組織病理学

組織病理学 · H2-128

膠芽腫(分子診断基準とMGMTメチル化)

Glioblastoma

描出疾患
中枢神経系腫瘍(成人・小児)
疾患
膠芽腫

🧠 全体像:・という古典的組織所見と、野生型に限定するという診断の基本条件はに既出である。本項では、これらの古典的所見を欠く場合でも診断を確定できる分子基準と、化学療法の反応性を左右するMGMTを補足する。

分子基準による診断(古典的組織所見を欠く場合)

現行の CNS分類(第5版、2021年)では、野生型のびまん性系腫瘍について、やのような古典的な所見がなくても、以下のいずれかの分子異常があればグレード4(相当)として扱う。

分子基準 内容
EGFR遺伝子増幅 の
7番染色体増加+10番染色体欠失(+7/−10) 特徴的な染色体パターン
変異 遺伝子の変異

この「3つのうちいずれか1つ」という規則は、従来なら組織学的にgrade 2・3とされていた野生型びまん性系腫瘍を分子(molecular GBM、 grade 4)として扱うためのものである1。

💡 名称も第5版で整理された。 現行分類での腫瘍名は「、野生型(glioblastoma, -wildtype)」であり、のgrade 4病変は「星細胞腫、、grade 4(astrocytoma, -mutant, grade 4)」という別の腫瘍名になる2。第5版はとgradingの双方に従来と異なる方針を導入し、と階層化レポートを重視する形をとった3。⚠️ 旧来の「」という呼び方は現行分類の腫瘍名としては使われない。旧登録症例を第5版へ読み替える作業を報告した研究でも、「glioblastoma, -wildtype(以前は glioblastoma multiforme と呼ばれた)」と、追加の分子検査を要さず名称だけを改める対応として整理されている4。ただし実習・試験・古い文献ではなお目にするため、同じ病変を指す旧称として対応づけて覚え、答案で使う名称は現行の「、野生型」に寄せる。

💡 この規則は「成人型」びまん性膠腫の枠内の話である。 第5版では成人型と小児型の膠腫が初めて別々に分類され、成人型びまん性膠腫は星細胞腫()・(変異かつ型)・(野生型)の3型へ整理された。という診断名自体が野生型に限定されたのもこの改訂である2。小児のびまん性膠腫は別体系で扱われるため、上の分子基準をそのまま当てはめない。

⚠️ 「壊死・がない=低悪性度」と即断しない。野生型の系腫瘍でこれらの分子基準のいずれかを満たせば、組織形態が一見穏やかでも生物学的にはと同等の予後不良群として扱う。補助を受けた連続708例の比較でも、分子65例の中央値は26か月で組織学的643例の21か月と有意差がなく(p=0.435)、中央値はむしろ13か月対8か月と長かった(p=0.0237)1。

💡 「同等の予後不良群」がどの程度同等かは、なお検討中の論点である。 上の報告のように分子のほうが無増悪生存が長いという結果もあり、組織学的と完全に同じ振る舞いをするとまでは示されていない。分類上grade 4として同じ治療戦略に乗せるという運用上の合意と、生物学的挙動が同一だという主張は別のものとして扱う。

MGMTプロモーターメチル化とテモゾロミド感受性

MGMT()は、などのがに作るO6-メチルを修復する酵素である。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='temozolomide'>テモゾロミド</span>が<span class='jp-term jp-term-diagram' title='deoxyribonucleic acid'>DNA</span>にO6-メチル<span class='jp-term jp-term-diagram' title='guanine'>グアニン</span><span class='jp-term jp-term-diagram' title='adduct'>付加体</span>を形成"] --> B{"MGMTプロモーターはメチル化されているか"}
    B -->|"メチル化あり(サイレンシング)"| C["MGMT酵素が産生されず修復できない"]
    C --> D["腫瘍細胞死が起こりやすく、薬剤感受性が高い"]
    B -->|"メチル化なし"| E["MGMT酵素が産生され損傷を修復"]
    E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='antimicrobial resistance, AMR'>薬剤耐性</span>を来しやすい"]

⚠️ MGMTメチル化の有無は治療の可否を決める絶対条件ではない。非メチル化例にもは投与されうるが、あくまで反応性・予後を予測する補助的なとして扱う。分類上の位置づけも同じで、MGMTはではなく野生型におけるである5。上のEGFR増幅・+7/−10・変異が「を決める」分子所見であるのに対し、MGMTは「治療反応を予測する」分子所見であり、役割の階層が異なる。

💡 の位置づけの根拠(Stuppレジメン)。 新規診断に対し、放射線治療へ(75 mg/m²/日)と6コースの維持を加える方式で、生存期間中央値が14.6か月対12.1か月へ延長した6。MGMTメチル化はこの枠組みのなかで誰がより恩恵を受けるかを見積もる指標であって、投与するかしないかを切り替えるスイッチではない。

まとめ

  • 組織学的(・)と野生型という条件の詳細はを参照する。
  • 野生型の系腫瘍では、EGFR増幅・+7/−10・変異のいずれかがあれば、古典的組織所見を欠いても相当として扱う。
  • MGMTはが作る損傷の修復を妨げ、薬剤感受性・予後の予測因子として働く。ではなくである点で、grade を決める分子基準とは役割が異なる5。
  • 現行分類の腫瘍名は「、野生型」であり、のgrade 4は「星細胞腫、、grade 4」という別の名称になる。旧称「」は現行の腫瘍名としては使われず、旧称と現行名の対応は「glioblastoma multiforme → glioblastoma, -wildtype」として扱われる24。
  • 治療の詳細はの外科・薬物治療を参照する。

出典

  1. 1.The survival outcomes of molecular glioblastoma IDH-wildtype: a multicenter study(Journal of Neuro-Oncology・2022)抄録で、従来の膠芽腫の組織診断が壊死または微小血管増殖の存在で決まっていたこと、2021年WHO分類ではこれらの組織所見を欠く(従来ならgrade 2・3とされた)IDH野生型びまん性星細胞系腫瘍でも、TERTプロモーター変異・EGFR増幅・+7/−10のコピー数変化のいずれかがあれば分子膠芽腫(molGBM、WHO grade 4)とすることを確認した。また補助化学放射線療法を受けた連続708例(組織学的膠芽腫643例・分子膠芽腫65例)の比較で、無増悪生存期間中央値が組織学的膠芽腫8か月に対し分子膠芽腫13か月(p=0.0237)、全生存期間中央値が21か月対26か月(p=0.435)であり、分子膠芽腫は全生存が同等で無増悪生存はむしろ長かったこと、分子膠芽腫内の多変量解析でMRIでの造影増強が無増悪生存を悪化させ(ハザード比6.224)MGMTメチル化が改善させた(ハザード比0.026)ことを確認した閲覧 2026-08-24
  2. 2.World Health Organization 2021 Classification of Central Nervous System Tumors and Implications for Therapy for Adult-Type Gliomas: A Review(JAMA Oncology・2022)2021年のWHO中枢神経系腫瘍分類第5版では、成人型と小児型の膠腫が初めて分子病態と予後の違いに基づいて別々に分類されたこと、成人型びまん性膠腫が星細胞腫(IDH変異型)・乏突起膠腫(IDH変異かつ1p/19q共欠失型)・膠芽腫(IDH野生型)の3型に整理され、膠芽腫という診断がIDH野生型腫瘍に限定されたことを確認した閲覧 2026-08-24
  3. 3.The 2021 WHO Classification of Tumors of the Central Nervous System: a summary(Neuro-Oncology・2021)抄録で、2021年刊行のWHO中枢神経系腫瘍分類第5版が国際標準としては6版目にあたり、2016年改訂第4版とcIMPACT-NOWの作業を土台に分子診断の役割を大きく広げた一方で組織像・免疫組織化学という従来の診断手法も維持していること、腫瘍の命名法とgrading の双方に従来と異なる方針を導入したこと、統合診断(integrated diagnosis)と階層化レポートを重視すること、DNAメチローム解析など新技術に基づく新しい腫瘍型・亜型が導入されたことを確認した閲覧 2026-08-24
  4. 4.Impact of an evolving classification system on diffuse glioma repositories: experience from the Sydney brain tumour bank(Journal of Neuro-Oncology・2026)全文で、WHO第5版に合わせて旧登録症例を読み替える際に「追加の分子検査を要さず名称の変更だけで足りる」群を列挙し、そこで「glioblastoma, IDH-wildtype(以前は glioblastoma multiforme と呼ばれた)」および「astrocytoma, IDH-mutant, CNS WHO grade 4(以前は secondary glioblastoma または glioblastoma, IDH-mutant と呼ばれた)」と旧称と現行腫瘍名の対応が明示されていることを確認した。また2016年改訂第4版より前に診断された症例の37〜100%が現行基準では追加の分子検査を要することも確認した閲覧 2026-08-24
  5. 5.Molecular diagnostic tools for the World Health Organization (WHO) 2021 classification of gliomas, glioneuronal and neuronal tumors; an EANO guideline(Neuro-Oncology(European Association of Neuro-Oncology)・2023)WHO 2021では多くの腫瘍型で分子所見が必須の診断基準となり統合的なhistomolecular診断が要る一方、MGMTプロモーターメチル化は診断基準ではなくIDH野生型膠芽腫における予測マーカーとして扱われることを確認した閲覧 2026-08-24
  6. 6.Radiotherapy plus concomitant and adjuvant temozolomide for glioblastoma(The New England Journal of Medicine・2005)新規診断膠芽腫で放射線治療に同時併用テモゾロミド(75 mg/m²/日)と6コースの維持テモゾロミドを加えると、生存期間中央値が14.6か月対12.1か月へ延長したことを確認した閲覧 2026-08-24