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Disease Atlas · 神経 · 疾患

もやもや病

Moyamoya disease

別名
ウィリス動脈輪閉塞症もやもや血管症
臓器系
神経循環器小児
科目
Neurology
トピック
神経内科 G2-25:脳血管障害の分類神経内科 G2-27:若年成人の脳血管障害
合併症
脳梗塞
症状
頭痛

🧠 全体像:は、頭蓋内の終末部を中心に進行性の狭窄・閉塞が起こり、それを代償しようとして脆弱な異常血管網(で「もやもや=煙のような」と形容される)が発達する脳血管症である。日本発の疾患概念で、東アジアに突出して多い。⭐ 年齢で発症のしかたが違う——小児は主に虚血(で誘発される脳卒中・)で、成人は主に脆弱なの破綻による出血で発症する。同じ血管形態異常でも・などの基礎疾患に伴う場合は「もやもや症候群(準)」として区別される。

病態:中枢の閉塞と末梢の代償

は、頭蓋内終末部を中心にによる進行性の狭窄・閉塞が生じる血管症である1。狭窄が進むにつれて、を保とうとする代償反応として、・・などに由来する脆弱な(もやもや血管)が発達する1。

flowchart TD
    A["頭蓋内<span class='jp-term jp-term-diagram' title='internal carotid artery, ICA'>内頸動脈</span>終末部の<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='intimal thickening'>内膜肥厚</span>による進行性狭窄"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='large (trunk) artery'>主幹動脈</span>からの血流が低下"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cerebral blood flow, CBF'>脳血流</span>を保つための<br>代償性<span class='jp-term jp-term-diagram' title='collateral circulation'>側副血行路</span>が発達"]
    C --> D["脆弱な異常血管網(もやもや血管)<br>=<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cerebral angiography'>脳血管撮影</span>の煙のような陰影"]
    B --> E["虚血:とくに小児で<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='hyperventilation'>過換気</span>により誘発されやすい"]
    D --> F["出血:脆弱な血管の破綻<br>とくに成人に多い"]

💡 「もやもや」は病名であって所見の代名詞ではない。 この異常血管網そのものは、狭窄という一次病変に対する二次的な代償反応であり、進行を止めない限り血管網自体も脆弱なまま出血源になりうる。

RNF213遺伝子が、2011年以降の病態に中心的に関わる遺伝子として同定されており、東アジア集団における主要な感受性遺伝子である21。中でもR4810K変異は、両側性への進行など臨床像に関連する危険因子の一つとして示されている2。

疫学:東アジアに突出し、二峰性の年齢分布

⭐ 東アジア、とくに日本・韓国で高頻度である。 日本のは10万人あたり0.35〜0.94人で、北米の10万人あたり0.086〜0.57人より明らかに高い1。発症年齢は5〜9歳と45〜49歳を2つのピークとする二峰性分布を示し、女性に多い(米国の症例では約72%)1。

症候:小児は虚血、成人は出血

⭐ が年齢で逆転する、というのがこの病気を覚える最短の軸である。

年代 主な 特徴
小児 虚血(脳卒中・) (、楽器の演奏など)を契機に誘発されることがある。を伴うこともある1
成人 脆弱な(もやもや血管)の破綻を反映する1

💡 小児の誘発性の虚血は、による低炭酸ガス血症が正常血管をさらに収縮させる一方、すでに拡張しきったもやもや血管には血管拡張のが残っていないために起こると理解される。 後にけいれんやが一過性に出る乳幼児では、この機序を念頭に置く。

は、の若年発症例における鑑別として重要である。頭痛も虚血・出血いずれの病型でも生じうる非特異的な随伴症状である。

診断:もやもや病 vs もやもや症候群(準もやもや病)

2021年改訂の(研究委員会)は、原因不明の症例を「」、基礎疾患を有する症例を「準(もやもや症候群)」として明確に区別する2。

⚠️ 除外すべき基礎疾患の一覧を覚える。 自己免疫疾患(・・・シェーグレン症候群など)、髄膜炎、、、、頭部放射線照射後がこれにあたる2。⚠️ 一方で動脈硬化・甲状腺機能亢進症・は、2021年改訂で「除外すべき原因」から「合併しうる病態」へ位置づけが変わった——これらを合併していても、の診断を妨げない2。

画像診断——MRI/MRAだけでも確定できるが、限界もある

⭐ 2021年改訂の大きな変更点は、片側性の症例も両側性と同様に「」と診断してよいと明文化したことである(「definite(確実)」「probable(疑い)」の区別自体は2015年改訂で既に廃止されており、2021年改訂はこれを維持している)2。

検査 の要件2
頭蓋内終末部の狭窄・閉塞、そのでの異常血管網(もやもや血管)の出現、原則として両側性
1.5テスラ以上の/MRA ①頭蓋内終末部の狭窄・閉塞、②heavy での頭蓋内終末部・水平部の外径の減少(動脈硬化との重要な鑑別点)、③大脳基底核・での異常血管網の描出

⚠️ /MRAだけで確定できるが、早期例では限界がある。 外径の減少はSuzuki分類第3期以降にならないと明瞭にならないため、早期例(第1〜2期)では/MRAでが得られないことがあり、その場合はによる確定診断が推奨される2。また片側病変や動脈硬化合併例でも、がとくに重要になる2。

Suzuki分類は所見の進行度を6期に分類する1。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Cerebrovascular disease'>脳血管障害</span>を疑う小児・若年成人"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='magnetic resonance imaging'>MRI</span>/MRAで頭蓋内<span class='jp-term jp-term-diagram' title='internal carotid artery, ICA'>内頸動脈</span>終末部の<br>狭窄・閉塞と外径減少を確認"]
    B --> C{"異常血管網が明瞭に描出されるか"}
    C -->|"描出される(Suzuki 3期以降が目安)"| D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='magnetic resonance imaging'>MRI</span>/MRAで<span class='jp-term jp-term-diagram' title='moyamoya disease'>もやもや病</span>と診断可能"]
    C -->|"不明瞭(早期例=第1〜2期の可能性)"| E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cerebral angiography'>脳血管撮影</span>で確定診断"]
    D --> F["基礎疾患の有無を検索"]
    E --> F
    F -->|"基礎疾患なし"| G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='moyamoya disease'>もやもや病</span>"]
    F -->|"自己免疫疾患・NF1・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Down syndrome'>Down症候群</span>・<br>頭部放射線照射後などあり"| H["準<span class='jp-term jp-term-diagram' title='moyamoya disease'>もやもや病</span>(もやもや症候群)"]

治療:血行再建術が中心

外科的(-吻合などの直接バイパス、または脳硬膜動脈血管癒合術などの間接バイパス)が中心的な治療である。

⭐ 成人の出血発症例では、直接が再出血を予防しうることがで示されている。 日本22施設が参加したこの試験では、直近1年以内にを来した成人患者80例(外科群42例・非外科群38例)を直接群と保存的治療群にし5年間追跡したところ、再出血が外科群5例(11.9%)・非外科群12例(31.6%)、年間再出血率は2.7%/年 対 7.6%/年(P=0.042)であった3。

⚠️ 「統計学的に有意」と「効果が確立している」の間には距離がある。 JAM trialの自体が「統計学的にはながら」効果を示唆すると述べている(0.355、95%信頼区間0.125〜1.009での上限が1を超える)3。有意な機能障害を来す有害事象全体でも、外科群6例(14.3%)対非外科群13例(34.2%)、年間3.2%/年 対 8.2%/年(P=0.048)と、こちらも「限界的」な有意差にとどまる3。

合併症・予後

未治療で進行すれば、虚血・出血のいずれの病型でもなどの永続的な神経障害に至りうる。は再出血・再発性虚血のリスクを下げうるが、根治的に血管のを治す治療ではなく、生涯にわたる経過観察を要する。

まとめ

  • は頭蓋内終末部の進行性狭窄・閉塞と、代償性の脆弱な異常血管網(もやもや血管)の形成を特徴とする、日本発の疾患概念である。
  • 東アジア(日本・韓国)に突出して多く、発症年齢は5〜9歳と45〜49歳の二峰性で女性に多い。RNF213(とくにR4810K変異)が主要な感受性遺伝子である。
  • ⭐ 小児は虚血(で誘発されうる)、成人は破綻による出血で発症することが多い。
  • 2021年改訂のは、原因不明を「」、自己免疫疾患・NF1・・頭部放射線照射後などの基礎疾患を伴うものを「もやもや症候群(準)」として区別する。動脈硬化・甲状腺機能亢進症・は除外対象ではなく合併しうる病態として扱う。
  • 片側性でも両側性と同様に診断可能。/MRAで確定できるが、Suzuki分類第1〜2期の早期例では所見が不明瞭なことがあり、その場合はで確定する。
  • 外科的(直接・間接バイパス)が中心治療。⚠️ JAM trialは成人出血発症例で直接による効果を示したが、結果自体が「統計学的には限界的」と評価されている。

出典

  1. 1.Moyamoya Disease(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2024)NCBI Bookshelfで確認した。もやもや病が頭蓋内内頸動脈末端部を中心とする慢性進行性の狭窄と、脆弱な代償性側副血行路(脳血管撮影で「もやもや=煙のような」と形容される網状陰影)の形成を特徴とする脳血管症であること、同一の血管症が神経線維腫症1型・Down症候群・鎌状赤血球症などの基礎疾患に伴って生じる場合を「もやもや症候群」として区別すること、東アジア、とくに日本・韓国で高頻度であり日本の発生率が10万人あたり0.35〜0.94人、北米が10万人あたり0.086〜0.57人であること、発症年齢が5〜9歳と45〜49歳を2つのピークとする二峰性分布を示すこと、米国の症例では女性が約72%を占めること、小児例は多くが虚血症状(脳卒中・一過性脳虚血発作)で発症し、過換気(啼泣・楽器の演奏など)を契機に誘発されることがあり認知機能低下を伴うこともあること、成人例はより高頻度に頭蓋内出血で発症し、これは脆弱な側副血行路(もやもや血管)の破綻を反映すること、`RNF213`遺伝子が東アジア集団における主要な感受性遺伝子であること、MRIが急性期の虚血・出血の検出に有用である一方、脳血管撮影が診断のゴールドスタンダードであり続けること、Suzuki分類が血管撮影所見の進行を6期に分類することを確認した。閲覧 2026-09-06
  2. 2.Diagnostic Criteria for Moyamoya Disease - 2021 Revised Version(Neurologia Medico-Chirurgica(もやもや病研究委員会(厚生労働省難治性疾患政策研究事業);Kuroda S, et al.)・2022)PMC9357455の全文を確認した。2021年改訂版が、頭蓋内内頸動脈終末部を中心とした狭窄・閉塞と特徴的な異常血管網(もやもや血管)の形成を診断の核に据え、「definite(確実)」と「probable(疑い)」の区別(この区別自体は2015年改訂で既に廃止されている)を維持したまま、片側性の症例も両側性と同様にもやもや病と診断してよいことを明文化したこと、脳血管撮影による診断基準が頭蓋内内頸動脈終末部の狭窄・閉塞、その動脈相でのもやもや血管の出現、および原則として両側性であることとし片側病変や動脈硬化合併例では脳血管撮影が特に重要であること、1.5テスラ以上のMRI/MRAのみでも診断可能であり要件が頭蓋内内頸動脈終末部の狭窄・閉塞、heavy T2強調画像での頭蓋内内頸動脈終末部および水平部中大脳動脈の外径の減少(動脈硬化との重要な鑑別点)、大脳基底核または脳室周囲白質における異常血管網の描出であること、外径の減少がSuzuki分類第3期以降にならないと明瞭にならないため早期例(第1〜2期)ではMRI/MRAで特徴的所見が得られないことがあり、その場合は脳血管撮影による確定診断が推奨されること、原因不明の症例を「もやもや病」、全身性エリテマトーデス・抗リン脂質抗体症候群・結節性多発動脈炎・シェーグレン症候群などの自己免疫疾患、髄膜炎、脳腫瘍、Down症候群、神経線維腫症1型、頭部放射線照射後などの基礎疾患を有する症例を「準もやもや病(もやもや症候群)」として区別すること、動脈硬化・甲状腺機能亢進症・頭部外傷は基礎疾患を有する準もやもや病の除外対象から外され合併しうる病態として扱われるようになったこと、`RNF213`遺伝子が2011年以降もやもや病の病態に中心的に関わる遺伝子として同定され、その中でもR4810K変異が両側性への進行など臨床像に関連する危険因子の一つとして示されていることを確認した。閲覧 2026-09-06
  3. 3.Effects of Extracranial-Intracranial Bypass for Patients With Hemorrhagic Moyamoya Disease: Results of the Japan Adult Moyamoya Trial(Stroke (Japan Adult Moyamoya [JAM] Trial; Miyamoto S, et al.)・2014)Europe PMC経由で抄録全文を確認した。日本22施設が参加した多施設共同前向き無作為化比較試験(JAM trial)で、直近1年以内に頭蓋内出血を来した成人もやもや病患者80例(外科群42例・非外科群38例)を両側の頭蓋外-頭蓋内直接バイパス術群と保存的治療群に無作為割付し5年間追跡したこと、有意な機能障害を来す有害事象が外科群6例(14.3%)・非外科群13例(34.2%)でKaplan-Meier解析による年間発生率が3.2%/年対8.2%/年(P=0.048)と有意差があったこと、副次評価項目の再出血が外科群5例(11.9%)・非外科群12例(31.6%)でKaplan-Meier解析による年間再出血率が2.7%/年対7.6%/年(P=0.042、Cox回帰によるハザード比0.355、95%信頼区間0.125〜1.009)であったこと、結論として統計学的には限界的ながら直接バイパス術に再出血を予防する効果が示唆されたと述べていることを確認した。閲覧 2026-09-06