組織病理学

組織病理学 · H2-129

髄芽腫(M分類とリスク層別化)

Medulloblastoma

描出疾患
中枢神経系腫瘍(成人・小児)
疾患
Li-Fraumeni症候群髄芽腫母斑性基底細胞癌症候群

🧠 全体像:組織像(、)と分子群(WNT・SHH・非WNT非SHH)のはに既出である。本項では、脳脊髄液()を介した播種の程度を表すM分類と、それに基づく治療強度の、関連する症候群を補足する。

M分類(CSF播種の評価)

病期 所見
M0 肉眼的なくも膜下・の所見なし
M1 脳脊髄液細胞診陽性(顕微鏡的腫瘍細胞)だが、肉眼的な播種病変なし
M2 小脳・大脳、または・に肉眼的結節性播種
M3 脊髄に肉眼的結節性播種
M4 脳脊髄軸外への転移(骨髄・骨など)

この区分はChangら(Radiology 1969年)が小脳の術中所見に基づくとして提唱したもの1で、現在流通しているのはその修正版である2。このはT分類(腫瘍径3 cmを境に、・への進展、脳幹への明らかな進展、より上方・より下方への進展で細分)も併せもつが、に残ったのは主にM分類のほうである2。

リスク層別化

リスク群 目安となる基準 治療強度の傾向
年齢3歳超、M0、またはがごく少量 減量した++化学療法3
3歳未満、M1以上(播種あり)、大きな、MYC増幅を伴う非WNT/非SHH群など 標準用量以上の+強化化学療法(線量・分割の強化が検討されている)3

⚠️ 年齢基準は主に、放射線による乳幼児の神経発達への長期毒性を避けるためのものである。乳幼児では可能な限り放射線療法を回避・遅延し、化学療法中心の治療を優先することが多い。を減らす方向は照射法の側でも追求されており、は光子線に比べ神経認知・内分泌の合併症が少ないと報告されている3。

💡 上の2群分けは臨床因子(年齢・M分類・量)を軸にした古典的な枠組みである。分子群を軸にした層別化がこれに重なる形で提案されている。 2015年の国際コンセンサスは、3〜17歳の非乳児をで4段階に定義した——低リスク(90%超)・標準リスク(75〜90%)・高リスク(50〜75%)・(50%未満)4。

コンセンサスのリスク群 該当する分子・臨床像
低リスク(90%超) WNT群。転移のないグループ4のうち全11番染色体欠失または全17番染色体増加をもつもの。治療強度の縮小の対象になりうる
高リスク(50〜75%) 転移のあるSHH群、転移のあるグループ4、を伴うSHH群
(50%未満) 転移のあるグループ3、TP53変異を伴うSHH群

⚠️ 古い2群分けを捨てるのではなく、対応づけて覚える。 臨床因子による標準/高リスクの2群分けは実習・試験でそのまま問われるうえ、M分類と量はコンセンサス側でも「転移の有無」として層別の軸に入っている。変わったのは「同じM0・全摘出でも分子群によって予後が大きく違う」という点であり、M分類が不要になったわけではない。

flowchart TD
    A["手術検体で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Medulloblastoma'>髄芽腫</span>を確定"] --> B["全脊髄軸<span class='jp-term jp-term-diagram' title='magnetic resonance imaging'>MRI</span>・脳脊髄液細胞診でM分類を決定"]
    B --> C["年齢・M分類・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='residual tumor'>残存腫瘍</span>量・分子群を統合"]
    C --> D{"標準リスクか高リスクか"}
    D -->|"標準リスク"| E["減量した<span class='jp-term jp-term-diagram' title='craniospinal irradiation'>全脳全脊髄照射</span>+化学療法"]
    D -->|"高リスク"| F["標準用量以上の照射+強化化学療法"]

💡 分類でSHH群がTP53の状態で二分されているのは、予後差がそれだけ大きいからである。 現行分類の遺伝学的に定義される区分は、WNT活性化型・SHH活性化型かつTP53野生型・SHH活性化型かつTP53・非WNT非SHH型の4つである5。397例の解析では、SHH群のはTP53変異例41%±9%に対し非変異例81%±5%(P<0.001)と大きく開き、5歳超のSHHの死亡の72%をTP53変異例が占めた。一方WNT群では変異例90%±9%・非変異例97%±3%(P=0.21)と差が出ず、TP53変異の意味は分子群ごとに違う6。⚠️ したがって「TP53変異があれば予後不良」と分子群をして覚えない。

関連症候群

症候群 関連遺伝子・経路 との関係
(母斑性症候群) PTCH1(SHH経路) SHH活性化型のリスクが高い
APC(WNTシグナル) WNT活性化型と関連しうる
TP53 SHH活性化型・TP53と関連する(既出)。SHH/TP53の小児の56%が生殖細胞系列TP53変異をもつ6

まとめ

  • 組織像・分子群(WNT・SHH・非WNT非SHH)の詳細はを参照する。
  • M分類(Chang分類)は播種の程度をM0〜M4で表し、の中心的因子である。原著はChangら(Radiology 1969年)で1、実際に用いられているのはその修正版である2。
  • 標準リスク群では治療強度を減量し、高リスク群(若年・播種あり・大きな)では強化治療を行う。
  • 現行の分類で遺伝学的に定義される区分は、WNT活性化型・SHH活性化型かつTP53野生型・SHH活性化型かつTP53・非WNT非SHH型の4つである5。
  • 分子群を軸にしたコンセンサスの(低リスク:WNT群など90%超/:転移のあるグループ3とTP53変異を伴うSHH群、50%未満)は、臨床因子による標準/高リスクの2群分けを置き換えるのではなく重ねて用いる4。
  • ・・はそれぞれSHH・WNT・SHH群のと関連しうる。との関係は強く、SHH/TP53の小児の56%が生殖細胞系列TP53変異をもつ6。

出典

  1. 1.An operative staging system and a megavoltage radiotherapeutic technic for cerebellar medulloblastomas(Radiology・1969)髄芽腫のT分類・M分類(Chang分類)の原著。Europe PMCで書誌(Chang CH, Housepian EM, Herbert C、Radiology 1969;93(6):1351-1359、PMID 4983156)の実在と、表題が小脳髄芽腫に対する術中所見に基づく病期分類の提唱であることを確認した。抄録は収録されていないため、M0〜M4の各定義は下記のSeidelら2021の総説(表3「Chang分類による修正髄芽腫病期分類」)が本論文に帰属させている内容として確認した閲覧 2026-08-24
  2. 2.Radiotherapy in Medulloblastoma-Evolution of Treatment, Current Concepts and Future Perspectives(Cancers・2021)全文の表3「Chang分類による修正髄芽腫病期分類」で、M分類がM0(肉眼的なくも膜下・血行性転移の所見なし)・M1(脳脊髄液中に顕微鏡的腫瘍細胞)・M2(小脳・大脳くも膜下腔または第三脳室・側脳室に肉眼的結節性播種)・M3(脊髄くも膜下腔に肉眼的結節性播種)・M4(脳脊髄軸外への転移)と定義され、この病期分類がChangら(Radiology 1969;93:1351-1359)に帰属することを確認した。あわせて、残存腫瘍1.5 cm²超・転移・大細胞/退形成組織像を危険因子とするChang分類依拠の従来のリスク層別化が、分子亜群の導入後に見直しを要したことも確認した閲覧 2026-08-24
  3. 3.Brain tumors: Medulloblastoma, ATRT, ependymoma(Pediatric Blood & Cancer・2021)平均リスク髄芽腫では減量した全脳脊髄照射+腫瘍床ブースト+化学療法が標準で、高リスク例では線量・分割の強化が検討されていること、陽子線治療が光子線に比べ神経認知・内分泌の合併症が少ないことを確認した閲覧 2026-08-24
  4. 4.Risk stratification of childhood medulloblastoma in the molecular era: the current consensus(Acta Neuropathologica(2015年ハイデルベルク国際コンセンサス会議)・2016)3〜17歳の非乳児髄芽腫のリスク群を生存率で定義し、低リスク(生存率90%超)・標準リスク(75〜90%)・高リスク(50〜75%)・超高リスク(50%未満)の4段階とした。WNT群と、転移のない全11番染色体欠失または全17番染色体増加をもつグループ4は低リスクで治療強度の縮小の対象になりうる。高リスクは転移のあるSHH群・グループ4、およびMYCN増幅のあるSHH群。超高リスクは転移のあるグループ3と、TP53変異を伴うSHH群である閲覧 2026-08-24
  5. 5.Medulloblastoma: WHO 2021 and Beyond(Pediatric and Developmental Pathology・2022)抄録で、2016年に髄芽腫の分類が再構成され、初めて組織学的特徴による区分(histologically defined)と並んで分子学的特徴による区分(genetically defined)が置かれたこと、現行の遺伝学的に定義される区分がWNT活性化型・SHH活性化型かつTP53野生型・SHH活性化型かつTP53変異型・非WNT非SHH型の4つであること、免疫組織化学と分子検査を組み合わせて統合診断を組み立てることを確認した閲覧 2026-08-24
  6. 6.Subgroup-specific prognostic implications of TP53 mutation in medulloblastoma(Journal of Clinical Oncology・2013)髄芽腫397例(検証コホート156例)で、TP53変異はWNT群16%・SHH群21%に集積しグループ3・4ではほぼ皆無だった。SHH群の5年全生存率はTP53変異例41%±9%、非変異例81%±5%(P<0.001)で、5歳超のSHH髄芽腫の死亡の72%をTP53変異例が占めた。一方WNT群では変異例90%±9%・非変異例97%±3%(P=0.21)と差が出なかった。SHH/TP53変異例の小児の56%が生殖細胞系列TP53変異をもち、WNT/TP53変異例では認めなかった閲覧 2026-08-24