組織病理学

組織病理学 · H1-043

腎脂肪塞栓症(Oil Red O染色)

Embolia lipomatosa (Oil-red) - KIDNEY

描出疾患
脂肪塞栓症候群
疾患
脂肪塞栓症候群

🧠 全体像:は、骨髄や脂肪組織由来の脂肪滴が血中へ入り、肺・脳・腎などの微小血管を閉塞する病変である。腎標本ではOil Red O染色により、内の脂肪滴が橙赤色〜鮮赤色に強調される。

標本の要点

項目 所見
臓器 腎臓
染色 Oil Red O染色、核染色
標本作製 脂質を保持した
・小血管内の橙赤色脂肪滴
併存所見 標本辺縁の脂肪組織、動脈硬化性病変
注意点 染料・切片汚染などのとの鑑別

通常のでは脂質が溶出するため、Oil Red O染色は脂質を保持したで行う。は用いず、で核を背景染色する。

発生源と機序

発生源 代表的状況
などの骨折、、整形外科的操作
脂肪組織 広範な軟部組織、圧
その他 、まれに脂肪を含む医療操作など
flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='long bone fracture'>長管骨骨折</span>・軟部組織<span class='jp-term jp-term-diagram' title='crush'>挫滅</span>"] --> B["脂肪滴が静脈循環へ流入"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pulmonary capillary'>肺毛細血管</span>へ捕捉"]
    C --> D["一部が体循環の微小血管へ到達"]
    D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='renal glomerulus'>腎糸球体</span>・脳などの毛細血管を機械的に閉塞"]
    B --> F["脂肪滴から<span class='jp-term jp-term-diagram' title='free fatty acids'>遊離脂肪酸</span>が放出"]
    F --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='endothelial injury'>内皮傷害</span>・炎症・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='platelet activation'>血小板活性化</span>"]
    E --> H["虚血・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='organ dysfunction'>臓器機能障害</span>"]
    G --> H

の障害は、単なる物理的閉塞だけではない。による、炎症反応、が加わり、重症例では凝固異常を伴う。説とはどちらか一方に決着したわけではなく、現在も双方の寄与が想定されている1。

赤染部の鑑別

赤く染まる部位 読み方
内の小滴・不整滴 。内に位置することを確認する
腎内小の脂肪滴 微小血管
標本辺縁の大きな集団 ・被膜周囲の脂肪組織で、塞栓ではない
動脈の脂質 病変で、内を流れる脂肪滴とは異なる
とな赤い粒・にじみ 染料、切片汚染、折れなどのを疑う

⚠️ 糸球体内に見えるのは「」ではなく、内の脂肪滴である。核と細胞膜をもつ成熟が糸球体へ入り込んでいるわけではない。

脂肪塞栓と脂肪塞栓症候群

概念 内容
外傷後などに微小血管内で脂肪滴を認める。無症候のことも多い
、神経症状、点状出血などの臨床症候を伴う状態

では、呼吸困難・頻呼吸・低酸素血症、・傾眠・けいれんなどの神経症状、胸部・腋窩・などの点状出血が重要である。貧血、血小板減少、発熱、頻脈を伴うこともある。

💡 形態所見の頻度と症候群の頻度は桁が違う。 骨折患者ではほぼ全例にが生じるが通常は無症候で、三徴は24〜72時間の無症候期を経てから現れる2。臨床的に明らかなは、外傷センターの10年間の検討で患者の0.9%にとどまった3。

⚠️ 三徴がそろうことを期待しない。 上記27例の内訳は低酸素血症96%、頻脈93%、39度超の発熱70%、意識状態の変化59%に対し、点状出血は33%しかなかった3。には確立した単一のがなく、Gurd基準などの臨床基準を他疾患の除外と組み合わせて診断するである2。

腎では多数の糸球体・小血管が閉塞すると、低下、局所低酸素、に寄与しうる。ただし、標本中に少数の脂肪滴があるだけで腎不全の原因と断定しない。という形態所見自体は骨折患者にほぼ普遍的に生じ、その大多数は無症候だからである2。

まとめ

  • Oil Red O染色は内のを橙赤色〜鮮赤色に染める。
  • 腎では、・小血管内の脂肪滴を確認する。
  • に加え、によると炎症が臓器障害を起こす。
  • という形態所見と、呼吸・神経・状を伴うを区別する。
  • 周囲脂肪組織、脂質、染色を塞栓と誤認しない。

出典

  1. 1.Fat Embolism and Fat Embolism Syndrome(Journal of the American Academy of Orthopaedic Surgeons・2019)脂肪塞栓は外傷後や髄内操作を伴う整形外科手術で高頻度に生じるが、肺障害・神経症状・点状皮疹の三徴をなす脂肪塞栓症候群はそれよりはるかにまれである。病態には血管の機械的閉塞説と、塞栓した脂肪と外傷に対する炎症反応による生化学説の双方が提唱されている閲覧 2026-08-24
  2. 2.Fat embolism syndrome: clinical and imaging considerations: case report and review of literature(Indian Journal of Critical Care Medicine・2008)骨折患者ではほぼ全例に脂肪塞栓が生じるが通常は無症候であり、肺・脳・皮膚の三徴は24〜72時間の無症候期を経て出現する。脂肪塞栓症候群の診断は臨床的で、検査所見は非特異的かつ感度が低く、他疾患の除外とGurd基準などの臨床基準の組み合わせによる閲覧 2026-08-24
  3. 3.Fat embolism syndrome. A 10-year review(Archives of Surgery・1997)外傷センターの10年間で臨床的に明らかな脂肪塞栓症候群は27例、長管骨骨折患者の0.9%だった。診断根拠となった所見は低酸素血症26例(96%)、意識状態の変化16例(59%)、点状出血9例(33%)、39度を超える発熱19例(70%)、頻脈(>120/分)25例(93%)。脂肪塞栓症候群は除外診断であり臨床基準に基づくと結論している閲覧 2026-08-24