婦人科学

婦人科学 · 26

卵巣腫瘍の病因・臨床像・スクリーニング

Etiology, clinical presentation and screening of ovarian tumors

前提:病態
卵巣腫瘍遺伝性腫瘍症候群(遺伝性がん症候群)
前提:正常
骨盤・会陰:血管とリンパ管
疾患
Sertoli-Leydig細胞腫遺伝性乳癌卵巣癌症候群癌性腹膜炎卵巣癌
症状
性交痛早期満腹感
検査値
ヒト精巣上体蛋白4糖鎖抗原125
画像所見
大網肥厚
スコア
悪性リスク指数(RMI)卵巣悪性腫瘍リスクアルゴリズム

🧠 全体像:卵巣・卵管・は、初期症状が非特異的でしやすい一方、平均リスク無症状者に有効な集団検診はない。持続する腹部膨満・・を拾い、遺伝性リスクを同定することがへの現実的な入口である。

疫学と発生母地

  • 卵巣癌は婦人科癌死亡の主要原因で、多くは閉経前後〜閉経後に発症する。
  • 上皮性卵巣癌のなかでが最多である。
  • HGSCの多くはの(STIC)を起源とし、卵巣・腹膜へ広がる。ただしすべてのHGSCがSTIC由来ではなく、すべてのSTICが癌へ進むわけでもない。STICの意義が最も明確なのはBRCA1/2で、HGSCの85〜90%を占める一般集団では相対的に不明確である。1
  • 死亡は広範な腹膜病変、腸閉塞、胸腹水、、血栓症などに関連する。

病因とリスク

遺伝性リスク

生殖・環境因子

リスク上昇と関連 リスク低下と関連
加齢、、不妊、、家族歴 経口避妊薬使用、妊娠・授乳、卵管切除

💡 の立ち位置。 挙児を終えた女性の通常の婦人科手術時に提案しうるが、リスク低減の効果量と閉経への影響を確かめる長期前向き研究はまだ進行中である。「確立した予防法」としてではなく「妥当だが効果量未確定の」として説明する。2

人種を生物学的単一原因とせず、遺伝背景、医療アクセス、要因を分けて考える。

臨床像

初期〜進行期の症状

病期 症状・所見
初期 無症状のことがある。持続する腹部膨満、骨盤・腹痛、、食欲低下、・頻尿
増大 ・不整・固定性、便秘、、
進行 腹水、増大、悪心・、貧血、、、腸閉塞
急性 捻転、破裂、出血による

症状は非特異的だが、新規で、頻回・持続し、進行する場合は画像評価へ進む。胚細胞・では、甲状腺機能亢進、エストロゲン作用、男性化などの機能性症状がありうる。

進展様式

flowchart TD
    A["卵管・卵巣<span class='jp-term jp-term-diagram' title='primary tumor'>原発腫瘍</span>"] --> B["細胞剥離"]
    B --> C["腹水・腹膜液流に沿う播種"]
    C --> D["Douglas窩・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='paracolic gutters'>傍結腸溝</span>"]
    C --> E["右<span class='jp-term jp-term-diagram' title='subdiaphragmatic'>横隔膜下</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hepatic capsule'>肝被膜</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='greater omentum'>大網</span>"]
    C --> F["腸管漿膜・腸間膜"]
    F --> G["癌性イレウス"]
    A --> H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lymphatic'>リンパ行性</span>"]
    H --> I["骨盤・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='para-aortic lymph node'>傍大動脈リンパ節</span>"]
    A --> J["血行性"]
    J --> K["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hepatic parenchyma'>肝実質</span>・肺など"]

卵巣癌は腹膜液の流れに沿って後方Douglas窩、、右、、へ播種しやすい。病変は、病変は遠隔転移として区別する。

スクリーニング

平均リスク無症状者

平均リスクで無症状の人に、、、を用いた卵巣癌集団スクリーニングを行っても死亡率低下は示されず、偽陽性手術による害があるため推奨されない。

⚠️ 「効果がない」だけでなく「害がある」ことまで覚える。 293,587人を含む無作為化試験のレビューで、どの検診法も卵巣癌死亡率を有意に下げなかった(UKCTOCSの罹患HRは0.91、 ROCA 0.89でいずれも有意でない)。一方で癌のない女性のうち ROCAで1%、±で3%が卵巣癌疑いの手術を受け、その3〜15%に主要合併症が生じた。反復検査は心理的負担も増やす(OR 1.28)。3 多モード検診はdownstaging(早期での発見)は示すが、それが死亡率の利益に転換した証拠はない2。

  • 「18〜40歳は1〜3年ごと、それ以後毎年の」という旧来の方法は、卵巣癌検診としての現行推奨ではない。
  • は月経、、骨盤内炎症、筋腫などでも上昇し、早期癌では正常のことがある。
  • +でも平均リスク者の死亡率を下げない。

遺伝性高リスク者

flowchart TD
    A["乳癌・卵巣癌の家族歴"] --> B["遺伝カウンセリング"]
    B --> C["適応があれば多<span class='jp-term jp-term-diagram' title='genetic testing'>遺伝子検査</span>"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pathogenic variant'>病的バリアント</span>なし/未確定"]
    D --> E["家族歴に応じた個別管理"]
    C --> F["BRCAなど<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pathogenic variant'>病的バリアント</span>"]
    F --> G["妊娠希望と遺伝子別リスクを相談"]
    G --> H["適切な時期のリスク低減卵管<span class='jp-term jp-term-diagram' title='oophorectomy'>卵巣摘出</span>"]
  • 保有者には、妊娠希望終了後、遺伝子別の推奨年齢に(RRSO)を提案する。RRSOは卵巣癌の罹患と死亡をいずれも減らす、確立した予防手段である。2
  • RRSOの対象として、BRCA1・BRCA2のほかBRIP1、RAD51C、RAD51D、関連遺伝子(MLH1、MSH2、EPCAM)などが挙げられる。
  • 高リスク者でも・超音波による監視の死亡率低下は確立しておらず、RRSOの代替にはならない。
  • 手術ではなどを用いてを詳細に病理検索する。2

💡 高リスク監視は「早期で見つかる」まで、「長生きする」は未証明。 高リスク女性3,692人でを3か月ごとに測りROCAで判定した2試験のでは、特異度92%・4.6%で、発生例の浸潤癌の50%がI・II期(歴史的BRCA1対照は10%)と有意にdownstageした。ROCAは半数でが35 U/mLを超える前にを出した。それでも生存利益は示されていない。4

⚠️ RRSO後のホルモン補充を忘れない。 閉経前にRRSOを受け禁忌のない女性には、51歳までを提案し、の弊害を減らす。卵管切除先行・遅延(RRESDO)は、現時点では研究の枠組みでのみ提供すべき選択肢である。2

症状がある場合の評価

症状、腫瘤、腹水がある患者のCA-125・超音波はスクリーニングではなくである。

  1. 、診察、経腟・を行う。
  2. 悪性形態や腹水があればで病変範囲とを評価する。
  3. 年齢・組織型の疑いに応じ、HE4、、、、などを選ぶ。
  4. 悪性を疑えば専門医へ早期紹介する。

まとめ

  • HGSCの多くはを起源とし、腹膜液流に沿って播種する。
  • 平均リスク無症状者に・超音波・による卵巣癌集団検診は行わない。
  • 持続する非特異的症状を診断評価へつなぎ、遺伝性高リスクでは遺伝カウンセリングとRRSOを中心に予防する。RRSO後は51歳までのホルモン補充を検討する。
  • 検診も高リスク監視もdownstagingまでは示すが、死亡率・生存の利益は示されていない。

出典

  1. 1.Cell Origins of High-Grade Serous Ovarian Cancer(Cancers・2018)高異型度漿液性癌(HGSC)の起源として、1990年代後半以降**卵管遠位部(采部)上皮**が有力視され、漿液性卵管上皮内癌(STIC)が前駆病変として提唱されたこと。臨床研究とマウスモデルの多くがこの卵管起源説を支持すること。ただし**すべてのSTICが臨床的HGSCへ進展するわけではなく、すべてのHGSCがSTIC由来でもない**こと。STICの臨床的意義は生殖細胞系列BRCA1/2変異保有者で最も明確で、**HGSC全体の85〜90%を占める一般集団の女性では相対的に不明確**であること閲覧 2026-08-21
  2. 2.Screening and prevention of ovarian cancer(The Medical Journal of Australia・2024)平均リスク集団の最大の無作為化試験で多モード検診が早期発見と有意なdownstagingを示したが、**いずれの無作為化試験も死亡率の利益を示しておらず**、平均リスク女性への卵巣癌検診は現時点で推奨されないこと。高リスク女性への**3〜4か月ごとの監視も有意なdownstagingを示すが生存利益の情報はない**こと。**リスク低減卵管卵巣摘出術(RRSO)は卵巣癌の罹患と死亡を減らし、生涯リスク4〜5%超の女性に推奨**されること。**閉経前にRRSOを受け禁忌がない女性には51歳までホルモン補充療法を提案**して早発閉経の弊害を減らすべきこと。卵管切除先行・卵巣摘出遅延(RRESDO)は研究の枠組みでのみ提供すべきこと。高リスク女性の予防手術ではSEE-FIMプロトコルを用いるべきこと。**日和見的卵管切除は挙児を終えた女性の通常の婦人科手術時に提案しうるが、リスク低減の効果量と閉経への影響を明らかにする長期前向き研究が必要**であること閲覧 2026-08-21
  3. 3.Screening for Ovarian Cancer: Updated Evidence Report and Systematic Review for the US Preventive Services Task Force(JAMA・2018)平均リスク女性293,587人を対象とした無作為化試験のシステマティックレビューで、**CA-125・経腟超音波・その併用のいずれも卵巣癌死亡率を有意に下げなかった**こと。UKCTOCSの罹患率のハザード比は経腟超音波で0.91(95%CI 0.76–1.09)、CA-125 ROCAで0.89(95%CI 0.74–1.08)といずれも有意でなかったこと。害として、**癌のない女性のうちCA-125 ROCAで1%、経腟超音波(±CA-125)で3%が卵巣癌疑いの手術**を受け、**そのうち3〜15%に主要合併症**が生じたこと。反復する追加検査は心理的負担を増やしたこと(オッズ比1.28)閲覧 2026-08-21
  4. 4.Early Detection of Ovarian Cancer using the Risk of Ovarian Cancer Algorithm with Frequent CA125 Testing in Women at Increased Familial Risk - Combined Results from Two Screening Trials(Clinical Cancer Research・2017)家族歴またはBRCA1/2変異をもつ高リスク女性3,692人でCA-125を3か月ごとに測定しROCAで評価した2試験の統合解析で、超音波紹介の特異度92%、陽性的中率4.6%であったこと。**発生例の浸潤癌6例中3例(50%)がI・II期**で見つかり、歴史的BRCA1対照の10%より良好であった(p=0.016)こと。ROCAは6例中3例でCA-125が35 U/mLを超える前に警告を出したこと。**より大規模なコホートでの検証を要する段階**であること閲覧 2026-08-21