組織病理学

組織病理学 · H1-045

くも膜下出血と破綻性出血(肉眼標本)

Haemorrhagia subarachnoidealis - hemorrhagia per rhexim

描出疾患
くも膜下出血
疾患
脳アミロイド血管症脳動脈瘤

🧠 全体像:(subarachnoid hemorrhage:SAH)は、血管壁の破綻により、くも膜との間にある髄液腔へ血液が流入した病変である。肉眼では血液が脳表の・脳槽に沿って広がり、内血腫とは異なる分布を示す。

標本の要点

項目 所見
臓器 脳
標本 脳表を観察する肉眼標本
・脳槽を満たす暗赤色〜黒褐色の血液
出血腔
出血様式 血管壁が裂ける破綻性出血(hemorrhage per rhexis)
代表的原因 外傷、破裂

標本では血液が脳表の溝へ入り込み、の輪郭を縁取るように広がる。血液が局所のを塊状に置換するのではなく、髄液腔に沿って分布することがの鍵である。

主な原因

原因 特徴
全体では重要な原因で、などを伴いうる
破裂 非SAHの代表。非SAHの85%を占める。周辺の分岐部に好発1
異常血管の破綻により実質内出血とSAHを伴いうる
その他 動脈解離、凝固異常、血管炎など

「の分枝はすべて動脈瘤になりやすい」のではなく、が集中する特定の分岐部にが形成されやすい。未破裂動脈瘤6697個の日本人コホートでは、所在は36%・34%が多い一方、破裂しやすさはを基準にで1.90、で2.02と、できやすい場所と破れやすい場所が一致しない2。

💡 非動脈瘤性のがある。 非SAHのうち10%は中脳周囲に限局する非動脈瘤性出血で、で動脈瘤が見つからず予後は良好である。残る5%は動脈解離・血管炎などのまれな病態が占める1。

動脈瘤破裂から症状まで

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='saccular'>嚢状</span><span class='jp-term jp-term-diagram' title='cerebral aneurysm'>脳動脈瘤</span>の壁が破綻"] --> B["動脈血が<span class='jp-term jp-term-diagram' title='subarachnoid space'>くも膜下腔</span>へ流入"]
    B --> C["脳槽・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='sulcus'>脳溝</span>へ急速に広がる"]
    C --> D["頭蓋内圧が<span class='jp-term jp-term-diagram' title='surge'>急上昇</span>"]
    D --> E["突然の激しい頭痛・嘔吐・意識障害"]
    B --> F["髄膜が血液で刺激"]
    F --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='nuchal rigidity (neck stiffness)'>項部硬直</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='photophobia (light hypersensitivity)'>光過敏</span>"]
    B --> H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='vasospasm'>血管攣縮</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cerebrospinal fluid circulation'>髄液循環</span>障害"]
    H --> I["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='delayed cerebral ischemia'>遅発性脳虚血</span>・水頭症"]

臨床病理学的な対応

非SAHでは、突然発症して短時間で最大となる激しい頭痛が典型的で、悪心・嘔吐、、意識障害、を伴いうる。破裂時の大量出血は頭蓋内圧をさせ、を低下させて突然死を起こしうる。

⚠️ 発症年齢を「40〜50歳」に固定しない。の形成・破裂には喫煙、高血圧、家族歴、などが関与するが、個々の破裂時期を予測することはできない。疫学的にはSAH患者の多くが60歳未満であり1、未破裂動脈瘤の年間破裂率は全体で0.95%と低く、径・部位・娘嚢の有無で大きく変わる2。

主な合併症は再出血、による、急性または慢性水頭症、低Na血症、けいれんである。

⚠️ をと同一視しない。 14件(4235例)のでは、薬物治療はを有意に減らした(0.80)にもかかわらず転帰不良は有意に減らず(0.93)、と臨床転帰は解離した3。には以外の機序も寄与すると考えられており、造影上の攣縮が改善したことをもって虚血が防げたとは言えない。

頭蓋内出血の分布

出血 血液の位置 代表的原因
頭蓋骨と硬膜の間 頭蓋骨骨折と硬膜動脈損傷
硬膜とくも膜の間
くも膜との間、・脳槽 外傷、破裂
内 高血圧性変、など

まとめ

  • では、血液が脳表の・脳槽に沿って広がる。
  • 血管壁が裂ける破綻性出血で、外傷と破裂が重要である。
  • ではとにより、突然の激しい頭痛、嘔吐、を生じうる。
  • 再出血、による、水頭症を重要な合併症として理解する。

出典

  1. 1.Subarachnoid haemorrhage: diagnosis, causes and management(Brain・2001)くも膜下出血の発症率は10万人年あたり約6で、原因は動脈瘤破裂が85%、予後良好な非動脈瘤性の中脳周囲出血が10%、まれな病態が5%。患者の多くは60歳未満で、致死率は院外死を含めて全体で約50%、生存者の3分の1が介助を要する閲覧 2026-08-24
  2. 2.The natural course of unruptured cerebral aneurysms in a Japanese cohort(New England Journal of Medicine(UCAS Japan)・2012)3 mm以上の未破裂嚢状動脈瘤6697個(5720例、平均62.5歳)の追跡で、年間破裂率は0.95%(95%CI 0.79〜1.15)。動脈瘤の所在は中大脳動脈36%、内頸動脈34%で、破裂リスクは径が大きいほど高く(3〜4 mmを基準に7〜9 mmでハザード比3.35、10〜24 mmで9.09、25 mm以上で76.26)、中大脳動脈と比べ後交通動脈(1.90)・前交通動脈(2.02)、および娘嚢を持つ瘤(1.63)で高かった閲覧 2026-08-24
  3. 3.Effect of pharmaceutical treatment on vasospasm, delayed cerebral ischemia, and clinical outcome in patients with aneurysmal subarachnoid hemorrhage: a systematic review and meta-analysis(Journal of Cerebral Blood Flow and Metabolism・2011)4235例を無作為化した二重盲検プラセボ対照試験14件のメタ解析で、薬物治療は血管攣縮を有意に減らした(リスク比0.80、95%CI 0.70〜0.92)が、転帰不良は有意に減らなかった(リスク比0.93、95%CI 0.85〜1.03)。遅発性脳虚血の病態における血管攣縮の役割は従来考えられていたより小さい可能性がある閲覧 2026-08-24