組織病理学

組織病理学 · H2-115B

髄芽腫

Medulloblastoma

描出疾患
中枢神経系腫瘍(成人・小児)
疾患
Li-Fraumeni症候群髄芽腫

🧠 全体像:は小児(おおむね1〜5歳)にほぼ限局して小脳に発生する、高度に未分化な(embryonal tumor)である。からなり、脳脊髄液()を介して播種しやすいが、が高く、により5年生存率75%が見込める。

標本の所見

所見 解釈
小円形・未分化な腫瘍細胞 に似た高度未分化細胞。核/細胞質比が高く密に増殖する
アポトーシス像 高いを反映し、高いとともにみられる
神経細胞様分化の結節 一部の腫瘍細胞が神経細胞方向へ焦点的に分化した領域。結節性亜型でとくに目立つ
腫瘍細胞がを中心に放射状に取り囲む構造で、神経細胞への分化を示唆する所見
flowchart TD
    A["小脳の未分化な<span class='jp-term jp-term-diagram' title='neural progenitor cell'>神経前駆細胞</span>様腫瘍"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='small round blue cell'>小円形青色細胞</span>がびまん性に増殖"]
    B --> C["高い<span class='jp-term jp-term-diagram' title='mitotic activity'>核分裂活性</span>とアポトーシス"]
    C --> D["一部に<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Homer-Wright rosettes'>Homer-Wright偽ロゼット</span>など神経細胞分化"]
    D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cerebrospinal fluid'>CSF</span>を介し脳・脊髄軸へ播種しうる"]
    E --> F["手術+<span class='jp-term jp-term-diagram' title='craniospinal irradiation'>全脳全脊髄照射</span>+化学療法"]

分子分類(現行WHO分類)

出典テキストのWNT・SHH・非WNT/非SHHという3群の枠組みは、現行の分類ではさらに細分化されている。分子群(WNT・SHH・グループ3・グループ4)は遺伝子異常・発症年齢・予後がそれぞれ異なる独立した実体として記載され、分類に取り込まれた1。2021年の第5版( CNS5)はの役割を広げつつ組織像も残し、両者を突き合わせたと階層化レポートを求める枠組みである2。

分子群 特徴 予後
WNT活性化型 小児に多い、は比較的少ない 最良。国際コンセンサスでは低リスク(90%超)に置かれ、治療強度の縮小の対象になりうる3
SHH活性化型・TP53野生型 乳児・成人に多い 比較的良好だが個別差がある
SHH活性化型・TP53 TP53()を伴うことがある。SHH/TP53変異例の小児の56%がをもつ4 不良、進行が速い。41%±9%で、コンセンサスでは(50%未満)に分類される43
非WNT/非SHH(グループ3・グループ4、暫定分類) 小児に多い、MYC増幅など グループ3は特に不良(転移例は)、グループ4は中間的(転移例は高リスクだが、転移がなく全11番染色体欠失または全17番染色体増加をもつ例は低リスク)3

⚠️ 「SHH活性化型は一律に予後良好」とまとめない。TP53変異の有無で経過が大きく異なる。397例の解析ではSHH群のがTP53変異例41%±9%に対し非変異例81%±5%(P<0.001)で、5歳超のSHHの死亡の72%をTP53変異例が占めた。同じTP53変異でもWNT群では90%±9%対97%±3%(P=0.21)と予後に差が出ないため、「TP53変異=予後不良」ではなく「SHH群でのTP53変異が予後不良」と分子群込みで覚える4。またSHH/TP53変異例の小児の56%が生殖細胞系列TP53変異をもつため、を疑う契機にもなる4。

組織学的亜型

に加え、結節性亜型(結節性・広範結節性)、大細胞性・性亜型がある。は乳児に多く比較的予後良好、大細胞性・性亜型は核異型が強く予後不良の傾向を持つ。組織学的亜型と分子群は完全には一致しないため、両者を併記して報告する。診断そのものが組織形態・分子遺伝学・画像を統合して下すものと位置づけられているためである1。

まとめ

  • は小児の小脳にほぼ限局する高度未分化なで、とが特徴である。
  • を介した播種があるため、全中枢神経軸の評価と治療が必要になる。
  • が高く、手術・・化学療法の組み合わせで5年生存率75%が見込める。ただしこれは全体の目安で、国際コンセンサスはリスク群をで低リスク90%超・標準リスク75〜90%・高リスク50〜75%・50%未満と分けており、分子群と転移の有無で見込みは大きく変わる3。
  • 現行の分類ではWNT活性化型・SHH活性化型(TP53野生型/)・非WNT非SHH(グループ3・4)に細分化され1、SHH群ではTP53変異の有無が予後を大きく左右する(41%対81%)4。
  • 中枢神経系の全般との位置づけは中枢・を参照する。

出典

  1. 1.Medulloblastoma(Nature Reviews Disease Primers・2019)髄芽腫は小脳の胎児性腫瘍からなる生物学的に不均一な一群で、WNT・SHH・グループ3・グループ4という4つの分子群が記載されており、それぞれ遺伝子異常・発症年齢・予後が異なる。この4群はWHO中枢神経系腫瘍分類に取り込まれたが、治療強度をリスクに合わせるにはなお個別に評価する必要がある。診断は組織形態・分子遺伝学・画像を統合して行う閲覧 2026-08-24
  2. 2.The 2021 WHO Classification of Tumors of the Central Nervous System: a summary(Neuro-Oncology・2021)2021年に公表されたWHO中枢神経系腫瘍分類第5版は、分子診断の役割を大きく広げつつ組織像・免疫染色も維持し、命名法とグレーディングに従来と異なる考え方を導入して統合診断(integrated diagnosis)と階層化レポートを重視した閲覧 2026-08-24
  3. 3.Risk stratification of childhood medulloblastoma in the molecular era: the current consensus(Acta Neuropathologica(2015年ハイデルベルク国際コンセンサス会議)・2016)3〜17歳の非乳児髄芽腫のリスク群を生存率で定義し、低リスク(生存率90%超)・標準リスク(75〜90%)・高リスク(50〜75%)・超高リスク(50%未満)の4段階とした。WNT群と、転移のない全11番染色体欠失または全17番染色体増加をもつグループ4は低リスクで治療強度の縮小の対象になりうる。高リスクは転移のあるSHH群・グループ4、およびMYCN増幅のあるSHH群。超高リスクは転移のあるグループ3と、TP53変異を伴うSHH群である閲覧 2026-08-24
  4. 4.Subgroup-specific prognostic implications of TP53 mutation in medulloblastoma(Journal of Clinical Oncology・2013)髄芽腫397例(検証コホート156例)で、TP53変異はWNT群16%・SHH群21%に集積しグループ3・4ではほぼ皆無だった。SHH群の5年全生存率はTP53変異例41%±9%、非変異例81%±5%(P<0.001)で、5歳超のSHH髄芽腫の死亡の72%をTP53変異例が占めた。一方WNT群では変異例90%±9%・非変異例97%±3%(P=0.21)と差が出なかった。SHH/TP53変異例の小児の56%が生殖細胞系列TP53変異をもち、WNT/TP53変異例では認めなかった閲覧 2026-08-24