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Disease Atlas · 循環器 · 腫瘍

心臓粘液腫

Cardiac myxoma

別名
左房粘液腫心房粘液腫
臓器系
循環器腫瘍
科目
PathologyPathology (Histopathology)Internal Medicine
トピック
病理学 B/42:心臓・血管腫瘍組織病理 H1-108:左房球状血栓内科学 I-04:不明熱
鑑別疾患
感染性心内膜炎僧帽弁狭窄症乳頭状線維弾性腫
合併症
脳梗塞
症状
呼吸困難失神発熱体重減少動悸
検査値
C反応性蛋白赤沈
画像所見
左房径

🧠 全体像:は、成人が実際に出会うの代表である。⭐ 約90%が心房に発生し、そのうち75%が近傍の左房に、茎を持って生える1。組織学的には良性でもほとんど無いのに危険なのは、動くからである——に合わせてへ振れ込めば血流を塞ぎ、表面がちぎれれば塞栓を飛ばす。⭐ 臨床像は塞栓・閉塞・全身症状の三徴にまとまり、閉塞症状が体位で変わることと、全身症状がIL-6を介した炎症像であることが、他の心疾患との分かれ目になる。実務でいちばん問われるのはとの区別で、付着部位・茎・可動性という3点で決める。

部位と頻度

はのどこにでも生じうるが、分布は大きく偏る1。

部位 割合
左房(近傍) 75%
右房 15〜20%
左室 3〜4%
右室 3〜4%
弁 1%未満
  • 心房に生じるものが全体の約90%を占め、多くは・である
  • 診断時の平均年齢は50歳で第3〜第6十年に多く、女性が男性の2倍
  • 大半は散発性で、家族性は5〜10%()

⚠️ 「で最多」という位置づけは分母で変わる。 病理学 B/42:心臓・が扱うとおり、成人のとして最も多いのは古典的にである。実際、8,849例のでは良性7,484例のうち5,140例(68.7%)がであった。一方、2021年の分類はを最も多い心臓腫瘍とし、この立場ではは「2番目に多い良性」になる1。は小さく無症候のまま心エコーで見つかることが多いため、手術・剖検で数えるか、画像で数えるかで順位が入れ替わると理解する。

臨床像——塞栓・閉塞・全身症状の三徴

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='fossa ovalis'>卵円窩</span>に茎を持つ可動性腫瘍"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cardiac cycle'>心周期</span>に合わせて<span class='jp-term jp-term-diagram' title='mitral valve orifice'>僧帽弁口</span>へ振れ込む"]
    A --> C["表面の断片が血流に乗る"]
    A --> D["腫瘍がIL-6・IL-8を分泌する"]
    B --> E["閉塞:体位で変わる呼吸困難・失神<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='orthopnea'>起座呼吸</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='paroxysmal nocturnal dyspnea'>発作性夜間呼吸困難</span>・突然死"]
    C --> F["塞栓:脳・網膜・四肢・腎・脾・冠動脈"]
    D --> G["全身症状:発熱・体重減少・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Malaise'>倦怠</span><br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='C-reactive protein'>CRP</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='erythrocyte sedimentation rate, ESR'>赤沈</span>上昇・貧血"]

閉塞

大きなの腫瘍では、の閉塞ないし逆流として像を作る。、安静時・労作時の呼吸困難、、めまい、間欠的で体位に依存する失神、肺水腫、突然死が起こりうる。を生じることもある1。

⭐ 「体位で変わる」が最大の手掛かりである。 腫瘍は茎でぶら下がっているので、体位によって弁口に落ち込む度合いが変わる。では症状がここまで体位に左右されない。

なお患者の20%に心房細動・などの不整脈が生じる1。

塞栓

18研究2,601例のでは、525例(20.1%)が塞栓を起こした2。では体循環系に飛ぶため、脳・網膜・四肢・内臓・腎・冠動脈が標的になる1。が初発症状になることも珍しくない。

塞栓の危険因子 塞栓と関連しなかったもの
腫瘍表面の不整(・)、腫瘍の高い可動性、高血圧、、冠動脈疾患、の上昇2 腫瘍径、年齢、、糖尿病、喫煙、心房細動、、2

💡 「大きいほど飛ぶ」ではない。 このでは腫瘍径もも塞栓と有意に関連せず、効いたのは表面の形と動きやすさだった2。密でのよりも、脆くちぎれやすいの腫瘍のほうが危ない1。⚠️ ただし女性がリスク低下と出ている点を含め、観察研究のプール結果である以上、個々の患者で「低リスクだから待てる」とは読まない。

全身症状

脱力・・食欲低下・体重減少・持続する原因不明の微熱・関節痛・貧血といった全身症状は、患者の90%にみられる1。機序は腫瘍が分泌するIL-6・IL-8などのサイトカインで、CRP・の上昇、、増加、血小板減少、を伴う。IL-6は炎症状態の評価においてより優れた指標になりうる1。

⚠️ ・血管炎に見えることが実害を生む。 下肢の塞栓を末梢の血管炎とした報告があり、の鑑別(内科学 I-04:)にが並ぶのはこのためである。可動性腫瘤による血球の機械的破壊が溶血性貧血と血小板減少を作る点も、自己免疫性の病態と紛らわしい1。

聴診——腫瘍プロップ音

は上、特徴的な拡張期のでしばしば同定される3。腫瘍が拡張期にへ落ち込んで止まるときの音で、を伴えばと区別がつかない所見になる。

⚠️ はに特異的ではない。 の疣贅が十分に大きく可動性を持ち、心房と心室のあいだを行き来する場合にも同じ音が出る。⭐ 腫瘍による音は持続的で急性発症ではなく、発熱や上昇を伴わない——ただし自体が発熱と炎症反応を起こすため、この区別だけでは足りず、血液培養・心エコー所見・病歴を合わせて判断する3。が二次的に感染すると両者は同時に成立する1。

左房内血栓との鑑別

も左房内腔を占拠するが、が違うので付き方が違う。

項目
付着部位 縁()1 ・後壁など、血流のよどむ場所
付着の形 茎を持つ()1 壁に広く接する。茎を持たない
可動性 に伴って前後に動き、弁口を越えて心室腔へ入ることもある1 動きに乏しい
背景 基礎心疾患を伴わないことがある 心房細動・などうっ滞をきたす病態が前提にある
部分的に灌流される(周囲心筋より造影は弱い)1 で灌流を全く欠く1
病理 と。陽性1 フィブリンと赤血球。陰性1

💡 そのものは鑑別に使えない。 は左房壁の拡大を測る指標で、左房内腔を占拠する病変の有無とは別の軸である。では胸部X線が・・というと同じ像を示すため1、だけで先へ進まない。

Carney複合

家族性のはとして現れる。原因は**染色体17q24上のPRKAR1A(依存性I型α調節サブユニット)の**で、常染色体優性に遺伝する1。

項目 内容
診断 症候群のが2つ以上、またはPRKAR1Aの1
構成 、皮膚・乳房の、、内分泌のと腫瘍(による、・を伴う、、精巣の)、1
の特徴 診断時年齢の中央値が約20歳と若く、男性に多く、多発性で、再発リスクが高い1

⚠️ とで再発率が一桁違う。 は家族性12〜22%に対し散発性1〜4%である1。若年発症・多発・皮膚・内分泌異常のいずれかがあれば、切除して終わりにせず遺伝性を疑う。

診断

  • 心エコーが第一の検査。 縁に茎で付着し、に伴って前後に動く・不均一な可動性腫瘤として描出される。弁口を越えて心室腔へ入る様子が見えることもある1
  • のほうが感度・特異度が高い——小さな心房内腫瘍、な部位、のを捉えられる1
  • は灌流の有無で腫瘤の性質を分ける(は部分的な灌流、血栓は、悪性腫瘍は周囲心筋より強い造影)1
  • ・は形態と周囲構造との関係の評価に優れる。⚠️ 確定診断はであり、通常はで行う1
  • 血液検査では・の上昇が典型で、貧血・・血小板減少・増加・IL-6上昇を伴いうる1

治療と予後

  • ⚠️ 治療は付着部を含めたで、塞栓のリスクを下げるために行う1。・下に、健常組織のをつけて摘出する
  • 術前にを行う——腫瘍への血流をし、併存する冠動脈疾患を確認して術式に反映させるため1
  • や弁に損傷が及べば、・による修復やの形成・置換を要する1
  • 良性であり放射線障害のリスクもあるため、化学療法・放射線療法は通常用いない(に伴う悪性腫瘍の管理や、手術の選択肢が限られる再発例では検討されうる)1
  • 完全切除後の長期予後は良好でも低いが、再発は数か月から数年後に起こりうる。術後はによる長期の追跡を全例で行う1

まとめ

  • は約90%が心房に生じ、そのうち75%が近傍の左房に茎を持って発生する。診断時平均50歳、女性が2倍。
  • 良性なのに危険なのは動くからで、臨床像は塞栓・閉塞・全身症状の三徴にまとまる。閉塞症状が体位で変わる点がとの分かれ目になる。
  • 塞栓は2,601例中525例(20.1%)に起こり、危険因子は腫瘍表面の不整と高い可動性であって腫瘍径やではない。
  • 全身症状は90%にみられ、IL-6を介した炎症像として発熱・体重減少・/上昇・貧血を作る。・血管炎とされうる。
  • のは様の所見を作るが、の大きな疣贅でも生じるため特異的ではない。
  • との鑑別はに茎で付いて動くか、よどみの場所に広く貼り付いて動かないかで決める。の灌流の有無も分ける。
  • 家族性(5〜10%)はで、PRKAR1A(17q24)のによる常染色体優性疾患。若年・多発・高い再発率(家族性12〜22%対散発性1〜4%)が特徴。
  • 治療は付着部を含めたの。術後は心エコーで長期に追跡する。

出典

  1. 1.Cardiac myxoma: a comprehensive review(Journal of Cardiothoracic Surgery(BioMed Central)・2025)心臓粘液腫の約90%が心房に単発性・有茎性の腫瘤として発生し、心房内では75%が卵円窩近傍の左房に生じること、肉眼病理の項では左房75%・右房15〜20%・左室3〜4%・右室3〜4%、弁の粘液腫は1%未満と記載していること。診断時平均年齢が50歳で第3〜第6十年に多く、女性が男性の2倍であること。大半は散発性で家族性は5〜10%、Carney複合では診断時年齢中央値が約20歳、男性に多く、多発性で再発リスクが高いこと、Carney複合の原因が染色体17q24のPRKAR1A(cAMP依存性プロテインキナーゼI型α調節サブユニット)の不活化変異であり、症候群の臨床所見2つ以上またはPRKAR1Aの不活化変異で診断されること。臨床像が心腔内閉塞・塞栓・全身症状の三徴で、左房粘液腫では僧帽弁の閉塞ないし逆流、起座呼吸、安静時・労作時呼吸困難、発作性夜間呼吸困難、めまい、間欠的で体位に依存する失神、突然死、肺水腫を来し、二次性肺高血圧を生じうること、患者の20%が心房細動・粗動などの不整脈を来すこと。全身症状(脱力・倦怠・食欲低下・体重減少・持続する原因不明の微熱・関節痛・貧血)が患者の90%にみられ、その機序がIL-6・IL-8などのサイトカイン放出であること、IL-6が炎症状態の評価においてC反応性蛋白より優れた臨床的指標となりうること、可動性腫瘤による血球の機械的破壊が溶血性貧血と血小板減少の原因と考えられること。塞栓は表面が不整な乳頭状・絨毛状の腫瘍で多く、脳・網膜・下肢・内臓・腎・冠動脈が標的になること。心エコーが第一の診断法で、卵円窩縁に茎で付着し心周期に伴って前後に動く多形性・不均一な可動性腫瘤として描出されること、経食道心エコーが小さな腫瘍や多房性病変の検出に優れること、造影心エコーでは粘液腫が部分的な灌流を示すのに対し血栓は無血管で灌流を全く欠き、悪性腫瘍は周囲心筋より強く造影されること、左房粘液腫の胸部X線が左房拡大・肺静脈性高血圧・間質性浮腫という僧帽弁疾患と同じ像を示すこと、確定診断は組織学的検索であること。組織学的には粘液様基質の中に星形〜紡錘形の粘液腫細胞が索状・胞巣状に、また周皮細胞を欠く薄壁血管の周囲を取り巻くように配列し、核分裂像はまれで細胞異型・壊死を欠くこと、間質がアルシアン青に陽性であること、免疫染色ではカルレチニン・S100・ビメンチン・CD56などに陽性でCD68とサイトケラチンは陰性であること。鑑別に壁在粘液様血栓(カルレチニン陰性、フィブリンと赤血球からなる)・乳頭状線維弾性腫・粘液型肉腫・血管肉腫・類上皮血管内皮腫が挙がること。治療が付着部を含めた完全外科切除で、塞栓リスクを下げるため準緊急に行うべきであること、術前に冠動脈造影を行い腫瘍への血流と併存冠動脈疾患を確認すること、化学療法・放射線療法は良性であるため通常用いないこと。完全切除後の長期予後は良好だが再発があり、局所再発率が家族性で12〜22%、散発性で1〜4%であること、術後は経胸壁心エコーによる長期の追跡が推奨されること。⚠️ 本総説は緒言で2021年WHO分類が乳頭状線維弾性腫を最多の心臓腫瘍としたと述べ粘液腫を「2番目に多い良性原発性心臓腫瘍」と位置づける一方、疫学の項では8,849例のメタ解析で良性原発性心臓腫瘍7,484例のうち5,140例(68.7%)が粘液腫であったとも記載しており、分母によって順位が変わる。⚠️ 本総説はCarney複合を「X連鎖性の常染色体優性疾患」と記載しているが自家撞着であり、同じ段落が17q24上のPRKAR1Aと常染色体優性と述べているため後者を採った閲覧 2026-09-03
  2. 2.Evaluating risk factors of embolism in patients with cardiac myxoma: A systematic review and meta-analysis(American Heart Journal Plus・2025)18研究2,601例のメタ解析で525例(20.1%)が塞栓を起こしたこと。塞栓の有意な危険因子が高血圧・NYHA I/II・腫瘍表面の不整・脂質異常症・冠動脈疾患・平均血小板容積の上昇・腫瘍の高い可動性であり、女性はむしろリスクが低かったこと。喫煙・心房細動・腫瘍径・年齢・BMI・糖尿病・左室駆出率・左房径は塞栓と有意な関連を示さなかったこと。抄録のみを閲覧しており全文は未取得閲覧 2026-09-03
  3. 3.Case Report: Reflections on "Tumor Plop" in a febrile hemodialysis patient who had atypical presentation of atrial myxoma as infective endocarditis(Frontiers in Cardiovascular Medicine・2025)心房粘液腫が聴診上の特徴的な拡張期の腫瘍プロップ音でしばしば同定されること、この音が特に大きな左房粘液腫と結びつけられていること。感染性心内膜炎の疣贅が十分に大きく可動性を持ち心房と心室のあいだを行き来する場合にも同様の音を生じ、粘液腫と誤診されうること。腫瘍による音は持続的で急性発症ではなく発熱や炎症マーカー上昇を伴わない点が鑑別になること。心房内腫瘤の原因には感染性心内膜炎・血栓・原発性心臓腫瘍があり、血液培養・心エコー所見・病歴・身体所見で鑑別しうること、心臓腫瘍の確定診断には組織学的検索を要すること閲覧 2026-09-03