組織病理学

組織病理学 · H1-044

胃粘膜びらんと漏出性出血(肉眼標本)

SPECIMEN - Erosiones mucosae ventriculi - hemorrhagia per diapedesim

描出疾患
胃炎

🧠 全体像:急性びらん性出血性胃障害では、防御が破綻して表層上皮が浅く壊死・脱落し、粘膜内の小血管から赤血球が漏出する。肉眼ではに多数の黒褐色点状出血と浅いびらんが散在し、深く掘れた消化性潰瘍とは区別される。

標本の要点

項目 所見
臓器 胃
標本 を含むの肉眼標本
多発する点状〜小斑状の黒褐色出血と浅い
出血様式 小血管からの
病変の深さ 原則として粘膜内に限局
色調 胃酸で変性した血液・ヘマチンにより暗褐色〜黒色

標本では淡い上に多数の黒褐色点が散在する。各点を単なるではなく、傷害と小出血が組み合わさったびらんとして読む。

胃粘膜防御の破綻

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='nonsteroidal anti-inflammatory drugs'>NSAIDs</span>・重症ストレス・虚血<br>アルコール・胆汁逆流など"] --> B["プロスタグランジン・粘液・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='bicarbonate'>重炭酸</span>・粘膜血流が低下"]
    B --> C["胃酸・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pepsin'>ペプシン</span>に対する防御が破綻"]
    C --> D["表層上皮の壊死・脱落"]
    D --> E["浅い<span class='jp-term jp-term-diagram' title='mucosal erosion'>粘膜びらん</span>"]
    D --> F["粘膜内毛細血管が傷害"]
    F --> G["赤血球が組織・胃腔へ漏出"]
    E --> H["多発性の黒褐色出血斑"]
    G --> H

胃酸は正常でも存在するため、酸だけを原因としない。粘液・層、上皮再生、プロスタグランジン、十分な粘膜血流が損なわれることで、酸・によるが表面化する。

点状出血の大きさ

呼称 おおよその大きさ 特徴
点状出血 約1〜2 mm 毛細血管レベルの
紫斑 数mm〜約1 cm 点状出血より大きい皮膚・粘膜出血
約1 cm以上 面状に広がる皮下・出血

大きさの境界は慣用的で厳密な診断閾値ではない。分布、隆起の有無、背景となる止血異常と合わせて記載する。

漏出性出血を起こす背景

障害 代表例 機序
血小板減少 、、播種性悪性腫瘍など を作れない
、、先天性 が保たれてもが不十分
凝固因子異常 、血友病、など フィブリンによるの安定化が不十分
血管壁障害 血管炎、、低酸素、重症炎症 小血管の・透過性亢進

⚠️ 「血小板病=低下」とは限らない。血小板減少とを分け、とも区別する。はその代表で、の基盤はの低下ではなくと内皮由来因子の不均衡にあり、消化管のとして現れる1。

💡 重症患者の病変は、見えることと出血することが別である。 の2252例の前向きコホートでは臨床的に重要な消化管出血は1.5%にとどまり、独立した強い危険因子は呼吸不全(15.6)と凝固異常(4.3)だった。どちらかを持つ群では3.7%、持たない群では0.1%である2。上表の止血異常が背景として重いのはこのためで、だけでは出血量は決まらない。

黒色の意味

胃内へ出た血液は胃酸によって変性し、ヘモグロビン由来のなどにより暗褐色〜黒色となる。したがって、黒色を単純に「溶血したヘモグロビンと硫化水素からができたため」と説明しない。

隣接するにも暗色部が見える場合は、出血、炎症、保存・固定による色調変化を別々に評価する。黒いという所見だけで食道炎と断定しない。

びらんと潰瘍

病変 深さ 治癒後
びらん 粘膜内に限局し、を越えない 通常は瘢痕を残しにくい
潰瘍 を越えて以深へ達する を残しうる

まとめ

  • びらんはの浅い壊死・脱落で、多発性点状出血を伴いうる。
  • 粘液、、プロスタグランジン、粘膜血流の低下が酸・傷害を許す。
  • 黒褐色は主に胃酸で変性した血液・ヘマチンを反映する。
  • 血小板減少、、凝固因子異常、血管壁障害を区別する。
  • 粘膜内に限局するびらんと、を越える潰瘍を深さで鑑別する。

出典

  1. 1.Uremic bleeding: pathophysiology and clinical risk factors(Thrombosis Research・2006)腎不全に伴う出血傾向は消化管や頭蓋内の自然出血としても現れ、その基盤は血小板数の低下ではなく血小板機能異常と正常な内皮機能を担う因子の不均衡にある閲覧 2026-08-24
  2. 2.Risk factors for gastrointestinal bleeding in critically ill patients. Canadian Critical Care Trials Group(New England Journal of Medicine・1994)集中治療室の2252例の前向きコホートで、臨床的に重要な消化管出血は33例(1.5%、95%CI 1.0〜2.1)にとどまった。独立した強い危険因子は呼吸不全(オッズ比15.6)と凝固異常(オッズ比4.3)の2つで、いずれかを持つ847例では3.7%、持たない1405例では0.1%だった閲覧 2026-08-24