内科学

内科学 · L-45

消化性潰瘍・Helicobacter pylori感染

Peptic Ulcer and Helicobacter pylori Infection

前提:病態
カンピロバクター属とヘリコバクター・ピロリ消化性潰瘍胃酸分泌に作用する薬・胃粘膜保護薬
前提:正常
胃液分泌とその調節
疾患
消化性潰瘍
検査値
ヘリコバクター・ピロリ抗体尿素呼気試験便中H. pylori抗原検査

🧠 全体像:消化性潰瘍の二大原因はとである。H. pyloriは耐性を考慮したレジメンで除菌し、全例で治療終了後のを行う。出血・穿孔・は緊急対応を要する。

病態と原因

潰瘍は胃・十二指腸がを越えたもので、より表在性のびらんと区別する。酸・などのと、粘液・・プロスタグランジン・血流などの不均衡で生じる。

  • H. pylori:ウレアーゼでを変え、慢性炎症とを起こす。十二指腸・、胃MALTリンパ腫、胃癌と関連する。
  • /アスピリン:阻害によりプロスタグランジン依存性を低下させる。高齢、潰瘍歴、抗凝固薬・・グルココルチコイド併用で出血リスクが上がる。
  • その他:重症生理的ストレス、、Crohn病、など。香辛料や通常の心理的ストレスを主原因としない。

、、悪心を来すが、症状だけでとを区別できない。高齢者・使用者では無症候のまま出血することがある。

診断

flowchart TD
    A["消化性潰瘍/<span class='jp-term jp-term-diagram' title='dyspepsia (indigestion)'>消化不良</span>を疑う"] --> B{"出血・貧血・体重減少・嚥下障害など"}
    B -->|"あり"| C["上部内視鏡+必要な生検"]
    B -->|"なし"| D["年齢・癌リスクに応じH. pylori非侵襲検査"]
    C --> E["生検ウレアーゼ/組織検査"]
    D --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='urea breath test (UBT)'>尿素呼気試験</span>/<span class='jp-term jp-term-diagram' title='stool antigen'>便中抗原</span>"]
    E --> G{"H. pylori陽性"}
    F --> G
    G -->|"はい"| H["耐性を考慮して除菌"]
    H --> I["終了4週以降に<span class='jp-term jp-term-diagram' title='test of cure'>除菌判定</span>"]

の非侵襲検査はまたは。血清抗体は既感染とを区別できず、除菌後にが下がるまで年単位のタイムラグがあるため、には有効な検査法とされない1。の2024年ガイドラインは治療後のを全例に求めている2。判定の時期は、薬の内服終了後4週以降とし、偽陰性を避けるため・は少なくとも2週間、抗菌薬は4週間以上中止することが望ましいとされる1。Maastricht VI/Florence合意も、除菌後4〜6週の短期では検査の精度を保つため抗菌薬とを用いず、は検査の14日前に中止すべきとしている(診断WG Statement 10、合意率96%、Grade A1)3。では悪性を除外するため生検し、治癒確認内視鏡を病変・リスクに応じて行う。

H. pylori除菌

感受性が不明な未治療例では、14日間のが代表的第一選択である2。その構成は・・テトラサイクリン・メトロニダゾールである4。ペニシリンアレルギーの無い患者では、または()二剤療法の14日間が経験的な代替とされる2。が挙げているのは薬効群までだが、この二剤療法はなどのP-CABとアモキシシリンを組み合わせるレジメンを指す。実際にどれを選ぶかは、地域の承認状況・既治療歴・アレルギー・耐性率に左右される。

⚠️ 日本ではが使えないので、レジメンの地図が違う。 日本ヘリコバクター学会のガイドラインは、本邦の率が30%以上でどの地域でも15%以上であり、Maastricht VI/Florenceに従えばを含むが適切な推奨レジメンになるとする。ただし国内ではを使用できないため、をメトロニダゾールに置き換えた非含有の4剤併用療法が推奨レジメンと考えられるとしたうえで、本邦で4剤併用療法の有効性を検討した報告が少なく実臨床でも選ばれる機会が限られることから、同ガイドライン自身はおよび+アモキシシリンの2剤療法を中心にを行っている。保険診療では、または+アモキシシリン+のが一次除菌、をメトロニダゾールに変更したレジメンが二次除菌として認可されている5。

⚠️ 除菌レジメンの第一選択は耐性化によって入れ替わった。 かつて標準だった(+アモキシシリン+)は、**率が15%を超える地域ではなしの一次治療として推奨されない(根拠は後述のMaastricht VI/Florence合意にある)。韓国の2025年版ガイドラインを解説した総説も、耐性率が30%を超えて一次治療に求められる intention-to-treat 除菌率80%に届かなくなったことを、を経験的一次治療から外した理由に挙げている4。 2024が未治療かつ感受性不明の例に置いた推奨レジメンも、ではなく14日間のである。⭐ **ただしの読み方には2つ注意がいる。 ①が「またはを含むレジメンは感受性が確認された場合にのみ用いる」と明示的に制限しているのはについてであって、一次治療についての文言ではない。②「最適化」を冠したを優先するのは既治療で感染が持続している例で、未治療例に置かれているのは無印のである2。欧州のMaastricht VI/Florence合意(2022)は、または培養でが利用できるなら、を含むレジメンを処方する前に感受性を確認すべきとする(診断WG Statement 9、合意率91%、Grade A1)3。⚠️ Gradeの英字はエビデンスの質(A高〜D非常に低)、数字は推奨の強さ(1=強い/2=弱い)を表す。 同合意は、個別のが利用できない場合には、率が高い(15%超)か不明の地域の一次治療をとし(治療WG Statement 2、合意率92%、Grade B1)、それも使えなければ非含有の併用四剤療法を考慮しうるとする。(++アモキシシリン)を用いるのは、局所で有効性が示されているか感受性が判明している場合に限られる3。同合意はH. pylori感染をICD-11の感染症として位置づけ、原則として感染者全員を治療対象とした3。

💡 酸をどれだけ止められるかが除菌率を左右する。 抗菌薬はpHが上がるほど安定し、分裂期の菌に効きやすい。などの()がより強力・速効・CYP2C19多型の影響を受けにくいことが、ベースのレジメンが選択肢に上がった理由である。ただしはすべての国で使えるわけではなく、レジメンの選択は地域の承認状況と耐性率に従う。日本ヘリコバクター学会のガイドラインは、が本邦で諸外国に先駆けて上市されたこと、でランソプラゾール使用時の除菌率75.9%(95%CI 70.9–80.5%)に対し使用時が92.6%(95%CI 89.2–95.2%)であったことを挙げる一方、諸外国におけるレジメンの有効性の検証は限られていると述べている5。

や療法は、感受性不明のまま経験的に用いない。 2024はこれらを含むを感受性が確認された場合にのみ用いるべきとし2、Maastricht VI/Florence合意は、または培養でが利用できるなら、を含むレジメンの処方前に感受性を確認すべきとする3。治療歴を確認し、既に使った抗菌薬を原則避ける。は全例で行う2。上に述べたとおり、抗菌薬終了から4週以上、/中止から2週以上空けて呼気・で確認する1。この期間を守らないと偽陰性が出て「除菌できた」と誤判定する。

潰瘍治療と合併症

  • は可能なら中止し、で治癒を促す。継続必須なら最小量、選択薬、併用を消化管・心血管リスクから検討する。
  • 喫煙を中止し、個々に症状を悪化させる飲酒・食品を調整する。画一的な厳格食を必要としない。
  • H. pylori陰性・非使用では、検査偽陰性、他薬剤、Crohn病、感染、、悪性を再評価する。
合併症 手掛かり 初期対応
出血 、、貧血、ショック 蘇生、IV 、循環安定後24時間以内の内視鏡止血;再出血は//手術6
穿孔 突然の激痛、、 蘇生、、速やかなのため緊急外科相談7
、、低Cl性アルカローシス 胃管減圧、輸液・電解質、内視鏡/外科評価
悪性 体重減少、貧血、治癒不良 多点生検と再評価

💡 出血性潰瘍はForrest分類で「止血処置が要るか」を決める。 内視鏡所見をIa出血、Ib出血、IIa、IIb付着、IIc、III清潔に分け、(Ia・Ib・IIa、条件によりIIb)にを行い、IIc・IIIは止血処置なしで経過をみる。にエピネフリン単独は不可で、接触または機械的止血(クリップ)を必ず併用する6。

💡 内視鏡のタイミングと止血後の酸抑制にも数値がある。 ESGE 2021はを立て直したうえで24時間以内の内視鏡を推奨し、12時間以内の超緊急内視鏡は転帰を改善しないため推奨しない。止血後は高用量(80 mg後8 mg/時を72時間)を用いる6。 2021も高用量を3日間、その後の2週間は経口を1日2回とする8。再出血時はまずover-the-scope clipによる2回目の、失敗すれば(TAE)、手術はTAEが施行できないか失敗した場合という順序である6。

現在、やBillroth手術は単純潰瘍のルーチン治療ではなく、内視鏡・で制御不能な合併症や閉塞・悪性などに限られる7。

歴史的な潰瘍手術は、現在の限定的な適応と術後合併症を理解するための外科解剖として整理する。

術式 再建・目的 重要な帰結
前・後迷走神経幹を切離してを低下 、後下痢を来し得るためドレナージ手術を要することがある
+Billroth I 幽門前庭部を切除し 十二指腸を動員し、緊張のないを作る
+Billroth II で再建 /(afferent/efferent limb)を形成し、胆汁逆流・(dumping syndrome)など再建固有の合併症がある

まとめ

  • 消化性潰瘍ではH. pyloriと/アスピリン曝露を必ず評価する。
  • 感受性不明の未治療例ではなど耐性を考慮した治療を用いる2。は無条件に選ばず、耐性率>15%の地域ではなしに一次治療としない4。
  • 除菌後は全例を行い、出血・穿孔・閉塞は緊急対応する。

出典

  1. 1.H. pylori感染の診断と治療のガイドライン2024 第1章「診断」(日本ヘリコバクター学会・2024)PDF全文を確認した。BQ1-7は除菌判定を除菌治療薬内服終了後4週以降に行うとし(序論では4-6週間以降、Maastricht VI/Florenceも偽陰性回避のため4-6週間以降とする)、尿素呼気試験およびモノクローナル抗体を用いた便中H. pylori抗原測定を有用とする。偽陰性を避けるため、PPI・P-CAB等は少なくとも2週間、抗菌薬は4週間以上の中止が望ましいとする。血清抗体は現感染の証明として単独では不十分で、抗体陰性化に年単位を要するため除菌判定には有効な検査法とされない(他法が困難な場合に、除菌後6か月以上で除菌前の1/2以下への低下を目安に用いる)閲覧 2026-09-08
  2. 2.ACG Clinical Guideline: Treatment of Helicobacter pylori Infection(American College of Gastroenterology・2024)抄録のみ閲覧(誌上版本文は取得できず)。未治療で抗菌薬感受性が不明な例では14日間のビスマス四剤療法が推奨レジメンで、ペニシリンアレルギーの無い患者ではリファブチン三剤療法またはP-CAB二剤療法の14日間が経験的代替となること。「最適化」ビスマス四剤療法が優先されるのは既治療の持続感染例であること。クラリスロマイシンまたはレボフロキサシンを含むサルベージレジメンは感受性が確認された場合にのみ用いるとされること。治療後は全例で除菌判定が必要とされること。ビスマス四剤療法の構成薬、除菌判定の待機期間の数値、クラリスロマイシン三剤療法を一次治療にしないという明示的な文言は、いずれも抄録に無い閲覧 2026-08-25
  3. 3.Management of Helicobacter pylori infection: the Maastricht VI/Florence consensus report(Gut(European Helicobacter and Microbiota Study Group ほか、29か国41名の専門家)・2022)リポジトリ版(repositorio.uam.es)から全文PDFを取得して確認した。取得できたのは Gut 2022;0:1-39 と表記されるonline-first 版で、誌上版 71(9):1724-1762 とはページ番号が異なる。H. pylori 感染はICD-11で感染症として正式に位置づけられ、原則として感染者全員が治療対象になる。診断ワーキンググループのStatement 9は「Clarithromycin susceptibility testing, if available through molecular techniques or culture, is recommended before prescribing any clarithromycin containing therapy.」(合意率91%、Grade A1)で、分子生物学的手法または培養による感受性検査が利用できる場合という条件つきの推奨である。治療ワーキンググループのStatement 2(合意率92%、Grade B1)は、個別の感受性検査が利用できない場合、クラリスロマイシン耐性率が高い(15%超)か不明の地域の一次治療をビスマス四剤療法とし、それも利用できなければビスマス非含有の併用(concomitant)四剤療法を考慮しうるとする。図1の凡例はビスマス四剤療法をPPI・ビスマス・テトラサイクリン・メトロニダゾール、クラリスロマイシン三剤療法をPPI・クラリスロマイシン・アモキシシリンと定義し、後者は局所で有効性が示されているかクラリスロマイシン感受性が判明している場合にのみ用いるとする。治療Statement 1(Grade D2)は一次治療前でも感受性検査をルーチンに行うことを reasonable とするが、原文自身が「そのような感受性検査に基づく戦略を日常診療で一般的に用いることの妥当性はまだ確立されていない」と続けている。なおMethodsの定義により、Gradeの英字はエビデンスの質(A高〜D非常に低)、数字は推奨の強さ(1強い/2弱い)を表す閲覧 2026-09-08
  4. 4.Treatment of Helicobacter pylori Infection in Korea: An Evidence-Based Analysis of the Upcoming 2025 Guideline(The Korean Journal of Helicobacter and Upper Gastrointestinal Research・2026)国際ガイドラインは、クラリスロマイシン耐性率が15%を超える地域では感受性検査なしの三剤療法を一次治療として推奨していないこと、および一次治療として推奨されるには intention-to-treat 除菌率が80%以上必要とされることを確認した閲覧 2026-08-25
  5. 5.H. pylori感染の診断と治療のガイドライン2024 第2章「治療」(日本ヘリコバクター学会・2024)第2章「治療」のPDF全文を確認した。総論は、本邦で諸外国に先駆けてP-CABが上市されたこと、ランダム化比較試験でランソプラゾール使用時の除菌率75.9%(95%CI 70.9-80.5%)に対しP-CAB使用時が92.6%(95%CI 89.2-95.2%)であったこと、一方で諸外国におけるP-CABレジメンの有効性の検証は限られていることを述べる。また本邦のクラリスロマイシン耐性率は30%以上でどの地域でも15%以上であり、Maastricht VI/Florenceに従えばビスマス製剤を含む4剤療法が適切な推奨レジメンとなるが、国内ではビスマス製剤を使用できないためニトロイミダゾールをメトロニダゾールに置き換えた4剤併用療法が推奨レジメンと考えられるとし、ただし本邦で4剤併用療法の有効性を検討した報告が少なく実臨床でも選択の機会が限られることから、同ガイドラインは3剤療法および酸分泌抑制薬+アモキシシリンの2剤療法を中心にメタ解析を行う方針を採ったと述べる。保険認可上は、PPIまたはP-CAB+アモキシシリン+クラリスロマイシンの3剤療法が一次除菌、クラリスロマイシンをメトロニダゾールに変更したレジメンが二次除菌である閲覧 2026-09-08
  6. 6.Endoscopic diagnosis and management of nonvariceal upper gastrointestinal hemorrhage (NVUGIH): European Society of Gastrointestinal Endoscopy (ESGE) Guideline - Update 2021(European Society of Gastrointestinal Endoscopy・2021)循環動態の安定化後24時間以内の早期内視鏡を推奨し、12時間以内の緊急内視鏡は転帰を改善しないため推奨しないこと。活動性出血潰瘍(Forrest Ia/Ib)にはエピネフリン局注単独ではなく接触熱凝固または機械的止血との併用を推奨すること。再出血例ではover-the-scope clipを検討し、2回目の内視鏡的止血が失敗したら経カテーテル動脈塞栓術(TAE)を、TAEが施行できないか失敗した場合に手術を行うこと。内視鏡的止血後は高用量PPI(80 mgボーラス後8 mg/時を72時間)を推奨すること閲覧 2026-08-25
  7. 7.Perforated and bleeding peptic ulcer: WSES guidelines(World Society of Emergency Surgery・2020)出血性潰瘍では内視鏡止血、穿孔性潰瘍では速やかな感染源制御を基本とし、外科治療は合併症と非手術的治療不成功例が中心であること、およびH. pylori陽性例では除菌を行うことを確認した閲覧 2026-08-25
  8. 8.ACG Clinical Guideline: Upper Gastrointestinal and Ulcer Bleeding(American College of Gastroenterology・2021)内視鏡止血後は高用量PPIを3日間投与し、その後は最初の2週間、経口PPIを1日2回用いること閲覧 2026-08-25