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ヘリコバクター・ピロリ抗体
Helicobacter pylori antibody
- 別名
- H. pylori抗体ピロリ菌抗体血清H. pylori IgG抗体
- 臓器系
- 消化器感染症
- 科目
- Medical MicrobiologyInternal MedicineImmunology
- トピック
- 微生物学 2/17:カンピロバクター属とヘリコバクター・ピロリ内科学 L-45:消化性潰瘍・Helicobacter pylori感染免疫学 10.3:イムノアッセイ(手法 II)
- 関連疾患
- 胃炎
- スコア
- ABC分類
🧠 全体像:血清H. pylori抗体検査が答えるのは「感染したことがあるか」であって、「今、感染しているか」ではない。尿素呼気試験urea breath test (UBT)尿素呼気試験(urea breath test (UBT))urea breath test (UBT)(尿素呼気試験)や便中抗原stool antigen便中抗原(stool antigen)stool antigen(便中抗原)が菌の現在の活動(ウレアーゼ活性・抗原の存在)を直接検出するのに対し、この検査が見ているのは宿主が過去に作った抗体であり、除菌に成功しても年単位で陽性が残りうる。この一点が、他のH. pylori検査法との位置づけを決定づける——現感染の診断にも除菌判定test of cure除菌判定(test of cure)test of cure(除菌判定)にも、単独では使えない検査である。
何を測っているか
血清中の*H. pylori*に対するIgG抗体を、ELISA法などの免疫測定法immunoassay免疫測定法(immunoassay)immunoassay(免疫測定法)で検出する。菌体そのものやその産物(ウレアーゼ活性、菌体抗原somatic antigen菌体抗原(somatic antigen)somatic antigen(菌体抗原))を直接検出する尿素呼気試験urea breath test (UBT)尿素呼気試験(urea breath test (UBT))urea breath test (UBT)(尿素呼気試験)・便中抗原stool antigen便中抗原(stool antigen)stool antigen(便中抗原)とは異なり、この検査が見ているのは菌ではなく、菌に対する宿主の免疫応答である。
IgG抗体は感染成立から平均2週間程度で出現し、いったん陽転seroconversion陽転(seroconversion)seroconversion(陽転)すると除菌に成功しても速やかには消えない。感染症血清診断に共通する「IgM/IgGのウィンドウ期window periodウィンドウ期(window period)window period(ウィンドウ期)」——感染直後は抗体が検出限界limit of detection検出限界(limit of detection)limit of detection(検出限界)に達しておらず、陰性でも感染を除外できない——という考え方はここでも成り立つが、この検査で実務上より問題になるのは逆方向、すなわち過去の感染の名残がいつまでも陽性を作り続ける方向のずれである。
検査法にも幅がある。定量値(U/mLなど)を返す血清ELISA法が施設検査の主流だが、簡便な免疫クロマト法immunochromatography免疫クロマト法(immunochromatography)immunochromatography(免疫クロマト法)(ラテラルフロー法lateral flow assayラテラルフロー法(lateral flow assay)lateral flow assay(ラテラルフロー法))による定性判定キットもあり、全血や尿を検体にできる利点から、内視鏡や呼気ガス測定の設備が無い診療所でも実施しやすい。ただし迅速・簡便であることと、既感染と現感染を区別できないという本質的な限界は別問題であり、検体・判定方式が変わってもこの限界は解消されない。
基準値と単位
単位・カットオフ値cutoff (value)カットオフ値(cutoff (value))cutoff (value)(カットオフ値)は測定キットにより異なり、絶対値を施設・キットをまたいでそのまま比較しない。
国内で最も広く使われる「Eプレート栄研H.ピロリHelicobacter pyloriピロリ(Helicobacter pylori)Helicobacter pylori(ピロリ)抗体II」では10 U/mL以上を陽性、3.0 U/mL未満を陰性とする。しかし3.0〜9.9 U/mLの範囲は「陰性高値」と呼ばれ、この帯には現感染・既感染例が高率に混在する——抗体価antibody titer抗体価(antibody titer)antibody titer(抗体価)3.0〜3.1 U/mLの症例の75%がH. pylori陽性(現感染または既感染)だったとする多施設研究がある1。「陰性高値」を単純に「未感染」と読み替えてはならず、他のH. pylori感染診断法を追加することが推奨される。血清抗体単独での未感染診断は、特に高齢者で精度が低下する1。
陽性・陰性の意味
| 結果 | 意味 |
|---|---|
| 陽性 | 現感染または既感染。除菌に成功しても抗体価antibody titer抗体価(antibody titer)antibody titer(抗体価)の低下には半年〜1年以上を要し、それ以降も年単位で陽性が残ることがある |
| 陰性 | 未感染。ただし①高度萎縮・腸上皮化生intestinal metaplasia腸上皮化生(intestinal metaplasia)intestinal metaplasia(腸上皮化生)が進み菌が定着できなくなった既感染例(偽陰性)、②直近のプロトンポンプ阻害薬proton pump inhibitor, PPIプロトンポンプ阻害薬(proton pump inhibitor, PPI)proton pump inhibitor, PPI(プロトンポンプ阻害薬)・抗菌薬・ビスマスbismuthビスマス(bismuth)bismuth(ビスマス)使用、③上記の「陰性高値」帯、のいずれかによる偽陰性を除外できていない |
⚠️ 測定上の注意
⚠️ 除菌判定test of cure除菌判定(test of cure)test of cure(除菌判定)に使ってはいけない。 抗体価antibody titer抗体価(antibody titer)antibody titer(抗体価)は除菌成功後も緩徐にしか低下せず、半年〜1年以上を経てもなお陽性のことがある。除菌判定test of cure除菌判定(test of cure)test of cure(除菌判定)の標準は尿素呼気試験urea breath test (UBT)尿素呼気試験(urea breath test (UBT))urea breath test (UBT)(尿素呼気試験)または便中抗原stool antigen便中抗原(stool antigen)stool antigen(便中抗原)であり、抗菌薬・ビスマスbismuthビスマス(bismuth)bismuth(ビスマス)終了4週以降・プロトンポンプ阻害薬proton pump inhibitor, PPIプロトンポンプ阻害薬(proton pump inhibitor, PPI)proton pump inhibitor, PPI(プロトンポンプ阻害薬)中止2週以降にいずれかで治癒確認する運用が胃炎・H. pyloriいずれのノートでも共通する。血清抗体を除菌判定test of cure除菌判定(test of cure)test of cure(除菌判定)に用いるとすれば、除菌前後で同一キットの抗体価antibody titer抗体価(antibody titer)antibody titer(抗体価)を比較し、一定割合以上の低下を確認する方法に限られるが、判定閾値が確立されておらず標準法にはなっていない。
⚠️ 高度萎縮胃での偽陰性が最も危険。 胃底腺fundic gland胃底腺(fundic gland)fundic gland(胃底腺)の萎縮が高度に進むと菌が定着できる粘膜そのものが失われ、抗原刺激が減って抗体価antibody titer抗体価(antibody titer)antibody titer(抗体価)が自然に低下・消失することがある2。この現象は、本来もっとも胃癌リスクが高いはずの群を「陰性=低リスク」と誤読miscoding誤読(miscoding)miscoding(誤読)させる——ペプシノゲンpepsinogenペプシノゲン(pepsinogen)pepsinogen(ペプシノゲン)法との併用(ABC分類ABC classificationABC分類(ABC classification)ABC classification(ABC分類))は、この穴を埋めるために存在する。ABC分類ABC classificationABC分類(ABC classification)ABC classification(ABC分類)そのものの群分けとリスク層別化risk stratificationリスク層別化(risk stratification)risk stratification(リスク層別化)はペプシノゲンpepsinogenペプシノゲン(pepsinogen)pepsinogen(ペプシノゲン)ノートに譲る。
プロトンポンプ阻害薬proton pump inhibitor, PPIプロトンポンプ阻害薬(proton pump inhibitor, PPI)proton pump inhibitor, PPI(プロトンポンプ阻害薬)・抗菌薬・ビスマス製剤bismuth preparationビスマス製剤(bismuth preparation)bismuth preparation(ビスマス製剤)は、菌のウレアーゼ活性や抗原量に依存する尿素呼気試験urea breath test (UBT)尿素呼気試験(urea breath test (UBT))urea breath test (UBT)(尿素呼気試験)・便中抗原stool antigen便中抗原(stool antigen)stool antigen(便中抗原)の感度を下げるが、血清抗体は既に作られた抗体を見ているため、これらの薬剤による影響を受けにくい。 この特性は、活動性出血で生検・迅速ウレアーゼ試験direct urease test迅速ウレアーゼ試験(direct urease test)direct urease test(迅速ウレアーゼ試験)の感度が落ちるなど、他の検査法が使いにくい場面での相対的な利点になる。
位置づけ/次に進むべき検査
H. pylori検査法は、現感染の診断・除菌判定test of cure除菌判定(test of cure)test of cure(除菌判定)・未治療集団でのスクリーニングという3つの用途で向き不向きが分かれる。
| 検査 | 現感染の診断 | 除菌判定test of cure除菌判定(test of cure)test of cure(除菌判定) | スクリーニング |
|---|---|---|---|
| 血清抗体(本検査) | 不可(既感染と区別できない) | 不可 | 可(薬剤の影響を受けにくい) |
| 尿素呼気試験urea breath test (UBT)尿素呼気試験(urea breath test (UBT))urea breath test (UBT)(尿素呼気試験) | 可(標準) | 可(標準) | 可だが検査前休薬drug holiday (treatment interruption)休薬(drug holiday (treatment interruption))drug holiday (treatment interruption)(休薬)を要する |
| 便中抗原stool antigen便中抗原(stool antigen)stool antigen(便中抗原) | 可(標準) | 可(標準) | 可だが検査前休薬drug holiday (treatment interruption)休薬(drug holiday (treatment interruption))drug holiday (treatment interruption)(休薬)を要する |
| 迅速ウレアーゼ試験direct urease test迅速ウレアーゼ試験(direct urease test)direct urease test(迅速ウレアーゼ試験) | 可(内視鏡時) | 通常用いない | 内視鏡施行例に限る |
| 生検組織診biopsy histology生検組織診(biopsy histology)biopsy histology(生検組織診) | 可(内視鏡時、菌の形態・胃炎重症度も同時評価) | 通常用いない | 内視鏡施行例に限る |
| 培養 | 感受性検査susceptibility test感受性検査(susceptibility test)susceptibility test(感受性検査)が必要な場合 | 通常用いない | 通常用いない |
米国の指針は、血清抗体を含むH. pylori関連の血清学的マーカー(CagA・VacA抗体、ペプシノゲンpepsinogenペプシノゲン(pepsinogen)pepsinogen(ペプシノゲン)、ガストリンgastrinガストリン(gastrin)gastrin(ガストリン)など)が北米集団の前癌病変precancerous lesion前癌病変(precancerous lesion)precancerous lesion(前癌病変)・胃癌スクリーニングで一貫した信頼性reliability信頼性(reliability)reliability(信頼性)を示していないとし、高い検査前確率pretest probability検査前確率(pretest probability)pretest probability(検査前確率)がなければ低有病率prevalence有病率(prevalence)prevalence(有病率)集団での血清抗体検査を推奨しない3。一方、日本ではペプシノゲンpepsinogenペプシノゲン(pepsinogen)pepsinogen(ペプシノゲン)法との組み合わせ(ABC分類ABC classificationABC分類(ABC classification)ABC classification(ABC分類))が胃がんリスク層別化risk stratificationリスク層別化(risk stratification)risk stratification(リスク層別化)の対策型検診population-based screening対策型検診(population-based screening)population-based screening(対策型検診)補助手段として広く運用されている。同じ検査でも国・集団によって評価が割れている点は、ペプシノゲンpepsinogenペプシノゲン(pepsinogen)pepsinogen(ペプシノゲン)ノートで扱うペプシノゲンpepsinogenペプシノゲン(pepsinogen)pepsinogen(ペプシノゲン)法自体の評価の割れ方と軌を一にする。
まとめ
- 血清H. pylori抗体は、菌そのものではなく宿主が作ったIgG抗体を見る検査であり、「感染したことがあるか」は分かるが「今、感染しているか」は分からない。
- 国内で広く使われるキットにはカットオフcut-offカットオフ(cut-off)cut-off(カットオフ)直下に「陰性高値」帯(例:Eプレート栄研H.ピロリHelicobacter pyloriピロリ(Helicobacter pylori)Helicobacter pylori(ピロリ)抗体IIで3.0〜9.9 U/mL)があり、この帯は単純に陰性と読まない。
- 陽性は現感染・既感染のいずれも意味しうる。陰性は未感染のほか、高度萎縮による偽陰性、直近の薬剤使用による偽陰性を除外できていない。
- 除菌判定test of cure除菌判定(test of cure)test of cure(除菌判定)には使えない——抗体価antibody titer抗体価(antibody titer)antibody titer(抗体価)の低下には半年〜1年以上かかる。標準は尿素呼気試験urea breath test (UBT)尿素呼気試験(urea breath test (UBT))urea breath test (UBT)(尿素呼気試験)・便中抗原stool antigen便中抗原(stool antigen)stool antigen(便中抗原)である。
- 高度萎縮胃での偽陰性が最大の落とし穴であり、ペプシノゲンpepsinogenペプシノゲン(pepsinogen)pepsinogen(ペプシノゲン)法との併用(ABC分類ABC classificationABC分類(ABC classification)ABC classification(ABC分類))がこの穴を補う。
- プロトンポンプ阻害薬proton pump inhibitor, PPIプロトンポンプ阻害薬(proton pump inhibitor, PPI)proton pump inhibitor, PPI(プロトンポンプ阻害薬)・抗菌薬・ビスマスbismuthビスマス(bismuth)bismuth(ビスマス)の影響を受けにくいという利点は、他検査が使いにくい場面(活動性出血など)で相対的な価値を持つ。
出典
- 1.胃がんリスク評価に資する抗体法適正化に関する多施設研究(日本ヘリコバクター学会 胃がんリスク評価に資する抗体法適正化委員会・2018)国内で最も汎用される「Eプレート栄研H.ピロリ抗体II」は10 U/mL以上を陽性、3.0 U/mL未満を陰性とし、3.0〜9.9 U/mLは「陰性高値」と呼ばれ現感染・既感染例が高率に混在すること(抗体価3.0〜3.1 U/mLの症例の75%がH. pylori陽性)、血清抗体単独での未感染診断は高齢者で精度が低下することを確認した閲覧 2026-08-04
- 2.Gastric cancer screening by combined assay for serum anti-Helicobacter pylori IgG antibody and serum pepsinogen levels — 'ABC method'(Proceedings of the Japan Academy, Series B(Miki K)・2011)ABC分類のD群(血清抗体陰性・PG陽性)は高度萎縮の進行に伴い抗体価が自然に消失した既感染例を含むこと(抗体のspontaneous disappearance)を確認した閲覧 2026-08-04
- 3.ACG Clinical Guideline: Treatment of Helicobacter pylori Infection(American College of Gastroenterology・2024)H. pylori IgG抗体・CagA/VacA抗体・ペプシノゲン・ガストリンなどの血清学的マーカーは北米集団での胃癌前癌病変・胃癌スクリーニングにおいて一貫した信頼性が確認されておらず、高い検査前確率がない限り低有病率集団での血清抗体検査は推奨されないことを確認した閲覧 2026-08-04