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Disease Atlas · 神経 · 先天性疾患

メンケス病

Menkes disease

別名
メンケス症候群Menkes病Menkes症候群メンケス縮れ毛症候群
臓器系
神経内分泌・代謝小児
科目
Molecular Cell BiologyMedical Biochemistry
トピック
分子細胞生物学 28:コラーゲンの種類・構造・合成生化学 1/4:四次構造と翻訳後修飾;コラーゲンの構造;タンパク質-核酸相互作用の構造基盤
鑑別疾患
Charcot-Marie-Tooth病銅欠乏
関連疾患
ウィルソン病エーラス・ダンロス症候群壊血病後頭角症候群
治療薬
銅ヒスチジン
症状
筋緊張低下発作発達退行
検査値
血清銅・セルロプラスミン
適応薬
銅ヒスチジン

🧠 全体像:は、の一方 ATP7A の機能喪失により、に取り込まれたが体内へ送り出せなくなるX連鎖の疾患である。(ATP7B)と対を成す——ATP7Bは肝細胞で「をへ載せる/胆汁へ捨てる」出口を担い、ATP7Aは腸をはじめとする肝以外の細胞で「を細胞外へ送り出す/へ渡す」出口を担う。したがって病態の方向は正反対(は過剰、は体内総量の不足)だが、とはどちらも低下するという紛らわしさがある。症状は「を補因子とする酵素が軒並み働かない」ことの寄せ集めとして読める——が止まればコラーゲン・の架橋が作れず(・・)、が止まれば自律神経症状が、が止まればが出る。特徴的な(pili torti)は欠損による色素低下との捻れの合わさった所見である。

ATP7A と ATP7B——同じ家族の反対側

(ATP7A) (ATP7B)
遺伝形式 X連鎖
主な発現部位 ・胎盤・血液脳関門など肝以外 肝細胞
障害される段階 腸管から体内へのの搬出/へのの受け渡し へのの組込み/胆汁への排泄
体内総量 不足 過剰
がたまる場所 ・腎など(使えないまま滞る) 肝・大脳基底核・角膜
低値 低値
低値 低値
治療 を補う(皮下注) を除く(・)
発症年齢 生後2〜3か月 多くは学童期〜成人早期

⚠️ 「・が両方低い」だけでは3つの病態を区別できない。 ・・栄養性ののいずれでも同じ低値になる。組織内のが過剰なのか不足なのか、そして臨床像(乳児のとか、肝とか、成人の貧血・好中球減少とか)で決める。

機序:出口を失った銅は入口で止まる

flowchart TD
    A["食事中の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='copper'>銅</span>が<span class='jp-term jp-term-diagram' title='enterocyte'>腸管上皮細胞</span>へ取り込まれる<br>(CTR1を介する取り込みは正常)"] --> B["ATP7A が細胞<span class='jp-term jp-term-diagram' title='basolateral side'>基底側</span>へ<span class='jp-term jp-term-diagram' title='copper'>銅</span>を搬出するはず"]
    B --> C["ATP7A 機能喪失<br>(X連鎖・ATP7A<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pathogenic variant'>病的バリアント</span>)"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='copper'>銅</span>が<span class='jp-term jp-term-diagram' title='intestinal epithelium'>腸管上皮</span>に滞留し門脈へ出ない"]
    D --> E["全身の細胞が<span class='jp-term jp-term-diagram' title='copper'>銅</span>を受け取れない"]
    E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='secreted cuproenzyme'>分泌型銅酵素</span>へ<span class='jp-term jp-term-diagram' title='copper'>銅</span>を渡せない"]
    F --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lysyl oxidase'>リシルオキシダーゼ</span>低下<br>→ コラーゲン・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='elastin'>エラスチン</span>の架橋不全"]
    F --> H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='dopamine beta-hydroxylase'>ドパミンβ水酸化酵素</span>低下<br>→ カテコールアミン合成異常・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='autonomic dysfunction (neuropathy)'>自律神経障害</span>"]
    F --> I["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cytochrome c oxidase'>チトクロムc酸化酵素</span>低下<br>→ <span class='jp-term jp-term-diagram' title='neurodegeneration'>神経変性</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Energy Metabolism'>エネルギー代謝</span>障害"]
    F --> J["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='tyrosinase'>チロシナーゼ</span>低下<br>→ 毛髪・皮膚の色素低下"]
    F --> K["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='superoxide dismutase'>スーパーオキシドジスムターゼ</span>低下<br>→ <span class='jp-term jp-term-diagram' title='oxidative stress'>酸化ストレス</span>"]

⭐ 障害の本体は「が足りない」ではなく「を運ぶ出口が無い」ことである。 GeneReviewsは、とOHSでは腸管でのの結果として一部組織の濃度が低下し、他の組織にはが蓄積すると記載している1。だから経口のは効かない(腸から出せないため)、というのが治療法の形(皮下注)を決めている。

呼び元の文脈:リシルオキシダーゼの補因子としての銅

コラーゲンとは、分子外へ出たあとがリジン・残基を酸化してアルデヒドに変え、それらがして共有架橋を作ることで初めてを得る。この酵素はを補因子とするため、が届かないと架橋段階だけが止まる。

障害 止まる段階 代表疾患
ビタミンC欠乏 /水酸化酵素(細胞内の水酸化)
(ATP7A機能喪失) (細胞外の)
コラーゲン遺伝子・処理酵素の変異 分子そのものの構造・プロセシング

💡 架橋が作れないという一点から、結合組織症状が説明できる。 ・・(脆い血管)、・臍/、皮膚と関節の弛緩は、いずれもコラーゲン・線維が引張に耐えられないことの表れである1。

臨床像:正常な数週間ののちに崩れる

⚠️ 出生時と生後6〜12週までは正常に見える。 妊娠・分娩も正常で、またはけいれんが最初の異常として現れる。生後2〜3か月に発達獲得の退行・・けいれん・体重増加不良がそろい、診断は通常生後4〜8か月になる1。

系統 所見
毛髪 短く疎で粗い捻れ毛。白・銀・灰色に脱色しスチールウール様。でpili torti(180°の捻れ)・trichoclasis(横断骨折)・trichoptilosis()
頬が垂れた
結合組織 項部・腋窩・体幹の、、(を来しうる)、臍・
血管 、による、
骨 、の骨棘、
自律神経 めまい・失神(歩行可能な例)、
神経 進行性、、難治性けいれん

1

⚠️ ・・がそろうため、虐待と誤られうる。 と生後2〜3か月からの退行がそろっているかを確認する。

ATP7A 関連疾患のスペクトラム

古典的 (OHS) ATP7A関連
発症 生後2〜3か月 小児期〜中期 成人期
主徴 +体重増加不良+ (・の付着部の)、皮膚・、、、、 に似た
知能 重度障害 正常〜軽度低下 障害なし
・ 低値 低値(40〜75 µg/dL・120〜220 mg/L)。⚠️ Kalerは「低値〜正常」と記載しており2資料が食い違う。正常値でも除外しない 正常

1

💡 OHSの旧称はX連鎖cutis laxaで、の旧称は・trichopoliodystrophyである1。名前が結合組織側と毛髪側に分かれていること自体が、同じ遺伝子の重症度の違いを映している。

診断

検査 所見
古典的で<40 µg/dL(基準75〜150 µg/dL)
血清 同10〜100 mg/L(基準200〜450 mg/L)
のを反映し、全年齢で異常を示す
ATP7A 確定診断

1

⚠️ 生後2か月未満では・を診断根拠にできない。 健常新生児でも生後数か月は両者が低いためである1。⭐ だからこそがの鍵になる。 リスクを持つ乳児81例の前向き評価では、46例に活性低下を示す異常値を認め、この指標は高い感度・特異度を示した2。

X連鎖であり、罹患男性の約3分の1は家族歴を持たない()1。は従来1:40,000〜1:354,507と推定されてきたが、病的アレルの網羅的解析からはATP7A関連疾患が男児出生1:8,664に達しうると予測されている1。

治療:早さがすべて

⭐ の皮下注を、早産・在胎週数を補正して生後28日までに開始する。 これにより生存と神経発達転帰が改善する。用量は1歳未満で250 µgを1日2回皮下注である1。

血漿カテコール指標が陽性で生後22日以内にを開始した新生児12例では、追跡4.6年で92%であったのに対し、診断・治療が遅れた15例では追跡1.8年で13%であった2。

⚠️ 早期治療でも全例が良くなるわけではない。 反応性はATP7Aバリアントの種類と重症度に一部左右され、改善しない例もある1。上記12例のうち神経発達と脳が正常だった2例は、いずれもATP7Aの機能を完全には失わせない変異を持っていた2。

そのほかは対症療法である——けいれんへの、経口摂取が難しい例への、に対すると手術、へのワクチン接種、と教育支援1。治療中は・をモニタリングし、基準を超える値にならないようにする1。

予後

⚠️ 無治療では3歳前後までの早期死亡が典型である13。根治療法は存在せず、ごく早期の治療によって一部の神経症状が改善しうるにとどまる3。

まとめ

  • はATP7Aの機能喪失によるX連鎖の症で、に取り込まれたを体内へ搬出できないために全身がを使えなくなる。が効かないのはこのためで、治療はの皮下注になる。
  • ATP7B()と対を成す。 病態の方向は正反対(過剰と不足)だが、・はどちらも低下する。組織内のが過剰か不足かと臨床像で分ける。
  • 症状は酵素の欠損の寄せ集めとして読める——(コラーゲン・の架橋不全 → ・・)、()、()、(色素低下)。
  • 出生後6〜12週は正常に見え、生後2〜3か月に・・けいれん・体重増加不良とpili tortiのが現れる。
  • ⚠️ 生後2か月未満では・が健常児でも低く診断に使えない。 (欠損を反映)がの鍵。
  • 治療は生後28日までの開始が要で、生後22日以内に開始した12例のは92%(中央値4.6年)、遅れたでは13%(中央値1.8年)であった。無治療では通常3歳前後までに死亡する。

出典

  1. 1.ATP7A-Related Copper Transport Disorders(GeneReviews (University of Washington, Seattle)・2021)NCBI Bookshelfで全文を確認した(2021年4月15日最終改訂)。`ATP7A`病的バリアントによる疾患スペクトラムが重症端の古典的メンケス病から後頭角症候群(OHS)、`ATP7A`関連遠位運動ニューロパチー(DMN)まで広がること、古典的メンケス病では正常な妊娠・出生の後6〜12週の健康な時期を経て哺乳障害やけいれんで発症し生後2〜3か月に発達獲得の退行・筋緊張低下・けいれん・体重増加不良が現れ診断は通常生後4〜8か月であること、毛髪が短く疎で粗く捻れ淡く色素脱失し(白・銀・灰色)スチールウールのようで光学顕微鏡でpili torti(180°捻転)・trichoclasis(横断骨折)・trichoptilosis(縦裂)を認めること、頬が垂れた特徴的顔貌・漏斗胸・項部と腋窩と体幹の皮膚弛緩・膀胱憩室(膀胱出口閉塞を来しうる)・臍/鼠径ヘルニア・自律神経障害(めまい・失神・慢性下痢)・内頸静脈拡張による頸部腫瘤を伴うこと、無治療では3歳前後までの早期死亡が典型であること、メンケス病とOHSでは腸管での銅吸収障害の結果として一部組織の銅濃度が低下し他の組織には銅が蓄積し、ドパミンβ水酸化酵素・リシルオキシダーゼ・チトクロムc酸化酵素・チロシナーゼ・スーパーオキシドジスムターゼといった銅依存酵素の活性が低下すること、血清銅(古典的メンケス病<40 µg/dL、基準75〜150 µg/dL)と血清セルロプラスミン(同10〜100 mg/L、基準200〜450 mg/L)がともに低値であること、健常新生児でも生後数か月は血清銅・セルロプラスミンが低いため生後2か月未満ではこれらが信頼できる診断マーカーにならないこと、血漿カテコール分析がドパミンβ水酸化酵素の部分欠損を反映して全年齢で異常を示すこと、X連鎖であり罹患男性の約3分の1は家族歴を持たないこと、有病率が従来1:40,000〜1:354,507と推定されてきたが病的アレルの網羅的解析に基づくと`ATP7A`関連疾患は男児出生1:8,664に達しうると予測されること、古典的メンケス病では早産/在胎週数補正で生後28日(理想的には生後4週以内)までに開始する銅ヒスチジン皮下注が生存と神経発達転帰を改善すること・用量が1歳未満で250 µgを1日2回皮下注であること・ただし改善しない例もあり反応性は`ATP7A`バリアントの種類と重症度に一部左右されること、OHSが僧帽筋と胸鎖乳突筋の後頭骨付着部に生じる楔状石灰化「後頭角」・皮膚と関節の弛緩・膀胱憩室・鼠径ヘルニア・血管蛇行・自律神経障害を特徴とし知能は正常〜軽度低下にとどまること、DMNが成人発症でCharcot-Marie-Tooth病に似た遠位運動ニューロパチーでありメンケス病やOHSの臨床的・生化学的異常を共有せず血清銅・セルロプラスミンも正常であること、旧称がメンケス縮れ毛症候群・trichopoliodystrophyでありOHSの旧称がX連鎖cutis laxaであることを確認した閲覧 2026-09-02
  2. 2.Neonatal diagnosis and treatment of Menkes disease(The New England Journal of Medicine・2008)銅酵素であるドパミンβ水酸化酵素の欠損を利用し、リスクを持つ乳児81例で血漿ドパミン・ノルアドレナリン・ジヒドロキシフェニル酢酸・ジヒドロキシフェニルグリコールを測定した前向き評価で、46例に同酵素活性低下を示す異常値を認め、この血漿カテコール指標が高い感度・特異度で発症前診断に有用であったこと、スクリーニング陽性で生後22日以内に銅補充療法を開始した新生児12例の生存率が追跡期間中央値4.6年で92%であり、診断・治療が遅れた歴史的対照15例の追跡期間中央値1.8年での13%と対照的であったこと、12例中2例は神経発達と脳髄鞘化が正常でありいずれも`ATP7A`の機能を完全には失わせない変異を持っていたことを確認した(抄録を取得)閲覧 2026-09-02
  3. 3.Menkes disease(European Journal of Human Genetics・2010)メンケス病が致死的な全身性の銅代謝異常症であり、進行性神経変性・結合組織異常・特徴的な「縮れ毛」を主徴とすること、X連鎖潜性遺伝で患者の大多数が男性であること、`ATP7A`遺伝子の変異(大多数は遺伝子内変異または部分欠失)によること、ATP7Aがエネルギー依存性の膜貫通タンパクで分泌型銅酵素への銅の受け渡しと細胞からの余剰銅の排出に関わること、重症例は通常3歳前に死亡すること、根治療法は存在しないがごく早期の銅ヒスチジン治療により一部の神経症状が改善しうることを確認した(抄録を取得)閲覧 2026-09-02