組織病理学

組織病理学 · H1-042

播種性血管内凝固症候群の腎病変(フィブリン染色)

DIC (fibrin festés, fibrin staining) - KIDNEY

描出疾患
播種性血管内凝固

🧠 全体像:(disseminated intravascular coagulation:)は、基礎疾患により凝固が全身性に活性化し、微小循環にを作ると同時に、血小板・凝固因子の消費と線溶活性化によって出血も生じる病態である。腎ではと小血管内のをで捉える。

標本の要点

項目 所見
臓器 腎臓
染色 フィブリンを紫〜淡紫色に強調する
と腎内小血管・毛細血管の
低倍率 腎皮質内に散在する
高倍率 内またはの性血栓
重症時の帰結 、腎皮質梗塞、両側腎皮質壊死

染色法の固有名は示されていないため、色調だけから方法を推定しない。重要なのは、内の紫〜淡紫色物質がフィブリンとして強調され、と小毛細血管に分布していることである。剖検例の腎を検討した報告では、は組織学的にはで見られるものと類似しており、に伴う性状はで判別されている1。

発症機序

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='tissue factor'>組織因子</span>の大量流入<br>または全身性<span class='jp-term jp-term-diagram' title='endothelial injury'>内皮傷害</span>"] --> B["凝固系が全身性に活性化"]
    B --> C["トロンビンが過剰生成"]
    C --> D["微小血管内に<span class='jp-term jp-term-diagram' title='fibrin thrombus'>フィブリン血栓</span>"]
    D --> E["臓器<span class='jp-term jp-term-diagram' title='microcirculatory dysfunction'>微小循環障害</span>・虚血"]
    C --> F["血小板・フィブリノゲン・凝固因子を消費"]
    D --> G["二次線溶が活性化"]
    F --> H["止血能が低下"]
    G --> H
    H --> I["点状出血から重篤な出血"]

主な誘因

分類 代表例 凝固活性化の入口
細菌性敗血症、重症マラリアなど 、、発現
、広範熱傷、大手術 の流入
産科合併症 、、、死胎の長期遺残 胎盤・羊水由来、
悪性腫瘍 腺癌などの固形腫瘍 腫瘍由来の
血液腫瘍 急性性白血病() 由来のなどと過剰線溶

⚠️ はではなく、のである。 に伴うとは分類を分けるが、では出血と血栓の双方を生じうる重篤な凝固異常が重要である。

腎での観察順

低倍率

  1. 腎皮質と髄質を分け、糸球体が多い皮質を同定する。
  2. 紫〜淡紫色にする血管内物質の分布を見る。
  3. 糸球体優位か、小動脈・毛細血管にも広がるかを確認する。
  4. 皮質のや出血の有無を探す。

高倍率

部位 所見 帰結
内の 濾過障害、
腎内毛細血管 細いを埋めるフィブリン 局所虚血、尿細管傷害
細動脈 内腔閉塞性の
腎皮質全体 広範な 両側腎皮質壊死、

のでは、が内にあり、多発性・に分布して周囲を伴うことが重要である。連続1729剖検の検討では、2臓器以上ので組織学的にと診断された51例のうちの頻度は腎で最も高く、腎病変としてはによると両側腎皮質壊死が重要とされた2。

全身臓器への影響

臓器 主な変化
副腎 。敗血症性両側では
肺 、出血、
脳 、点状・出血
消化管 粘膜虚血、出血

出血優位・血栓優位という表現

急激に進む産科や敗血症性ではが目立ち、出血が前景に立つことがある。悪性腫瘍に伴う緩徐なでは血栓症が目立つことがあるが、これはなではない。

⚠️ では形成と消費性出血が同時に起こりうる。 「急性なら出血だけ、慢性なら血栓だけ」とは考えず、同じ患者で両者が併存し、時間と基礎疾患により比重が変わると理解する。2025年のISTHの定義も、出血や臓器障害は無症候でありうるを経た「進行相」の姿として位置づけている3。

診断は組織像だけで行わず、基礎疾患、、、フィブリノゲン、・などのと統合する。単一の検査でも単一の組織所見でも決まらない。上記の剖検研究では、組織学的にと診断された51例のうち38例(74.5%)が臨床的にを疑われておらず、臨床診断と剖検所見は一致しない2。

💡 定義は2025年に改められた。 ISTHの小委員会は2001年の定義とスコアを改訂し、を「全身性の凝固活性化、線溶の、により症をきたす後天性の致死的な血管内病態で、無症候でありうるから出血・臓器障害を伴う進行相へ進む」と再定義した。は基礎疾患ごとに調整した基準で捉え、の基準とスコアも修正された3。2001年の基準は多くの教科書の土台であり、実習・試験では引き続き問われる。

まとめ

  • は全身性凝固活性化によると、血小板・凝固因子消費による出血が併存する病態である。
  • 腎ではと小血管・毛細血管にを認める。
  • 重症化すると腎皮質梗塞から両側腎皮質壊死へ進みうる。
  • はでありではない。急性・慢性の区別だけで出血型・血栓型を固定しない。

出典

  1. 1.Morphological spectrum of renal pathology and its correlation to clinical features in patients with disseminated intravascular coagulation: a study involving a series of 21 autopsy cases(Pathology International・2014)臨床的にDICと診断された剖検21例の腎では、微小血栓は血栓性微小血管症で見られるものと組織学的に類似しており、DICに伴う性状は特殊染色によって判別された。巣状分節性糸球体硬化の存在は尿蛋白量と(P=0.0044)、急性尿細管傷害と全節性糸球体硬化の程度は血清クレアチニン値と(P=0.019、P=0.0003)相関した閲覧 2026-08-24
  2. 2.Disseminated intravascular coagulation in autopsy cases. Its incidence and clinicopathologic significance(Pathology, Research and Practice・1979)連続1729剖検のうち、2臓器以上の微小血栓により組織学的にDICと診断されたのは51例で、うち38例(74.5%)は臨床的にDICを疑われていなかった。微小血栓の頻度は腎が最も高く、肺・脾・副腎・心・脳・肝の順。腎病変が最重要で、急性尿細管壊死による急性腎不全と両側腎皮質壊死が高頻度だった閲覧 2026-08-24
  3. 3.Updated definition and scoring of disseminated intravascular coagulation in 2025: communication from the ISTH SSC Subcommittee on Disseminated Intravascular Coagulation(International Society on Thrombosis and Haemostasis (ISTH) SSC・2025)ISTHのDIC小委員会は2001年の定義・診断を改め、DICを「全身性の凝固活性化、線溶の調節不全、内皮傷害により微小血栓症をきたす後天性の致死的な血管内病態で、基礎疾患は多様であり、無症候でありうる早期相から出血や臓器障害を伴う進行相へ進む」と再定義した。早期相は基礎疾患ごとに調整した診断基準で捉え、顕性DIC(overt DIC)の基準とスコアも修正するとした閲覧 2026-08-24