髄芽腫の最も重要な危険因子であり、検証コホートでも予後不良がSHH群に限られWNT群では認められなかった。抄録のみを閲覧しており全文は未取得。閲覧 2026-09-04
  3. 3.The 2021 WHO Classification of Tumors of the Central Nervous System: a summary(Neuro-Oncology・2021)2021年に公表されたWHO中枢神経系腫瘍分類第5版は、分子診断の役割を大きく広げつつ組織像・免疫染色も維持し、命名法とグレーディングに従来と異なる考え方を導入して統合診断(integrated diagnosis)と階層化レポートを重視した閲覧 2026-09-04
  4. 4.Risk stratification of childhood medulloblastoma in the molecular era: the current consensus(Acta Neuropathologica(2015年ハイデルベルク国際コンセンサス会議)・2016)3〜17歳の非乳児髄芽腫のリスク群を生存率で定義し、低リスク(生存率90%超)・標準リスク(75〜90%)・高リスク(50〜75%)・超高リスク(50%未満)の4段階とした。WNT群と、転移のない全11番染色体欠失または全17番染色体増加をもつグループ4は低リスクで治療強度の縮小の対象になりうる。高リスクは転移のあるSHH群・グループ4、およびMYCN増幅のあるSHH群。超高リスクは転移のあるグループ3と、TP53変異を伴うSHH群である。抄録のみを閲覧しており全文は未取得。閲覧 2026-09-04
  5. 5.Spectrum and prevalence of genetic predisposition in medulloblastoma: a retrospective genetic study and prospective validation in a clinical trial cohort(The Lancet Oncology・2018)髄芽腫患者1,022例(後ろ向きコホート673例、前向き臨床試験コホート349例)の血液検体で110の癌素因遺伝子の生殖細胞系列変異を解析し、ExACの対照53,105例に対する希少変異バーデン解析からAPC・BRCA2・PALB2・PTCH1・SUFU・TP53を髄芽腫素因遺伝子(consensus medulloblastoma predisposition genes)と同定した。生殖細胞系列変異で説明される髄芽腫は後ろ向きコホートで6%、前向きコホートで5%であり、分子群別では後ろ向きコホートのSHH群で20%(前向きコホートで14%)と最も高かった。APC変異例はWNT群を発症し、体細胞CTNNB1エクソン3変異をもたないWNT群7例のうち5例(71%)を占めた。SUFU・PTCH1変異例は多くが乳児のSHH群であり、生殖細胞系列TP53変異は小児のSHH群にのみ認められ、同群の全chromothripsis 14件のうち8件(57%)を説明した。PALB2・BRCA2変異はSHH群・グループ3・グループ4にまたがり相同組換え修復欠損型の変異シグネチャーと関連した。素因をもつ患者の5年無増悪生存率は52%(95%CI 40〜69)、5年全生存率は65%(95%CI 52〜81)で、原因遺伝子ごとに有意に異なった。著者らはWNT群・SHH群では遺伝カウンセリングと遺伝学的検査を標準診療とすべきだと結論している。抄録のみを閲覧しており全文は未取得。閲覧 2026-09-04