組織病理学

組織病理学 · H2-116A

下垂体腺腫の病理組織学的評価

Macroglossia propter adenoma hypophysis

描出疾患
先端巨大症・プロラクチノーマ(下垂体腺腫)

🧠 全体像:を来す(GH)産生の発生機序、視交叉圧迫、・との関係はによるに整理済みである。本項目では、を病理医がどう評価するかという病理組織学的側面と、の診断・治療の要点を補足する。

下垂体腺腫の病理組織学的評価

は「腫瘍がある」ことの確認だけでなく、機能的分類・・浸潤性を評価して報告する。

💡 名称の更新:と下垂体(PitNET)。 2022年の分類では「」という用語が優先されるようになったが、従来の「」という呼称も同分類のもとで引き続き使ってよいとされており、病理報告書では両者が併記されることがある1。下の表にある転写因子(Pit-1など)による系列判定は、この分類で亜型分類の基準として正式に採用されたものである1。

評価項目 内容
によるホルモン分類 GH、プロラクチン、、、/など各ホルモンおよび転写因子(Pit-1など)で機能的病型を分類する
顆粒化パターン(GH産生腺腫) 密と疎に分かれ、疎はが高く治療抵抗性の傾向がある。密はの有効性と相関し、疎は反応が乏しい2
増殖指数() 高値は・再発リスクの評価に用いる。ただし 2022では増殖マーカーのが示されておらず、は「診断の区分を決める指標」ではなく参考所見の位置に退いている3
浸潤性の評価 硬膜・への浸潤の有無を画像・術中所見と合わせて評価する1

💡 「」という区分は、もう分類にない。 2004年の分類はを典型・非典型・癌の3型に分け、非典型腺腫を「 > 3%・p53・分裂像増加」で定義していた。この区分は2017年版で削除され(同時にp53も評価項目から外れ、と分裂像は予後因子としては残された)、2022年版でも復活していない3。

⚠️ の値だけで「悪性度」を語らない。 2022年版は・分裂像・p53の術後の予測価値そのものを疑問視し、増殖マーカーの測定法もも明示していない。予後評価の重心は、未熟PIT-1系・サイレントcorticotroph・null cell・疎somatotroph・acidophil stem cellといった「」を系列分類で同定する方向へ移った。は増殖マーカーのなかでは最も再現性が高いとされるものの、3%(侵襲性)・10%(転移性)というは恣意的で実地では重なりが大きい3。上の表のは、こうした限界を踏まえた参考値として読む。

💡 顆粒化パターンは「の話」で終わらず、薬の選び方に直結する。 術後薬物療法の予測指標として検証されているのは、(SSTR)発現・顆粒化パターン・の信号強度の3つである。かつ密はが効きやすく、逆にかつ疎、あるいは染色が弱い腫瘍では()を先に考える2。

⚠️ が陽性でも効くとは限らない。 SSTR発現はが効くための必要条件だが十分条件ではなく、陽性腫瘍の約半数は第一世代に臨床的に反応しない2。免疫染色の陽性・陰性を治療効果の予測とそのまま読み替えない。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='anterior pituitary'>下垂体前葉</span>の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='somatotroph'>成長ホルモン産生細胞</span>腺腫"] --> B["免疫染色でGH・Pit-1陽性を確認"]
    B --> C{"顆粒化パターン"}
    C -->|"密<span class='jp-term jp-term-diagram' title='granular form'>顆粒型</span>"| D["比較的<span class='jp-term jp-term-diagram' title='proliferation'>増殖能</span>が低い"]
    C -->|"疎<span class='jp-term jp-term-diagram' title='granular form'>顆粒型</span>"| E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='proliferation'>増殖能</span>が高く治療抵抗性の傾向"]
    D --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Ki-67 proliferation index'>Ki-67</span>・浸潤性と合わせて報告"]
    E --> F
    F --> G["術後の生化学的評価・フォローへ"]

先端巨大症の診断・治療の要点

を含む軟部組織・骨格変化からを疑ったら、形態所見だけで完結させず、・画像・治療へつなげる。

段階 内容
GHはのため単回測定では診断できない。年齢補正IGF-1を第一のスクリーニングとし、判然としない場合に75 g()中のGH抑制不全で確定する4
画像 下垂体造影MRIで腫瘍の大きさ・を評価する
治療の第一選択 な腺腫では
残存・手術不適例 長時間作用型リガンド、()、選択例でや放射線治療を追加する

⚠️ や手足の肥大といった形態変化だけでの活動性を判断しない。軟部組織・骨格の変化は治療後も残存するため、活動性の指標にならない。生化学的な寛解が得られているかは、年齢補正IGF-1(判然としなければ中のGH抑制)という診断時と同じ物差しで確認する4。

💡 2022の病理分類だけではは決まらない。 転写因子に基づく系列分類は術後の経過観察計画やの判断には資するが、それ自体が医のを決めるものではなく、画像上のgradingや術中に観察した浸潤性・因子をに統合した包括的な分類が別途必要だと指摘されている1。診断技術の限界と機序の理解不足から、この分類体系の実地での有用性は今後さらに検証を要する段階にある1。

は(高血圧、心筋症)、、、など全身への影響を伴うため、下垂体そのものの治療と並行して全身の合併症を追跡する。

まとめ

  • の病理評価では、ホルモン免疫染色による機能的分類、顆粒化パターン、増殖指数、浸潤性を確認する。ただし2004年版にあった「非典型腺腫」の区分は2017年版で削除されて以後復活しておらず、も2022年版ではが示されない参考所見の位置にある3。
  • GH産生腺腫は疎でが高く治療抵抗性となる傾向があり、顆粒化パターン・発現・T2信号強度の3つがへの反応を予測する指標として使われる2。
  • の診断は年齢補正IGF-1とでのGH抑制評価を軸とし4、を第一選択とする。
  • などの形態変化だけでなく、心血管・呼吸・代謝合併症を含めた全身評価とフォローが必要である。
  • の位置づけ・視交叉圧迫・・との関係はによる、・の臨床診断学はとを参照する。

出典

  1. 1.Overview of the 2022 WHO Classification of Pituitary Adenomas/Pituitary Neuroendocrine Tumors: Clinical Practices, Controversies, and Perspectives(Current Medical Science・2022)2022年のWHO分類では「下垂体神経内分泌腫瘍(PitNET)」という用語が優先されるが、従来の「下垂体腺腫(pituitary adenoma)」も引き続き使用できるとされる。下垂体特異的転写因子(PIT1・TPIT・SF-1・GATA2/3・ERα)の免疫染色で腫瘍細胞の系列を判定して亜型分類することが推奨され、転写因子がすべて陰性の場合のみ系列不明(多ホルモン性分類不能腫瘍・null cell腫瘍)とされる。抄録は同時に、診断技術の限界と腫瘍化機序の理解不足のため本分類の実地への適用はさらに検証を要すること、術後の経過観察計画・補助療法の判断には資するものの脳神経外科医の治療方針決定には追加的な助けをもたらさないこと、画像上のgradingや術中に直接観察した浸潤性・予後予測因子を病理診断に統合した包括的分類が別途必要であることを指摘している閲覧 2026-08-24
  2. 2.Predictive Markers for Postsurgical Medical Management of Acromegaly: A Systematic Review and Consensus Treatment Guideline(Endocrine Practice(American Association of Clinical Endocrinologists)・2019)抄録で、ソマトスタチンアナログ(SSA)への反応を予測する3つの実用的指標としてソマトスタチン受容体(SSTR)発現・腫瘍の形態学的分類(顆粒化パターン)・T2強調MRIの信号強度が挙げられ、いずれも有意に関連すること、SSTR発現はSSA反応に必要だが十分ではなくSSTR2陽性腫瘍の約半数が第一世代SSAに臨床的に反応しないこと、T2低信号と密顆粒型がSSAの有効性と相関しSSTR発現単独より予測指標として優れること、T2高信号かつ疎顆粒型あるいはSSTR2染色が弱い腫瘍にはGH受容体拮抗薬(ペグビソマント)を考慮すべきであること、SSA単剤では糖代謝が悪化する一方GH受容体拮抗薬単剤では正常血糖に戻りうることを確認した閲覧 2026-08-24
  3. 3.The evolution in pituitary tumour classification: a clinical perspective(Endocrine Oncology・2023)全文で、2004年WHO分類が下垂体腫瘍を典型・非典型(atypical adenoma)・癌の3型に分け、非典型腺腫をKi67>3%・p53過剰発現・分裂像増加で定義していたこと、2004年に新設されたこの「非典型腺腫」という区分が2017年版で削除され(p53も除外され、Ki67と分裂像は予後因子としては維持された)2022年版でも復活していないこと、2022年版ではKi67・分裂像・p53の術後の予測価値そのものが疑問視されて増殖マーカーのカットオフが明示されず、予後評価の重心が未熟PIT-1系・サイレントcorticotroph・null cell・疎顆粒型somatotroph・acidophil stem cellという「高リスク型」の同定へ移ったことを確認した。Ki67は増殖マーカーのなかでは最も再現性が高いとされる一方、3%(侵襲性)・10%(転移性)というカットオフは恣意的で実地では重なりが大きいとも述べられている閲覧 2026-08-24
  4. 4.Consensus on criteria for acromegaly diagnosis and remission(Pituitary・2024)GHは拍動性分泌のため単回測定は診断に向かず、年齢基準補正したIGF-1を第一のスクリーニングとし、判然としない場合に75 g OGTT中のGH抑制不全(測定アッセイ依存のカットオフ)で生化学的に確定するという診断の骨格を確認した。閲覧 2026-08-24