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Disease Atlas · 腫瘍 · 腫瘍

孤立性線維性腫瘍

Solitary fibrous tumor

別名
血管周皮腫hemangiopericytoma
臓器系
腫瘍呼吸器神経
科目
PathologyHistopathology
トピック
病理学 C/26:肺腫瘍(原発・転移)組織病理 H2-138:髄膜腫(好発部位と画像所見)
鑑別疾患
悪性中皮腫髄膜腫
続発疾患
低血糖(非糖尿病性)
治療薬
パゾパニブスニチニブテモゾロミドベバシズマブ

🧠 全体像は、NAB2::STAT6融合遺伝子という単一の分子異常が、発生機序と診断マーカーを同時に説明する腫瘍である——融合により生じる異常なNAB2蛋白がSTAT6を核内へ誘導・蓄積させるため、免疫染色でSTAT6の核内陽性という形でそのまま検出できる。かつて胸膜のとして別分類されていた腫瘍がWHO分類でSFTへ統合された経緯を持ち、中枢神経系では画像所見がに類似する一方、より再発・遠隔転移しやすいという臨床的に意味のある違いがある。まれにIGF-2産生による難治性低血糖(Doege-)で発見される。

病態・分子診断

SFTはで、染色体12q13のによりNAB2遺伝子とSTAT6遺伝子が融合することが大多数の症例で確認される1。この融合により、通常は転写であるNAB2が、STAT6由来のトランス活性化ドメインを獲得した異常な化因子に変化する。

flowchart TD
    A["染色体12q13の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='paracentric inversion'>傍動原体逆位</span>"] --> B["NAB2遺伝子とSTAT6遺伝子の融合"]
    B --> C["NAB2が異常な<span class='jp-term jp-term-diagram' title='transcriptional activity'>転写活性</span>化因子として機能"]
    B --> D["STAT6蛋白が核内へ<span class='jp-term jp-term-diagram' title='relocalization'>再局在</span>・蓄積"]
    D --> E["免疫染色でSTAT6核内びまん性陽性<br>=診断マーカー"]
    C --> F["EGR1依存性の増殖プログラム活性化"]
    F --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='solitary fibrous tumor (SFT)'>孤立性線維性腫瘍</span>の形成"]

💡 融合遺伝子そのものを検査するのではなく、その結果として核内に蓄積するSTAT6蛋白を免疫染色で捉える——より簡便なSTAT6免疫染色が診断の主力になっている理由がここにある1。CD34も81〜95%で陽性となるが、高grade・した腫瘍では発現が低下・消失しうるため、STAT6ほど頼れない1

⭐ かつて胸膜原発の類似腫瘍は「」として独立した病名で分類されていたが、両者に組織学的・分子学的な本質的差がないことが分かり、2013年のWHO第4版分類でという病名が廃止され、大半がSFTへ統合された1。「鹿角状の分岐血管パターン」はSFTを含む複数の腫瘍で見られる組織像の一つとして再定義されている。

臨床像・発生部位

⚠️ 胸膜原発のイメージだけで発生部位を語らない。 実際には胸膜外の発生の方が多く、四肢(30〜40%)・腹腔/骨盤/後腹膜の深部軟部組織(30〜40%)が主体で、頭頸部・体幹はそれぞれ10〜15%にとどまる1の鑑別として挙がる中枢神経系(硬膜性)もこの中の一部位である。胸郭内に生じたSFTは無症候のまま健診の画像で偶発的に発見されることが多いが、全体での無症候の割合は定量化されていない1。大きくなると圧迫症状(咳嗽、胸痛、呼吸困難)を来す。

⚠️ Doege-:SFTがプロセシング未完了のIGF-2を産生し、・IGF-1受容体を介した難治性の低血糖(非糖尿病性)の項を参照)を来すことがある2。IGF-2/IGF-1比が3を超えれば疑い、10を超えれば診断的とされる2。グルココルチコイドは対症療法にとどまり、完全外科切除だけがである2

診断・鑑別

疾患 発生部位が重なる場面 鑑別のポイント
中枢神経系(硬膜性腫瘤) 画像だけでは境界明瞭な硬膜腫瘤として類似。SFTはSTAT6核内陽性・CD34陽性、陽性・STAT6陰性で分ける1
胸膜 いずれも胸膜腫瘤として現れうるが、はびまん性の・胸水を伴いやすく、免疫染色でカルレチニン・WT1陽性、STAT6陰性である点でSFT(STAT6核内陽性)と区別する

⭐ 中枢神経系での鑑別には臨床的な実益がある。中枢神経系のSFTはWHO grade 1相当であっても、より長期の再発率・遠隔転移率が高いため1、画像だけで「境界明瞭な硬膜腫瘤=」と即断せず、免疫染色まで確認したうえで、SFTと判明すればより長期・厳重な経過観察を計画する必要がある。

治療・予後

治療の中心は完全切除である。悪性度・再発リスクの評価には、年齢・腫瘍径・数に腫瘍壊死の有無を加えた改訂版モデル(Demicco分類)が用いられ、低リスク群(症例の66%)は10年転移リスク0%である一方、高リスク群(10%)は5年転移リスクが73%に達すると報告されている3年齢55歳・腫瘍径(5 cm刻みの区分)・数・腫瘍壊死10%で、これらを組み合わせて点数化する1

⭐ 低リスクに分類された症例でも遠隔期に再発・転移しうるため、切除後は短期で終わらせず長期のを計画する。

進行・例や転移例では薬物治療を検討する。細胞傷害性化学療法のは低い(0〜20%)が、レジメンが第一選択として使われる。としては、血管新生を標的とするや、の併用でコントロールが得られたとする報告がある1

まとめ

  • SFTはNAB2::STAT6融合遺伝子が本態で、その産物としてSTAT6が核内に蓄積するためSTAT6免疫染色が診断マーカーになる。CD34も高頻度に陽性。
  • かつてとして別分類されていた胸膜腫瘍は、2013年のWHO分類でSFTへ統合された。
  • 発生部位は胸膜より胸膜外(四肢・深部軟部組織)の方が多い。中枢神経系では、胸膜ではと画像が類似しうるが、による鑑別に臨床的実益がある。SFTの方がより再発・遠隔転移しやすい。
  • ⚠️ Doege-(IGF-2産生による難治性低血糖)を来しうる。治療は完全切除が原則で、年齢55歳・腫瘍径・数・壊死10%によるDemiccoに基づき長期フォローを行う。進行・転移例ではなどのや従来化学療法を検討する。

出典

  1. 1.Solitary fibrous tumor: an updated review(Journal of Pathology and Translational Medicine・2026)孤立性線維性腫瘍の大多数が染色体12q13の傍動原体逆位によるNAB2-STAT6融合遺伝子を有すること、STAT6免疫染色の強いびまん性核内陽性が融合遺伝子検出の代替となる高感度・高特異度マーカーであること、CD34が81〜95%(特に低gradeで)陽性となること、2013年のWHO第4版分類が血管周皮腫という病名を廃し大半をSFTに統一したこと(HISTORICAL ASPECTS節)、中枢神経系のSFTは画像上髄膜腫に類似するがWHO grade 1であっても長期の再発・遠隔転移率が髄膜腫より高いこと、発生部位は胸膜より胸膜外(四肢30〜40%・腹腔/骨盤/後腹膜の深部軟部組織30〜40%・頭頸部10〜15%・体幹10〜15%)の方が多いこと(EPIDEMIOLOGY節)、胸郭内SFTは無症候で偶発的に発見されることが多いこと(定量なし、CLINICAL FEATURES節)、Demicco改訂リスク層別化モデルのカットオフが年齢55歳・腫瘍径5cm刻みの区分・核分裂数・腫瘍壊死10%であること(PROGNOSIS節Table 4)、進行・転移例にはパゾパニブ・スニチニブなどの抗血管新生療法や、奏効率は低いがアントラサイクリン系を中心とする従来化学療法が用いられること(TREATMENT節)閲覧 2026-08-11
  2. 2.Risk assessment in solitary fibrous tumors: validation and refinement of a risk stratification model(Modern Pathology・2017)年齢・腫瘍径・核分裂数に腫瘍壊死を加えた改訂版リスク層別化モデルにより、低リスク群(症例の66%)で10年転移リスク0%、中間リスク群(24%)で10年転移リスク10%、高リスク群(10%)で5年転移リスク73%と、群間で統計学的に有意な予後の識別ができたこと(アブストラクトに記載の結果)閲覧 2026-08-11
  3. 3.Doege-Potter Syndrome: A Solitary Fibrous Tumor Causing Non-Islet Cell Tumor Hypoglycemia(JCEM Case Reports・2024)SFTのNAB2-STAT6融合遺伝子がIGF-2の制御異常とプロセシング未完了の高分子量IGF-2の過剰産生につながること、IGF-2/IGF-1比が3超で診断を疑い10超で診断的であること、グルココルチコイドは症状緩和にとどまり完全外科切除のみが根治的治療であること(いずれもDiscussion節)閲覧 2026-08-11