組織病理学

組織病理学 · H2-086B

卵巣癌(嚢胞腺癌)

Cystadenocarcinoma ovarii

描出疾患
卵巣癌
症状
腹部膨満

🧠 全体像:卵巣の「」という旧来の呼び方だけでは腫瘍の生物学を十分に表せない。現在は、、、、などを別個の疾患単位として診断し、組織型・病期・分子異常を治療へ結びつける。

卵巣腫瘍の大分類

腫瘍群 代表例
上皮性腫瘍 漿液性、、類内膜、明細胞、
、、、
、、Sertoli–
消化管・乳腺・子宮などからの転移

上皮性癌は一括して「卵巣表面上皮由来」とせず、、、系上皮など組織型ごとの発生経路を考える1。

💡 I型・II型の二元モデルは廃れたのではなく、中身が入れ替わった。 改訂版ではI型を3群に分ける——関連腫瘍(・・漿液)、、と悪性——一方II型は大部分がである1。発生の場所も違い、I型は卵巣に着床した卵巣外の良性病変がするのに対し、II型の多くは卵管のから始まり、卵巣と卵巣外部位を同時に巻き込む形で播種する。II型が臨床的に侵襲的に見えるのはこの播種様式によるところが大きい1。この文献自身が、I型とII型は「まったく別の」と言えるほど異なると述べている。

悪性を疑う肉眼像

所見 解釈
を疑う
複雑な隆起 漿液性腫瘍などでみられる
不整な壁肥厚・ 良性より悪性を支持
出血・壊死 腫瘍でみられうる
表面結節・被膜破綻 表面病変・との関係を評価
両側性 やで多い

肉眼所見だけで組織型や悪性を確定せず、十分な切り出しと組織診断を行う。

flowchart TD
    A["卵巣の嚢胞性・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='solid mass'>充実性腫瘤</span>"] --> B["肉眼で壁・乳頭・結節・表面を評価"]
    B --> C["組織型を判定"]
    C --> D["良性・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='borderline malignant'>境界悪性</span>・悪性を区別"]
    D --> E["卵管・卵巣・腹膜への広がりを評価"]
    E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='FIGO stage'>FIGO病期</span>・分子検査と統合"]

漿液性癌で確認する所見

所見 注意点
複雑に分枝する乳頭 間質を伴う
腺・・増殖 腫瘍内で混在しうる
高度核異型・多数の分裂像 を支持
との区別に重要
石灰化だが、存在だけで組織型・予後を確定しない

「があるほど予後良好」と単純化しない。予後は組織型、、量、治療反応、分子背景などで決まる。

⚠️ の異型度は3段階ではなく2段階で付ける。 ・の2段階分類は、より細分化した分類より生存予測に優れる2。両者は「同じ癌の程度の差」ではなく分子的に別物で、はKRAS・BRAF変異の頻度が高くTP53変異の頻度が低いのに対し、TP53変異はに特徴的である2。489例の統合ではTP53変異が96%に認められ、約半数でが機能欠損していた3。は若年に多く、化学療法には抵抗性であるにもかかわらず比較的予後が良く、KRAS/BRAF変異の存在自体が予後良好因子である2。「異型度が低い=治療がよく効く」ではない点に注意する。

臨床との接続

腹部膨満、、、排尿・排便症状は非特異的で、進行するまで目立たないことがある。診断では超音波、、、手術・病理を統合する。一般集団に対するCA125や超音波による一律スクリーニングは、死亡率低下が確立していない。英国のUKCTOCSは長期追跡でも卵巣・死亡率の低下を示せなかった4。

治療は組織型・病期に応じ、専門チームによる・とを含む化学療法を中心に組み立て、分子検査に応じて維持療法を検討する。の正準解説は 、臨床は の病期・治療・病理 を参照する。

まとめ

  • 「」だけでなく、現行の組織型別分類を用いる。
  • 、複雑乳頭、、表面病変、両側性を系統的に評価する。
  • は診断の補助所見で、単独の予後指標ではない。
  • 組織型、、分子背景を統合して治療する。

出典

  1. 1.The Dualistic Model of Ovarian Carcinogenesis: Revisited, Revised, and Expanded(The American Journal of Pathology・2016)改訂版の二元的発生モデルではI型腫瘍を3群に分ける(子宮内膜症関連腫瘍=類内膜癌・明細胞癌・漿液粘液性癌、低異型度漿液性癌、粘液性癌と悪性Brenner腫瘍)こと。II型腫瘍は大部分が高異型度漿液性癌であること。I型腫瘍は卵巣に着床した卵巣外の良性病変から発生して悪性転化するのに対し、II型癌の多くは卵管の上皮内癌から発生し、卵巣と卵巣外部位を同時に巻き込む癌として播種するため臨床的に侵襲的に振る舞うこと。次世代シークエンシングによる分子データは卵巣癌の不均一性をさらに裏づけ、I型とII型は「まったく別の疾患群」と言えるほど異なること閲覧 2026-08-24
  2. 2.Low-grade serous ovarian cancer: A review(Gynecologic Oncology・2016)漿液性卵巣癌の2段階(高異型度・低異型度)異型度分類は、より細分化した分類より生存予測に優れること。低異型度漿液性癌は若年に多く、化学療法に抵抗性であるにもかかわらず比較的予後が良いこと。低異型度漿液性癌ではKRAS・BRAF変異の頻度が高くTP53変異の頻度が低いのに対し、TP53変異は高異型度漿液性癌に特徴的であること。低異型度漿液性癌ではKRAS/BRAF変異の存在自体が予後良好因子であり、MAPK経路変異の同定が治療選択に役立つ可能性があること閲覧 2026-08-24
  3. 3.Integrated genomic analyses of ovarian carcinoma(Nature・2011)高異型度漿液性卵巣腺癌489例の統合ゲノム解析で、TP53変異はほぼ全例(96%)に認められ、NF1・BRCA1・BRCA2・RB1・CDK12を含む9遺伝子に低頻度だが有意な体細胞変異が繰り返し見つかった。経路解析では解析腫瘍の約半数で相同組換えが機能欠損していた閲覧 2026-08-24
  4. 4.Ovarian cancer population screening and mortality after long-term follow-up in the UK Collaborative Trial of Ovarian Cancer Screening (UKCTOCS): a randomised controlled trial(The Lancet・2021)CA-125を用いた一般集団への卵巣癌スクリーニングが卵巣・卵管癌死亡率を低下させなかったこと閲覧 2026-08-24