組織病理学

組織病理学 · H2-114A

膠芽腫

Glioblastoma

描出疾患
中枢神経系腫瘍(成人・小児)
疾患
膠芽腫

🧠 全体像:は成人で最も頻度の高い原発性で、とという2つの所見が診断の核である。の系列の中で最も悪性度が高く、標準治療を行っても生存期間中央値は15〜18か月にとどまる。

星細胞腫系列とグレード

グレード 主な所見 生存期間の目安
グレード2星細胞腫 びまん性浸潤、まばら、異型最小 10年を超えるが最終的に進行する
グレード3(性)星細胞腫 著明な異型、増加 5〜10年
グレード4() +、高度に細胞性で著明な異型 15〜18か月(手術+後)

⚠️ 現行の分類では、単に「グレード4の系腫瘍」だからといって「」と呼ぶわけではない。は野生型の症例に限定される名称であり、IDH1/2変異を持つグレード4星細胞腫は「星細胞腫、グレード4」として別の予後(より良好)のまとまりに分類する。成人発症のGBMの大部分は、低グレード病変を経ずに最初からグレード4として発症する(de novo発症)。

💡 この線引きが入ったのは2021年の分類第5版( CNS5)である。 第5版で成人型と小児型の膠腫が初めて別々に分類され、成人型びまん性膠腫は星細胞腫()・(変異かつ型)・(野生型)の3型に整理された。従来「」と呼ばれていた腫瘍は、この改訂で astrocytoma, -mutant, grade 4 へ名前ごと移された1。第5版はの役割を広げる一方で組織像・免疫染色も残し、両者を突き合わせた(integrated diagnosis)と階層化レポートを求める2。旧分類の「グレード4星細胞腫=」という覚え方は、試験でそのまま問われることもあるので、旧い枠組みとして位置づけを添えて覚えておく。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='stellate cells'>星細胞</span>由来のグリア系腫瘍"] --> B{"IDH1/2変異の有無"}
    B -->|"変異あり"| C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='isocitrate dehydrogenase'>IDH</span><span class='jp-term jp-term-diagram' title='mutant'>変異型</span>星細胞腫(グレード2〜4)"]
    B -->|"野生型(成人に多い)"| D["多くはde novoに<span class='jp-term jp-term-diagram' title='high-grade (aggressive)'>高悪性度</span>で発症"]
    D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pseudopalisading necrosis'>偽柵状壊死</span>+<span class='jp-term jp-term-diagram' title='microvascular proliferation'>微小血管増殖</span>を確認"]
    E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='glioblastoma (GBM)'>膠芽腫</span>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='isocitrate dehydrogenase'>IDH</span>野生型、グレード4)"]
    F --> G["手術+<span class='jp-term jp-term-diagram' title='temozolomide'>テモゾロミド</span>併用<span class='jp-term jp-term-diagram' title='chemoradiotherapy'>化学放射線療法</span>"]

標本の所見

所見 解釈
腫瘍細胞が壊死巣の周囲に柵状に密集配列する像。に特徴的な壊死パターンで、腫瘍の急速な増大に血管新生が追いつかず生じるを反映する
内皮細胞・がに増殖する所見。腫瘍が壊死・低酸素環境に応じて(など)を産生することを反映する

この2所見のいずれか、とくに両方がそろえば、たとえ細胞異型自体が突出していなくてもグレード4の根拠となる。

⚠️ 逆に、この2所見が無くてもグレード4になりうる。 CNS5では多くの腫瘍型で分子所見が診断に必須の基準となり、組織像と分子所見を突き合わせたhistomolecular診断が要求される3。野生型のびまん性系腫瘍では、変異・EGFR増幅・7番染色体増加+10番染色体欠失(+7/−10)のいずれかがあれば、壊死もも欠く標本を(グレード4)として扱う。この分子基準の詳細とMGMTの位置づけ(ではなく野生型における3)はトピックH2-128を参照する。

臨床像

好発年齢は60〜80歳で、成人の中で最も頻度が高いである。痙攣、頭痛、で発症することが多く、画像ではしばしばを越えて対側半球へ連続する「」病変として現れる。標準治療は最大限の安全な摘出に続く併用放射線療法で、それでも生存期間中央値は15〜18か月にとどまり、再発率も高い。

💡 この数字の出どころはStuppレジメンのである。 新規診断573例で、放射線療法(2 Gy×5日/週×6週、計60 Gy)に75 mg/m²/日の+6コースのを加えると、生存期間中央値は12.1か月から14.6か月へ延び(死亡0.63、95%CI 0.52〜0.75)、2年は10.4%から26.5%へ上がった4。ノートの「15〜18か月」はや患者背景の良い近年の症例集積を含めた幅であり、無作為化試験での実測値は14.6か月であることを押さえておく。

まとめ

  • は成人で最も頻度の高い原発性で、とが診断の核である。
  • 現行分類( CNS5、2021年)ではは野生型に限定され、グレード4星細胞腫は astrocytoma, -mutant, grade 4 として別の予後群に区別する1。
  • 多くの症例は低グレード病変を経ずde novoに発症する。
  • 標準治療(手術+併用)でも生存期間中央値は15〜18か月にとどまる(無作為化試験での実測値は14.6か月、2年26.5%)4。
  • 星細胞腫の他グレードや他のとの比較は中枢・、診断・治療の流れはの疫学・診断との外科・薬物治療を参照する。

出典

  1. 1.World Health Organization 2021 Classification of Central Nervous System Tumors and Implications for Therapy for Adult-Type Gliomas: A Review(JAMA Oncology・2022)2021年のWHO中枢神経系腫瘍分類第5版では、成人型と小児型の膠腫が初めて分子病態と予後の違いに基づいて別々に分類されたこと、成人型びまん性膠腫が星細胞腫(IDH変異型)・乏突起膠腫(IDH変異かつ1p/19q共欠失型)・膠芽腫(IDH野生型)の3型に整理されたこと、膠芽腫という診断がIDH野生型腫瘍に限定され、従来IDH変異型膠芽腫と診断されていた腫瘍はastrocytoma, IDH-mutant, grade 4 へ再分類されたことを確認した閲覧 2026-08-24
  2. 2.The 2021 WHO Classification of Tumors of the Central Nervous System: a summary(Neuro-Oncology・2021)2021年に公表されたWHO中枢神経系腫瘍分類第5版は、分子診断の役割を大きく広げつつ組織像・免疫染色も維持し、命名法とグレーディングに従来と異なる考え方を導入して統合診断(integrated diagnosis)と階層化レポートを重視した閲覧 2026-08-24
  3. 3.Molecular diagnostic tools for the World Health Organization (WHO) 2021 classification of gliomas, glioneuronal and neuronal tumors; an EANO guideline(Neuro-Oncology(European Association of Neuro-Oncology)・2023)WHO CNS第5版では多くの腫瘍型で分子所見が診断に必須の基準となり、組織像と分子所見を統合したhistomolecular診断が要求される。MGMTプロモーターメチル化は診断基準ではなく、IDH野生型膠芽腫における予測マーカーとして位置づけられる閲覧 2026-08-24
  4. 4.Radiotherapy plus concomitant and adjuvant temozolomide for glioblastoma(The New England Journal of Medicine・2005)新規診断膠芽腫573例の無作為化試験で、放射線療法(2 Gy×5日/週×6週、計60 Gy)にテモゾロミド75 mg/m²/日の同時併用と6コースの維持投与を加えた群の生存期間中央値は14.6か月、放射線単独群は12.1か月(死亡ハザード比0.63、95%CI 0.52〜0.75)、2年生存率は26.5%対10.4%であった閲覧 2026-08-24